rkrn長編
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後悔なんて絶対しない。
「よし、じゃあ行くか」
「三郎。あんまり気を緩めるなよ」
「当たり前だっての!」
貴女と戦う事。
その先に待つ2つの未来、どちらかを取ればどちらかが消えてしまう未来。
俺は必ず勝って見せる。
「勘右衛門?」
「勘ちゃん…?」
「ん?え。どうしたの?」
だって、俺が勝ったその先にはきっと貴女が予想しなかった幸せな未来があると俺は信じてるから。
「なんか、静かだなぁって…」
「大丈夫か、勘右衛門。無理に梓季先輩と戦わなくても良いんだぞ?」
「まさか!梓季先輩に勝つのは俺だよ、鉢屋」
だから俺は、後悔なんて絶対にしない。
貴女の笑った顔がまた、見たいから。
*****⑮*****
意識が浮上する。
暖かい何かが自分を強く抱き締めている。身体には土に当たる感触は全然しない。あぁ、死んじゃったんだ…。当たっているのは少し固い、人の肌のようなぬくもりと布。
重たい瞼をゆっくりと上げると視界に入って来たのは、暗闇に紛れた紫色の布。
……むらさき…?
………違う。
忍装束…?
ハッとして起き上がり離れると「いたた…」という声が紫色の忍装束、もとい着ている人から上がった。というか…。
「尾浜…?」
確かにあの声と、暗闇に慣れて来たから見えるようになったあの丸み帯びた髪と目は正しく尾浜。
「あー…、良かった。梓季先輩に怪我無くて」
尾浜は起き上がりながら「梓季先輩が落ちてく瞬間に抱き締めて一緒に落ちて来たんだ」と言って笑った。
なんで、
なんでなんで、
尾浜はあの時私を落とし穴に落とすために肩を押して、離れた筈なのに。
どうして私を抱き締めて落とし穴の底に居るの…?
「あはは、綾部の奴。本当にとびっきり深い落とし穴掘ってくれたみたいだな。もう入口が米粒みたいだ」
なんで、笑うの?
この穴で私を殺せるから?(武器も無いのにどうやって?)
ねぇ、尾浜、どうして…?
分からない、分からないよ、尾浜。
尾浜、君は私の光なんだよ…?奈落に墜ちるのは私だけでいいのにどうして尾浜まで一緒に墜ちて来ちゃうの?私は、尾浜に全部あげるって、誓ったのに。それさえ要らないって事なの?命さえ、要らないって事?じゃあ私は何をしてあげたら良いの?尾浜に何をあげられる?
狼は、梓季は、尾浜に何をあげられる?
私を殺せば箔が付くことで将来を約束されるだろう。
そうすれば立派な忍として認められて、良い奥さんを貰える。
金だって、きっとたくさんもらえる。
他にも予想もしない良い事が待ってる筈。
なのに…。
「なんで……?」
身体から力が抜けた。
ずるずるとその場に崩れ落ちると尾浜が慌てて駆け寄って来た。ポロポロと涙が落ちた。
なんで、なんで私を殺してくれないの?私は、じゃあ、尾浜に何もしてあげられない。
役立たずで、自分で掲げた覚悟さえ守れないこんな奴だから。こんな事以外他に何も出来ないのに。
「どうして、」
「梓季先輩!?どこか打ちました?痛い?」
おろおろしている尾浜。それを私はまるで絵でも見て居る気持ちで、冷め切っていた。
打って無いよ、だって尾浜が抱き締めながら守ってくれたから。
痛くないよ、だって尾浜が私の下敷きになって守ってくれたから。
そんな気持ちはあるのに次に出て来た言葉は他に無かった。
「どうして殺してくれないの…?」
それを聞いた尾浜はビクッと身体を震わせた。私は自分で真実を口にする事で改めて自分は殺す価値のない人間なのだと理解して、涙腺が決壊した。ボロボロと涙が止まらない。
「覚悟を違えちゃったのにッ、尾浜を傷付けたのに…!」
「梓季せんぱ、」
「私はッ、尾浜の信頼も憧れも夢も全部全部全部全部ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ!!騙して裏切って傷付けて壊したのに、」
憎まれても罵られても、怒られても何も言えない。女の梓季が、狼と偽っていて4年間も裏切り行為を続けていた。
4年間の裏切りをこの命一つで償い切れないのは重々承知していた。
なのに、尾浜は殺さないと言う。そして落とし穴に落ちた私を抱き締めて守って、傷も作って。
梓季と知ってなお、笑いかけてくれて。
私は、どうしたらいいの?
殺してもくれない。
ならどうやって私は裏切り行為を償えば良い?
自殺したら許してくれるのだろうか?でもあの時、梓季と知った時尾浜は怒りなのか分からないが少なからず負の感情で声を震わせていた。なら、自分の手で絶つより尾浜自身の手で絶たせてもらうしか。でも尾浜は殺さないと言う。じゃあどうやって償えば良い?命を絶たせてもらえるような価値のある人間じゃないと行為から言われる。どうしたら。
夢を壊し、憧れや信頼を裏切った私は。
罪悪感の重圧で潰れてしまいそうになる。
誰か助けてッ…!
誰か…!!
心の中で必至に叫ぶ。
俯くと涙がなお零れた。
せっかく整えた髪に手をクシャリと入れて頭を掴む。脳裏を狼として過ごして尾浜と話をした日々が過ぎった。
「梓季」
尾浜の声。
そして私を包む優しいぬくもり。それは私が思っていたよりもずっと大きく、逞しいものだった。尾浜に抱き締められている。そう理解するとひゅっ、と喉が音を立てて涙が止まる。
だが私はそんな資格無いのに、そう思ったらまた涙が溢れてこぼれた。
「俺、裏切られたなんて思ってないし、傷付いてもないよ」
髪を撫でられて、耳元に口が近寄ったのが分かった。
「俺の信頼も、夢も憧れも、全部。裏切られてないし、裏切られたなんて感じてもない」
「私は女だッ…!くの一を軽蔑視したり軽視する城も多い…。だからッ、皆を傷付ける…」
「守ったのに?」
小さく頷けばクスクス笑われた。そしてうーんと言うと優しく壁に追い詰められた。顔の両脇には尾浜の腕、目の前には優しい表情だが決して苦そうとしない尾浜。
「皆、そんな事気にしてないよ。ってかそんな事言うお城どこ?俺が潰してあげる」
「お、はま…?」
「ねぇ、いい加減気付いてよ梓季。梓季は自分なんかとか、自分なんてなんて簡単に卑下に言うべき存在じゃない。1年生も2年生も3年生も4年生も5年生も6年生も先生達も皆、梓季を失いたくないんだよ。梓季はこの学園に男でも女でもない、狼であり梓季という存在が必要なんだ」
「ッ……でも、」
「殺してなんて言うのは、許さない。居場所が無いなら俺が先生達に頼み込んで作ってもらう。許されないっていう奴がいるなら一緒に頭を下げるよ。苦しいって、辛いって言うなら俺が守る。だから、お願い」
俺を信じて。
息苦しい程の抱擁。
言葉こそ雑渡昆奈門に似ているが、尾浜のこの力強さは真似出来ない。
あぁ、尾浜を好きになって本当に良かった。本当にそう思えた。
だが
「私は、学園の皆を騙し続けた…。降参はするが…、それは尾浜が許したとしても、償わなくてはならない…」
どんな事情があれ、4年間騙し続けたという事実が消えるわけでない。尾浜の胸を押してゆっくりと離れると尾浜はニヤリと笑った。そしてずいっと近付いて来る。
「大丈夫!」
ニッコリと笑った。
その顔につられて、私も笑った。
(で、告白の一つでもしたのか?)(うぅん、してないよ。だって泣く梓季がめっちゃくちゃ可愛くてつい…)(……勘ちゃんが壊れたのだぁ…)