rkrn長編
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「綾部、居る?」
勘右衛門は4年生の教室を訪れていた。先程担任教師から連絡が入ったのだろう。4年生もどこかピリピリとして緊張感がある。
勘右衛門はそんな空気を何事も無いかのように綾部の元にやって来る。
「おや、尾浜先輩。どうされました?」
「お願いがあるんだ。落とし穴を掘って欲しい」
勘右衛門が落とし穴を頼むなんて、と外で待つ鉢屋達が首を傾げる。
「リクエストはありますか?」
「あぁ、えっと…」
****⑭****
痛みに構えて、ギュッと目を瞑ると…、いつまでも痛みはやって来ず、ギギギギギッと金属で壁を抉るような音が聞こえた。そして同時に壁に押しつけられる。
ゆっくりと目を開けば、目の前には尾浜。肩を掴んで、私を壁に押しつけていた。辛そうな顔で。
「梓季先輩、お願いです…。降参してください」
「……殺せ」
「殺しません」
腹の奥に氷を押しつけられたような、ショックを感じた。殺さないだと?それは私に尾浜の手で殺す価値も、無いという事…?殺す価値も無いから、そのクナイで攻撃しないで心臓にも突き刺してくれないのか…?私は、そこまで価値のない人間なのか…。尾浜にとったらその程度の人間なのか…。
そう考えたら悲しくなった。その手で殺す価値のない人間、胸にそう何かが降りて来ると不思議と笑いが込み上げて来た。
殺しても貰えない。
価値のない人間。
学園から居なくなる、ゴミのように捨てられる私にとってはもっともな名称だ。私などゴミ屑同然だ。自分で掲げた覚悟さえ、守れないんだから。
「……、一瞬の判断が、永遠の後悔だ」
尾浜のみぞおちを蹴り上げた。尾浜の顔が痛みと苦しみで歪んで、その場に蹲った。
忍は敵の前では非情ではならない。私は、弱く脆い忍で一応実践を積んで自分の責任をとれる。だから生徒達の前では非情になれなかった。だが生徒はまだ学びの段階。たとえ相手が同じ学園の者であろうと非情でなくてはならない。
私じゃなかったら、その一瞬の"殺さない"という選択は殺されてからあの世で後悔する事になる。それは永遠と、まるで輪廻のように。
「後悔ッ、なんか…しないっ…!!」
ゲホゲホと咳き込みながら尾浜が言った。私は後悔してるよ。尾浜を蹴って、少なくとも傷付けてしまったから。でも他に選択がなかった。ただの言い訳だけど。
「俺は、もうっ…、絶対に……っ…!」
鋭い目。
真っ直ぐな目。
いつも、屋根の上で語らっていた時の目とは違う。
男の目。
ゆっくりと目を瞑って、息を吐く。大丈夫、大丈夫。必至にそう言い聞かせる。もう、正門を潜るだけだ。ゆっくりと目を開く。
恐らくあの穴掘り小僧と名高い綾部が罠で幾つか仕掛けをしていそうだが。
私がもし、落とし穴や罠を仕掛けるとしたら…、あそことあそこらへんに2、3個かな。
自分で予測した落とし穴の位置を避けながら正門に向かう。さっきまで聞こえてた尾浜の咳き込む声が止まっている。
空を斬る音。
ハッとして振り返ると八方手裏剣が襲いかかって来た。避けながら落とし穴と思われる位置は踏まないように、っ!!
「俺は言ったよ、絶対に後悔しないって」
手裏剣は囮…!
飛び掛かって私の肩を掴んで強く押す尾浜。強く押されて大きく1歩後ろに下がってしまうと落とし穴と思われる位置を踏んでしまった。ずっと身体が重力に従い落ちて行く浮遊感。
やっぱり落とし穴…!
チラッと穴を見ると深く、真っ暗。随分深く掘ったらしい。まるで奈落の底に墜ちて行くみたい。覚悟を違えた者は、奈落の底で最期を迎える、か。もっともらしい最期だなぁ。肩を掴んでいた手がゆっくりと離れた。
それでいい。
暗闇に墜ちて行くのは、私だけで良い。だって、私は影。生徒は、尾浜は光なんだから。きっとこのまま墜ちたら頭を打って死んじゃうのかな。あの綾部がこんなただの落とし穴の筈がない。そこには鋭利な竹が私を穴だらけにするのを待っているのだろう。
冥土に良い土産が出来た。
尾浜と戦えた。
……、触れてもらえた。
もう触れてさえもらえないと思っていたのに。
目を瞑ると、世界は暗闇に包まれながら、意識は遠のいた。
(後悔しない)(それは私をころしても大丈夫)(そう言っているようで少し寂しくて、安心出来た)