底無し沼に聖者在り

  •  光陰矢の如く、それから10年の歳月が過ぎた。

  • 2679年…あの大牧実葉も、軍部の十三宮メーテルリンク勇も既に亡く、西海さいかい道首相と帝国太政だじょう大臣を務めた吉野菫は病床に倒れ、全てを見届けて来た十三宮聖にも、残された時間は少ない。

  • 英傑達の相次ぐ勇退、さもなくば戦死…歴史の主役が諸行無常に交代して逝く中、最後に笑う者は…?

  • 間宮 文次郎 主計

    「お前なんか居なくて良い、居ても居なくても変わらない…ずっと、そう言われ続けて来た。多くの者達は、俺の言葉に耳を貸さず、俺を無価値だと決め付け、無視し続けて来た。だから、奴らは知らなかった。俺が何を望み、なぜ今まで貴様らに従って来たのかを。薄汚い雑用を俺に押し付けて、表舞台の脚光を浴びに行った奴らは皆、帰って来なかった。『指示待ち』の俺に指示を出せる奴は、もう居ない…!」

  •  気付けば、この「椅子取りゲーム」に残された席は、最後の玉座だけになっていた。

  • そして、その生存者は…。

  • 間宮 文次郎 主計

    「…聖徳皇帝陛下、西宮堯彦様は御退位なされ、吉野大相国だいしょうこくも、その天命を全うされた。そして今、存亡の危機に瀕した日本国家を指揮できる者は、不本意ながら一人しか居ない! 俺は…間宮主計は今ここに、新国家『日本連邦』の建国と、臨時大統領への就任を宣言する! 諸君の中に、異議ありとか言おうと思ってる奴、居る…?」

  • (銃口を突き付ける音)

  • 安倍 土御門 綺音

    「い…居にゃいと、お…思うにゃん!」

  •  十三宮仁は、本来は日本帝国の王政復古を望む立場だが、間宮主計とは昔から親しかったので、当面は彼女の大統領政権を支持した…が、眠いので寝てしまった。

  •  十三宮顯も、基本的には間宮政権を支持したが、大学の課題が終わらないので(自宅に)隠居した…のだが、毎晩のように徹夜でネット配信を繰り返し、
    「私は間宮氏の将来を予言した」などと自慢し続けた結果、疲れたので眠ってしまった。

  •  総州そうしゅうの黒井勇人は、間宮大統領の誕生を知った瞬間、翼を授ける炭酸飲料を飲み過ぎてっ倒れ、その炭酸は地球を若干、温暖化させ、北ヨーロッパのグレた環境主義者を怒らせてしまった。

  •  野州やしゅうの三浦フレデリックは、スピード違反で不幸にも黒塗りの高級戦車と正面衝突し、全ての責任を後輩に押し付けた結果、旧友の十三宮顯に全てのSNSをブロックされてしまった。

  •  十三宮 澪花 咲都季は、人類史上初の「強制絶頂装置」を発明し、来年度のアルフレッド物理学賞を狙ってしまった。

  • 間宮 文次郎 主計

    「…何!? 空中戦艦を撃墜したのに、新型ウィルスの人工変種が発生し続けている…だと!?」

  • 安倍 土御門 綺音

    「間宮大統領しゃん! や…ヤバ過ぎる速報が届いたにゃ! 30年前の衝突以来、地球の周囲を公転していた小惑星の破片が、隕石として…地表に落下し始めているにゃ!」

  • 間宮 文次郎 主計

    「…一体、自分は何を言われているのか、今の真冬には、良く分からない…」

  • 安倍 土御門 綺音

    「地表の対空兵器がハッキングされ、軌道上の小惑星残骸を無差別に砲撃し、意図的に隕石雨を降らせようとしているにゃ! しかも…別の情報源によれば、地球の重力それ自体が歪み始めているらしく、各地で重力異常が観測され、世界中で火山や地震津波の前兆が発生しているにゃ!」

  • 間宮 文次郎 主計

    「何故だ!? 東山は死んだんじゃないのか!?」

  • 安倍 土御門 綺音

    「あの空中戦艦は、本体じゃにゃいにゃん。■■■■■は『虚人』とも呼ばれる通り、奴の中枢は現実世界ではなくバーチャル空間にあり、今この瞬間もメタバースを逃走中にゃん! 追跡だにゃ! 東山の現在位置座標を解析中…奴は今、ケンタウルス座α星のサイバースペースに侵入したにゃ!」

  • 間宮 文次郎 主計

    「け…ケンタウルス座? とにかく奴は、そのバーチャル宇宙に居るわけだな! で、そのメタバースとか言う異世界で戦うには、何が必要だ?」

  • 安倍 土御門 綺音

    「虚人のサイバー宇宙は、地球の大気圏を上方に広げた拡張現実にゃ。よって戦闘機にゃど、航空飛行できるビークルに乗って、そこからバーチャル空間にログインすれば、メタバースに突入できるにゃ!」

  • 間宮 文次郎 主計

    「そうなると結局、今すぐ戦えるのは四国のサイドワインダーだけじゃないか! だが…彼女らは今さっき、空中戦艦を墜としたばっかりで、体力も燃料も限界じゃないのか? 至急、空中給油機を飛ばす…が、果たして間に合うのか?」

  • 安倍 土御門 綺音

    「日本中、世界中の人々に救援軍を求めるにゃ! 今こそ地球の…太陽系の全人類が、みんにゃの心を一つにする時だにゃ!」

  •  伊予天狗隊ハンター6機、讃岐アテーナ隊ダイバー8機、徳島セイバー隊レーザー4機、高知龍馬隊エルダー6機、メタバース空間へのダイブ準備完了。

  • 「女神の御加護を受けし天狗」サイドワインダー各隊全機、石本将軍に続き全速前進せよ!

  • 管制機 クリスタロス

    「敵バーチャロイド、天の川銀河系を離脱し、アンドロメダ銀河に向かっているわ! このデジタル戦域では、『超光速ワープ航法』…とか言う裏技が使えるらしいから、それを利用して! 発動条件、操作コマンドは…!」

  • 鵜久森 ミナト

    「了解! 全機、ジャンプに備えて! 相対論補正で、質量が一気に増大したように感じるかも知れないから、気を引き締めてね! 全く…リアルでこんな飛び方したら、機体も肉体も吹き飛んでるよ…!」

  • 松山 なつき

    「ワープしたら体重が増えるなんて、ひどぅい!…あ、レーダーに新たな反応…この色は、味方…間に合った! やっと、仲間の増援軍が…来てくれたよ!」

  • 﨔木 長門守 夜慧

    「ああ、間に合ってやったぞ! 俺達は…はぎも山口も、箱館も東京も、全て乗り越えて来たんだ! 何度でも、やってやるよ畜生! アプリコーゼン中隊ポタージュⅡ、交戦だ!」

  • 黒沢 俄勝大姉 蓬艾

    「同じくアプリコーゼン・ポタージュⅤ、着陣致しました! 血の池から引き揚げたステルス機に乗って参りました…が、例えこの戦闘機が墜とされたとしても、我が身に生えた翼で戦い続けられます! 黒沢 俄勝大姉 蓬艾、いざ参ります! 碓井槐様、わたくしに続いて下さい!」

  • 落合 航

    「我らは信ず、天主Deusに栄光あれ! そして神の国、願わくは地上の国に…勝利を! ラズールⅠサザン クロス、交戦!」

  • 遠野フォイニクス衛

    「緋色の空に降り注ぐ隕石雨、追い詰められる戦友達…30年前も見たような光景だ。だが、今回は勝たせてもらう。ルベウスⅠフォイニクス、交戦!」

  • 滝山 未來

    「…日本人民共和国主席…日本人民解放軍大元帥…滝山未來…封じられた…戦闘形態を…一時的に…許可して…再武装する…大切な…友達を…皆を…守るために…」

  • 十三宮 勇

    「こちら、十三宮勇。本人は8年前に死んだけど、こういう事態に備えて、生前の記憶をデータ化し、アバターとしてこのサイバースペースに保存して置いたわ。まあ、プログラムで再現された幽霊だとでも思って。情報には質量が無いから、8年なんて一瞬も同然ね。敵がバーチャル世界で永遠の生命を得ようとするならば、私達も同じ事を試して見れば良いのよ。と言うわけで、サフィルスⅠメーテルリンク、交戦!」

  • 十三宮 寿能城代 顯

    「■■■■■の本体は、天の川とアンドロメダの銀河境界、暗黒星雲『カフカ・ルキア』にある。それを破壊すれば、虚人東山プログラムは動作を停止し、現実世界への干渉に終止符を打てる。但し、周辺ではアカウント復旧機能にバグが生じており、私達が撃墜された場合、リアルに戻れなくなる恐れがある。つまり…実戦と同じく、私達の残機は一つだけという事だ。全てを終わらせ、必ず生きて地球に帰ろう…!」

  • 鵜久森 ミナト

    「了解!…ん、あの援軍は戦闘機じゃないよね? あの形は…自転火車と、空飛ぶ箒木ほうき…?」

  •  どう見ても自転車なのに、ペダルを踏んで車輪を回すと、何故かタイヤが燃えて紫色の焔を噴射し、何故か宙に浮いている。

  • そして自転車なのに機関銃と、何故かクラスター爆弾を搭載…こんな物を持って来るのは、多分いつもの人達である…。

  • 十三宮 巫部 仁

    「人が想像できる物は、きっと人の手で創造できるんだよ! 戦闘機じゃないけど一応、クラスターホーミング弾幕を積んで来たから、少しは役に立てると思う! この出逢い、この想いを終わらせたくないから…十三宮仁、今あなたの元に…!」

  • 十三宮 伊豆守 聖

    「…はぁ…はぁ…私の体は、もう長くは持たないようですが…例え我が身が滅ぼうとも、十三宮聖の精神は、お姉ちゃんの意志は…少なくとも、今ここにおいて不滅です!…と言うわけで、平和主義者としては大変不本意なのですが、箒木に大型爆弾を詰めて飛んで参りました。だ…断じて憲法違反の戦力じゃありません、必要最小限度の自衛権です…はい、多分…それで私、どうせ死ぬならば、これで東山様に体当たりしようかと…」

  • 松山 なつき

    「そ…そういう話は、今は後回しにして…とにかく皆、本当にありがとう! 間も無くワープ完了、カフカ・ルキア星雲に侵攻するよ! このダークウェブ星雲には、スバル級より強大で、対小惑星隕石砲を搭載した空中戦艦が多数、展開しているようだから、確実に1隻ずつ墜として索敵、最終鬼畜虚人を発見次第、総攻撃で破壊するよ! 見えて来た、前方に敵機影! 全機、撃ち方…」

  • 十三宮 幸

    「始め!」

  •  表向きは、残虐な海賊…しかし正体は、次元の彼方から、地球世界文明の命運を操っていた人工生命体…この戦いは、戦後処理を含めて、2682年頃まで続いたとも言われる…。

  • 「身を捧げ 散りし身体は 還らずも 御霊と想 此処ここに還らる」

      土佐高知基地 殉職者慰霊碑

  • 夢宮 魅咲

    「私が生まれた時には、既に世界を覆い尽くしていた、長く虚しかった三十年戦争…それはずっと、絶望の連続だった…だけど、その終わりに…」

  • 神田エルンスト遊火

    「鮮血に染まった罪業ざいごうの末、先輩に…あなたに出逢えた事。それは僕にとって、こんな救い無き時代に残された、数少ない…いや、あるいは唯一の希望だったのかも知れないと、僕は何度でも思い出すよ、あの日の記憶を。だから…」

  •  と出逢ってくれて、ありがとう…!

  • 須崎グラティア優和

    「…末法の使徒、十三宮聖様…良くぞ今日この時まで、生き遂げて下さいましたね…! 30年前、あの隕石雨を共に見上げていた少女が、こんなにも多くの方々を救い、皆からの感謝を集める聖者に成られた事、我が一生涯の誇りです…! 今日まで本当に、お疲れ様でした…そして今は、お休みになられて下さい。帝国最後の魔女に、汝の安らかなる来世に、恩寵あれ…!」

  •  あの空の向こうに、もう一つの世界で戦う、自らの分身を遠隔操作し、遂に全ての力を使い果たした十三宮聖。

  • 十三宮 伊豆守 聖

    「深遠なる江戸東京湾の海を創り、遥かなるギルガメシュ文明を生み出した、『ノアの大洪水』から6000年…爾来、私達人間は、互いに殺生の罪を重ねて来ました…ですが今、世界中の方々は遂に、その多様なる御心を統一できつつあるのかも知れません。六千年と一夜物語、将に終わらんとす…私の死で、『歴史の終焉』が成就し、我が子なる『最後の人間』に未来を託せるならば、この上なき祝福です…天地・人の世に、恵みあれ…!」

  •  底なし沼に聖者あり…激動し続けた受難の時代に、信仰・希望・愛を貫いた十三宮 伊豆守 聖は、遂に瞑目し、現世に再び開眼する事は無かった。

  •  少なくとも、この撮影が終了するまでは…。

  • 十三宮 寿能城代 顯

    「…はい、カット! お疲れ様でした!」

  • 十三宮 伊豆守 聖

    「…あーもう、全く…お姉ちゃんに死ぬ演技をさせるとは、実に不謹慎にして親不孝なる舞台ですね…こうなったら、本格的に錬金術を究めて、あと百年は生きますから! 我が子らよりも長生き致しますので、必然的に遺産なんて差し上げませんから!」

  • 十三宮 寿能城代 顯

    「まあ、そんなわけで…これを持ちまして、第二回『Planet Blue 美少女萌え戦記』プロジェクト、『十三宮 伊豆守 聖』の撮影は全て終了致しました! 出演して下さった皆様、本当にありがとう御座いました!」

  • 十三宮 伊豆守 聖

    「ありがとう御座いました^^ こうして無事に作品が完成出来ました事を、父なる天主に、子なる基督Christに、聖なる御霊みたまに、全ての隣人に…そして、いま本書を御覧になって下さっているあなたに、深く感謝申し上げます。amenエイメン

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