rkrn長編
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休日になって、いつもなら実家に帰ったりするはずだったが上級生達はほとんど帰らなかった。それは勘右衛門や久々知達は勿論6年生達も同じだった。用はないが、教室に行きぼんやりと空を眺める。
「梓季先輩…」
勘右衛門はぼんやりとしながら呟くように名を紡いだ。今の自分に何が出来るか、どうしたらあの人を救えるか、必死に考えても考えても何も思いつかない。
狼という存在が居なくなってから学園は何か無くなってしまった。下級生、特に1年生達は何度も何度も先生達に、
「先生、狼さんはどこですか?」
「まだ帰ってこないんですか?」
「どうして帰ってきてくれないんですか?」
何度も聞いた。
中には泣き出したりする者さえいる。己を影だと思っていた狼は生徒達にとって、影として支えてくれるだけの存在ではなかったのだ。だが皮肉にもそれは狼がいないときに自覚してしまったのだ。
「あれ、誰か来たみたいだ……」
そんな声が聞こえた。視線を向ければ正門に小松田が入門表を持って門を開けようとしていた。そして門を開けて、誰かが入って来た。見えたのは女物の着物。てっきり山田先生かと思ったが髪の色と、あの数日ぶりに見た顔を見て勘右衛門はギョッとして身を乗り出した。
「え……、あれって…」
「梓季、先輩…」
そんな彼らの元に担任教師がやってきた。
*****⑫*****
この着物を着たのはいつぶりだろう。そんな事を思いながら入門表にサインをして学園長の庵に向かった。後ろからえぇえッ!?と驚いたような声が聞こえた。
まぁ、仕方ないか。
サインには狼と書いたし。でもこれが、私なりのケジメ。忍びらしくないと言われればそこまでだが。キュッと拳を握りその手に反対の手を乗せる。大丈夫。大丈夫だ。もう、終わりだから。自分に必死にそう言い聞かせながら学園長のいる庵まで向かった。そこに行くと山田先生と山本シナ先生もいらっしゃった。
失礼します、と一つ挨拶をして入ると学園長は座りながらいびきを掻いていた。そして前に座る。
「学園長先生、私は覚悟を違えました」
狼として生きていくこと。それは生徒に、梓季と呼ばれたことで、すべてが崩れた。私の覚悟は、掲げたものは違えたのだ。
約束を、果たそう。
「約束を違えた場合は、」
死。
ゆっくりと頭を下げると、学園長が目を開く気配。そして溜息を吐かれた。
「その着物は、何じゃ」
「肉体は梓季ですので、せめて最後ぐらいは」
女として、綺麗に死のうと思いまして。
そう言うと学園長はピクッと眉を動かした。これは本心だ。誰にも看取られずただ死んでいくんだから、せめて自己満足の域で良い。綺麗な格好で死にたかった。
「………」
「お願いします」
目を閉じる。
あぁ、尾浜に最後に、謝っておけば良かったのかな?いや、謝れば私のこの想いを消し去ってしまうかもしれないし。止めよう。
胸に甘く、優しく、痺れるように広がるこの感覚は誰にも分からなくて良い。私だけでいい。この感覚も、この想いも抱いて死んでいこう。
「…、山田先生、上級生はどの程度残っておる」
「上級生は訓練のため大半が残っています。……、事は既に担任教師方々に伝えてあります」
「うむ。…梓季、ならば最後まで学園のために働き、死んでゆけ」
……どういう意味…?
顔を上げるとあの、いつもの"突然の思い付き"の顔。何だろう、と思いながら見つめていると学園長は笑った。
「これより、忍術学園生徒総出で狩りを始める」
狩り……。
「なぁに、お前さんの卒業試験と同じじゃ。ルールは無い。生徒達にはお前さんを狩るように命じてある。お前さんはその攻撃をかわして、生徒達を潰し正門から学園の外に出れば、生きて帰そう。ただし、生徒によって降参させられたり、負けたりしたら生徒の願いを1つ叶えて貰うぞ」
……、要らなくなった物は最後までボロボロになるまで、ということかね。まぁ、生徒の実戦訓練の1つにはなるかな。ただ、私は守ってきたモノを潰していかなきゃいけない。
ぎゅっと唇を噛みしめて、視線を落とすと自分の拳が目に入った。自分の、ボロボロの手。お世辞にも綺麗とは言えない。尾浜は綺麗だと言ってくれた、この手。この手で守ってきたモノを潰せと?
「出来ません」
守ってきたモノを潰して、生きる?大切なモノを、潰し、殺して生きるなんて、私は出来ない。学園長が私を睨む。私はただ学園長を見つめた。すると私のと学園長の間に山本シナ先生が入ってきた。
「梓季、潰さなくて良いわ。その代わり気絶させなさい。それぐらいのことぐらい、一流の忍者の貴女なら出来るはずよ」
「…………はい…」
そう弱く返事をすると山田先生が障子を開いて、外に向かって叫んだ。
「これより、狩りを始めるッ!!」
一瞬にして空気が変わった。もう生徒達がそこまで来ていたのか。立ち上がると1つ礼をして草履を履くと歩き出した。
勝負は正門を出るまで。
(君は今どこにいますか?)(早く、私の元に来て下さい)(そして、早く、私の命を、)