rkrn長編
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自分が守って来たものを潰すのは、あまり……というか良い気分じゃない。今日が休日で良かった。少しでも、生徒達が減って居るから。
でも4年生の子達から上の上級生は殆ど残っているけど…。まぁ、殆ど気絶させて伸してしまったが。
全く、学園長も酷い事をさせる。
本当の人を使った、狩り。
上級生になればなるほど確実に殺すための方法になる。そして絆を全て引き千切り、殺す。情なんて一切無い。
頭を掠めたのはあの、卒業試験。人を使った、狩り。但しあの時と違うのは自分以外は自分以外を狙う事はなく、自分の命だけを狙っている。上級生になればなるほど、情が無くなる。
それで、いい。
私はどうせ影。
そして、正体がバレているのだから彼らからしたら早く殺したいに決まっている。女なんだから。女になんかに守られたくない。きっとそう思っているのだろう。影はいずれ消えなくてはいけない。
でも、殺されるならせめて…。
「尾浜、勘右衛門…」
私を狼と見て、慕ってくれた尾浜に殺されたい。
怒りでも良い。
憎しみでも良い。
最期の瞬間だけは、尾浜に看取られたい。それが怒りや憎しみのまなざしでも。
いや、我が儘だな。忍は1人で生きて、戦い、死に逝くものだ。
それに私を殺せば、箔が付く。狼を殺した忍者として箔が付く。これからの未来のためにも。
着物に付いた埃を払い、ゆっくりと歩きながら正門に向かう。もう4年生は大体潰したし、5年生も大半は潰した。6年生は、もう潰し終えたしな。
もし学園を出れたらどうしようか。
どこかの忍に?いや、忍稼業からは離れようか?このまま実家に戻ろうか?あの時描いた夢を叶えようか?歌を歌おうか?いや、実家に戻る方が優先になるかな。愁達にも、指示をしないといけないし。
そして、忍稼業からは離れよう。
だって、尾浜が学園を卒業してから敵同士になったら私は……。わたしは、…。
「ッ!!」
気配に気付いて2本のクナイで両脇を守るとギィインッと刃がぶつかる音。不意を、突かれそうだった。見えたのは5年生の制服。脇には2つのオレンジの髪。
「はっ…、流石に一撃って訳にはいかないか…!」
「梓季先輩ッ…!お願いです…!降参してください…!!」
不破雷蔵と、鉢屋三郎。
なるほど。この2人は一斉に来ると思っていたが。当たりか。それにしても、不破…。
「降参は出来ない」
分かっている筈だ。
学園長から聞いただろう。私の降参は、降参させた生徒の勝ちとなり、降参させた生徒の願いを一つ叶えなくてはいけない。その先に待つのは、死だけ。大体忍が、簡単に降参するわけがない。
「勘ちゃんがッ…!今、どんな思いでいると考えているんですか!!」
「ッ…!」
「勘右衛門はッ…!苦しんでる…!!」
「…ッ、」
狼と慕ってくれた。私に居場所をくれた。私に恋慕を抱かせてくれた。私に、色々な想いや思い出をくれた。
ごめん…
ごめん……
ごめんね……!!
私は女だったから。
私は尾浜の描いた忍じゃなかった。夢を壊した。憧れを裏切った。尾浜の気持ちも、夢も、信頼も、全て…!!
そのせいで、苦しんでる…?
私が、苦しめた。
私の存在がッ…!
「勘右衛門は、アンタが…!!」
「ッ五月蠅い!」
2人をなぎ払うとみぞおちにクナイの柄を抉らせると、もう1人は回し蹴りをして吹き飛ばした。
分かっている。
分かっている。
私の存在は" "なのだ。
だから。
尾浜の気持ちを裏切り、夢を壊した私なんて。邪魔だけでなにものでもないのだ。
「そんなの、分かってるよ…」
意識を飛ばしてしまった2人にそっと呟いた。すると何か重い物が小さく転がる音。音がした方を見ると、焙烙火矢…!?慌てて離れると屋根に着地する。いや、あれは焙烙火矢ではなく煙幕だったか…。微かに見えたのは2人の5年生の制服。…、竹谷と久々知かな…。2人は襲って来るような気配は無いな。
「………、バイバイ」
軽く手を振るとそのまま歩き出した。さぁ、もう正門は目の前だ。
そう思いながら屋根から降りると正門の前に立った。あぁ、もうここから入る事は無くなるのか。もう4年になるんだなぁ。私が梓季ではなく、狼として生きていたのは。長いようで意外に短いんだな。
山田先生…、最後の最後まで狼となることに対して反対していたっけ…。
山本シナ先生も、ずっと反対してたなぁ。ならいっその事先生になりなさいとか事務員とかになりなさいとか…。
結局、2人の反対を押し切ってこうなったけど。今さら時は戻らない。もしあの時、先生になっていたら、変わっていたのかな?こんな未来にならず、もっとマシで、幸せになれるような未来になってたのかな…?
尾浜と、笑って、梓季として、女として、認めてもらいながら幸せになれたのかな…?
もし私が、普通の女だったらもっと普通の幸せがあったのかな…?
もし私が、尾浜と同い年の女だったら、気を使わずに普通でいられたのかな…?
そうしたら、この鉛より重くて、苦しくて、永遠に叶わない想いを口に出来たのかな…?
一緒に笑い合えた?
一緒に居る事が出来た?
手を取り合う事が出来た?
好きだと、言えた?
ポタポタ、と何かが零れた。拭えば涙だった。あぁ、そっか。今さら後悔していたのか。馬鹿みたい。
尾浜。
尾浜勘右衛門。
私は貴方が好きでした。
生徒としてでなく、たった1人の男として。私は貴方が好きでした。
胸が抉られてしまいそうな程に。
貴方の1番でいたかった。
貴方の、せめてこの学園に居る間だけでも1番で居たかった。
貴方の笑顔が好きだ。
貴方の怒った顔が好きだ。
貴方の困った顔が好きだ。
貴方の全て、表情一つ一つが私には大切な宝物だ。
この想いは墓まで持って行くから。
だから、気付かないで。
貴方への気持ちを。
想いを。
貴方の刃を鈍らせたくない。貴方の刃は今、私のこの心臓に突き立てるためにある。その刃を私は受け止めるから。憎しみと怒りを抱いた、その刃を。
だからせめて。
この気持ちだけは、想いだけは、奪わないで。
「出しませんよ、梓季先輩」
あぁ。
来てくれたのか。
振り返れば、真っ直ぐと私を見て来てクナイを構える、尾浜。
待ってたよ。
私にあげられるもの、全部あげるよ。それが私が尾浜にやってあげられる全てだから。最期に言わせて。
ありがとう、と。
「……尾浜…」
出会ってくれて。
笑い合ってくれて。
そばに居てくれて。
抱き締めてくれて。
最期に、居てくれて。
あぁ、そうか。私に殺された奴は皆、こんな気持ちだったのかも知れない…。
もう、避ける気は無かった。身体ごと向き直ると、尾浜は軽く地面を蹴って私に襲いかかった。
「――ありがとう」
(さようなら)(バイバイ)(好きでした)