skdy
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
シン君は、私にとってあまりにも完璧な人だ。
すごく優しくて気がきくし過保護なくらい私のことを大切にしてくれる。ちょっと男の子みたいに気が短い所もあるけど、それは私のことを心配してくれてるからであることを私は知ってる。コミュニケーション能力や順応力だって高くて、努力家。
そんなシン君を尊敬する一方で、私は少し気後れしてしまう。
私はそんな完璧な人間じゃないし、努力しても結果が実る人間じゃない。コミュニケーション能力だって高くはない。そんな私を、シン君は好きだと言ってくれる。その言葉に、彼の真意に疑いを持ってしまう。本当は騙そうとしてる?裏ではからかってる?卑屈な私はそんな風に思ってしまうのだ。シン君の本音は知りたい、でもシン君はそんな事表に出すような人じゃない。
だから、少しズルをした。
誕生日祝いをしたいと言って、居酒屋に誘った。
シン君はお酒に弱いから呑みに行ってもセーブしてしまう。でも今日は誕生日だから、という名目で普段より多めにお酒を勧めた。シン君は最初躊躇っていたが、お酒を呑み始めると普段セーブしているのが嘘のように呑んだ。私はそんな様子のシン君を見て申し訳ない気持ちと、本音を聞けるのではないかというドキドキ感が天秤のように揺れ動いていた。シン君がグラスを傾けるたびに、その整った顔が赤みを帯びていく。
そして。
「あ、あの……、シン君…?」
酔い潰れてしまったのか、テーブルに突っ伏してしまった。呑ませ過ぎたかな…、大丈夫かな…結構ハイペースに呑んでたからなぁ…。
急性アルコール中毒、という言葉が頭を掠める。店員さんにお冷やをお願いして、私もグラスに入ったお酒をチビチビと呑んでいると、シン君がとろんとした顔をこちらに向けているのに気づいた。でも、目が据わってる気がする。
良かった意識はある…。
……、ごめんねシン君。
罪悪感でいたたまれない気持ちも勿論あったけど、でも、私も、もう引き返せないのだ。
「シン君、あの、」
「ん〜……?」
酔いがかなり回っているのか少し間延びしたような返事のシン君。自分を少し落ち着かせるように私は深呼吸すると、頑張って言葉を紡いだ。
「私のこと、…どう、思ってる……?」
自分なりに頑張ったつもりだったけど、思ったよりも小さな声だった。周りのテーブルからは賑やかな声が聞こえ、焼き鳥の香ばしい匂いが漂ってくる。そんな居酒屋の喧騒な声に掻き消されたかもしれない。そう心配したけど、シン君の耳には、届いていた。
「…………そうだなぁ〜……」
酔っ払ったような呂律をやっとやっと回しているような口調。シン君はもぞもぞと体を起こし、肘付をしてこちらを見た。
酔っ払ってるせいか頬を少し赤らめていて、目が据わっている。
ドクドクと心臓が強く鐘を打つ。何と言われるか、怖い。自分が蒔いた種なのに、今更になって恐怖が襲う。
シン君はふっと笑うと口を開いた。
その笑みの意味が怖くて、私は少し息を呑んだ。
「、ばかだなぁ、って……」
全身の血が、凍りついたような気分になる。
その一言に心臓がひゅっと縮み上がった。
やっぱり私を、裏でバカにしてたんだ…。
そう思うと、悲しくて涙が浮かびそうなるけどギュッと膝の上にあった手で強く拳を握って耐えた。爪が食い込むほど強く。少し目の前が歪んだ。
「普段から別れたほうが良いかとか思ってるみたいだけどさぁ、マジでばかだろ。だって、俺がお前の事、逃がすわけ無いだろ〜?」
「、え…?」
予想と反した言葉に私は間抜けた声を出した。
カラカラとシン君はそんな私を見て笑うと、楽しそうに話し出した。
「俺の事嫌いになっても、逃がしてやる気なんてサラサラ無いし、離れることだって許してやんねぇよ?」
騙されていなかった。それだけを受け止めれば良かったのに、酔って饒舌になったシン君の口から出て来た言葉は予想を遥かに上回るものだった。
いや、こんな事言われるなんて誰が予想できようか。私はあんぐりと口を開けてしまう。
「夢主さ、この間、男の客とめっちゃ距離近くてすげえ嫉妬したし、マジあの男殺してやろうかと思ったわ〜。まぁ、その距離感を許す夢主にもマジムカついたけど」
「ご、めん………ちょっと待って…!」
一旦落ち着かせる時間が欲しくて手を突き出すけど、シン君はその手をとって、手を繋いだ。シン君の筋張った指が、私の指の股をすりすりと擦ってきて、少しいやらしい気持ちになって顔が熱くなる。
「待って?だってお前が聞いてきたんだろ?」
そう言うとシン君はまたカラカラと笑う。
そしてひとしきり笑ったかと思ったら、今度は少し怖い顔でこちらを見た。
「何もかも、俺が居ないとできないぐらいになれば良い。そしたら、俺から離れようなんて考えないだろ」
喉がひゅっと音を立てる。
自分が考えもつかないような事を言われて血の気が引く。
怖くてたまらない。
この人から逃げないと、そう思うとシン君はふっと笑った。
「逃げる?俺から?ははっ、逃げても良いぞ」
シン君の据わった目は、仄暗く、少し濁っていて、私は囚われてしまったかのようにその目から目を離せなくなる。
「絶対逃さない。逃げるたびに、何度だって探し出して、捕まえて、連れ戻してやるよ」
絶対的自信を持ったシン君の声。
それに私は完全に逃げ場が無いことを悟った。
そして、シン君は力尽きたのか私と手を繋いだままパタリとテーブルに突っ伏した。どうやら限界が来てしまったらしい。
「お冷やお持ちしましたー」
店員さんがそう言いながらジョッキに入ったお冷やを運んで来てくれる。私は気の無い返事をして受け取って、テーブルに置くと繋がれた手を見た。
繋がれた手を見つめながら、まるでパンドラの箱を開けてしまったような気分だった。明日からシン君と、どんな顔で会話したら良いんだろう。
求めていた本音は聞けたけど、その本音は私の悩みを深いものへと変えてしまった。
私は頭を抱えたまま取り敢えず、お会計をするために片手で何とか財布を取り出すため鞄に手を入れた。
