skdy
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふわりと。
いつも賑やかなこの職場でふと懐かしい気配とすれ違って、思わず振り返ってしまった。その後ろ姿は、紛れもなくこの組織で特別な存在とされるORDERの方。
片方は女性人気が高い南雲さん。
もう一人は金髪長髪の男性。
纏う雰囲気が他の社員とは一線を画していた。
…新しいORDERの方だろうか。
こんな下っ端事務員にはORDERの方の顔は分からないが(南雲さんはよく同僚が話しかけてるから何となく分かるけど)、その懐かしい気配は確かに覚えがあった。
それは、かつて関西の学校で出会った、彼。
「神々廻君…?」
中退して結局姿を見なくなってしまった彼の名をポロッと呼んだ。思ったよりも、本当に小さい声だった。多分、今もたくさんの人が行き交っている。このざわめきでは私の声は届くことはないだろう。だがその声は金髪長髪の男性に届いていたらしく、足がぴたりと止まった。
気怠げな目は私を捉えると、わずかに驚きを宿し大きく目を見開いたが、すぐに戻った。
あ、やっぱり神々廻君だ。
今の反応からして多分私のこと覚えてくれていたと、思うけど確証はない。
内心ビクビクしながらも、ハッと気づいた。
彼は今、ORDER。元級友はいえ軽々しく名前を呼んで良い相手ではなかった、と。
慌てて謝罪して、駆け出そうとすると手を掴まれた。
やばい、怒られる…。
そう思った途端、心臓が跳ね、体がこわばった。振り返ると神々廻が私の手を掴んでいた。ちょっと距離があったと思ったのに、あっという間に距離を詰めてきたんだ…。すごいなぁ…。ってそうじゃない、もしかして馴れ馴れしく呼んだから怒られる…。
「夢主……?」
神々廻君の口から出たのは紛れもなく私の名前。それに覚えていてくれたんだと少しホッとした。
「うん。神々廻君、久しぶりだね」
振り返ると神々廻君も少し驚いた顔をしている。
覚えていてくれたこと、怒っていなそうなことにホッとして、嬉しくてふにゃりと笑みがこぼれてしまった。それにつられたのか神々廻君もふっと笑ってくれる。
「自分、事務員なん?」
「しがない事務員だよ」
「…相変わらずやな」
「……?」
「その感じや」
その感じ…?
その神々廻君の言葉に首を傾げると後ろから大きな声で名前を呼ばれた。
振り返るとそこには同僚で、恋人の彼がいた。
「誰や」
「同僚だよ」
神々廻君にそう紹介している内に彼は駆け寄って来ると、ポンッと私の肩に手を置いた。その手を見て私は彼を見上げた。
私は気付かなかった。
その時神々廻君の目に宿った昏い光に。
「夢主、遅れるぞ」
「え、あ。ごめんねぇ」
穏やかで優しい彼の表情に一つ謝って、神々廻君にまたね、と言う。神々廻は私にふっと笑いかけ「ほな、またな」と言ってくれた。そして私達は神々廻君達を置いて事務員の仕事部屋まで行く。その間に、彼が変なことを言った。
「神々廻さんに俺、なんかしたかな…」
「え、なんで?」
そう言うと、彼はまるで悪夢でも見たかのように足を止めて少し身震いした。振り返って彼を見る。
顔色が悪いし、少し冷や汗を掻いてる。その目は明らかに怯えきっていた。
「なんか、めちゃくちゃ睨まれた気がしたから…」
睨まれた?
神々廻君に?
神々廻君は学校時代から比較的穏やかだったイメージがある。何げなく話している時も常に穏やかな印象が強い。
そんな神々廻君が彼を睨む?イメージが出来ない。
それに私達自体、ORDERとしての神々廻君に会うのが今回初めてなわけだから私達の存在を向こうが知っているわけでもなさそうだし、私達も知らなかった。睨まれるような要因も要素も、どこにもないと思うけどなぁ…。しかし、目の前の彼の震えは嘘ではなかった。
うーん、と頭を悩ませながら取り敢えず彼はそう思ったんだということだけは受け止めた。
そして、今まで会わなかったのが嘘かのようにその日からよく神々廻君と会うようになった。
残業して退勤するため玄関を出ると、ちょうど神々廻君と鉢合わせたり。
出勤の時もたまたま鉢合わせたり。
今度呑みに行こうと誘われたため連絡先も交換した。
そんな順風満帆だと思い込んでいた頃だった。
「別れて欲しい」
昼休み。
彼から、別れを告げられた。
彼の声は周囲の喧騒にかき消されそうなほど小さく、しかし耳の奥で反響した。
何故も、どうしても聞けなかった。
彼は少し怯えたように辺りを見渡しながらそう言う。私がショックで固まっているのを肯定ととったのか、彼はまるで何かに追われるようにすぐに去っていった。それなりに長く付き合っていた彼だったから、涙が浮かぶほどだった。
そんなショックなことがあっても世界は回るし、時間も過ぎる。仕事がなかなか上手く進まなくて、今日は残業をした。私が帰る頃には同じ部署の皆は皆退勤していた。溜息を吐いて、ビルの出入り口を通り過ぎようとしたらぽんっと肩を叩かれた。
驚いて振り返る。
そこには、綺麗な長い金髪が見えた。
「神々廻君…?」
「なんや、今にも死にそうな顔しとんで」
ふっと笑いながら神々廻君はそう言う。
その表情に、ただでさえ悲しいことがあって涙が浮かびそうなのに、予期せぬ信頼できる人の登場に涙腺が緩んで涙が浮かんだ。
神々廻君の優しい声が傷ついた心に染み渡るようだった。
そんな私に神々廻君はギョッとして、取り敢えず話が出来る場所にと近くの呑み屋に飛び込んだ。
そこで私は全て話した。
彼に理由も話されずにフられたこと。
神々廻君は丁寧に話を聞いてくれた。そして一切否定せずに私の言葉を受け止めてくれる。彼はこんな風に話を聞いてくれなかった。
更に言葉一つ一つに優しさが滲んでいて、語りながらついお酒のペースも早くなる。
「神々廻君が恋人だったら、良かったのに…」
最近ORDERに新人さんが入ったと噂で聞いた。美人な女性らしい。何でも神々廻君が直接連れてきたらしい。そんな新人指導だって忙しいだろうし。それに、もしかしたらその女性は恋人候補かもしれない。そんな人にそんな事言うべきじゃないって分かってるのに。
お酒が入りすぎて、口が軽くなって言うべきじゃないことまで口を滑らせてしまった。
あぁ、眠い。眠るなら早く撤回してからじゃないと。
神々廻君にまで、否定されたらわたし、
瞼が重い。
体まで重い。
ごめん、ししばくん。
*******
ORDERに入って、南雲との任務が終わり報告のために帰ってきたら、学生の頃、自分のものにしたかったが出来なかった彼女が振り返って自分を見ていた。それだけで神々廻は酷く興奮した。神なんて信じたことなんてないし、いるさえとも思わないがそれでも、自分の腕の中で無防備に眠る彼女を見ると居ないはずの神さえ信じてしまいそうになる。
もし。
もし彼女に、その彼氏を脅して彼女をフるようにさせたと言ったら彼女は自分に絶望するかもしれない。
もちろんあの男は最初拒否をしてきた。だから徹底的に脅した。弱みを握った。二度と逆らえないようにした。そしたらあっという間に掌を返して、彼女をフった。大体あんな優男に夢主はもったいない。ふさわしくない。
…まぁ、この事は教えるつもりはサラサラない。やっと手に入れたのだ。手放す気もない。
「はよ、起きや」
起きたらあの返事をしよう。
自分は好きだって、恋人になろうと伝えよう。
それで、彼女が否定してきたら、
「俺から逃げられんように、二度と俺の手から離れられんように、既成事実作る前に、な」
どのみち彼女に逃げ道は無いのだ。
神々廻は目を細め、深い闇を宿した濁った目で愛おしそうに彼女の頬を撫でた。
