一年生
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驚いたハリーが声を張り上げた。
その声に反応したように、トロールは急に暴れだし、ロンへ向かって棍棒を振り上げる。
ロンは呆然とトロールを見上げる。
ハリーは走り、ジャンプすると、トロールの後頭部に張り付いた。
トロールはハリーを振り離そうと、ぶるぶると頭を振る。
ハリーも一緒に揺さぶられ、しかし飛ばされまいとしがみつく。
その拍子に、手に持っていたままのハリーの杖が、ずぶっとトロールの鼻の中へ奥深く突き刺さってしまった。
痛みも加わりトロールの暴れ様は激しさを増す。
ロンはとっさに杖を持ち上げ、トロールへ向けて呪文を叫んだ。
「ウィンガーディアム レビオーサ!」
トロールの手から棍棒がするりと抜けて、空中に浮かんだ。
天井近くまでふわふわ飛んだかと思うと、ぴたっと止まる。
トロールがゆっくりと天井を見上げた。
ごちん。
棍棒はトロールの脳天に落っこちた。
ばたんとうつぶせに倒れる。
一瞬、地面が揺れた。
「これ……死んだの?」
震えた声でハーマイオニーが言う。
「いや、ノックアウトされただけだと思う。」
ハリーは自信無さげに答えると、トロールの鼻に刺さった自分の杖を引き抜く。
鼻水が糸を引いた。
ハリーが顔を顰めて、トロールのぼろ切れでそれを拭いていると、何やら廊下の方からばたばたと慌ただしい足音がする。
三人が振り向くと、そこにはマクゴナガル、スネイプ、クィレルの三人の教師の姿があった。
「先生!助けてください!ナマエが!ナマエが…!」
泣き叫ぶようにハーマイオニーが言う。
「落ち着きなさい、Ms.グレンジャー!
Mr.ミョウジはどこにいるのです?」
マクゴナガルは瞬時に物事を理解したようで、はっと息を呑む。
顔は青ざめている。
他の二人の教師も、ハーマイオニーが指差す壊れたトイレの床にうっすらと散った赤色に、次第に事態を把握する。
血だ。
理解したハリーは急激に血の気が引いて一瞬目の前が暗くなった。
ふらつく足を叱咤し無理矢理ハリーは走り、瓦礫と化した陶器製のトイレの破片を夢中で掻き分ける。
ロンも一足遅れて、ハリーの後に続いた。
破けたローブが床に落ち、陶器の破片の下敷きになっている。
破片を掘り返す手が震えてくる。
心臓が早鐘を打って気分が悪かった。
破片で掌や指先が切れるが、構わず続ける。
骨張った大きな手が見えた。
「「ナマエ!!」」
『あ、
………ハリー、ロン。』
「『あ、』じゃないよ!」
「ナマエ、大丈夫かい?」
掌で顔を覆った名前は、ハリーの問い掛けに、指の間から目を覗かせて頷いた。
意識がはっきりしている様子の名前を見て、教師達とハーマイオニーがホッと安堵する。
それでもハリーとロンは憂わしい表情を浮かべて、名前を覆う陶器の破片を手で払う。
ハリーは気遣わしそうに名前の顔を覗き込んだ。
「本当に大丈夫?じゃあ、何で鼻を押さえてるの?」
『、………鼻血。』
「鼻血?」
『壁に、顔を、ぶつけたんだ。』
「何で壁なんかに顔をぶつけるのさ?」
『トロールの棍棒を避けるために、ローブを使って、……
軸をずらしたんだ。それで、…今だと思って、走って、振り向いたら壁が…あって。』
「「……………。」」
『避けることに、夢中だった。』
掌に覆われた口元から発せられる名前の声は、いつもより小さく聞こえた。
危機的状況にあったにも関わらずいつもの無表情だ。
しかしその顎先からは鼻血が伝い続けてシャツにシミを作り、埃まみれの猫の耳と尻尾が不規則に動いている。
真面目で深刻な場面であるはずなのに本人に意図せず不真面目な要素が加わった為、教師達もどのような態度で接すれば良いか顔を見合わせて若干迷っていた。
ゴホン。
小さく咳払いをして、マクゴナガルが口を開いた。
「大事なく済んだから良いものの、少しでも間違えば生きてはいなかったのですよ。Mr.ミョウジ。」
『ごめんなさい。』
「まったく。一体全体、あなた方はどういうつもりなんですか。」
マクゴナガルは四人を見渡し、憤然といった様子で言った。
「………」
「殺されなかったのは運がよかった。
寮にいるべきあなた方が、どうしてここにいるんですか?」
マクゴナガルの声はあくまで落ち着いたものだったが、いつ怒鳴り声に変わってもおかしくない程に緊張感があった。
いっそのこと怒鳴られた方が楽だったかもしれない。
緊張感が見えない糸のように身体を締め付ける。
スネイプがじろりと睨むようにハリーを見た。
その目と目が合ってしまったので、ハリーは俯いて自分の爪先を見た。
ロンは固まっている。
名前は居心地悪そうに半分瓦礫に埋もれながら身動ぎしている。
「マクゴナガル先生。聞いてください。
───三人とも、私を探しに来たんです。」
「Ms.グレンジャー!」
「私がトロールを探しに来たんです。私……
私一人でやっつけられると思いました。あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知ってたので。」
ハリーとロンは勢いよくハーマイオニーを見て、今度は互いに顔を見合わせた。
そんな態度を見せれば勘の良い教師陣に嘘と見破られてしまう。
二人は驚いていた。だが、そうだという顔を装った。
ハーマイオニーは明らかに名前達三人を庇っている。
そのために、教師や規則に対して忠実なあのハーマイオニーが、真っ赤な嘘を吐いている。
「もし三人が私を見つけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。
ナマエは私を守ってくれて、ハリーは杖をトロールの鼻に刺し込んでくれ、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。
三人とも誰かを呼びにいく時間がなかったんです。
三人が来てくれた時は、私、もう殺される寸前で……」
「なんと愚かしいことを。
たった一人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんなことをどうして考えたのですか?」
「………。」
「Ms.グレンジャー、グリフィンドールから五点減点です。あなたには失望しました。
怪我がないのならグリフィンドール塔に帰った方がよいでしょう。
生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを寮でやっています。」
ハーマイオニーはちらりと心配そうに名前を見た。
名前は『大丈夫だ』とでも言う風に頷いた。
それでも心配そうにしていたが、マクゴナガルに視線で促されてしまい、仕方なしに女子トイレを出ていった。
それを見届けてから、マクゴナガルはハリーとロンに向き直る。
名前は瓦礫から何とか抜け出し、トロールの棍棒によって破けたローブを拾い集めていた。
「先程も言いましたが、あなたたちは運がよかった。
でも大人の野生トロールと対決できる一年生はそうざらにはいません。一人五点ずつあげましょう。
ダンブルドア先生にご報告しておきます。帰ってよろしい。」
マクゴナガルに促され、ロンが廊下へ向かって歩き出した。
ハリーはそれに続き、名前の腕を引っ張る。
しかし名前は、掴む手をやんわりと離した。
そして、ゆるりと頭を振る。
「ごめん、まだローブを集めきってなかった?」
『うん。』
「手伝うよ。」
『大丈夫。先に行って。』
「でも……」
「Mr.ポッター、ここには他の先生方もいます。心配でしょうが、あなたは先に帰りなさい。」
「……はい。分かりました。」
「スネイプ先生、クィレル先生。私は生徒を寮まで届けますので、Mr.ミョウジをよろしくお願いします。」
心配そうなハリーの肩に手を置いて、マクゴナガルは女子トイレからハリーを連れて出て行った。
二人を目で追った名前だったが、スネイプとクィレルの二人から刺すような視線を送られている事に気が付いた。
さっさと名前がローブの破片を集め切らないと二人も動けないのだろう。
そう思ってか、名前は急いでローブを探す。
何もせずに黙って見られている。
気まずくて顔は上げられなかった。
キョロキョロと辺りを見回してローブの破片が見当たらない事を確認して、名前はようやく顔を上げた。
仏頂面のスネイプと、引きつったような笑みを浮かべるクィレルが立っている。
「わ、私が、と、トロールを森に返すから、き、君はり、寮に帰りなさい。」
『……はい。分かりました。』
スネイプはちらりとクィレルを見遣った後、大股でトイレを出ていく。
名前はクィレルとスネイプを交互に見つめ、少し固まってから、つんのめりながらも、小走りでスネイプの後を追った。
そんなに距離は離れていなくて、すぐにその背中に追い付いた。
名前は目の前にある黒い頭を見上げる。
(見上げると言っても、ほんの頭一個分くらいだが)
「医務室に行かなくていいのかね。Mr.ミョウジ。」
『…鼻血程度ですから。、…
スネイプ先生。』
「何だね?」
『……先生、大丈夫でしょうか。さっき、あんなに…驚いていたのに。』
「…奴は仮にも教師という役職にある。気にする必要はない。」
『…そうですね。あの、……』
「今度は何だね。」
『……あの、脚大丈夫ですか。…』
スネイプが足を止めた。
いきなり止まられては此方も止まれない。
名前はスネイプの背中に鼻血だらけの鼻をぶつけてしまった。
慌てて鼻を押さえながら謝るが、それについて何か文句を言う気配がない。
スネイプが振り向いた。
眉間にある深い溝が、いつもより深い気がする。
「気付いていたのか。」
『…。』
頷く。
「なんとも目敏いやつだ。」
『あの、差し出がましいとは思うのですが、…手当てはされたのですか。』
「君が気にする必要はない。ミョウジ。」
『…、病気になったら、大変です。』
「……。」
『、あの…』
「………。」
『これ、使わないようでしたら、捨ててください。…よかったら。』
「これは何だね?」
『…。薬です。』
「そんな事は見れば分かる。どういうつもりかと聞いているのだ。」
『…先生の作る薬が、俺に作れるはずがないのはわかっています…。でも、………ただ、いつも持ち歩いているもので、その…、…先生に何かできたら、と、思って、あの、お礼で………』
そう話す名前を、スネイプはじーっと睨むように見詰めている。
スネイプの視線にだんだんと緊張感が増してきたらしい。
話しているうちに何が言いたいのか、どのような言葉を選べば良いか分からなくなってきた。
口を閉じた名前は、一拍置いてまた口を開いた。
『いらなかったら捨ててください。失礼します。…』
名前は抑揚の無い声ではっきりそれだけ言うと、スネイプの手に軟膏の入った缶を押し付けた。
そしていつもの姿からは想像もつかないほどの機敏な動作でユーターンをして、全速力で女子トイレ前の廊下を駆け、角を曲がって姿を消した。
これでは言い逃げだ。
残されたスネイプは、あまりの速さに固まっている。
後に目を細め、深く深く、溜め息を吐いた。
前に向き直り、名前とは逆方向に歩き出す。
あれだけ素早い動作にも関わらず、名前の後ろ姿は、奇妙にもはっきりと瞼の裏に焼き付いている。
というか、奇妙な姿だったと、スネイプは思う。
名前はスネイプの言い付けを守って、走る時まで背筋を伸ばして器用にも体勢を崩さなかったからだ。
スネイプは掌に収まる軟膏入りの缶を懐にしまった。
幸か不幸か。
名前の奇妙な姿を見せられて、スネイプの頭の中から皮肉に込める為の熱は去ってしまったらしい。
その声に反応したように、トロールは急に暴れだし、ロンへ向かって棍棒を振り上げる。
ロンは呆然とトロールを見上げる。
ハリーは走り、ジャンプすると、トロールの後頭部に張り付いた。
トロールはハリーを振り離そうと、ぶるぶると頭を振る。
ハリーも一緒に揺さぶられ、しかし飛ばされまいとしがみつく。
その拍子に、手に持っていたままのハリーの杖が、ずぶっとトロールの鼻の中へ奥深く突き刺さってしまった。
痛みも加わりトロールの暴れ様は激しさを増す。
ロンはとっさに杖を持ち上げ、トロールへ向けて呪文を叫んだ。
「ウィンガーディアム レビオーサ!」
トロールの手から棍棒がするりと抜けて、空中に浮かんだ。
天井近くまでふわふわ飛んだかと思うと、ぴたっと止まる。
トロールがゆっくりと天井を見上げた。
ごちん。
棍棒はトロールの脳天に落っこちた。
ばたんとうつぶせに倒れる。
一瞬、地面が揺れた。
「これ……死んだの?」
震えた声でハーマイオニーが言う。
「いや、ノックアウトされただけだと思う。」
ハリーは自信無さげに答えると、トロールの鼻に刺さった自分の杖を引き抜く。
鼻水が糸を引いた。
ハリーが顔を顰めて、トロールのぼろ切れでそれを拭いていると、何やら廊下の方からばたばたと慌ただしい足音がする。
三人が振り向くと、そこにはマクゴナガル、スネイプ、クィレルの三人の教師の姿があった。
「先生!助けてください!ナマエが!ナマエが…!」
泣き叫ぶようにハーマイオニーが言う。
「落ち着きなさい、Ms.グレンジャー!
Mr.ミョウジはどこにいるのです?」
マクゴナガルは瞬時に物事を理解したようで、はっと息を呑む。
顔は青ざめている。
他の二人の教師も、ハーマイオニーが指差す壊れたトイレの床にうっすらと散った赤色に、次第に事態を把握する。
血だ。
理解したハリーは急激に血の気が引いて一瞬目の前が暗くなった。
ふらつく足を叱咤し無理矢理ハリーは走り、瓦礫と化した陶器製のトイレの破片を夢中で掻き分ける。
ロンも一足遅れて、ハリーの後に続いた。
破けたローブが床に落ち、陶器の破片の下敷きになっている。
破片を掘り返す手が震えてくる。
心臓が早鐘を打って気分が悪かった。
破片で掌や指先が切れるが、構わず続ける。
骨張った大きな手が見えた。
「「ナマエ!!」」
『あ、
………ハリー、ロン。』
「『あ、』じゃないよ!」
「ナマエ、大丈夫かい?」
掌で顔を覆った名前は、ハリーの問い掛けに、指の間から目を覗かせて頷いた。
意識がはっきりしている様子の名前を見て、教師達とハーマイオニーがホッと安堵する。
それでもハリーとロンは憂わしい表情を浮かべて、名前を覆う陶器の破片を手で払う。
ハリーは気遣わしそうに名前の顔を覗き込んだ。
「本当に大丈夫?じゃあ、何で鼻を押さえてるの?」
『、………鼻血。』
「鼻血?」
『壁に、顔を、ぶつけたんだ。』
「何で壁なんかに顔をぶつけるのさ?」
『トロールの棍棒を避けるために、ローブを使って、……
軸をずらしたんだ。それで、…今だと思って、走って、振り向いたら壁が…あって。』
「「……………。」」
『避けることに、夢中だった。』
掌に覆われた口元から発せられる名前の声は、いつもより小さく聞こえた。
危機的状況にあったにも関わらずいつもの無表情だ。
しかしその顎先からは鼻血が伝い続けてシャツにシミを作り、埃まみれの猫の耳と尻尾が不規則に動いている。
真面目で深刻な場面であるはずなのに本人に意図せず不真面目な要素が加わった為、教師達もどのような態度で接すれば良いか顔を見合わせて若干迷っていた。
ゴホン。
小さく咳払いをして、マクゴナガルが口を開いた。
「大事なく済んだから良いものの、少しでも間違えば生きてはいなかったのですよ。Mr.ミョウジ。」
『ごめんなさい。』
「まったく。一体全体、あなた方はどういうつもりなんですか。」
マクゴナガルは四人を見渡し、憤然といった様子で言った。
「………」
「殺されなかったのは運がよかった。
寮にいるべきあなた方が、どうしてここにいるんですか?」
マクゴナガルの声はあくまで落ち着いたものだったが、いつ怒鳴り声に変わってもおかしくない程に緊張感があった。
いっそのこと怒鳴られた方が楽だったかもしれない。
緊張感が見えない糸のように身体を締め付ける。
スネイプがじろりと睨むようにハリーを見た。
その目と目が合ってしまったので、ハリーは俯いて自分の爪先を見た。
ロンは固まっている。
名前は居心地悪そうに半分瓦礫に埋もれながら身動ぎしている。
「マクゴナガル先生。聞いてください。
───三人とも、私を探しに来たんです。」
「Ms.グレンジャー!」
「私がトロールを探しに来たんです。私……
私一人でやっつけられると思いました。あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知ってたので。」
ハリーとロンは勢いよくハーマイオニーを見て、今度は互いに顔を見合わせた。
そんな態度を見せれば勘の良い教師陣に嘘と見破られてしまう。
二人は驚いていた。だが、そうだという顔を装った。
ハーマイオニーは明らかに名前達三人を庇っている。
そのために、教師や規則に対して忠実なあのハーマイオニーが、真っ赤な嘘を吐いている。
「もし三人が私を見つけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。
ナマエは私を守ってくれて、ハリーは杖をトロールの鼻に刺し込んでくれ、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。
三人とも誰かを呼びにいく時間がなかったんです。
三人が来てくれた時は、私、もう殺される寸前で……」
「なんと愚かしいことを。
たった一人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんなことをどうして考えたのですか?」
「………。」
「Ms.グレンジャー、グリフィンドールから五点減点です。あなたには失望しました。
怪我がないのならグリフィンドール塔に帰った方がよいでしょう。
生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを寮でやっています。」
ハーマイオニーはちらりと心配そうに名前を見た。
名前は『大丈夫だ』とでも言う風に頷いた。
それでも心配そうにしていたが、マクゴナガルに視線で促されてしまい、仕方なしに女子トイレを出ていった。
それを見届けてから、マクゴナガルはハリーとロンに向き直る。
名前は瓦礫から何とか抜け出し、トロールの棍棒によって破けたローブを拾い集めていた。
「先程も言いましたが、あなたたちは運がよかった。
でも大人の野生トロールと対決できる一年生はそうざらにはいません。一人五点ずつあげましょう。
ダンブルドア先生にご報告しておきます。帰ってよろしい。」
マクゴナガルに促され、ロンが廊下へ向かって歩き出した。
ハリーはそれに続き、名前の腕を引っ張る。
しかし名前は、掴む手をやんわりと離した。
そして、ゆるりと頭を振る。
「ごめん、まだローブを集めきってなかった?」
『うん。』
「手伝うよ。」
『大丈夫。先に行って。』
「でも……」
「Mr.ポッター、ここには他の先生方もいます。心配でしょうが、あなたは先に帰りなさい。」
「……はい。分かりました。」
「スネイプ先生、クィレル先生。私は生徒を寮まで届けますので、Mr.ミョウジをよろしくお願いします。」
心配そうなハリーの肩に手を置いて、マクゴナガルは女子トイレからハリーを連れて出て行った。
二人を目で追った名前だったが、スネイプとクィレルの二人から刺すような視線を送られている事に気が付いた。
さっさと名前がローブの破片を集め切らないと二人も動けないのだろう。
そう思ってか、名前は急いでローブを探す。
何もせずに黙って見られている。
気まずくて顔は上げられなかった。
キョロキョロと辺りを見回してローブの破片が見当たらない事を確認して、名前はようやく顔を上げた。
仏頂面のスネイプと、引きつったような笑みを浮かべるクィレルが立っている。
「わ、私が、と、トロールを森に返すから、き、君はり、寮に帰りなさい。」
『……はい。分かりました。』
スネイプはちらりとクィレルを見遣った後、大股でトイレを出ていく。
名前はクィレルとスネイプを交互に見つめ、少し固まってから、つんのめりながらも、小走りでスネイプの後を追った。
そんなに距離は離れていなくて、すぐにその背中に追い付いた。
名前は目の前にある黒い頭を見上げる。
(見上げると言っても、ほんの頭一個分くらいだが)
「医務室に行かなくていいのかね。Mr.ミョウジ。」
『…鼻血程度ですから。、…
スネイプ先生。』
「何だね?」
『……先生、大丈夫でしょうか。さっき、あんなに…驚いていたのに。』
「…奴は仮にも教師という役職にある。気にする必要はない。」
『…そうですね。あの、……』
「今度は何だね。」
『……あの、脚大丈夫ですか。…』
スネイプが足を止めた。
いきなり止まられては此方も止まれない。
名前はスネイプの背中に鼻血だらけの鼻をぶつけてしまった。
慌てて鼻を押さえながら謝るが、それについて何か文句を言う気配がない。
スネイプが振り向いた。
眉間にある深い溝が、いつもより深い気がする。
「気付いていたのか。」
『…。』
頷く。
「なんとも目敏いやつだ。」
『あの、差し出がましいとは思うのですが、…手当てはされたのですか。』
「君が気にする必要はない。ミョウジ。」
『…、病気になったら、大変です。』
「……。」
『、あの…』
「………。」
『これ、使わないようでしたら、捨ててください。…よかったら。』
「これは何だね?」
『…。薬です。』
「そんな事は見れば分かる。どういうつもりかと聞いているのだ。」
『…先生の作る薬が、俺に作れるはずがないのはわかっています…。でも、………ただ、いつも持ち歩いているもので、その…、…先生に何かできたら、と、思って、あの、お礼で………』
そう話す名前を、スネイプはじーっと睨むように見詰めている。
スネイプの視線にだんだんと緊張感が増してきたらしい。
話しているうちに何が言いたいのか、どのような言葉を選べば良いか分からなくなってきた。
口を閉じた名前は、一拍置いてまた口を開いた。
『いらなかったら捨ててください。失礼します。…』
名前は抑揚の無い声ではっきりそれだけ言うと、スネイプの手に軟膏の入った缶を押し付けた。
そしていつもの姿からは想像もつかないほどの機敏な動作でユーターンをして、全速力で女子トイレ前の廊下を駆け、角を曲がって姿を消した。
これでは言い逃げだ。
残されたスネイプは、あまりの速さに固まっている。
後に目を細め、深く深く、溜め息を吐いた。
前に向き直り、名前とは逆方向に歩き出す。
あれだけ素早い動作にも関わらず、名前の後ろ姿は、奇妙にもはっきりと瞼の裏に焼き付いている。
というか、奇妙な姿だったと、スネイプは思う。
名前はスネイプの言い付けを守って、走る時まで背筋を伸ばして器用にも体勢を崩さなかったからだ。
スネイプは掌に収まる軟膏入りの缶を懐にしまった。
幸か不幸か。
名前の奇妙な姿を見せられて、スネイプの頭の中から皮肉に込める為の熱は去ってしまったらしい。