南雲vs楽
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「こんなヤンキーと一緒にいたらだめだよ」
南雲君はそう言って私の目元を覆って隠していたが、突然、私の視界を解放された。急に明るくなった事で私は眩しさに、つい目を細めてしまう。
目の前には、青筋立てて人一人殺しそうなほどの苛烈な気配を纏った楽君がいた。先程までの穏やかさとはかけ離れた無表情の暴力が私を射抜く。
それが恐ろしくて、血の気が引いて、私は喉がつまり、ひゅっと掠れた声が漏れた。
そして一瞬だけ、楽君と目が合った。
ハッとしたのは楽君の方だったが、すぐに逸らすことになってしまった。
南雲君が私の手を乱暴に引いて歩き出してしまったからだ。振り返ってリオンちゃんに「バイバイ」も言えない。脚の長さが違いすぎて、大股で歩く南雲君についていくのが精一杯だった。
私はほとんど小走りで南雲君に引っ張られている。夕日が思ったよりも沈んでいて、辺りが少しずつ暗くなっていく。住宅街が近いからか何処かの家の夕飯の美味しそうな香りがしてきた。
「なぐ、もくん……!」
骨が軋むのではないかというほど、腕を強く握られている。
正直、痛い。
そして、小走りで追いつくのももう限界だった。少し力を緩めて、止まって欲しくて南雲君の後頭部に向かって声を掛けるが、南雲君は反応してくれない。それどころか何か小さく、呪文のようにブツブツ呟いていて。
南雲君の纏う異様な気配に、一瞬、底知れない恐怖を感じる。
しかし、ハッとして慌てて首を横に振る。
友達をそんな風に思いたくなかったからだ。
「な、ぐもく、ッ」
顔を上げて、もう一度南雲君を呼び掛けた瞬間、強く体を引き寄せられた。
転んでしまうと反射的に強く目を閉じたけど、南雲君は私の体を軽々と受け止める。その動きに驚いて目を開けてしまった。
「あ、ありが、」
お礼を言いかけた途端、何故か道の端に連れて行かれ、塀に追い込まれた。
夕日が逆光となり、南雲君の顔は影になって判然としない。それがまるで、別の人間の様に恐ろしかった。後退ろうとしても、後ろはすでに冷たい塀。怖くて逃げようとしたその時、ゆっくりと南雲君は私の顔の両脇に手をついた。いつぞやの少女漫画で見た壁ドンだ。もしこんな状態じゃなくて、また自分が好意を寄せている相手だったらときめいていたのかもしれない。
けれど、相手は友達で、そんなときめけるような雰囲気ではない。
「南雲君…?」
「どこ、触られたの」
「え、」
「あのヤンキーに、どこキスされた?」
そう言われて、先程の事を思い出し少し顔が熱くなる。やっぱり、あれはキスされたんだ…。その真実が、私の顔をますます赤くさせる。
そんな私を見て南雲君はチッと舌打ちをした。
「赤尾は変な奴と関わってるとは思ってたけど、まさかそっち側だとは思わなかったな。大体、あんなヤンキー紹介に夢主をするなんて」
そう言って南雲君は鞄からウエットティッシュを取り出すと、私の右目を拭こうとしてきた。それに驚いて目を瞑ると、言動とは裏腹にとても優しく右瞼を拭いてくるけど、うまく目を開けていれなくて結局私は両目を閉じた。
まるで宝物にでも触れているかのように、南雲君は優しく私に触れてくる。
「な、南雲君…?」
不安になって声を掛けると、南雲君はふっと喉の奥で笑った。
「大丈夫。僕が、僕だけが夢主を守ってあげるから」
そう言って南雲君は拭き終わったのか、手が離れる。ゆっくりと瞼を開けると、そこにはいつもの優しく笑う南雲君がいた。
それに安心して少しホッとする。安心して、ふと自分の鞄を見ると南雲君からもらったキーホルダーがなくなっているのに気づいて青ざめる。
公園で落としてきたのかな…、せっかくもらったものなのに探さなきゃ…!
私の視線を追って南雲君もキーホルダーが無くなってるのに気付いたのか、「あぁ…」と言った。
せっかくお土産で買ってきてくれたのに…、簡単に無くすような人間だと思われたくない。
「僕が探しておくよ」
「でもッ……!」
私が無くしてしまったのに申し訳なくて、南雲君の提案に食い下がると南雲君は「大丈夫」と言って私の頭をポンッと撫でてくれた。
「夢主を、まだあんなヤンキーがいるかもしれない公園に行かせるほうが僕は嫌だし」
そう言われてふと楽君を思い出す。
あの時の嬉しそうな声と柔らかな雰囲気に、そこまで悪い人じゃないんじゃないかと思った。だけど、それを言う前に南雲君は私を帰路につかせるために公園とは逆方向へと向かせる。
「もう暗いから夢主は帰りな」
穏やかに微笑む南雲君に私は何も言えなくて、お礼を言った。南雲君は「また明日ね」と言って公園の方へ歩いて行った。そんな南雲君の後ろ姿を私は暗くなって見にくい夕闇の中見送った。
翌日。
登校してきた南雲君が私の元にやって来る。
手には壊されたキーホルダー。そして少し悲しそうな顔の南雲君。
「あのヤンキーがね…」
それを聞いて、ざぁ…と血の気が引いた。こんな人の物を簡単に壊すような人には見えなかったけど。
「ごめんね…」
いや、むしろ私が落とさなければこんな事にはならなかっただろう。
「おーい、夢主」
すると、登校してきたリオンちゃんがやって来た。そんなリオンちゃんから隠すように南雲君が立ち位置を変えた。リオンちゃんは何処か呆れたように南雲君を見ている。
「リオンちゃん、おはよう」
「おはよ。今日もアイツに会わないか?」
アイツ、楽君の事かな。
壊れたキーホルダーが頭の中でチラつく。
今ほど南雲君に見せられた、無残に壊れたキーホルダー。あれを見てすぐに「良いよ」と即答出来るほど、私の中で楽君の好感度はそこまで高くない。どうしようか悩んでいると、南雲君はリオンちゃんに小さな声で文句を言っている。リオンちゃんはそれを無視して言葉を続けた。
「南雲も一緒でいいぜ」
その提案に私の中の天秤が大きく揺れ動いていた。
******
南雲は夢主と別れ、すぐに盗聴器を耳につけると足早に公園に向かった。ザザッと不快なノイズが聞こえていたが、突然、ノイズを切り裂くように声が響く。
『いい趣味してんじゃん』
盗聴器越しに明らかに、南雲に向けてかけられた声。
その声は明らかに楽のもの。
コイツ……、分かってて夢主の鞄から引き千切ったのか…。
南雲の顔から表情が消える。
『盗聴して、囲って楽しいかよ』
ミシッと何かが軋む嫌な音が聞こえた。
壊されたってまた代わりを作ればいい、そう思ったが夢主が壊されて悲しそうな顔をしてしまうのは頂けない。一瞬そう思ったが、すぐに思考を切り替える。
壊されたと言えば彼女の中で楽の好感度は下がるだろう、そう思いふっと笑みが漏れた。
公園まで辿り着くと、赤尾や有月は居らず、楽だけが薄暗闇の中不気味に立って南雲を横目で見ていた。
「返してくれないかな?それ、夢主の物なんだ」
そう声を掛けると、楽はグシャリと音を立ててキーホルダーを握り潰した。盗聴器からはビーッと嫌な音が聞こえてくる。南雲は耳から外し、ゆっくりと楽に近づく。そして目の前までやって来て、足を止めた。
「返せ」
見下ろしながら南雲は楽にそう言う。その顔には不敵な笑み。それに楽は青筋立てて睨み上げる。バチバチと火花が散りそうなほどの睨み合い。だが、先に痺れを切らしたのは楽の方だった。
南雲に殴りかかったのだ。
だが、南雲はヒョイッと躱していく。
「君、分かってないね」
「あ゛ぁ゛?」
楽の油断した一瞬を突いて南雲はキーホルダーを取り返す。だが、楽はそれさえ囮にして南雲に殴りかかった。
「君は夢主に相応しくない。君はまるで光に群がる羽虫だよ」
そう、夢主はまるで穢れを知らない光のよう。
そんな彼女に近寄る男はまるで薄汚い羽虫のようだ。
楽の一発を躱し、南雲はそう言って公園を後にした。残された楽は舌打ちをして、遊具を一発殴った。
