一年生
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スネイプの罰則残り一週間を突然無しにされた日から、あっという間に二ヶ月が経過した。
初めの内は落ち込んでいた様子で、名前は考えに耽る事が多かった。
しかし授業ではスネイプが普段通りに振る舞っていたので、そのうち名前も普段通りに戻った。
新入生である名前達は迷路のような城内を移動教室の度に走り回り、二ヶ月も経つとさすがに慣れてきたようだ。
授業に遅れたりせず、教室の位置も把握が出来ている。
勉強も積み重ねやっていくうちに段々と理解できるようになってきたので、面白く感じて授業を待ち望む生徒もぽつぽつ現れた。
名前にとって勉強や授業など学びの時間は楽しみだった。
そして友人であるハリーが行うクィディッチの練習の見学も、学校生活での楽しみのひとつだった。
自分で飛行するのももちろん楽しいが、見るのも楽しい。
特にクィディッチの選手に選ばれただけにハリーの飛行指導は熱が入っており、眺めていると迫力満点で映画を見ているようなのだ。
それに、ひゅんひゅんと風を切って、小さなスニッチを追い掛けるハリーの一生懸命な姿を見るのが、名前の何よりも大好きな事だった。
もうすぐクィディッチの試合もある。
絶対に応援しようと、名前は密かに考えている。
『かぼちゃ。』
「うわ!ナマエかい?
朝からびっくりさせないでよ。」
「おはようナマエ。
それより、その格好なに?どうしたの?」
『起きたらこうだった。
それで、これ…枕元に。』
「なに?手紙?………
『親愛なるナマエ・ミョウジ殿
私達からのささやかな贈り物でございます。
<猫被り>気に入っていただければ幸いです。
from 二人のWより』………」
「二人のWだって?」
『ロン、心当たりあるの。俺は誰なのか分からなくて。』
「うん、絶対に兄貴たちだよ。ナマエ、僕には何人も兄弟がいるんだけれど、これはその中の双子の兄貴たちの仕業だ。
まったく!これはふざけていい限度を超えているよ。僕の友達だからちょっかいかけていいと思っているんだ。
今度会ったら殴ってやる。ごめんよ、ナマエ。」
『いや、平気…。でも、どれくらいで元通りになるのかな。』
「ごめん、それは僕にも分からない……。」
『そっか。』
そう言うなり椅子にどっさりと腰掛けて、名前はいつも通りミルクを手に取りゴブレットに注ぐ。
周囲から突き刺さる生徒や教師の視線をものともせず、パンやサラダを更に取り分けて、優雅にのんびりと朝食を摂り始めた。
ロンの双子の兄達の悪戯によって、中途半端な猫の姿に変えられてしまっているのにだ。
あるはずの人間の耳は無くて、代わりに黒いとがった三角形の耳が頭上で主張している。
ローブの下からは僅かにだが、黒い尻尾が覗いており、不規則にゆらゆらと揺れている。
そして本人はこの姿も、周囲の注目も気にしていない。
マイペースに朝食を摂り進める名前の姿は、まるっきり『猫』だった。
少なくとも、隣に座るハリーとロンにはそう見えた。
一体どのくらいで効果が切れるのだろう?
無遠慮に注がれる視線の雨から顔を背け、ハリーとロンは素早く朝食をたいらげて、大広間から名前を連れ出した。
二人は名前を間に挟み隠すように歩いたが、名前の背が抜きん出て高い為に全く意味をなしていない。
そのまま構わず『妖精の魔法』の授業へ向かうと、担当のフリットウィック先生は目を見開いて名前の姿を眺めていた。
ハリーとロンが説明すると納得がいったらしく、それ以降は何も聞かなかったが。
(フリットウィック先生も、かなりウィーズリーの双子に手を焼いているようだ)
「さぁ、今まで練習してきたしなやかな手首の動かし方を思い出して。
ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。
呪文を正確に、これもまた大切ですよ。覚えてますね、あの魔法使いバルッフィオは、『f』でなく『s』の発音をしたため、気がついたら、自分が床に寝転んでバッファローが自分の胸に乗っかっていましたね。」
フリットウィックは慣れた様子でテキパキと生徒を二人組みにして練習をさせる。
奇数であるためか、名前はまた一人で練習をやることになった。
こちらも慣れた様子だ。
「オーッ、よくできました!皆さん、見てください。
グレンジャーさんがやりました!アッ、ミョウジくんもです!すばらしい!」
いきなり名前を呼ばれたせいか、名前は浮遊させていた教科書を自分の頭へ落下させてしまった。
皆が吹き出しどっと笑う。
名前は大きな身を縮こまらせて顔を俯けた。
同じく名指しされたハーマイオニーを横目で見ると、皆と同じ様に笑っていた。
それでも浮遊させている羽は落ちていない。
(すごい集中力だ、と名前は思ったとか)
そこで一人、笑っていない人がいるのに気付く。
その人は何か憎しみでも抱いているかのように顔を歪めていて、名前の失敗など見ていなかったみたいだった。
「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。
まったく悪夢みたいなヤツさ。」
授業が終わってから、ロンはずっとこの調子だった。
人混みの中をするすると歩きながら、ロンはハーマイオニーの文句ばかりを言う。
ハーマイオニーのどこがそんなにも気に食わないのか、名前には分からない。
しかしどんなに親しくても喧嘩をしたり、苛立ったりする事はあるだろうと、名前は口を挟まず聞いていた。
ロンはぶつぶつと文句を言い続けている。
すると後ろから誰かがハリーにぶつかり、早足で追い越していった。
ハーマイオニーだった。
一瞬見えた横顔は、俯いていたが泣いているように見えた。
それを見た三人は足を止めて暫し呆然とした。
「今の、聞こえてたみたい。」
「それがどうした?
誰も友達がいないってことは、とっくに気が付いているだろうさ。」
『ロン。』
「何?ナマエ。」
『…ハーマイオニーは、俺の友達だ。』
表情に乏しく、何を話し掛けても声色を変えない、普段何を考えているのか分からない、ポーカーフェイスの名前が、微かに眉根を寄せてロンを睨んでいる。
そのちょっとした表情の変化が、顔の作りと長身のせいでとてつもなく冷淡に見える。
見下ろす涼しげな目元から軽蔑すら向けられている気がする。
名前の怒りを感じ取ったロンは、その剣幕にたじたじとなった。
何も言えなくなったロンからすいと視線を外し、名前はハーマイオニーが向かった方へ走り出す。
小さくなっていく名前の姿を、ハリーとロンは呆然と見つめ続けた。
『…………。』
追い掛けて追い掛けて、名前は女子トイレに来ていた。
何の躊躇もなしにドアを開けてしまってから、少し固まる。
息が乱れてハアハア言う男が、女子トイレに入ろうとしている。
客観的に見て犯罪行為だ。
それでも名前は荒い呼吸を無理矢理押さえ付けて、女子トイレからする物音に耳を澄ませた。
(これも犯罪行為だ)
個室の方から時折鳴咽や洟を啜り上げるか細い音がする。
女子トイレにいるのはハーマイオニー一人だけのようだ。
ややあってから一歩、足を踏み入れる。
音がする方向───ハーマイオニーがいるであろう個室の前に立つ。
ドアを見詰めて、名前は口を開けた。しかし閉じてしまった。
開き、閉じ、開き。何度も同じ事を繰り返す。
やがてゆっくり俯くと、じっと自分の足元を見つめた。
「………誰?」
かすれた、か細いハーマイオニーの声が聞こえた。
名前は勢いよく顔を上げ、トイレのドアを見つめる。
『……ハーマイオニー。』
「………ナマエ?」
『うん…。』
「悪いけど、一人にしてくれる。
それにここ、女子トイレよ。早く出ていった方がいいわ。」
『そうだね。でも…俺は…。』
「お願いだからほっといて!私のことなんて…!」
『………』
いつも明るくて、真面目で、冷静なハーマイオニーが、泣きじゃくっている。
分け隔てなく接してくれたハーマイオニーが、今は冷たく突き放している。
名前はしばらくドアを見詰めて、やがて俯いた。
自分の対応が間違っていた事を後悔していたのだ。
ロンが悪口を言っているその時に、ハーマイオニーは自分の友人だから悪く言わないで欲しいと伝えるべきだったのだ。
そうしていればこんなにもハーマイオニーが傷付く事は無かっただろうに。
『俺は、ハーマイオニーと……
…友達で良かったと思っている。』
「………」
『俺は、ハーマイオニーことが好きだ。』
ハーマイオニーはとても傷付いていて、名前に対しても失望している事だろう。
今更何を言っても遅いかもしれない。
けれどハーマイオニーに自分の気持ちを何とか伝えたかった。
自分勝手でも、無駄な事だとしても。
願わくば。
傷付けた事を謝りたかった。
仲直りがしたかった。
頭の中でグルグルと思考が巡り続ける。
何から話すべきか。どのような言葉を選ぶべきか。
焦って混乱してしまう。
名前はドアに向かって続けた。
『俺は、笑わないし、何も話さない。…いつも避けられる。
…それは、ハーマイオニーも知ってると思う。
でも……だから、
ハーマイオニーが話し掛けてくれたとき、嬉しかった。…』
「………」
『……誰かに好かれれば、誰かに嫌われる。好きな人でも、嫌いなところがある。そう思っていたから、あの場で、何も言わなかった。ごめん。言わなきゃいけなかった。本当にごめんなさい……。
でも、俺は、ハーマイオニーが好きだ。』
「………」
『でも、ハーマイオニーは、』
「………」
『………ハーマイオニーは、俺のこと…
嫌いに、…なったと、思うけど……でも、俺は…それでも……。』
ドアの向こうからは何も言葉が返ってこない。
名前は下唇を噛む。
後悔が波のように胸へ押し寄せて渦巻いている。
俯き、じっと爪先を見詰めた。
突然ドアが開いた。
そして押し倒す勢いでハーマイオニーが抱きついた。
わあわあと泣き叫んで、名前の体に腕を精一杯回して、しがみつく。
名前はホールドアップの体勢で固まっている。
いきなりの事で対処が出来ないらしい。
「嫌いなんてことないわ、ナマエ。好きよ。もちろん。大事なお友達だもの。」
『ハーマイオニー……本当にごめんなさい。』
「いいの……あなたは自分の行動が間違っていると思って、わざわざ追い掛けてくれたんでしょう?」
『うん、でも……とても酷い事をした。』
「いいのよ、今回は特別に許してあげる。」
『…ありがとう。』
「私、…私は間違っていた?…ただ、間違ってるのを教えてあげたかっただけなの。馬鹿にするつもりなんてなかったのよ。」
『うん……。勘違い、されやすいだけだ。
…俺も、そう。』
「ナマエと一緒?」
『うん…。』
ハーマイオニーは名前を見上げてふっと笑った。
笑顔を向けてくれてホッと安堵をする。
しかし、随分泣いたのだろう。鼻と目元が真っ赤だ。
名前の胸にまた後悔の波が押し寄せる。
ふと、名前が顔を上げた。
ひくひくと鼻を動かす。
そして、廊下へと目を向けた。
『…………
ハーマイオニー、後ろ振り向かないで。落ち着いて、聞いてほしい。』
「?…どうしたの?」
『…トロールがいる。でも、こっちには気付いていない。』
「トロールが!?」
『ハーマイオニー、しっ。』
「あ……ごめんなさい。びっくりして……。」
その後、ハーマイオニーの言葉が続かなかった。
トロールが女子トイレに入ってきたのだ。
二人の声に反応したのか、ただ単にトイレが目に留まっただけかもしれないが。
トロールは二人の姿を見付けるやいなや、棍棒を振り回した。
とっさにハーマイオニーを抱き締めて身を躱す。
棍棒を振り落とされたトイレが、紙屑のように散った。
目を見開いてその光景を見るハーマイオニーの体は震え、叫び出しそうな唇をぎゅっと噛んでいる。
この狭いトイレで棍棒を振り回されたり、トロールに動かれると、逃げ場が殆ど無いくらいに占拠されてしまう。
しかし幸い緩慢だ。
名前はそっと、ハーマイオニーを抱いたまま、忍び足で出口に向かって走り出した。
ドアノブに手を伸ばす。
直後、鍵のかかる音が響いた。
『…!』
「ナマエ!トロールが!!」
『!』
名前は振り向く。すぐ目の前に、棍棒がある。
避けようとするが、棍棒はそれを追い掛けてくる。
名前はハーマイオニーを棍棒の落ちる範囲外へ突き飛ばした。
直後、辺りにはタイルの破片や壊れた配水管の水が飛び散った。
「きゃあああああああ!!!!!」
ハーマイオニーの悲鳴は女子トイレを越えて廊下まで響き渡った。
女子トイレ前の廊下の曲がり角まで走り戻ってきたハリーとロンは、二人そろって顔を青褪めさせた。
また、トイレに向かって走り出す。
女子トイレのドアに鍵をかけたのは、この二人だった。
「「ハーマイオニー!」」
「!
ハリー!ロン!」
「まずい、あいつ、ハーマイオニーを狙ってる!」
「なんとかこっちに引き付けるんだ!」
ハリーは大声を張り上げると、トロールが壊した洗面台の蛇口を拾い、壁に叩きつけた。
トロールは振り向き、ハリーたちの存在に気付く。
標的をハリーに変えたようで、のろのろと棍棒を振り上げると、ハリーに近付いてきた。
「やーい、ウスノロ!」
ロンは洗面台の破片をトロールに目掛けて投げつけた。
破片は見事トロールの後頭部に命中する。
トロールはロンの方へ目をやった。意識がロンに向いたようだ。
ハリーはその隙に、トロールの背後へ回りこみ、震えるハーマイオニーの手を引っ張る。
「早く、走れ、走るんだっ!」
「ああ、ハリー、ナマエが…ナマエが…!」
「ナマエがいるの!?」
初めの内は落ち込んでいた様子で、名前は考えに耽る事が多かった。
しかし授業ではスネイプが普段通りに振る舞っていたので、そのうち名前も普段通りに戻った。
新入生である名前達は迷路のような城内を移動教室の度に走り回り、二ヶ月も経つとさすがに慣れてきたようだ。
授業に遅れたりせず、教室の位置も把握が出来ている。
勉強も積み重ねやっていくうちに段々と理解できるようになってきたので、面白く感じて授業を待ち望む生徒もぽつぽつ現れた。
名前にとって勉強や授業など学びの時間は楽しみだった。
そして友人であるハリーが行うクィディッチの練習の見学も、学校生活での楽しみのひとつだった。
自分で飛行するのももちろん楽しいが、見るのも楽しい。
特にクィディッチの選手に選ばれただけにハリーの飛行指導は熱が入っており、眺めていると迫力満点で映画を見ているようなのだ。
それに、ひゅんひゅんと風を切って、小さなスニッチを追い掛けるハリーの一生懸命な姿を見るのが、名前の何よりも大好きな事だった。
もうすぐクィディッチの試合もある。
絶対に応援しようと、名前は密かに考えている。
『かぼちゃ。』
「うわ!ナマエかい?
朝からびっくりさせないでよ。」
「おはようナマエ。
それより、その格好なに?どうしたの?」
『起きたらこうだった。
それで、これ…枕元に。』
「なに?手紙?………
『親愛なるナマエ・ミョウジ殿
私達からのささやかな贈り物でございます。
<猫被り>気に入っていただければ幸いです。
from 二人のWより』………」
「二人のWだって?」
『ロン、心当たりあるの。俺は誰なのか分からなくて。』
「うん、絶対に兄貴たちだよ。ナマエ、僕には何人も兄弟がいるんだけれど、これはその中の双子の兄貴たちの仕業だ。
まったく!これはふざけていい限度を超えているよ。僕の友達だからちょっかいかけていいと思っているんだ。
今度会ったら殴ってやる。ごめんよ、ナマエ。」
『いや、平気…。でも、どれくらいで元通りになるのかな。』
「ごめん、それは僕にも分からない……。」
『そっか。』
そう言うなり椅子にどっさりと腰掛けて、名前はいつも通りミルクを手に取りゴブレットに注ぐ。
周囲から突き刺さる生徒や教師の視線をものともせず、パンやサラダを更に取り分けて、優雅にのんびりと朝食を摂り始めた。
ロンの双子の兄達の悪戯によって、中途半端な猫の姿に変えられてしまっているのにだ。
あるはずの人間の耳は無くて、代わりに黒いとがった三角形の耳が頭上で主張している。
ローブの下からは僅かにだが、黒い尻尾が覗いており、不規則にゆらゆらと揺れている。
そして本人はこの姿も、周囲の注目も気にしていない。
マイペースに朝食を摂り進める名前の姿は、まるっきり『猫』だった。
少なくとも、隣に座るハリーとロンにはそう見えた。
一体どのくらいで効果が切れるのだろう?
無遠慮に注がれる視線の雨から顔を背け、ハリーとロンは素早く朝食をたいらげて、大広間から名前を連れ出した。
二人は名前を間に挟み隠すように歩いたが、名前の背が抜きん出て高い為に全く意味をなしていない。
そのまま構わず『妖精の魔法』の授業へ向かうと、担当のフリットウィック先生は目を見開いて名前の姿を眺めていた。
ハリーとロンが説明すると納得がいったらしく、それ以降は何も聞かなかったが。
(フリットウィック先生も、かなりウィーズリーの双子に手を焼いているようだ)
「さぁ、今まで練習してきたしなやかな手首の動かし方を思い出して。
ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。
呪文を正確に、これもまた大切ですよ。覚えてますね、あの魔法使いバルッフィオは、『f』でなく『s』の発音をしたため、気がついたら、自分が床に寝転んでバッファローが自分の胸に乗っかっていましたね。」
フリットウィックは慣れた様子でテキパキと生徒を二人組みにして練習をさせる。
奇数であるためか、名前はまた一人で練習をやることになった。
こちらも慣れた様子だ。
「オーッ、よくできました!皆さん、見てください。
グレンジャーさんがやりました!アッ、ミョウジくんもです!すばらしい!」
いきなり名前を呼ばれたせいか、名前は浮遊させていた教科書を自分の頭へ落下させてしまった。
皆が吹き出しどっと笑う。
名前は大きな身を縮こまらせて顔を俯けた。
同じく名指しされたハーマイオニーを横目で見ると、皆と同じ様に笑っていた。
それでも浮遊させている羽は落ちていない。
(すごい集中力だ、と名前は思ったとか)
そこで一人、笑っていない人がいるのに気付く。
その人は何か憎しみでも抱いているかのように顔を歪めていて、名前の失敗など見ていなかったみたいだった。
「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。
まったく悪夢みたいなヤツさ。」
授業が終わってから、ロンはずっとこの調子だった。
人混みの中をするすると歩きながら、ロンはハーマイオニーの文句ばかりを言う。
ハーマイオニーのどこがそんなにも気に食わないのか、名前には分からない。
しかしどんなに親しくても喧嘩をしたり、苛立ったりする事はあるだろうと、名前は口を挟まず聞いていた。
ロンはぶつぶつと文句を言い続けている。
すると後ろから誰かがハリーにぶつかり、早足で追い越していった。
ハーマイオニーだった。
一瞬見えた横顔は、俯いていたが泣いているように見えた。
それを見た三人は足を止めて暫し呆然とした。
「今の、聞こえてたみたい。」
「それがどうした?
誰も友達がいないってことは、とっくに気が付いているだろうさ。」
『ロン。』
「何?ナマエ。」
『…ハーマイオニーは、俺の友達だ。』
表情に乏しく、何を話し掛けても声色を変えない、普段何を考えているのか分からない、ポーカーフェイスの名前が、微かに眉根を寄せてロンを睨んでいる。
そのちょっとした表情の変化が、顔の作りと長身のせいでとてつもなく冷淡に見える。
見下ろす涼しげな目元から軽蔑すら向けられている気がする。
名前の怒りを感じ取ったロンは、その剣幕にたじたじとなった。
何も言えなくなったロンからすいと視線を外し、名前はハーマイオニーが向かった方へ走り出す。
小さくなっていく名前の姿を、ハリーとロンは呆然と見つめ続けた。
『…………。』
追い掛けて追い掛けて、名前は女子トイレに来ていた。
何の躊躇もなしにドアを開けてしまってから、少し固まる。
息が乱れてハアハア言う男が、女子トイレに入ろうとしている。
客観的に見て犯罪行為だ。
それでも名前は荒い呼吸を無理矢理押さえ付けて、女子トイレからする物音に耳を澄ませた。
(これも犯罪行為だ)
個室の方から時折鳴咽や洟を啜り上げるか細い音がする。
女子トイレにいるのはハーマイオニー一人だけのようだ。
ややあってから一歩、足を踏み入れる。
音がする方向───ハーマイオニーがいるであろう個室の前に立つ。
ドアを見詰めて、名前は口を開けた。しかし閉じてしまった。
開き、閉じ、開き。何度も同じ事を繰り返す。
やがてゆっくり俯くと、じっと自分の足元を見つめた。
「………誰?」
かすれた、か細いハーマイオニーの声が聞こえた。
名前は勢いよく顔を上げ、トイレのドアを見つめる。
『……ハーマイオニー。』
「………ナマエ?」
『うん…。』
「悪いけど、一人にしてくれる。
それにここ、女子トイレよ。早く出ていった方がいいわ。」
『そうだね。でも…俺は…。』
「お願いだからほっといて!私のことなんて…!」
『………』
いつも明るくて、真面目で、冷静なハーマイオニーが、泣きじゃくっている。
分け隔てなく接してくれたハーマイオニーが、今は冷たく突き放している。
名前はしばらくドアを見詰めて、やがて俯いた。
自分の対応が間違っていた事を後悔していたのだ。
ロンが悪口を言っているその時に、ハーマイオニーは自分の友人だから悪く言わないで欲しいと伝えるべきだったのだ。
そうしていればこんなにもハーマイオニーが傷付く事は無かっただろうに。
『俺は、ハーマイオニーと……
…友達で良かったと思っている。』
「………」
『俺は、ハーマイオニーことが好きだ。』
ハーマイオニーはとても傷付いていて、名前に対しても失望している事だろう。
今更何を言っても遅いかもしれない。
けれどハーマイオニーに自分の気持ちを何とか伝えたかった。
自分勝手でも、無駄な事だとしても。
願わくば。
傷付けた事を謝りたかった。
仲直りがしたかった。
頭の中でグルグルと思考が巡り続ける。
何から話すべきか。どのような言葉を選ぶべきか。
焦って混乱してしまう。
名前はドアに向かって続けた。
『俺は、笑わないし、何も話さない。…いつも避けられる。
…それは、ハーマイオニーも知ってると思う。
でも……だから、
ハーマイオニーが話し掛けてくれたとき、嬉しかった。…』
「………」
『……誰かに好かれれば、誰かに嫌われる。好きな人でも、嫌いなところがある。そう思っていたから、あの場で、何も言わなかった。ごめん。言わなきゃいけなかった。本当にごめんなさい……。
でも、俺は、ハーマイオニーが好きだ。』
「………」
『でも、ハーマイオニーは、』
「………」
『………ハーマイオニーは、俺のこと…
嫌いに、…なったと、思うけど……でも、俺は…それでも……。』
ドアの向こうからは何も言葉が返ってこない。
名前は下唇を噛む。
後悔が波のように胸へ押し寄せて渦巻いている。
俯き、じっと爪先を見詰めた。
突然ドアが開いた。
そして押し倒す勢いでハーマイオニーが抱きついた。
わあわあと泣き叫んで、名前の体に腕を精一杯回して、しがみつく。
名前はホールドアップの体勢で固まっている。
いきなりの事で対処が出来ないらしい。
「嫌いなんてことないわ、ナマエ。好きよ。もちろん。大事なお友達だもの。」
『ハーマイオニー……本当にごめんなさい。』
「いいの……あなたは自分の行動が間違っていると思って、わざわざ追い掛けてくれたんでしょう?」
『うん、でも……とても酷い事をした。』
「いいのよ、今回は特別に許してあげる。」
『…ありがとう。』
「私、…私は間違っていた?…ただ、間違ってるのを教えてあげたかっただけなの。馬鹿にするつもりなんてなかったのよ。」
『うん……。勘違い、されやすいだけだ。
…俺も、そう。』
「ナマエと一緒?」
『うん…。』
ハーマイオニーは名前を見上げてふっと笑った。
笑顔を向けてくれてホッと安堵をする。
しかし、随分泣いたのだろう。鼻と目元が真っ赤だ。
名前の胸にまた後悔の波が押し寄せる。
ふと、名前が顔を上げた。
ひくひくと鼻を動かす。
そして、廊下へと目を向けた。
『…………
ハーマイオニー、後ろ振り向かないで。落ち着いて、聞いてほしい。』
「?…どうしたの?」
『…トロールがいる。でも、こっちには気付いていない。』
「トロールが!?」
『ハーマイオニー、しっ。』
「あ……ごめんなさい。びっくりして……。」
その後、ハーマイオニーの言葉が続かなかった。
トロールが女子トイレに入ってきたのだ。
二人の声に反応したのか、ただ単にトイレが目に留まっただけかもしれないが。
トロールは二人の姿を見付けるやいなや、棍棒を振り回した。
とっさにハーマイオニーを抱き締めて身を躱す。
棍棒を振り落とされたトイレが、紙屑のように散った。
目を見開いてその光景を見るハーマイオニーの体は震え、叫び出しそうな唇をぎゅっと噛んでいる。
この狭いトイレで棍棒を振り回されたり、トロールに動かれると、逃げ場が殆ど無いくらいに占拠されてしまう。
しかし幸い緩慢だ。
名前はそっと、ハーマイオニーを抱いたまま、忍び足で出口に向かって走り出した。
ドアノブに手を伸ばす。
直後、鍵のかかる音が響いた。
『…!』
「ナマエ!トロールが!!」
『!』
名前は振り向く。すぐ目の前に、棍棒がある。
避けようとするが、棍棒はそれを追い掛けてくる。
名前はハーマイオニーを棍棒の落ちる範囲外へ突き飛ばした。
直後、辺りにはタイルの破片や壊れた配水管の水が飛び散った。
「きゃあああああああ!!!!!」
ハーマイオニーの悲鳴は女子トイレを越えて廊下まで響き渡った。
女子トイレ前の廊下の曲がり角まで走り戻ってきたハリーとロンは、二人そろって顔を青褪めさせた。
また、トイレに向かって走り出す。
女子トイレのドアに鍵をかけたのは、この二人だった。
「「ハーマイオニー!」」
「!
ハリー!ロン!」
「まずい、あいつ、ハーマイオニーを狙ってる!」
「なんとかこっちに引き付けるんだ!」
ハリーは大声を張り上げると、トロールが壊した洗面台の蛇口を拾い、壁に叩きつけた。
トロールは振り向き、ハリーたちの存在に気付く。
標的をハリーに変えたようで、のろのろと棍棒を振り上げると、ハリーに近付いてきた。
「やーい、ウスノロ!」
ロンは洗面台の破片をトロールに目掛けて投げつけた。
破片は見事トロールの後頭部に命中する。
トロールはロンの方へ目をやった。意識がロンに向いたようだ。
ハリーはその隙に、トロールの背後へ回りこみ、震えるハーマイオニーの手を引っ張る。
「早く、走れ、走るんだっ!」
「ああ、ハリー、ナマエが…ナマエが…!」
「ナマエがいるの!?」