第1章
名前変更はこちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おい」
また、正面の牢屋から声をかけられた。
あの良い声からして、さっき私に羞恥プレイ強要してきた人だろう。
何でしょうか、と声の主の方を見る。
相変わらず牢屋の中は暗くてその人の顔はわからないが。
「今、地上はどうなってる」
『え?』
外の世界のことなんて聞いてどうするんだろう。
ここは一度入ったら出られない監獄だって言われてるのに。
だけどそれを口に出すのは、私に現実を突きつけるのに他ならない。
疑問を押し込んで向き直った。
『えっと、世界情勢とかそういうやつですか?』
「あぁ」
最近は何があったかなと記憶を遡る。
パンダのノンノンが産まれた…とかはどうでもいいだろうな。うん、こんなの教えたら怒られるか。
インペルダウンLEVEL6に捕まってる人ってことはこの声の人も大犯罪者ってこと。
今は大海賊時代で海賊が多いし、最近の海賊の情報とか言っておけば間違いはないかな。
『つい先日、四皇ビッグマムがとある島を落として、また自分の息子とその国の女王を結婚させました。その際にビッグマムが食いわずらい?と呼ばれる癇癪を起こして町が半壊したそうです』
「あのババアこりねぇな」
『えっ!?』
「どうした?続けろ」
『あっ、はい』
いや、いきなりあの四皇をババア呼ばわりしたらびっくりするよ。
気を取り直して、と。
『うーんと、他には…あ、最近“黒ひげ”と名乗る人物が勢力を伸ばしてきているようで、七武海入りをするかもと言われてます』
「………。」
コメントなし、と。
うーん…お気に召さなかったかなぁ。
『後は海軍に捕まってインペルダウンに連行される時に聞いたのですが、現七武海のモリアが麦わらのルフィにやられたらしい…とか』
「………。」
『そういえば、麦わらのルフィを含む11人のルーキー達を“最悪の世代”と呼ぶようになったっていうのも言ってました』
後は何かあったかな、と考えていると再度声をかけられた。
「…やけに七武海やら麦わらの情報をくれるじゃねぇか。俺への当てつけか?」
『え、何がですか?』
言葉の意味がわからず、思わず聞き返す。
すると、声の主は立ち上がり牢屋の前の方に歩いてきた。
ジャラジャラと重そうな鎖を引き摺る音が聞こえる。
彼の姿が明らかになった時、私はやっと言葉の意味が理解できた。
左手につけてある金色のフック
顔の横を大きく横断する痛々しい傷跡
黒髪オールバックの大柄な男
テレビとか新聞とかでもよく出ていた。だから私はこの人を知っている
『っ、アラバスタの…英雄……サー=クロコダイル…さん』
「…英雄なんざ過去の話だ。しかしなんだ、今わかったのか」
いや、ビッグマムをお年寄り扱いした時点でやばい人かなとは思ったけど、あのクロコダイルさんだとは思わなかった。
いや、インペルダウンレベル6なんだからヤバい人しかいないのは前提ではあるんだけども。
『あっ、あの、七武海とかの情報は当てつけとかじゃなくて、海賊とか海軍で大きく状況が変わったこととかをお伝えしようと思っただけで…』
すみませんと頭を下げて謝ると、クロコダイルさんは複雑そうな顔してこちらを見ていた。
「テメェが謝る理由はねぇだろ。まぁ、情報提供は及第点ってとこだな。」
うっ。お父さんの影響で、割と新聞とか読む方だからその評価はちょっとショックだ。
普通の女の子よりは色々知ってると思うのに。
『ちなみにどうすれば点数が上がりますか?』
「新聞とか人づての情報だけでなく、生の声を加えりゃいい」
おっと、一般市民にはハードルが高かったようだ!!
一般人の女子高生は海賊とか海軍とかと話す機会ないからね!!
「それで?」
『え?』
何についての疑問符だろうと頭を傾げる。
あぁ、ニュースの続きが!
しかしもう話のネタが
『…パンダのノンノンが産まれた、とか』
「違ぇよ」
クロコダイルさんには光の速さで否定されたし、隣の牢屋で囚人の誰かがずっこけた。
隣の隣の牢屋からは「クロコダイルにパンダ出産のニュース伝えるとかwwテラワロス」
とかいう声が聞こえてきた。
いや、だってニュースのネタが尽きてたんだもん。後はもう平和なニュースしか残ってないもん。
「名前、だよ。新入りのお嬢さん。お前は俺の名前を知ってるってのに俺が知らねぇってのはフェアじゃないよな?」
『あっ』
その通りだ。
というか新入りは普通、自己紹介とあいさつから入るのに私ってばすっかり忘れていた。
いや、牢獄にいるんだから、そんな気にするなって言われたらそれまでだけど。
どんな状況でも礼儀は大切!
…それに礼儀くらいしっかりしておかないと、私みたいな非力な女はいつ殺されてもおかしくないし。
『はじめまして、インペルダウンレベル6の皆様!みょうじななしと申します!ただの一般市民なので殺さないでください!どうぞよろしくお願いします!』
__________
クロコダイルside
かつて俺は七武海の地位に身を置き、アラバスタの英雄として君臨していた。秘密裏に結成したBW社の経営も上手くいき、後は国を乗っ取るだけだった。
国を乗っ取って、その国が所有しているはずの古代兵器プルトンを手に入れて世界を支配する計画だった。
だがその夢は志半ばで散ることになる。
全てはそう。
麦わらのルフィ。あいつに負けたからだ。
俺は何もかも失い、インペルダウンへと投獄された。
インペルダウンLEVEL6 「無限地獄」
このフロアではLEVEL1~5とは異なり、監獄が苛酷な環境下に置かれているわけでも、拷問が行われるわけでもなく、囚人達には「無限の退屈」が与えられる。
確かにここは無限だ。何もすることがない。しかし、地上で暴れまわっていた奴らにとってはその退屈こそが地獄
まぁ、今更シャバに出たところで何の面白みもねぇ。
せいぜい、残りの時間をこのクソみてぇな場所で適当に過ごすか。
また、何月何日何曜日何時かわからない「今日」が始まる__予定だった。
この日は少し違った。エレベーターが開いて新しい囚人が入ってきたのだ。
このインペルダウンLEVEL6では半年ほど前に俺が投獄された後は誰も来ていなかった。
大体の犯罪者はLEVEL1〜5に入れられるからな。LEVEL6は滅多にいない。久しぶりの外からの刺激というわけだ。
少しでも退屈を紛らわせられるような奴だと良いが…
周りの囚人達は皆、その新しい刺激__新入りに注目した。
「………は?」
思わず口に出た自分の間抜けな声は
「うぉおおおおお!!女じゃねぇかよ!!」
「嬢ちゃんテメェ何やったんだよ!!?」
他の囚人達の馬鹿でかい歓声にかき消された。
おいおい、あんな小娘がLEVEL6に投獄される罪人だと?
自分の正面の牢屋に大人しく入っていった、その女を観察する。
肌は白く、傷もない。筋肉も必要最低限しかついてない。腕や足は少し握っただけで折れそうなほど細い。
どう見ても戦闘ができるような身体ではない。
それに何かに怯える目。どう見たって被食者側の人間だ。
何故、捕まったのか。とても興味が湧いた。
そしたら天竜人のプロポーズを断って、挙げ句の果てに枕を顔面に投げて逃げたという阿呆らしい答えが返ってきた
なるほど。あの平和ボケしてそうな嬢ちゃんが捕まりそうな理由だな。
思わず自分も声に出して笑ってしまった
その後も、囚人達に散々からかわれていた。ただの少女が、よくもあんな大物相手と臆せず会話できるもんだ。
意外と肝っ玉が座ってるじゃねぇか。
「ムルンフッフッフ!みょうじちゃん。今度から変な男に絡まれたら枕を顔面に投げつけるんじゃなくて、大事なムスコを目掛けて投げなさいな。もしくは潰しちゃいなさい」
『なるほど!!了解しましたカタリーナの姉貴!!』
「「「最悪の女囚の言うことに素直に納得すんな!!」」」
…しばらくは退屈しなさそうだな
そう思い、一人ほくそ笑んだ。