短編
夢小説設定
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主人が本を読みながら昼寝をして居る間、私は庭に出て本を読む習慣が身に付いた。主に読む本など、友達がどうのとか、そんな本だ。我ながら主人に随分と忠誠になったものだと思う。それに本来なら図書室なるものがあるからそこで読めば良いのだろうが、あそこはあまり好きじゃない。だから、いつものようにあまり人目に掛からぬ場所にある木に凭れて本を読むのだ。鳥の声、騎士達の訓練の声。風が通る音、木々が揺れ、葉が擦れる音。剣がぶつかりあう金属音。全く、正反対の音。平和と武力の音。
もちろん私は、前者の音の方が好きだ。文を追って居ると鳥が私を見て話しかけて来る、何を話して来ているかは分からない。だが流浪の民は、自然と馴れ合う事が当たり前。だからよく動物などには懐かれる。木の枝に止まった小鳥がチュンチュン鳴いている。
「どうした…?お腹が空いたのか…?」
本から目を話してそう問い掛ける。もちろんちゃんとした言葉で帰って来るわけじゃない。だが、何となくだが勘としてお腹が空いてると言っている気がした。そしてさっき食べようと思って持って来たサンドウィッチを思い出した。
卵はいけないな、それに共食いになってしまう。本に栞を挟んでサンドウィッチの乗った皿に手を伸ばす。挟んでいた具材を取り出し、パンだけを皿に置く。距離をとった場所に置くと、鳥達は見計らったようにパンに向かって行く。パンを啄む鳥達を見て笑うとまた本を読み進めた。穏やかな時の流れだ。暖かく、なんと心地よい…。パラッとページをめくり、文字を追う。暖かい日差しに、心地の良い気候。旅をしていた頃は、こんなにゆっくりは出来なかっただろう。そんな事を思いながら、文字を撫でる。だが、次の瞬間鳥達は気付いたのかパンを咥えて飛び立ってしまった。ここで本を読むようになってからずっとだ。私は、呆れたように溜息を吐いた。視線、しかも凝視しているな。今まではただの自意識過剰なだけだと思っていたが、鳥達が飛び立ってしまった今、自意識過剰ではなくなった。誰かが私を見ている。武器は、無い。主人はまだ幼いと言って、私にまだ武器を与えてくれないからだ。構わない。武器はないが、私は魔法は……自信無いがこの身1つでも戦える。本に栞を挟んでゆっくりとした動作で本を置いた。
「はぁっ!!」
気配を感じる場所に接近して思い切り蹴りを入れる、が手応えを感じられない上にガンッと金属音が聞こえた。防がれたみたいだ。相手は慌てて立ち上がり、剣を抜いた。どうやら騎士のようだ。剣を振るわれ、避ける。布が切れる音が聞こえたが気にしない。構え直し相手を睨む。
「……驚いたな」
騎士が言った。一体何が驚いたのか知りはしないが、これ以上攻撃する気は無いらしい。私も構えを解き、改めて騎士を見た。そして思い出した。オレンジに近い色をした黄金の鎧。平民を主に組み込んだ隊。片目を隠すぐらい長く垂れた髪。微かに生えた無精髭。
私が是非とも会ってみたいと思っていた隊だ。
「シュヴァーン隊…?」
そう呟いたら剣をしまっていた騎士は驚いたようだったがすぐに笑みをこぼした。どうやら当たりのようだ。警戒を解いてびっくりしたように彼を見た。騎士団のNo.2の実力を持つと聞いている。
「すまない…、視線を感じていたから…つい……」
「いや、私の方こそ」
頭を下げて謝ったら首を横に振られた。いや。私が悪い。ただ見ていただけだというのに、私がいきなり攻撃してしまったんだ。当然の対処だし、私が謝るのも必然だ。
だが彼は目を見開きながら驚き「気配に気付いていたのか」と小さく呟いた。そんなに驚くような事じゃないと思うが…。
「それにしても、今の動き……。男にしては随分としなやかなだな。無駄が無いというか…」
…………男、だと?首を傾げながらそう言ったら逆に首を傾げられた。男……、確かに身長も高いし、顔も中性的とよく言われ女の子に迫られた事もあるが…。私はれっきとした女なんだがなぁ…。胸が小さいせいか、それとも下着が小さいせいか。胸で気付かれる事も多くは無いし。もしかしたら私は女としてマズいのか…。
「………私、一応女なんだが…」
「えッ!?」
困ったように笑いながら言ったらギョッとして言われた。よく間違えられるとはいっても、結構ショックなモノがある。男はチラッと私の胸を見て、微かに胸が山形になって膨らんでいるのを見て「す……すまない!」と謝られた。
「いや…!この間、本を読む君を見つけて、男にしては綺麗だなとは思って見ていたんだが…!!すまない!女性とは気付かず…!」
残念、私は女でした。そんな事を思いながら頭を下げようとして来る男に「頭を下げないでくれ」と言った。何だか私たち謝り合ってばかりだな、そう思ったらなんだか笑えて来た。
彼はなんで笑っているのか分からないと表情が訴えていたが、私が知っていればいい。
「私の名は夢主だ。お前の名は?」
「私の名は、シュヴァーン・オルトレイン。シュヴァーン隊隊長だ」
恥ずかしそうにシュヴァーンは言う。間違えた事がそんなに恥ずかしいのか?あんまりに恥ずかしそうにしているから「よく間違われるからあんまり気にするな」と言ってやった。
「夢主は、いつもここに来るのか?」
「あぁ、この時間はエステリーゼ様のお昼寝の時間だからな」
そう言ったらシュヴァーンは「なら」と言葉を続けた。
「この時間、ここで会わないか?」
「………は?」
いきなり、何を言い出すんだ?そんな事を思いながらシュヴァーンを見返したら、ふいっと視線を逸らされた。
「夢主の、その纏う、雰囲気が、好きというかだな、」
はぁ…。
「ありがとう」
そんな奇妙な約束を私たちは毎日守っていた。本を読んでいると決まってシュヴァーンが草むらから現れて、私の隣りに座る。私の読書の時間はそこで一時休憩となり、お互い何があったのか話し合う。いろんな話をした。そのたびに笑ったり、分からなかったり、そして教えたり、教えてもらったり。シュヴァーンと一緒にいる時間は主人と違う意味で楽しかった。だが、そんな楽しい日々は長くは続かなかった。彼は、人魔戦争に行くことになったからだ。だが、人魔戦争へ出兵する日。彼は何だか慌てているようだった。…慌てているという表現はおかしいかもしれないが。いつものように私があの場所に行くと、既に彼は来ていた。子供な私でもさすがに分かった。彼はこれから出兵する。挨拶に来たんだな、と。
「シュヴァーン」
そう呼んだら、彼は何だか複雑そうな顔をしていた。その手に持っているのはこれから出兵する者にはあまりにも不似合いなモノ。つい眉を顰めてしまった。彼は私の表情に気付いたのか「あぁ」と言ってそれを持っている方の腕を、軽い筈なのに重そうに持ち上げた。
「リボン、夢主にあげようと思ってな」
そう言って彼はリボンで私の髪を束ねた。伸びてきた髪が最近邪魔だから切ろうかとこの間話していた事を思い出す。チョロッと尻尾みたいに髪が結ばれた。それに触れて改めてシュヴァーンを見た。
「リボン、ありがとう」
「夢主、頼みがある」
珍しい。彼が頼み事をして来るなんて。戦争に行く以外に何かあるのか?
「信じていてくれ」
何を、と思い「?」と首を傾げながら言った。
「私がまた、夢主のところに戻ると信じていてくれ」
そう言って彼は出兵して、戻らなかった。
それから10年が過ぎた。
エステリーゼ様がユーリ・ローウェルと旅立った。キュモールが守れなかったのはお前の責任だと言った。私はアレクセイに無理やり退団を申し付けて、この体に流れる血に従い流浪を始めた。
そして、ユーリ・ローウェル達と出会い、ギルドに入って、レイヴンなる者にも出会った。
そしてレイヴンが裏切り、エステリーゼ様を誘拐した。そしてエステリーゼ様を奪い返して私たちの前に立ちはだかったのは、レイヴンでありシュヴァーン・オルトレイン。
彼を何とか退け、その傷を治して、私たちは今、宿にいる。私の前にいるのは、ベッドの上で正座をしたシュヴァーン、基、現在はレイヴン。ユーリ・ローウェル達に少し2人きりにしてくれと頼んで部屋には今、私とレイヴン2人しかいない。
「……で、何か言う事はあるか?」
そう言ったらレイヴンはビクッと体を震わせた。自分でもびっくりするぐらい低い声だった。エステリーゼ様がここにいなくてホントに良かった。こんな声出しては驚かしてしまう。
「あー…、すいません…」
「何故謝る」
「…おっさんが生きてたのに、夢主のとこに行かなかったからかしら…」
私が言わせたい言葉の的を射ているような、いないような。全く、弓を使う者なら言葉の的ぐらいきちんと射て欲しいものだ。まぁ、取りあえずは。レイヴンを呼び、前に来ると手を振り上げた。
バシンッ
明日、恐らく顔には赤い紅葉が出来ているだろうが、仕方ない。彼が先に約束を破ったのだから。それぐらいの報いぐらいは受けてもらわなければ。レイヴンは目を白黒させていた。あぁ、くそ…。私の目の前もユラユラと歪んで来た。胸に込み上げる何かが、ある。レイヴンはそれを見てギョッとしていた。
「ちょっ…!ゴメンね!泣かないで夢主!」
あぁ、私は泣いているのか?頬に触れて初めて自分が泣いている事に気付いた。唇を噛み締めて、拳をレイヴンに向かって振り下ろす。泣き顔など見られたくなくて、俯いて小さな声で「バカ」と罵ってやった。
ホントにバカだ。なんで連絡の1つも寄越さないんだ。たとえアレクセイのせいで生き返らされたとしても、たとえアレクセイのために道具のように働いていたとしても、なんで生きていると教えてくれなかったんだ。無様でも、格好悪くても、生きていると教えて欲しかった。
「私はてっきり、キャナリさんが好きだから、後を追ったかと…」
それに私がまず流浪したいと思っていた場所は人魔戦争が行われた場所。そこにこのリボンを返しに行こうと思っていた。恐らくキャナリさんと一緒に眠っているであろうシュヴァーンに。
「は?おっさんそんなことしないわよ。残念!それに、過去とは踏ん切りつけてるから大丈夫」
この10年間で私の方が身長が高くなった。だが気の持ちようはまだまだ子供でレイヴンは頭を撫でてくれた。
「それに、夢主に伝えたい事があったのよー、おっさんは」
「伝えたい事?」
涙を拭いてレイヴンを見ると、レイヴンは何だか深呼吸をして「うしっ」と覚悟を決めたみたいだ。何を言いたいんだ、レイヴンは。
「俺様は、夢主が、」
バンッ!
「「「レイヴン(おっさん)平気か(です)(なの)!?」」」
扉を破壊して更に蝶番を破壊しながらパーティーメンバーが飛び込んで来た。びっくりしてお互い扉を見ていたら蝶番が外れた扉はレイヴンに直撃してベッドから落ちた。……大丈夫か?そんな事を思いながらベッドから落ちたレイヴンを見ようとしたら、エステリーゼ様とユーリ・ローウェルに肩を掴まれた。何だろうと思い振り返った。
「夢主はこの中年のおっさんとずっと一緒にいて疲れただろ。後は俺たちが殺っておくから部屋から出てろ」
「そうですよ!夢主はゆっくり休んでいてください」
加齢臭が移ったら大変です、とか何とか言ってみなは私を部屋から追い出した。…ユーリ・ローウェルが何だか物騒な言葉を使った気がしたが、気のせいだろう。それにしても、レイヴンはみなに愛されているな。私もそんな仲間になれるように頑張らなくてはな。
それから数分後、私は眠くなって隣りの部屋で眠ってしまったが私が眠りに落ちる一瞬だが、レイヴンの断末魔顔負けの悲鳴が聞こえた気がした。
ぐっだぐだ。
レイヴンはヒロインに片思い。ヒロインはシュヴァーンを仲間として見ていたため、知り合いが死ぬ事など認めたくなかったのです。
…こんなところで書くべきじゃない。