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駆ける。駆ける駆ける。
走って走って、息が上がって苦しいけど。
それ以上に、胸が苦しかった。痛かった。
「風邪でも引かれたら、その、…迷惑なんだよ」
好きな人に、そう言われた。
朝倉シン君。
坂本商店の店員さんでとても気が利く、ちょっとだけ年下の男の子。最初は、贔屓にしてる商店に新しい店員さんが増えたなぁ、ぐらいに思っていた。
でも、よく声をかけてくれたり、お話をするようになって、シン君に惹かれていた。
そして数日前は、土砂降りの雨だった。
傘がなくて、でも坂本商店に用があったから用事の帰りに寄ると、ちょうど店番をしていたシン君がギョッとしてタオルを準備してくれた。
雨で濡れて気持ち悪かったし、雨という天気で気分は下がっていたけど、シン君に会えてちょっと気分が晴れた。
そして、葵さんと太郎さんに迷惑をかけてしまって申し訳ないと何度も謝って、頼んでいた品を受け取ってついでに傘を買い帰ろうとした時だった。
もう閉店時間。シン君が何故か店から出てきた。これからまだ色々仕事があると思うのに…。
どうしたの?と聞く前に、シン君が口を開いた。
「あのさ、今度今回みたいなことがあったら俺が届けに行くから」
「え、」
頬を掻きながらシン君が言う。
その言葉にドキリと胸が鳴った。
「でも、」
「でもじゃねえ。坂本さんや葵さんに迷惑かかったんだからな。大体、こんな雨の日に傘もささないで来るってどうなんだよ…」
うぅ…。
ごもっとも…。
「それに、風邪でもひかれたら、その、…迷惑なんだよ」
ガンッと金槌で頭を殴られたような気分だった。
そうだよ。
そうだよ。
ただでさえ、私、坂本さん達に迷惑をかけて、それに更に風邪なんて引いたら、坂本さん達に更に迷惑をかけてしまう。
シン君にも、迷惑がかかってしまう…。
仲良くなれている気がしていた。
シン君も惹かれてくれていたら嬉しいと思っていた。
でも、それは私の勘違い。
シン君はあくまで店員さんとして私に関わってくれていたのに。
「違っ、」
「そうだよね。迷惑かけてごめん…。今度またお願いするときは届けてもらうようにするから」
シン君に笑いかけながら謝った。
私、笑えてるかな。
シン君、なにか言いかけていたけど…遮っちゃった。
そして、少し弱まった雨の中私は、逃げるように帰路に着いた。帰ってから、自己嫌悪でちょっと泣いた。
それ以来、坂本商店さんには行ってない。
いつか言っていた、シン君にとって坂本太郎さんは憧れなんだ、と。きっと憧れの人に迷惑をかけるような女は、嫌いだろうし。私が気づかない間にシン君自体にも迷惑をかけていたのだろう。そう考えると、自己嫌悪が強まってますます足が遠のいた。
そして、休みの日。
ちょっと気分転換をしたくて街に繰り出した。
今日は打って変わって快晴だった。
ちょっと食べ歩きをして、帰ろうと歩いていると一台のバイクとすれ違った瞬間、耳をつんざくような音が響いた。その音に振り返ると、バイクを降りてくる見覚えのある少し傷んだ金糸の髪が見えた。
それを見た瞬間、私は逃げるように駆け出していた。
迷惑だって。
迷惑なんだって。
わたしは、すきなひとに
めいわくをかけていたんだって。
頭の中で、ぐるぐると言葉が回る。
その言葉は自分を否定する言葉。
苦しくて、悲しくて。
せめて私に出来るのは、迷惑をかけないために会わないようにすることだけ。
ギュッと目を瞑った瞬間、涙がボロッと落ちた。
*******
一目惚れだった。
初めて女を好きになった。
言葉だけじゃない、思考さえ優しい女。
惹かれて、惹かれて欲しくて必死にアピールした。
覗き見しているようで悪い気はしていたが、それでも女の気持ちを、思考を、読んで自分に惹かれていく彼女に絶対に手放したくないと思った。
そして、土砂降りの雨の日。
彼女は濡れ鼠のようにビショビショになってやってきた。風邪を引かれて、少しでも会えなくなったら嫌だ。そう思って口から出た言葉は彼女を傷つけた。そんなこと思ってない、迷惑なんて思ってない。
会えないのが嫌なんだ。
会えないのは寂しいんだ。
そう伝えたかっただけなはずなのに…。
「ごめんね…」
必死にぎこちない笑顔を作った彼女は逃げるように帰ってしまった。そして、彼女がまた店に来てくれることはなかった。
「シンが死んでるヨ」
「うるせー…」
品出しを死んだ顔でしているとルーが呆れたように言った。すると、
"シン"。
、と坂本さんが口を開かず、心を読ませながら声をかけてくれた。
俺は怒られるのだと思い、坂本さんに向き直って気合を入れるように謝った。
"さっき、公園のクレープ屋で見かけた"。
その言葉に息を呑み、坂本さんを見た。
"特別にバイクを貸す。さっさと行け"。
「ッ、はい!!」
坂本さんは何も言わなくてもすべて分かってくれていた。やっぱり俺の憧れる人は違う。
でも、今はそうじゃない。
会いたい。
会いたい。
会って謝って、伝えよう。
俺の気持ちを。
迷惑なんてない。
会えないのが、嫌だった。
会えないのは、寂しかったんだ。
ようやく見つけた彼女は、案の定自分を責めるような言葉で埋め尽くされていて。そうしてしまった自分を責めたいところを押し殺す。
そして逃げ出してしまった彼女を追い掛けた。
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