南雲vs楽
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
赤尾と有月はその日の放課後も公園で話し込んでいた。沈みかけの夕日が遊具などを照らし影が長く伸びていく。
有月は血の繋がらない兄弟がいる。正しく言えば同じ施設で育った兄弟だ。施設の職員の中には彼らをあまり良く思わない者もいるようで、有月はそんな弟達の盾となることがあった。
赤尾には大切にしている姪がいる。以前は離れて暮らしていたが、姪の両親が彼女に虐待をして、今では一緒に暮らしている。
二人が知り合ったのは赤尾の姪が施設に預けられそうになり、たまたまその施設を見に行き、その施設で有月達が生活していて、偶然職員から兄弟への暴力から身を挺して守っているところを赤尾に見られたところからだ。
お互いに大切な(血の繋がりはなくとも)兄弟や肉親がいる。その大切な人間を守る、という想いを抱いて二人は"同志"とお互いに思っていた。
そんな二人が話し込んでいると、有月のボディガードのように必ず楽がやって来た。特に何をするわけでもない。ただ、二人の話が終わるまで待ってるか、誰かから奪い取ったのかゲームをしていた。別に赤尾も楽に対して何も思わなかったし、思ったところで「憬の弟分」との認識しか無かった。楽も赤尾に対して何の興味を抱いてはなかった。
「なぁ」
それがこの日は違った。
有月と赤尾が話をしていると割り込んで来たのだ。それに誰よりも驚いたのは話しかけられていない有月だった。目を丸くして、楽が次に何を言い出すのかと息を呑む。
「アンタ、この間の休み。大通りのとこにいただろ」
「…あ?」
短く低く問い返すと、楽はわずかに肩をすくめた。
この間の休み、確かに赤尾は町の大通りにいた。それは親友の夢主と一緒に遊んでいた時のことだ。
「その時、弱そうな女と一緒にいただろ?」
赤尾にとって夢主は大切な友人だ。確かに夢主は喧嘩なんて出来なそうな奴だ。赤尾とは正反対の女の子だ。だがそれでも、夢主は赤尾を大切にしてくれているのが伝わってくるし、何より悪童と言われ他の生徒からも怯えられていた赤尾や他の二人に対しても怯えながらも普通に接してくれようと努力してくれていた。
そんな大切な友人に、この「憬の弟分」が、何の用だ?
そう思うと、警戒してつい声が低くなった。いくら同志である有月の弟分とはいえ夢主に危害を加えるのなら話は別だ。
もしかしたら、夢主が弱そうだからといってカツアゲ?
一瞬不穏な空気が二人を間に流れたが、思い当たる節があったのかしばらく固まっていた有月が「あぁ」と言ってた。
「なんだ、その時赤尾も一緒にいたのか」
「憬、どういう事だ…?」
「楽はね、バトルジャンキーなんだ。いわゆる不良でね。この間の休みも町で喧嘩をふっかけられて、喧嘩をして来たらしいんだけど、帰ってきてからおかしいんだよね」
有月は「何があったんだ?」と穏やかな視線を向ける。有月と赤尾から視線を向けられ居心地が悪そうな楽は面倒臭そうに口を開いた。
「喧嘩して、路地から出たら弱そうな女が男に話しかけられて、嘘っぽい笑いしてて…」
あぁ、ナンパでもされてんのか。まぁ、俺には関係ない。腹減った、パンでも買って帰ろう。そう思って去ろうとしたらちょうど赤尾がやって来て、ナンパ男を追い払った。
ナンパ男さえ追い払えない弱い女、楽の中で夢主はそんな風に位置付けられた。そして、意図などなくたまたまだった。赤尾と夢主を見る。
「笑ってた」
楽の声はどこか、力が抜けていた。
「…は?」
赤尾が怪訝な声を出すと、楽は視線をふらふらとさまよわせる。あの時見た、夢主の笑顔。それは、心からこぼれ落ちたような、優しく温かいものだった。不良の仲間や、計算高い笑みを浮かべる女子たちに囲まれて生きてきた楽にとって、それはあまりに純粋で、衝撃的だった。熊埜御はクールでなかなか笑わない。いや、笑いかけられてもどうしようもないし、そんな感情など湧かない。
ただ、その時楽に笑いかけられたわけではない。遠くから楽はその笑顔を見ただけだ。強いわけでもない、寧ろ弱者の代表格かもしれないような女だ。
でも、その瞬間。楽は思ってしまった。
あの日見た、あの笑顔。
喧嘩でしか満たされなかった心が、一瞬にして穏やかになる。遠くから見ていただけなのに、まるで全身を貫かれたような衝撃。
強さも、弱さも、何もかも関係ない。
「心臓、奪われた」
と。
その話を聞いた赤尾と有月は目を見開いて驚き、お互いに顔を見合わせた。そして次に赤尾はにまりと笑い、有月は嬉しさのあまり涙を流しそうになった。
いや、まさかこんな不良のバトルジャンキーが夢主に一目惚れとか、と赤尾は内心爆笑するが夢主に惚れるのは女を見る目あるなと若干思った。
ゲームや喧嘩にしか興味がなかった楽が、まさか赤尾の友人に惚れるなんて…、と弟分の情緒の成長に対して嬉しさのあまり有月は内心両手で拍手し感動していた。
「んで、夢主を紹介しろって?」
だが、夢主はきっと楽を見たら怯えるに違いないと赤尾は思った。こんな不良の見た目で更にバトルジャンキーな奴絶対夢主が怯えるに違いない、と。
「言っとくけど、夢主に暴力ふるったら私がお前殺すからな」
「しねーよ」
しないとは思うが一応釘を刺すと、楽は吐き捨てるように言った。
「………分かった」
赤尾はふと脳裏を掠めた悪童の一人に、どうしようかと頭を悩ませた。それを感じ取ったのか有月は「どうしたんだ?」と声をかける。
「いや、南雲をどう撒こうかと思ってさー…」
南雲は色んな女子から人気だ。高身長で顔も良い、コミュニケーション能力も高い。そんな南雲は、夢主に執心だ。
狂気的な程に。
今は周りや本人も気づいていないが、少しずつ男子を夢主に関わらせないようにしているのが分かる。それに最近、夢主の動向にやたら詳しいし、おかしなまでに夢主の行動が南雲にだけ筒抜けだ。おかげで夢主と遊んだ日、あの日も後半南雲と坂本が何故か合流して四人で遊んだ。
アイツ、犯罪まがいなことしてんじゃねえだろうな…。
「まぁ、やってみっか」
赤尾はそう言って頭を掻いた。
