skdy
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JCC時代の友人の坂本君に呼ばれてお店に行った。お店は以前来た時よりもあちこちにヒビが入っていた。
ちらほらとお客さんがいる商店に入り、レジカウンターの向こうにいる坂本君に声を掛けると、彼はカウンターの下からずっしりと重みのある、分厚い手紙の束を渡してきた。
差出人は書いてないけど、筆跡は皆バラバラ。でも宛名はすべて私の名前だ。
なにこれ…?
…………、どっかの督促状とかじゃないよね…?
怪訝な顔で手紙の束を見つめる私を見て、坂本君は観念したかのようにボソッと差出人を教えてくれた。
「南雲からだ」
南雲?
もしかして、南雲与一君?
南雲で思い当たるのが彼しかいなくて、坂本君に問えばそうだと返事が返ってきた。
え、南雲から私に何の手紙…?
嫌がらせとか、果し状とか…?
そう思うと胸がズキリと痛んだ。
「ラブレターだ」
「、は?」
警戒しながら封筒を見ていると坂本君はまたボソッとそう言った。でもその言葉をバカ正直に受け止められるわけがなかった。
「あり得ない」
ピシャッと私の口から出た言葉は否定だった。自分でも思っていた以上に冷たい声だった。
坂本君だって知っているはずだ。
私は確かに、JCC時代南雲君に想いを寄せていた。それを知っているのは目の前にいる坂本君だけ。
この恋は絶対に叶わないと分かったから敢えてこの気持ちに蓋をしたんだ。今更蒸し返すようなことをしないで欲しい。
だって、南雲君は、
「南雲君は赤尾ちゃんが好きなんでしょ」
南雲君はいつも赤尾ちゃんと一緒にいた。下手したら坂本君よりも。あんなの言葉にしなくても分かる。あぁ、南雲君は赤尾ちゃんが好きなんだって。雰囲気だけでも分かった。
だから坂本君によく相談していた私は、この想いも、恋も、諦めたのだ。
「違う」
坂本君はそんな私の言葉を躊躇することなく否定した。…………、いくら坂本君に否定されても…。坂本君、人の心に疎い所あるしなぁ…。
「……南雲は、諦めなかったんだ」
お前への想いを。
そう言われ、私は宛名を見た。
どの封筒にも書かれた筆跡の違う私の名前。
でも、どこか丁寧に描かれたような私の名前。
脳裏を掠めるのは、いつも一緒にいた二人の穏やかな空気と表情だ。
私には向けられることのない、透明な膜の向こうにあるような、あの光景。胸の奥がぎゅっと締め付けられ、息が苦しくなる。悲しくて何度も枕を涙で濡らした。それでも、諦めたくないと願う心と現実は変わらないという理性の間で、私はこの想いを押し殺して来たのだ。
「イートインスペース、借りても良い…?」
「何か買うなら」
そう言われたためお茶を買い、外のイートインスペースである椅子に腰掛ける。一番古いものは長い時を過ごしてきたのだろう。JCC時代のものだろうか。少し封筒が古びている。あの時からずっと南雲君が大切に持ち続けていたのだろう。
ゆっくりと封を切り、中から便箋を取り出し開く。
開いた瞬間そこに書かれていたのは確かに、私への偽りのない真っ直ぐな想いだった。
まるで彼の感情そのものを映し出しているかのように丁寧に書かれたものもあれば、胸の内に抑えきれない程の想いをそのまま文字にしたような、荒々しく書き殴ったかのようなものもあった。
読み進めるごとに彼の想いを追体験をしているような、不思議な感覚に囚われる。どの手紙にも様々なな筆跡で書かれた私の名前が、まるで呪文のように何度も現れる。
そして、必ず最後にはこう締めくくられていた。
夢主ちゃんが好きだよ、と。
一枚、また一枚と時を遡るように手紙を読み進めていく。指先に触れる手紙の数だけ、南雲君の想いが積み重なっていた。
そして最後に一番新しい手紙を手に取った。
そこには、一切色褪せることのない私への想いと、けれどどうしようもないほど深く、私への一途な想いとその想いをどうしたら良いのかわからない彼の苦悩と戸惑いが切々と綴られていた。
私は坂本商店に入ると、お手紙セットをワンセット買い、南雲君に手紙を書いた。
私は南雲君が好きだったこと、そしてJCC時代南雲君と赤尾ちゃんが付き合っていると思ってこの想いを諦めたことなどを綴って、便箋を封筒にしまう。
「誰に手紙書いてるの?」
その声を聞いて、顔を上げる。
「南雲君」
南雲君は私服だった。おそらく非番なのだろう。
私の向かいの席に腰掛ける南雲君に出来上がったばかりの手紙を、テーブルの上を滑らせながら渡した。
「手紙ありがとう。それ、返事」
「返事って…。文通じゃないんだから…」
呆れたように南雲君はそう言いながらも手紙を受け取り、ゆっくりした動作で封筒から便箋を取り出した。私は買っていたペットボトルのお茶を一口飲んで、ドキドキと緊張で鐘打つ心臓を落ち着かせようとした。
しばらくの沈黙。
まるで耳元に心臓があるかのようにドクドクと脈打つ音が聞こえる。そして、何分経っても南雲君は反応を示さなかった。それに私は、心の中でがっくりと肩を落とした。
もう、遅かったんだ。
南雲君の想いに応える、私の気持ちが。
気付かれないようにそっと溜息を吐いて、立ち上がる。わざとらしく腕時計を見て時間が無いような仕草をした。
「南雲君、ごめん。私、」
この場から逃げたくて、たまらなかった。
だから立ち上がって南雲君に一声かけて帰ろうとした。でも、南雲君の大きな手が私の手を掴んだ。
「なぐ、」
私の声を遮るかのように、南雲君の切実な声が響いた。
「夢主ちゃんが好きだよ」
その言葉と共に、彼は先ほど私が渡した手紙をまるで宝物でも扱うかの様に丁寧に封筒にしまい直し、私の目をまっすぐ見つめてきた。
吸い込まれるような美しい黒い瞳が、ただ私を映し出している。
「ずっと、JCC時代からずっと。君だけを見てた」
「南雲君…」
喉から絞り出すような私の声。
信じられないという戸惑いと、心の奥底でずっと眠っていた期待が、一気に押し寄せてくる。
「直接言わなくてごめん。もしこの想いを伝えて、君との関係全てが壊れるんじゃないかと思うと、怖かったんだ」
臆病でごめんね、と南雲君は困ったように、けれどどこか吹っ切れたような笑みを浮かべていた。
彼の言葉、その瞳の奥にある真剣な光に、私の心は震える。もう逃げられない。逃げたくない。
彼の大きな手で温かく包まれた自分の手を握り返し
、意を決して、ずっと胸に秘めていた想いを伝えた。
私の言葉を聞いた南雲君は、大きく目を見開いた。
