skdy
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何で…?
何で無くしてしまったんだろう…?
悲しみのあまり私はお通夜状態。そんな私を慰めるように隣で缶チューハイを呑むシン君。
婚約者がいた。
私の人生で幸せの絶頂期にいた。
でも、それはあっという間に崩れ去った。
私が婚約者からもらった婚約指輪を無くしてしまったから。血の気が引いた。
あちこち探して探して…。それでも見当たらなくて、婚約者に説明したらあり得ないと怒鳴られ、婚約破棄された。婚約破棄で慰謝料請求されなかっただけマシだと言われればそうだが。
それでも好きな人に怒鳴られ、人間性を否定され、挙句に婚約破棄をされれば、誰でもこんなお通夜状態になるだろう。
私の行きつけの坂本商店の店員さんであるシン君は私が落ち込んでいるのを気付いたのか声を掛けてくれた。そして仕事終わりに部屋に招き入れてくれた。そこで、お酒を呑みながら私が指輪を無くしてしまったこと、それで婚約破棄になってしまったことなどをポツリポツリと説明した。
シン君は相槌を打つだけで私の言葉を受け止めてくれた。それが今の私には優しくて、涙が止まらない。
「泣くなよ」
そう困ったように眉を顰めて笑いながら、シン君は私の頭を撫でる。その優しさが私の愚かさに沁みて、ごめんね、と言った。
「迷惑、だよね…。いきなりこんな事言われても、ホントにごめん…」
「気にすんな、誰にだって失敗はある」
でも、今回のこれは絶対に失敗してはいけないものだったのに。
左の薬指に嵌まっていた大切な未来を約束する輝きはもう、ない。
どんなに探しても見つからなかった。
もう私に未来はないと言われているようだった。
「私に、幸せな未来はないってことなのかな」
左手を広げて眺めながらポツリと言う。
一つ溜息を吐いて、持っていた缶チューハイの残りを呷った。
「幸せな未来、な」
何やら隣でシン君が小さく言った。
それに私は視線を向ける。シン君は何やら思い出したようにすぐ傍にあった棚を漁っている。
あぁ、眠くなってきた。周りに空き缶がいっぱいあるから、きっとたくさん飲んで眠くなってきたのかも…。ぼんやりとしながら辺りを見ていると、シン君が漁るのを止めた。
「良いものやるよ」
そう言って渡されたのは手のひらサイズのプラスチックの箱。
それを受け取り、恐る恐る開くとそこには指輪。
無くしたばかりで、指輪を渡して来るシン君に無くしたら怖いと思い、視線を向ける。シン君は私がそういう反応をするのが分かっていたのか手には女性物のチェーンネックレス。それには指輪がつけられるようにリングホルダーまで付けられている。
「…………なんで…?」
用意が良すぎる。もしかして、元々はルーちゃんとかにあげる予定だったのかな…?
「その幸せな未来とやらが、たかが指輪で手に入るならこれでも良いだろ?」
これはもしかしたら、シン君なりの励ましなのかもしれない。もしかしたらシン君は指輪=幸せを手に入れるための条件と思っているのかもしれない。
違うよシン君、あれは結婚を約束した指輪でこれとは違うんだよ。
そう言いかけたけど、せっかくシン君が励ましてくれたのに申し訳なくて、言葉を飲み込み、リングホルダーに指輪をつけて首からぶら下げた。
「うん、良いんじゃね」
そう言ってシン君は笑い、私の肩を抱き寄せた。
あぁ、シン君あったかいなぁ。
何だかとても眠い。
悲しいこともあって、辛かったのに、何だかシン君と一緒に呑んだら少し気持ちが楽になった気がする。もしかしてそんなに婚約者の事好きじゃなかったのかな…?
瞼の裏には優しかった婚約者がいたけど、それはすぐに薄れ、怒鳴り散らし、冷たい目でこちらを見て婚約破棄を言い渡した婚約者がいた。
チラッとシン君を見るとシン君はまだ缶チューハイを少しずつ呑んでいる。穏やかなシン君の顔を見て、私は目を伏せた。
「シン君が婚約者だったら、良かったのに…」
ポソッと呟いた言葉は殆ど声にならず、掠れて、私の意識は眠りに落ちて行った。
******
寝息を立てて寝始めた夢主をベッドに寝かせ、先程葵さんから貰ってきたゴミ袋に空き缶を入れて片付けていく。
私に、幸せな未来は無いってことかな…。
夢主が悲しそうに呟いていた言葉。それを思い出し、最後の空き缶を拾いゴミ袋に入れると膝をついてベッドで健やかに寝息を立てる夢主を見て頬を撫でる。
そして。
そして。
くつくつと笑みが溢れた。
「よくも俺以外と幸せになろうとしたな」
太陽のような笑顔。
日差しのような優しい眼差し。
それを向けられている内は自分に脈があると思っていたのに、突然その左の薬指にある輝きを見て絶望した。
あぁ、俺以外と幸せになるって事なのか?
許せない。
いや、そんな事許さない。
胸に溢れるマグマのようなドロドロした、黒い激しい激情を隠しながら、夢主と関わっていた。
そして、今日夢主はまるで今にも身投げしそうなほど落ち込んでいるのを見て、胸の中ではもう歓喜に溢れていた。
「俺以外の奴と幸せな未来はないんだよ」
そう言って、夢主が先程ぶら下げた指輪を拾い口付ける。その際に、俺の首から隠すようにぶら下げていたチェーンネックレスが出て来た。
そこには夢主に渡したものと同じ指輪。
そっと指輪を元に戻し、俺の首にかかっていたチェーンネックレスも服の下に隠す。
そして、ゴミ袋に手を突っ込み空き缶を一つ取り出す。
そしてポケットに手を突っ込んで、出て来たのは夢主が探して止まなかった輝き。
それを空き缶の中に入れて、その空き缶をゴミ袋に入れると丁重に縛って、今日が空き缶回収日であることを確認し、俺は鼻歌を歌いながら真夜中だが外に出た。
