rkrn長編
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あぁ、これで私はもう帰る場所はなくなったんだ。
改めて思うと、その思いはまるで乾いた土に染み渡るように、吸い込まれていった。
****⑩****
新野先生に用があって医務室に行くと、そこには新野先生ではなく包帯でグルグル巻きにされた、雑渡昆奈門が茶を飲んでいた。苦無を取り出して構える。この男だけは信用ならん。顔を覆う布越しに睨むが、雑渡昆奈門はやぁ…と片手を上げて挨拶をした。辺りを見渡すが雑渡昆奈門以外に見当たらない。
【無礼だな、勝手に茶を入れるなんて】
「そんな訳ないだろう。伊作くんがお茶を入れて言ってくれたんだよ、お嬢さん」
バッと手裏剣を投げ付けるが、やはり忍組頭。いとも簡単に逃げられる。唇を噛み締めて、諦める。溜息。
「しかも毒剣じゃないか。危ないなぁ」
引き抜きながらよく言う。
ひょう刀でも投げ付けてやろうか。
「でも、私じゃないと避けられないかもねぇ」
……、自画自賛だし…この野郎。はぁ、と溜息を吐いて座ろうとした途端脚と腰を抱き上げられて、後ろから抱き締められた。
「油断大敵、自分のテリトリー内で勝てるって簡単に思ったら大間違いだよ」
この間といい、今回といい…、この男…!!ムカつく!!
胸倉を掴んで投げ飛ばす。障子が吹っ飛んで雑渡昆奈門も吹っ飛ぶ。だけど、伊達に忍組頭じゃない。すぐに体制を立て直して苦無を構える。私もすぐに飛び出して苦無を構える。飛んで来る手裏剣を叩き落としてすぐに構えたが、シュッと音がして顔を隠す布を少し斬られた事に気付いた。だが私だって馬鹿じゃない。既に苦無を受け止めている。
「ほんっと、うちの忍に欲しいねえ」
「………」
「尊奈門と仲良くしそうだし」
「……」
「可愛いし」
「ッ……!!」
蹴っ飛ばそうと、脚を上げようとした次の瞬間、悲鳴と感じなれない気配。それは雑渡昆奈門も感じたのか、2人で気配がして悲鳴が聞こえた方に駆け出した。
木の陰からコソッとそこを眺める。そこには見慣れない、いや悪い城の忍が1名。生徒を人質にとっていた。なんて事だ。完璧に油断していた。生徒達も先生方も警戒し、下級生を教室に非難させている。だが、人質をとるのは分かるが何故殺さなかった?何か要求があるのか?……忍者らしくない。
「狼を出せ!」
………私?
「このガキが殺されたくなきゃ、さっさと狼を出せ!!」
「貴様ッ、どこの忍だ」
山田先生が冷静に言う。そう言うと敵の忍は喉で、バカにするように笑った。
「あいつを…狼が殺したんだ…ッ!!4年前も、今回もッ!!」
そこで、ピンッと引っ掛かった。
4年前、そう、あの卒業試験の。生き残り戦。私と生き残った彼女。彼女はあの後精神的不安定になって、一時死んだようになった事があった。そして、この間、この手でその彼女を、殺めた。
恐らく、彼女から昔の事を聞いていたのだろう。という事は、あの忍は、彼女の恋人、または伴侶…か。
「バカだねえ、忍者は死と隣り合わせだという事を忘れているらしい」
雑渡昆奈門…。
それは私にも言っているの?
チラッと雑渡昆奈門を見たけど、雑渡昆奈門は私を見ていなかった。
頭の中で、殺した時や恋人を殺された時にありがとうと私に言った者達の声が木霊していた。
忍者とは、孤独だ。
死ぬ時は1人の事が多いと教えられた。もしかしたらあのありがとうは、死ぬ間際に1人にしなかったから、ありがとうと言ったのかな…。
「もう、疲れたよ…」
見送る事は。
いくらありがとうと言われても。残された者はどうする?どうしたら良い?あの男みたいに嘆き悲しみ、恨む?
タッと強く蹴って、あの男の前に立った。山田先生が呼び止めた気がした。
【その子を放せ】
どうでも良い。死も生も。だけど、学園の生徒には絶対に手出しをさせない。許さない。男は顔を歪めて、否と言った。次に顔に向かって投げ込まれたのは複数の手裏剣。躱して、男の手首を切り付けて生徒から引き剥がした。顔を覆う布を留めていた部分が斬られた。男を掴んで学園を飛び出た。まだ、生徒には見られてはいないはずだ。良かった。
「は、ははっ…!」
裏山の草木が覆い茂る場所に行くと男は笑った。背後から幾つか私たちを追って来る気配がする。それに気をとられている間に、男は私の顔を覆う布をはぎ取って動く方の手に苦無を構えて、振り下ろした。
間一髪、逃げ切れた。
でも、完全に顔が…。
「は、ははっ!あはははははッ!!狼と名高い忍者が、まさかくの一とはな!!」
苦無を構えて、男と対峙する。男は面白おかしそうに笑ってた。
「かの有名なあの忍者学園は、くの一に守られて経営してるとはな!!飛んだ笑い草だ!」
女。
それだけで、こんなにも。
「あの学園は女に守られるような生徒を育てるフヌケばかりだって、殿に伝えてやるよ…!!」
情報を漏らす訳にはいかない。
――――――
今まで木の上にいた気配が降りて来た。私の目の前には、原形を止どめていない先程の男。後は山田先生達が好きなようにするだろう。生暖かい風が撫でる。気持ち悪い。
「狼、すまなかったな」
「………いえ」
振り返ってやっぱり…と思った。山田先生と木下先生、そして5、6年生の忍たま。まさに有り得ないという顔をしてる。尾浜も丸い目を大きく見開いていた。ガサガサと草が揺れる音と同時に愁が飛び込んで来た。
「山田先生…、すみません……」
「何を謝る」
「私の詰めが甘かったから、こんな事に」
「利吉から連絡は入っていたから、気にするな」
「山田先生…、これはどういう事ですか……」
尾浜が震える声で言った。そうだね、尾浜はいつも1番近くにいたから、悔しいんだよね。
「何でッ…!何で梓季先輩が!!」
「勘ちゃん…!」
「勘右衛門、落ち着けよ!!」
なんで落ち着いてられるんだよ、今はそんな事を慌ててる場合じゃないだろ。そんな会話が聞こえる。
「しかし、顔を見られ…、生徒に名前を呼ばれた以上…、覚悟を違えました」
もう、あの学園にはいられない。
もう、あの学園には戻れない。
顔を見ないように俯きながら言った。愁がくぅんと鳴いて鼻で背中をつついて。大丈夫、大丈夫。慣れているから。いや、忍だから。
私は、元々忍に向いてないから。
体力や身体が忍に向いていても、心が脆弱で臆病すぎる。いくら殺しを出来ても、必ず後から後悔と罪悪感に苛まれる。自分が立てた覚悟を、行った事を、自分で嫌になってしまうし。
「学園長には、私から伝えておきます」
「あぁ、分かった」
「暫く籠ります。申し訳ありません」
「いや、すまなかったな」
頭を下げて言った。
すぐに背中を背けて。愁を撫でる。
「梓季先輩!なんで、梓季先輩!!」
苦しい。
胸が痛い。
呼ばないで。
私を呼ばないで。
尾浜の期待を裏切った私を、もう呼ばないで。
「ごめんね」
謝る事しか出来なかった。地面を蹴って走り出す。愁が付いて来る。
涙が溢れた。
ごめんね、尾浜。
本当に、ごめん。
(愁の巣に着いて、たくさん泣いた)(暫く動けなくなるぐらい)