rkrn長編
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「なぁ、兵助」
部屋で勉強をしていた勘右衛門は久々知に話し掛けた。久々知は勉強を終えて自分がまとめた豆腐の資料を見ていた。
「何だ、勘右衛門」
「梓季先輩を、覚えてるか…?」
「梓季先輩…。もちろん、覚えてるよ。綺麗な先輩だったし、何より優しかった」
「何、話してんの?」
「八左ヱ門。三郎に雷蔵も…」
いつもの5人が揃うと勘右衛門の手は不思議と止まり、筆を置いた。そして会話の流れを説明すると竹谷や鉢屋、不破も自分達も覚えてると言い出した。
「ホント綺麗な人だった!匿らせてくれたし」
「おばちゃんが寝込んだ時、料理も作ってくれたしな」
「僕は、悩み疲れて眠ったところを保健室まで運んでもらったかな…」
3人は口を揃えて優しかったと言った。だが勘右衛門はやっぱりか…とは言わなかったがそっか、とだけ言った。自分しか、梓季が零した涙を見たことがない。それはなんだか自分に助けを求めているようにも感じた。だが自分に何が出来る。梓季は現在行方不明と言われ、就職先も不明。下手をしたらもうこの世には…とさえ考えたがそれは有り得ない。あれだけ優秀なくのたまだったのだ。今だって優秀にくの一をしているに違いない。
「勘ちゃん、何かあったのか?」
「初恋は実らない物だぞ」
「三郎!そういう事を本人の前で言わない!」
「私が応援するぞ、勘ちゃん!」
どうせ自分を面白がってるんだろう、勘右衛門は溜息を吐いて思いを馳せた。
****⑨****
「たぁッ!」
山田先生から頼まれて木の上からずっと1年は組の皆本金吾と加藤団蔵の手裏剣の訓練を見つめていた。的には当たらず、手裏剣は全て的には当たらず、後ろの木や壁に刺さり、酷い時は届かずそのままヒラヒラと落ちてしまった。さすがに体力が尽きて来たのか掛け声も小さくなって来た。それは仕方がない、か。
2人の背後に降り、肩を叩くと悲鳴を上げて驚かれた。
「び、びっくりした…!狼さん…、脅かさないでよ…!!」
【手裏剣の訓練か】
「あ…うん……。でも、なかなか当たらなくて……」
【まずは見ていろ】
「う、うん…」
筆をしまい、手裏剣を分かりやすく構えて、投げる。比較的ゆっくりとしたフォームで投げる。手裏剣は軌道を描き、的の中央に突き刺さった。もう1つ投げて見る。
「凄い…」
【自分達と投げ方はどう違った。マネて投げて見ろ】
「えっと、顔は真っ直ぐで、スナップは効かせすぎず……」
「腕力だけで投げず体重も使って、腕はフラフラさせずに…」
ぶつぶつ言いながら2人はフォームを確認して力一杯投げて見る。おぉ、的が書いてある板に当たるようになった…。成長盛りの子たちはやっぱり違うなぁ…。私も最初当たらなくていっぱい練習したっけ…。
「わぁ!!当たった!」
「もうちょっとだ!!」
【疲れて来るとフォームを崩しやすいから疲れたらフォームを確認する事】
「「はい!」」
良い返事。
2人は必死に手裏剣を投げる。すると服を引っ張られた。視線を下げるとヘムヘムがいた。
【どうした、ヘムヘム】
視線を合わせるためにしゃがむとヘムヘムが必死に訴えて来た。なるほど、辛くて気分転換に外出したまま帰らない子がいるから学園長が探して来いと。こくんと頷くと、頭を撫でて忍術学園から飛び出した。
時々こういう子がいる。親が恋しいとか、学園が辛いとか。……迷子のまま帰って来ないとか…。これだったら間違いなく怒るところだけど、当てはまる子は2人しかいない。でも…、この子は……。
指笛を鳴らせば2匹の狼が見えた。私を捉えて待ってるところをみると忍狼だと思う。目の前で止まって子供を探すように伝えれば散ってくれる。人間の脚力より狼の方が強いからなぁ。
―――――
迷子は見つかった。
学園に送り私も帰ろうとしたら愁が何か用があるのか狼達が私を止めた。何だろ、て思いながら向かって見ると歌が聞きたいと言い出した。……飴と鞭が…、失敗したかなぁ…。日頃自由にさせながら見張らせてるつもりなんだけど…。1曲子守歌を歌って学園に戻ったけど、もう遅いし…、尾浜寝てるだろうなぁ…。でも、一応…。
「あ、狼。お帰り」
【ただいま】
……じゃなくて、何で尾浜がまだ居るの?もう夜も深いし、確かに忍のゴールデンタイムだけど…。実習…、じゃないだろうし。尾浜はい組の生徒だから優秀だし、必要以上に夜更かしはしないかと思ってたんだけど…。取り敢えず隣りに座って見た。
「……ねぇ、狼。俺、狼の顔見たい…」
………は?
いきなり…というかダメだから!何でいきなりそんな事を…、昨日の夜は普通だったのに…。
『気を付けて下さい。男は、特に思春期の男は何をしでかすか分かりませんから』
そういえば利吉くんがそんな事を言ってたっけ…。いやいやいやいや、尾浜に限ってそんな事はある筈がないよ!良い子だし、良い子だし…何より良い子だし!!
「狼…」
え。何、手首…えー…。……私、生まれて初めて押し倒された…、ってそうじゃない!!もしかして鉢屋!尾浜に化けた鉢屋!?ああああっ!それどころじゃない!
「ちょっ、と…!ぁ…!!」
声…出しちゃった……。
尾浜を見ればニッコリ笑ってた。
「可愛い声」
顔を隠す布を解きにかかる手を必死に止めようとするけど尾浜は何だか楽しそう。何で、声で私が女だと分かった筈なのにどうして、こんなことするの。分からない、分からないよ…。あぁ、解けちゃう。解かないで、解けたら、ダメ…。せめて手で顔を隠すけど、手をすぐにまとめられて。涙が浮かんだ。
止めて
止めて
見ないで
見ないで
見られたら
そばにいられない
怖くて目を強く瞑った。
「止…め、て……」
「梓季、好きだよ」
―――――
「ッ…!!」
目を開いたら、そこは…洞窟…?あれ、今まで私、尾浜と一緒に…、夢…?どっちが……?洞窟の入り口から月明りが見えた。あぁ、そうだ。送り届けた後気配を感じて引き返して、一仕事して帰らずに愁達と寝る事にしたんだった……。そうだよ、そうじゃなきゃ、尾浜があんな事言う訳ないもん。尾浜は何も知らないままで良いんだ。でも、何でだろう。胸にぽっかり穴が開いたような空洞感と、がっかり感…。それに何で、涙なんか…。冷や汗を掻いたみたいで夜風がひんやりした。あ、顔を隠す布…取ってたんだった………。
「目が覚めたか」
「愁…」
私の隣で寝そべってた愁が言った。ペロペロと汗に塗れた顔を舐められる。
「ガキ共に今、見回りに行かせてる」
「ありがとう」
「うなされていたようだが…、大丈夫か」
「うん…、平気」
グイッと顔を拭って顔に布を巻く。
「じゃあ、また来るよ。寝かせてくれて、ありがとう」
そう言って飛び出す。真っ黒闇。あのままあそこにいたら胸が裂けてしまうかと思った。泣き言を吐き出してしまうかと思った。あぁ、そうなのかもしれない。あの尾浜の好きだって言葉、私が尾浜に抱いてる感情なのかもしれない。叶う筈もない、感情。
……近付き過ぎだ。
彼らは私が守る対象で、こんな感情持っちゃいけないのに…。最低だ。私、最低だ。
早く、早く消えろ…。
早く、もうダメだ。
こんな感情ダメだ。
ダメ。
ダメなんだ。
早く、消えろ…。
「あ、は……ぁ…!ひ、ッ…」
失恋より、もっと酷いな。
叶わないより、酷い。
抱いちゃいけないのに。
もう、そばに居られない…
そばにいちゃ、いけないんだ…。
好きだよ
好きだよ、尾浜
……ごめんね。