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十三宮 幸
私達は「世界最終戦争」に一応の勝利を収めたが、対小惑星隕石砲などの大量破壊兵器が使用された結果、地球人類文明は多大なる犠牲と衰亡を余儀なくされた。
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十三宮 幸
更に、人間同士の武力対立が停滞する一方で、発達し過ぎたバーチャル技術が、何らかの意志で暴発し、平和への新たな脅威を生み出してしまった。
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十三宮 幸
先の大戦で疲弊した諸国には、この事態に今すぐ迎撃し得る戦力が無く、これまで表舞台から忘れ去られていた「辺境」の少女達が、迫り来る危機への最後の希望であった。
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十三宮 幸
かくして「歴史の終焉」を見届けた十三宮聖は、全ての転機を追憶し、次世代に未来を託そうとしていた…。
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「里の為 御霊捧げし 華達の 事を思
へ ば 胸こそ迫れ」
伊予松山基地 殉職者慰霊碑 -
本当の事を言うならば、彼女達が自らの郷里を真に美しく思った事は、実は一度も無かったのかも知れない。
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何故ならば…彼女らが生まれ落ちた時から既に、この島は、あの海は、畜生道…いや、地獄だったからである。
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権力に溺れた大人達は、支配者の地位を失うや否や、枯渇寸前の資源を持ち去り、真っ先に逃亡してしまった。
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入れ替わりで現れたのは「海賊」などと呼ぶ価値すら無い、忌々しき鬼畜犯罪集団だった。
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陵辱者の暴虐から逃れ続けるも、次第に追い詰められ、遂に逃げ場を失い、包囲された若き少女達。
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ならばせめて…やられる前に自決しようと、内戦で遺棄された武器を拾った瞬間、心の底に光が見えた。
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私達は誰だ!?
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誰よりも血を流したのは!?
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誰よりも涙を流したのは!?
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誰よりも「この島」と「あの海」を愛しているのは!?
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戦う覚悟はできているか!?
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我らが誇りと想いを胸に、倒すべきは…!
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松山 なつき
「アタシは…この醜い世界を、その根底を、変えたい…!」
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鵜久森 ミナト
「この穢らわしい秩序を、ボク達が今…壊してやるよッ!!」
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土御門 綺音
「…大統領、臨時大統領しゃん! どこに居るにゃ!?」
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2679年、冬。
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星川結らを始めとする日本連合政府は、国連軍の支援もあり、箱館コミューン及び極東ロシア軍との「世界最終戦争」を、辛うじて乗り越えた。
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だが、歴史は終わらなかった。
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この決戦で最も活躍し、そして生き残った英雄達の中から、次代の指導者が選ばれ、その者を臨時大統領とする「日本連邦」が結成された。
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しかし、緊急招集された私達を待ち受けていたのは…。
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土御門 綺音
「だだだ大統領しゃん、緊急事態だにゃっ!!」
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間宮 文次郎 主計
「うるせーわ、俺の時間を取るならカネ払え。で、何があった?」
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土御門 綺音
「アメリカ戦略情報局などが監視していた、例の研究所で爆発事故があり、非常に致死率の高い伝染病を引き起こす細菌、恐らくは…生物兵器の拡散が観測されたにゃ!」
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間宮 文次郎 主計
「去年の第二次武蔵野戦争で、『リアル人狼ゲーム事件』を発生させた、あのウィルスか?」
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土御門 綺音
「違うにゃ、違うにゃ間宮しゃん! 全く別の新種に変異させられているから、昨年の免疫も、現今の予防接種も効かないにゃ! 間違いにゃく、前回よりも過酷なバイオハザードだにゃ!」
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間宮 文次郎 主計
「だったら簡単じゃないか。全ての国境を閉鎖し、オリンピック準備は即時中止、速やかに東京を封鎖し、大坂に政府を移転して臨時首都とする。外出禁止令の違反には、実弾を使っても構わん!」
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土御門 綺音
「ちょ…ちょっと待ってにゃ間宮しゃん! 言いたい事は分かるけどにゃ、オミャエにそんな命令を発する権限は…」
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間宮 文次郎 主計
「俺は大統領、これは国家としての命令だ!」
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土御門 綺音
「まずは情報を冷静に分析して、慎重に決断しないと、国を滅ぼす事になるにゃ! もう少し、時間を…」
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間宮 文次郎 主計
「そんな時間は無い! 貴様は誰に対して物を言っている!? 決めるのは俺だ!」
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土御門 綺音
「そ…そんな急に怒らないでにゃん…ショボン」
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間宮 文次郎 主計
「あーごめん、
木天蓼 あげるから機嫌を直してくれ…」 -
十三宮 幸
「…」
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松山 なつき
「こちらサイドワインダー伊予基地、
石鎚 天狗隊ただいま帰還したよ!」 -
土御門 綺音
「え、ちょ…ちょっと待ってにゃん。なつきしゃんに、ミナトしゃん…オミャエ達は、数箇月前に死んだはずにゃん…」
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間宮 文次郎 主計
「あなた達は、四国の義勇軍…だが、前の最終決戦で、対小惑星隕石砲による南海道へのレイルガン攻撃を喰らい、壊滅したって報告を聞いたけどな…」
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鵜久森 ミナト
「そう…そして、奈落から這い上がって来たんだよ。あの『畜生道』に、最期の一矢を報いるためにね…!」
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土御門 綺音
「どういう意味にゃ?」
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松山 なつき
「辛うじて生き残っていた早期警戒機が、見慣れない暗号通信を傍受したんだよ。それを解読したら、中華ソビエト共和国のスバル級空中戦艦『時空9800』が、サイバーテロでハッキングされ、地表に墜落する軌道へと動き始めたの…しかも、この針路だと…恐らくは日本列島に衝突する可能性が高い」
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鵜久森 ミナト
「それだけじゃないよ! この空中戦艦には、ワクチン開発の研究サンプルという名目で、猛毒の病原体微生物が持ち込まれていたの! もし…こんな物が都市なんかに落ちてパンデミックしたら、数億人…いや、あるいは何十億人もの命が…!」
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土御門 綺音
「畜生にゃ…一体、誰がにゃんのために…!?」
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松山 なつき
「それが…本件には、人間らしき者の関与が見られないの。だとすると犯人は…人類淘汰バーチャロイド型プログラム。そしてそれは、開発者とされる『創造主』のハンドルネームに基づいて、こう通称されている…そう、あの『
虚人 東山 』こと■■■■■だよ…!」 -
その名を聞かされた刹那、その意味を知る一同の背筋を、マイナス33.4度の寒波が襲った…。
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間宮 文次郎 主計
「東山…かつて瀬戸内海で暴虐の限りを尽くした、あの海賊衆か!?」
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鵜久森 ミナト
「ああ、思い出すのも不快だけどさ…かつてボク達は、あの人類に対する永久戦争犯罪鬼畜を根絶すべく、何度も奴らの艦隊を撃沈し、主犯と思われる自称『海賊団船長』を成敗して来た。でも、奴らは創造主にして人工知能『監督AI』の意志によって、何度も再生させられ、懲りずに蹂躙を繰り返した…そう、奴らの実体は、生きた人間じゃなかったんだ。奴らはただ、『虚人東山』のプログラムを実行しただけだったんだよ!」
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土御門 綺音
「瀬戸内の罪にゃき人々を苦しめ続けたのも、今こうして生物兵器でバイオハザードを引き起こすのも、その人工知能とやらの『意志』だって言うのかにゃ!? 仮にそうだとして、一体にゃんのためのプログラムにゃ?」
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松山 なつき
「可能性は二つ。一つは、生物の遺伝子と同じように、自身の複製を増殖させる事。そして、もう一つは…人類に過酷な災厄をもたらし、あの小惑星衝突後も増え続ける人口を『調節』すると共に、生き残る者を選別し、地球文明の進化を導く事…」
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間宮 文次郎 主計
「監督AIだか虚人東山だか知らねーが、その人工知能はバーチャルの分際で、己を神にでも成ったと思い込んでやがるようだな! とにかく、事態は一刻を争う! まずは空中戦艦『時空』を可及的速やかに破壊し、最終的には奴のプログラム自体を消去する必要がある! 最も速く、空中戦艦を撃墜するには…そうだ、伊豆半島の反射レーザー砲は!?」
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鵜久森 ミナト
「伊豆ソーラー反射レーザー砲ターレットは、膨大な太陽光エネルギーをチャージしないと撃てない。今からじゃ、とても間に合わないんだよ…」
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間宮 文次郎 主計
「国内外を問わず、今すぐ対空攻撃に動ける軍隊は?」
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土御門 綺音
「日本連邦軍も国連軍も、蝦夷島の日露決戦で喰らった、甚大なダメージから復旧していにゃいし、アプリコーゼン中隊は依然、行方不明だにゃん。辛うじて生き残った琉球諸島の在日米軍も、ペルシャと睨み合うイスラエルの援護で手一杯だにゃん…」
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臨時大統領の間宮主計も、参謀の土御門綺音も、残された選択肢は最早、眼前の彼女らしか存在し得ないであろう事を悟り、視線を向けられた側も、既にそれを理解していた。
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松山 なつき
「そうなると、今すぐに空中戦艦まで飛べるのは…アタシ達だけって事ね。ええ、覚悟は出来ているよ。と言うか最初から、そのために来たんだから! いつき、予定通りに動くよ!」
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鵜久森 ミナト
「ボク達の手元に、もう使える戦闘機は残ってないけれど、ユミカ先輩とイズミちゃんが、九州に退避した残存の空母艦隊を手配してくれて、そこの艦載機はどうにか無事だから、それに乗って出撃するよ。そして…大勢の仲間を無惨に奪ったあの鬼畜を、二度と復活できない地獄へと…絶対に叩き墜とす! 今ここで殺らなきゃ、ボクの気が収まらないんだよぉっ!!」
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かつて九州には、優秀な政治家・軍人が数多く居たが、彼らの戦死や引退が相次ぎ、今や西海道を支えているのは、夢宮魅咲や神田エルンスト及び花月地院陽成を始めとする、若き次世代の少女達である。
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先日の「世界最終戦争」は、30年前の隕石雨に次ぐ、甚大な被害を日本列島に及ぼし、国内外の軍隊も今なお機能不全に陥っている。
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このタイミングで勃発した、電脳バーチャロイド「虚人東山」こと■■■■■による、地球人類文明への最大最期の反逆…これに対抗できるのは、四国の義勇軍「サイドワインダー」空戦隊と、九州で生き残っていた夢宮軍の航空母艦隊だけであり、両者の連合軍が急遽、結成された。
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松山 なつき
「別に死ぬ気じゃないけどさ、それでも今日が、アタシ最後の出撃になるかも知れないんだから、アンタもしっかり付いて来て、見届けてよね! ミナトも、そう思うでしょ?」
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鵜久森 ミナト
「ええ、なつきの言う通りよ。ボク達は必ず、生きて帰る。そしてキミは…今この場に立ち会ってしまった以上、ボク達の軌跡を語り継ぐ、大切な証人に成ってもらうよ! そうしてくれなきゃ、ボクの気が済まないんだから、一緒に覚悟を決めてねっ!」
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十三宮 幸
「了解!」
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夢宮 魅咲
「こ…こちら空母『加賀』の、ゆ…夢宮みしゃでしゅっ! か…カタパルト圧力上昇、しゅ…しゅちゅげきカウントダウン開始! うぅ…何年やっても、ミサに指揮官なんて向いてないよぉ…にいしゃま助けて~」
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神田エルンスト遊火
「鷺原イズミ大尉のスーパートムキャットは、無事に発進しました。続いて、スーパーホーネット各機の射出に移ります。松山いつき少佐、出撃を許可します。はぁ…今度こそ、この戦争を終わらせれば先輩に、逢いに逝けるのかな…?」
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隊長の鵜久森ミナト大佐を先頭に、松山なつき中佐と松山いつき少佐の双子姉妹、及び鷺原イズミ大尉らが次々と離陸して行く。
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サイドワインダー伊予基地のエースは、西日本最高峰の石鎚山脈天狗岳に
因 み「天狗隊」と呼ばれ、彼女らのほかに、第一線からは退役した石本ユミカ大将が、ステルス艦載機「ライトニング」に乗って加わる事もある。 -
既に石本ユミカのほか、讃岐高松・阿波徳島・土佐高知それぞれの部隊が、各地から結集を目指して接近中との情報もあり、彼女らと共にあれば、きっと私達は…!
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間宮 文次郎 主計
「この世界にある全ての命運を懸け、諸君の幸運を祈る!」
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土御門 綺音
「国士無双にゃ」
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夢宮 魅咲
「…早く帰りたいめぅ…」
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神田エルンスト遊火
「…あー、ねみぃ…」
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土御門 綺音
「麻雀でもやるかにゃ?」
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間宮 文次郎 主計
「駄目だ!」
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土御門 綺音
(コラボを終了しました)
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鵜久森 ミナト
F/A-18E
「ハンターⅠより管制機、早くターゲットの位置情報を更新してよぉっ!」 -
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管制機 クリスタロス
E-767
「言われなくても、もうやってるわよ! 現在の針路だと、空中戦艦は上海の辺りで、成層圏から対流圏に突入し、高度を下げながら大韓共和国の上空を通過して、日本列島に墜落する軌道よ!」 -
松山 なつき
F/A-18E
「途中の国々を素通りして、わざわざ日本へと墜ちに来てくれるのってさ、底知れない悪意を感じるよね…」 -
管制機 クリスタロス
「空中戦艦スバル級の周囲に多数の新たな機影、あれは…量産型ホカネM式無人戦闘機の射出を確認! あの型式は…嘘でしょ、ベルクートの形状と一致! どうせ無断複製・無免許操縦でしょうけど、無許可でも、性能はオリジナルに匹敵するから警戒して! 全機、間も無く交戦に備えて! 発砲を許可するわ!」
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鵜久森 ミナト
「あんなのを認める気は全く無いけどさ、ボク達にとってアレが最後の敵なのは、ある意味では宿命だったのかも知れないね…さあ、今日この天空こそが全ての審判! 気合を入れて行くよ!」
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松山 なつき
「はい!!」
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鵜久森 ミナト
「私達は誰だ!?」
「誰よりも血を流したのは!?」
「誰よりも涙を流したのは!?」
「誰よりも四国と瀬戸内を愛しているのは!?」
「戦う準備はできているか!?」
「我が隊の誇りと想いを胸に! 倒すべきは■■■■■!! 行くぞぉ!!」 -
松山 なつき
「「「サイドワインダー、交戦!!」」」
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サイドワインダーの夜明けに臨む天地、その飛行機雲へと手を伸ばす、一人の聖女が居た。
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十三宮 伊豆守 聖
「…主計ちゃん、綺音ちゃん、魅咲ちゃん、エルンスト様…皆、私の弟妹、大切な我が子…あの年の夏、まだ幼かった我が子達は、今こうして、立派に成長して下さいました。最早、かつて皆から『お姉ちゃん』と慕われた私の天命は、もう既に終わったのかも知れませんね…ですが、それでも未だ残っている務めがあるとすれば…」
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かつては「帝国最後の魔女」などと畏怖され、あの大空を駆け抜けて、多くの人々を救った聖者も、今となっては車椅子から天を見上げるのが精一杯であり、助けた子弟に今度は自分が逆に助けられ、辛うじて生き長らえている。
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残された僅かな力で、車椅子から立ち上がった彼女の手には、『Planet Blue』と書かれた本が握られていた。
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その表紙は、アクアマリン・アメジスト・薔薇水晶など、
数多 の宝石鉱物で彩られている。 -
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十三宮 伊豆守 聖
「この年老いた生命が尽きる、その瞬間まで…いえ、叶うならば永遠に守り抜き、私は語り継ぎ続けるでしょう。宝石の数だけ存在する物語を、宝石と共に見届けた記憶を。それが私達…私と、あなたとの約束なのですから…!」
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そう言って、本書を開いた帝国最後の魔女…十三宮 伊豆守 聖は、いつの間にか
滴 り始めていた涙を拭い、そのうちの一滴が染み込んだ頁 を眺めた。 -
やがて眼を瞑り、次第に体が動かなくなり、だんだん冷たくなる感触を覚えながら、十三宮聖は想った。
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十三宮 伊豆守 聖
「十三宮 伊豆守 聖、父なる
天主 の神様に申し上げます。この私が賜った世界において、最期に追憶すべき事があるとすれば、それは誇らしく愛 しき家族との出逢い、そして…30年前の『あの日』なのだと思います。amen 」 -
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2649年…あの年の夏は、いつにも増して暑く、そして熱かった…。
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