skdy
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
憩来坂商店街という場所に立ち寄ると、随分変わってしまった学生時代の友人と出会った。
「坂本君…?」
自信が無くて尋ねるように話しかけると坂本君が久しぶりだなと言ってくれた。彼は元から言葉数が少ないし、あまり感情を表に出す人間じゃない。だから飛び跳ねて喜ぶなんて思わない。
私と坂本君のやり取りを見て金髪の店員さんが警戒したようにやって来た。坂本君は私を軽く紹介する。
「JCCの同期で、南雲の彼女」
……、坂本君。
それは言わなくても良くない?
店員さん驚いて固まってるし、というかこの子南雲君のこと知ってるの?
それに、
「元、彼女ね」
そう言うと坂本君はそうか、と言ってレジを続ける。
確かに、学生時代から坂本君と南雲君がORDERに加入して付き合ってたけど、突然南雲君に呼び出されたかと思ったら、
「違う子と付き合うことにしたから」
といつもの飄々とした感じで言われた。
まぁ、会ってもバカだの早死にするだの罵倒されて疲れてたし、南雲君もきっと私のこと面倒くさく思ってたんだろう。
「分かった。別れよう」
そう二つ返事を返して、驚いてるのか少し目を見開いた南雲君を無視して私はその場をさっさと立ち去った。
ちょっと悲しかったけど、就職してしまえば時間があっという間に忘れさせてくれた。
「……本当に別れたのか?」
レジ袋に商品を入れながら坂本君はそう聞いてくる。
「君達がORDERに入った後ぐらいに、南雲君から別れを切り出されたんだよ。違う子と付き合うことにしたんだって」
「……、アンタ。悲しかったんじゃなかったのか?」
金髪の店員さんが不思議そうに話しかけてきた。坂本君をチラッと見ると心が読める、とボソッと言った。なるほど。
「確かにちょっと悲しかったけど、向こうは色んな女子からモテる人だったからね。すぐに納得出来たし、就職してからは忙しくて時間が経てば経つほどそんな感情忘れていったよ」
ORDERという唯一無二の場所に所属する南雲君と、何処にでもいる女殺し屋なんて釣り合うわけでもないからあぁ、やっぱりと納得したし。大体私と付き合っていた時だって他の女の子からのアプローチが激しかったからね。
坂本君が商品の入ったレジ袋を渡してくる。それを受け取り、坂本君にじゃあねと挨拶して店から出ようと歩き出そうとしたら、出入り口に大きな影。
「げ、南雲……」
店員さんが本当に嫌そうに声を出した。
ジュラルミンケースを肩からかけた南雲君の顔には感情がない。
私服なところを見ると今日はオフなのかな。
なんて思いながら、歩みを緩めず南雲君の隣を通り過ぎる。
筈だった。
避けたつもりだったけど、その大きな手から逃れられず腕を掴まれてしまった。振り払おうにも後で青痣になっているのではないかというほど強く掴まれてしまっているから逃げられない。いや、逃げること自体無理だろう。
相手は現役ORDERなのだから。
見上げれば、陰のかかった顔にある、大きな黒曜石の様な黒く深く昏い目はまるで見る者を引きずり込みそうなほど深く、沼のように淀んでいる。
そして普段は饒舌な南雲君が一切言葉を発さない。私を一点凝視している。
「……ごめん坂本君、南雲君と二人きりになれる場所貸してくれるかな?」
そう言うと、坂本君は店員さんに目配せして、店員さんがガレージに案内してくれた。その間も南雲君私の腕をずっと掴んでいた。
店員さんにお礼を言うと、店員さんは少し迷惑そうな顔で出て行った。
「久しぶり南雲君」
「…………」
「元気そうで良かったよ」
「………………」
「いい加減腕痛いから放してくれない?」
そう言うと南雲君はそっと恐る恐るといった様子で放してくれた。
「僕は、」
突然ボソリと南雲君が口を開いた。
「僕は別れたつもりなんて無い」
…………はぁ?
「違う子と付き合うことにしたからって言ったのは南雲君でしょ?」
「あれは、」
「嘘、なんでしょ」
南雲君は付き合ってる子が嫉妬している姿を見ることで愛されていると感じるタイプの人間だ。私と付き合う前に違う子と付き合っている時、赤尾ちゃんがそう言って反吐が出るぜと言っていたのを覚えている。
だから、あの時の南雲君の言葉が
「嘘だって分かってたのに別れたの?」
「そうだね」
私は簡単に認める。
「でも、嘘でも別れを口にしたのは南雲君だよ」
「…………」
「それに、もうあの時疲れてたの。南雲君にバカだの早死にするだのと罵倒されるのも」
だから南雲君が別れを切り出してくれてちょうど良かった。
そう言って一つ溜息を吐く。
「好きだよ」
南雲君がそう言った。
それに対して私は、呆れたように深く深く溜息を吐いた。
「南雲君、確かに私は罵倒されるの疲れたって言ったけど、だからって今更そんな好意を言われても、」
言葉は響かないよ。
そう言うつもりだった。
先程まで私の腕を掴んでいた大きな手は私の口をすっぽりと覆い、言葉を発する事を拒んだ。
「嘘だって分かっていながら僕から離れるなんて酷いじゃない。罰として僕ともう一度付き合って」
南雲君が私の顔を覗き込んでくる。仄昏く、深い、濁った黒曜石には見覚えがあった。
あ、マズイ。
気づいた時には既に首を掴まれていた。
「拒否しても良いけど拒否したら首を折る。大丈夫、死体になっても綺麗に保存してあげるから」
「ぐ、ぅ…………!」
「付き合ってくれたら、もう間違えない。君をちゃんと、愛すから、」
だからお願い、僕もずっと一緒にいて。
意識を失う手前、南雲君の祈るような呟きが聞こえた。
