rkrn長編
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「覚悟は、出来てます」
真っ暗な学園長先生の部屋で、私は言った。私と学園長の間には私が覚悟を示したモノ、皆に綺麗だと言われた銀色の髪。忍は死んだ時、忍者の作法として髪を切るという作法がある。
たった今、梓季というくの一は死んだ。
「うむ、分かった」
私と学園長先生とのやり取りを見届けてくれた山田先生とシナ先生に目を向けた。2人とも最後の最後まで反対していた。
私は今日から学園のための忍になる。
私は単純にこの学園が何物にも替えがたく、好きだから。だが、失うものは私という存在の、名前。
だがそれでも私はこの道を選んだ。今日から私は命が下れば学園のために人も殺すし、非道な手段も使う。私が専門にするのは諜報活動だから、あまり無いかもしれないが。
それを行っているのが、私と知られてはいけない。後輩達にも、先生方以外には絶対に、知られてはいけない。だから私は顔を隠す。そうする事で自分を戒めていたかったのかもしれない。
「梓季、という名は金輪際使ってはならぬぞ」
「御意」
「お主の名は、今日から狼じゃ」
この日から、私の名前は梓季ではなく狼という名を使うようになった。
****①****
「どこ行ったムカデのお銀~ッ!!」
あれから4年。
諜報活動も随分慣れて来た(元々諜報活動は得意だ)。半月ぶりに学園に帰って来た。そして学園長先生の部屋に向かっている時に聞こえた雄叫び。屋根の上で移動しといたから、ひょこっと覗き込むとグシャグシャの髪と忍たま5年生の制服。
壺と菜箸を持っている。
多分、生物委員だろうなぁ。顔を隠すために頭や顔に巻いた布の隙間から彼を見る。
「おっしゃあ!見つけたぞ、お銀!!」
箸で摘んだのはムカデ。
笑みが零れてた。私の今のしている事ははっきりと結果が見えるわけじゃ無いが、こういう姿を見ると嬉しい。
「頑張れ」
小さく、絶対に届かない声で応援してタッと屋根を蹴って学園長先生の部屋に向かった。
屋根の上は好きだ。
学園が、生徒達が頑張っているのがよく分かるから。
「このギンギン野郎!」
「アヒル野郎がぁあッ!!」
「いけいけどんどーん!」
「銭ぃいいッ!」
「きりちゃん!!」
「なめくじー」
「……、留三郎、文次郎。あんまり怪我しないでよー」
私を知っている後輩や今年入った1年生達。たくさん居る。綺麗な、キラキラ。
私が汚れて、彼らは輝く。
彼らは私の誇り。
彼らが光だというならば、私は影。
―――――
私の部屋は忍たま長屋の奥にひっそりある。……あまり帰らないから、荷物が溢れた生徒達が私の部屋に置いて行く場合がよくある。
……下手したら部屋中わけの分からない物であふれている場合もあるから、
「夜中ひっそりと掃除をするハメになるとは…」
久しぶりに帰って来た部屋は凄まじい事になっていた。昼に行えば生徒達が私の正体に勘付くかも知れないから、私の活動は主に夜だ。
………それにしても、
「褌、制服、悲惨なテスト……」
彼らは私の部屋をゴミ箱か何かと勘違いしているんじゃないか!?
「狼さぁん…」
呼び声。廊下の奥を見ると、小さな身体が見えた。1年生の、初島孫次郎。モジモジと脚を擦り合わせている。私は狼という名で学園の人間に知られている。ましてやこんな格好をしているのは私だけだ。私が狼になってから、学園の人間や新入生にも一応挨拶したからなぁ。
「おしっこ…」
「!」
だから、こういう事もよくある。怖くてトイレに行けない子が夜中活動する私を捕まえてトイレまで一緒に付いて来てもらう。……、色の授業受けて置いてよかった。部屋まで見送り、部屋の整理を行う。漸く終わった頃には月が空のてっぺんから下り始めていた。暫く動くなと学園長言われたから、当分は待機だろうか。
何だか暇になって屋根に登った。
賑やかな学園も、夜は不気味な程静かだ。誰もが寝静まるから。
「……ッ!」
……声?
何だろう?
こんな時間に、明日も授業はある筈だが…。
屋根を渡って声がする方に向かうと、そこには確かギンギン野郎と言われていた潮江文次郎。
あぁ、確か潮江は2年生の頃からずっとあんな感じだった。だが、あんなにギンギンしていて忍べるのか…?まぁ、6年生まで来たのだから出来るんだろうけど。
「……おい、貴様いつまで見ているつもりだ」
屋根に腰掛けて気配を分かりやすいぐらい消さないで眺めていたら、ムッとした顔を向けられた。うわ、凄い隈だな…。
「狼とか言ったな。見張りに来たのか」
「………」
私の声はいくら変えようとしても変わらない。高い女のまま。私は首を横に振った。
狼という存在はやはり生徒達には不思議な存在に見えるらしい。土井先生や木下先生は生徒に狼に何物かと聞かれ、イケメンな忍者や松千代先生みたいなシャイな忍者と答えたり、斜堂先生に至っては私をこの学園に住む亡霊と説明したらしい(もちろん取り消された)。
だがどの生徒もやはりイメージ像を持っている。生徒達から見ると私は山田先生の息子である利吉並のイケメンな忍というイメージがあるらしい。……それを崩したくはない。だから私は狼という存在を消すだけでなく、くの一という事も先生方以外には隠していた。
「おい、狼」
【なんだ?】
声には出さない。その代わり首を少し傾げた。
「貴様は現役忍だな?」
【まぁ、そうだな】
やはり声は出さなかった。
「俺と戦え」
………。
向けられた目は明らかに本気だ。手には得意な武器と思われるものだし。明日は普通に授業もあるしな、下手したらずっと起きてそうだし。
寝かせるか。
私は立ち上がると、素早く潮江の背後をとった。潮江は私の姿を追う事が出来ず振り返ろうとする動作を見せる前に私は潮江の頸部を叩いて気絶させて、部屋に運んだ。まだ寒いからな。風邪を引いてはまずい。
さて、私も部屋に戻るかと思い屋根に戻るとフッと何かが見え……ん…?屋根の上に誰か、いる?気配も音も残像さえも残さない程素早く駆け寄り、屋根の上に体育座りをしている、生徒か?全く…、明日は普通に授業だろう。早く寝なくては明日に響くというのに…。背後をとり、肩を叩くと生徒は驚いて声を上げそうになったが、口を塞いでやった。まだ夜中だし。
「あ…狼…」
【こんばんは、一体何をしているんだ】
勿論声には出さない。
隣に腰掛け生徒…確か、5年生の尾浜勘右衛門。何をそんなに悲しそうな顔をしているんだ?
「……、俺。影薄いのかなって…」
【そんな事はないぞ。ちゃんと溶け込んでいるぞ】
「溶けすぎてるんじゃないかなぁ…」
【そんな事はない。そんなだったら私は今、尾浜を見つけられなかったぞ】
「……狼…、筆談上手いな…」
【私と他人とコミュニケーションをとるには筆談は欠かせないから、筆と紙は必須だ】
「はははッ、そうだな」
【だからあまり良い顔をされない】
「そうかな、俺は何だか真新しくて好き」
【そうか。
良かった】
「何が良かったの?」
【受け入れてくれた事と
元気が出たみたいだから】
「……うん。ねぇ、狼」
【なんだ?】
「また明日もここで話そうよ。俺、狼に憧れてるんだ。たくさん話すし聞いて欲しい。それにアドバイスも!」
【構わないよ。
さぁ、明日も授業だから早く寝ろ】
「うん、お休み」
そう言って尾浜勘右衛門は屋根から降りて部屋に入って行った。そんな姿を見届けて、紙と筆をしまうと部屋に向かった。
(そっと、そっと)(それはまるでパズルのように)(組上がる、絆)