短編
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夜。
主人が眠って、私も部屋に戻ろうかと思って居た時だった。
「あ、あの…!夢主様!」
呼ばれて振り返ったらそこには蜂蜜色の髪の青年が立っていた。ユーリ・ローウェルとは正反対の印象を受ける。格好からして、新人か。珍しいな、私の事を知っているなんて。隊長クラスでも私の事を知らない奴もいるというのに。誰かから聞いたのだろうか?それとも自分で調べたのか?…いや。後者は無理だな、私は主人の側近であって、知らない奴も多いのだ。調べられる筈が無い。
「何か、用か?」
そう聞いたら、固まられた。何故固まるのか、分からない。やはり私は怖いのだろうか?一応怖がらせないように言ったつもりだったんだが。それにしても男を怖がらせてしまうだなんて。結構ショックだな。一つ溜息を吐いて、未だに固まって居る蜂蜜色の髪の青年を見た。
「明日も訓練があるんだろう。用がないなら、早く休みなさい」
そう言うと足早にそこから立ち去った。あんな場所にいては自己嫌悪ばかりをしてしまいそうで嫌だった。コツコツッと足音が空に静かに響き、すぐに飲み込まれる。ユラユラと灯が揺れる。
不気味な程に静かだ。すれ違う騎士達にお疲れ様と労いの言葉を投げながら主人の部屋の隣にある私の部屋に向かった。騎士達も私の言葉にありがとうございますと返す。私も少し寝たら、見回りをしよう。そんな事を思いながら、部屋の扉を押そうとしたら足音は無いが、気配を感じた。それもこの気配は…。この気配の持ち主が分かると溜息を吐いてしまった。
振り返ろうとは思わなかった。走って来て、私の後ろで止まった。
「早く休めと言った筈だぞ」
「申し訳ありません…!」
振り返れば、先程の蜂蜜色の髪の青年。どうやら駆け足で来たみたいで少しだけ息が上がっていた。はぁ。一体私が何をしたと言うのだ。怖いなら私に近付かなければいいのに。
「言いたくて…」
「何をだ」
そう言って彼を見上げたらフンワリと微笑まれた。まさに王子様。描いたような王子だな。そんな事を思っていたら、彼は膝をついて私の手をとった。
「夢主様。お慕い、申し上げます…」
「………は?」
お慕いって……。私は一体こんな青年に何をした?覚えはないぞ?…思い出そう、確か今日はいつもと同じように主人の近くにいて。
そうしたら頼まれたから、ちょっとだけ長官とやり合って…。………あぁ。分かった。忘れてた。
「昼間の…」
確か長官と貴族に何か言われていた青年か。何でも下町育ちだからー…とか言っていたな。全く、下町育ちだろうと貴族育ちだろうと生活は違えどあまり変わらないだろうが。で、あまりに自信過剰みたいな事を言っているから相手をしてもらって、奴等あんまり腕ならしにもならなかったがな。むしろこの青年の方が腕が立つし、腕ならしになった気がするな。
思い出したように呟いたら、まるで子犬みたいな目で私を見上げて来た。何なんだこの可愛い生き物は、まさに王子の皮をかぶった子犬じゃないか。……いや。例えが悪かった。だがまさにそんな感じだ。
「はい!覚えていただいていて光栄です」
そう言って彼はスクッと立ち上がった。その勢いに私は少し下がった。いや。ビックリしたというか、いきなり大声出したから。それにしても、今の騎士にはこんな青年がいるとは、ちょっとだが期待しても良いかも知れないな。だが…、握られたままの手は結構痛いぞ。すると青年も気付いたのかすいませんと謝り慌てて手を放した。
「すいませんでした、お休みになられようとしているところを呼び止めてしまい」
「いや、構わない」
それに良かった。彼は私に怖いという感情を抱いているわけではない。それが良かった。騎士とて集団で動く事もあるだろう。私ももしかしたら駆り出されてしまうかもしれない。だというのに怖いという感情を抱かせたままでは、動けるモノも動けなくなってしまうからな。手を伸ばして髪を撫でてやる。
「早く寝なさい。明日の訓練にも響いてしまうぞ?」
そう言ったら眩しいぐらいの笑みをこぼされた。まるで太陽みたいだな。
「はい、それでは失礼します!」
「……あ、ちょっと待て」
君の名前はなんだ?
私の名前ばかり知られているようでちょっと悔しくて名前を聞いてやった。自分で調べようにも、名簿は私の元には入って来ないからな。
「フレン。フレン・シーフォといいます」
そう答えた時の彼の表情は、柔らかかった。
*******
「すまないな、フレン・シーフォ」
今日も主人の話し相手になってもらった。隣を歩くフレン・シーフォはいえと言いながら笑った。主人は何やら随分とフレン・シーフォと仲良くなりたいと言って仲良くなったな…。最近は話をしている時、私を部屋に入れてくれないぐらいだ。………もしかしたら主人は、フレン・シーフォが…。いやいや素晴らしい、青春だ。青い春だ。恋とは素晴らしい!だが問題はフレン・シーフォの方だな。…いや、フる筈はない。彼だって主人ととても仲が良さそうだ。そうなっては私は用無しになってしまうな。そうなったら下町に行くか、ユーリ・ローウェルに泊めてもらおう。
「それにしても、夢主様はエステリーゼ様にとても好かれてらっしゃるんですね」
「あぁ、エステリーゼ様の元に来てから10年が経つからな」
「そうですか。エステリーゼ様がぼ……私の知らない夢主様の事を沢山話されるので、少し嫉妬してしまいました」
「普通で良いぞ」
それにしても、嫉妬してしまうとは…?
私の事を話す主人、…つまり主人が私の事ばかり話しているから嫉妬したという事だな。良い具合だな、よしよし。この調子で2人を恋人に…。2人は両思いだし、大丈夫!
「その時は私が、仲人を努めるから安心しろ」
「は……?」
はっ、いかんいかん。つい、自分の意識の中に飛んでしまっていた。それにしても主人のウェディングドレス姿、美しいのだろうなぁ。…そういえば私もそろそろいい年齢だな。結婚の事、考えた事が良いのだろうか。いや、まずは相手を作らなくては。
「それにしても、夢主様はお嫁さんに向いているそうですね」
「………は?!」
聞き慣れない単語に顔が赤くなるのを感じたぞ…。誰がなんだと?私が、お嫁さん!?何故、どうして!は、恥ずかしい…!
「エステリーゼ様から聞きました。料理を作ってくれたり、博識で器量良しと」
主人……。褒めてくださるのは嬉しいが、お嫁さんって…。いや、確かになりたいとは思った事もあるし、今でもそんな願望はあるが……。
「それを聞いて、僕に夢主様を下さいと言ったらエステリーゼ様にとても怒られました」
「はぁ!?」
「それでは失礼します」
そう言ってフレン・シーフォは一礼すると私の元から居なくなった。何て事を言うんだフレン・シーフォ。主人はお前が好きなんだぞ。だと言うのに全く。主人が怒るのも当たり前だ。今度ユーリ・ローウェルに相談してみようか。そんな事を思いながら、踵を返し主人が待つ部屋に向かった。
いつも2人でヒロインの自慢大会をしてれば良いよ。