一年生
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『どうしたんだ。』
朝食の時間、グリフィンドールのテーブルで、何かただならぬ雰囲気が漂っていた。
「「ナマエ!」」
「…ふん!」
『…』
スリザリン寮生のドラコ・マルフォイは持っていたガラス玉を名前の手に押し付けると、クラッブとゴイルを従えて大広間から出ていった。
来たばかりの名前には何が何だか分からない。
去っていくドラコ達を見てから、掌に転がるガラス玉を見つめる。
ハリーとロンが名前のローブを引っ張り椅子に座らせた。
「来るの遅いよ、ナマエ!朝御飯食べない気かい?」
『寝癖を直していた。』
「…ああ、そう。
でもなんか、妙にペッタリしてて違和感あるぜ…。」
『…………
…さっきの、何。
……これ、どうするの。』
違和感という言葉は聞かなかった事にしたようだ。
ガラス玉を片手に、名前は首を傾げる。
ロンとハリーはぷりぷりと怒りながら成り行きを話した。
罵倒が多くて話が長くなったが、要約するとネビル・ロングボトムに送られてきた『思いだし玉』を、ドラコが何も言わずに取り上げた。
らしい。
『じゃあ、これはネビル・ロングボトムの。』
「そうだよ。返してあげなきゃ。」
『…。』
コク、と頷く。
「……アレ?ナマエ、思いだし玉が…」
『………
…壊したかも。』
「ううん、壊してないよ。こういうものなんだ。
何かを忘れていると赤くなるものなんだけど…ナマエ、何か忘れてる?」
『………わからない。
とにかく、返す。』
「…うん、そうだね。」
ハリーとロンの二人に先導され、名前は初めて付き添ってもらいネビル・ロングボトムと対面した。
ネビルは強張った顔で名前を見上げ、差し出された『思いだし玉』を恐る恐る受け取った。
小さく『ありがとう』と言うと、そのままそそくさと席に戻ってしまった。
『………』
「気を落とすなよ、ナマエ。」
『慣れてるから、大丈夫。』
「強がらなくったって平気さ。僕たちは君がどんなに優しくて大物かわかってるし、いずれ僕たち以外のやつにも、それが理解されるときがくるさ。」
「そういうロンも、最初は怖がってたけどね?」
「うるさいなぁ、ハリー。
それは昔の話だろ。」
「そうだったね。今は友達だ。」
二人はわざと明るく振る舞った。
名前を慰めるような会話を重ねて、妙に優しくしてくれる。
名前は会話に耳を傾け、時折相槌を打ちながら、朝食に手を付ける。
ミルクを飲む名前は、いつもより嬉しそうに見えた。
『飛行訓練…』
「うん、今日は飛行訓練だよ。」
「スリザリンと合同でだけどね。
掲示板の『お知らせ』にあっただろ?」
『………。』
「ナマエ、忘れてたのかい?」
『………。』
「…まぁ、忘れたくなるのも分かるけどね。
スリザリンと合同だもの。何でグリフィンドール寮生だけでやらないのかな。」
飛行訓練の授業を楽しみにしていたハリーは不満そうで、歩きながら文句を続けている。
しかし名前の耳には入ってこない。
『忘れている事』とは飛行訓練の事だったのだ。
飛行訓練は他の授業と違って予習が出来ない。
魔法薬学の時のように、予め知っておく事が出来ない。
何があるか分からないのだ。
楽しみでもあるが、不安も大きい。
空は快晴だった。雲一つない。
爽やかな風が草木の匂いを運んでくる。
ハリーのお喋りを聞きながら青々と茂る芝生のところまで来ると、見計らったように飛行訓練の授業の担当教師、マダム・フーチが現れた。
マクゴナガル先生とはまた違った厳しい雰囲気がある。
「みんな箒のそばに立って。さぁ、早く───
右手を箒の上に突き出して───
そして、『上がれ!』と言う。」
マダム・フーチの説明が終わった途端、皆一斉に『上がれ!』と叫んだ。
一回叫んだだけで箒が手に収まる者は極少数で、大抵の生徒がてこずった。
『上がれ!』
『上がれ!』
生徒の声が空に響く。
皆の箒が手に収まった頃、マダム・フーチは箒の乗り方を教えて、そして実際に見て回った。
大口をたたいていたドラコの箒の握り方が間違っていたらしく、マダム・フーチに注意をされ、それを見たハリーとロンは顔を見合わせて笑ったていた。
名前はじっと箒に目を落としていた。
浮遊感に身を委ね、小舟の上で揺れているようだった。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。
箒はぐらつかないように押さえ、2mぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ。
一、二の」
生徒の群集がどよめく。
マダム・フーチが笛を吹く前に、ネビルが力任せに地面を蹴って、勢いよく空高く飛んでいってしまったのだ。
マダム・フーチが『戻ってきなさい』と大声で叫ぶも、パニックに陥った状態のネビルには聞こえるわけもなく、それ以前に乗り手のネビルが恐がっているままでは箒を操作できるわけがないのだ。
4m、6mと、ネビルはどんどん地面から遠ざかっていく。
恐怖に震える手がスルリと箒を離し、ネビルは飛んでいくときと同じように、勢いよく地面に向かって真っ逆さまに落ちていった。
生徒たちから悲鳴が上がった。
「ナマエ!」
名前は地面を思い切り蹴り、生徒の頭上を飛び上がり、ネビルの元へ向かって、風のように飛んでいった。
気付いた時には遅く、ハリーとロンは呆然と小さくなる名前を見つめていた。
名前は水面に落ちるカワセミのようにネビルへ突進し、長い腕を精一杯伸ばしてネビルの脇腹を引き寄せる。
助かるように見えた。
しかし使い古されたこの箒には、二人分の重みに耐えきれなかったのか、ボキリという嫌な音を立て、二人は箒から落ちてしまった。
落ちた二人から、ドサッ、ポキッという不吉な音が、遠くにいたハリーの耳にも届く。
マダム・フーチが真っ青になって、二人の元へ走っていった。
「まったく、なんて無茶をするんですか!あなたは!」
『でも…あんな高さから落っこちてしまったら、』
「言い訳しない!」
『言い訳では』
「なんですって?」
『ごめんなさい。』
医務室では、マダム・ポンフリーが慌ただしく動いている。
名前はパイプ椅子に座りながら、大きな身体を縮こまらせていた。
「本当に信じられません。ネビル・ロングボトムを庇って下敷きになるなんて…
高さがそれほどなくて、手首が折れただけで済んだからいいものの、首の骨を折っていたのかもしれないのですよ!?
人助けは良いことですが、もっと自分を大切にしなさい!」
『…
……ロングボトムは………』
「大丈夫ですよ。
脳震盪を起こしただけです。安静にしていれば良くなります。」
『…そうですか。』
「さ、この薬を飲んでください。
そしてその後は安静にしていることです。
あなたの手首は複雑骨折をしています。
少し時間がかかりますが、明日の朝には治っているでしょう。」
『………』
ネビルが助かったらしいと、安堵したのも束の間。
マダム・ポンフリーから受け取った、正体不明の液体が入ったゴブレットを受け取って、名前は石のように固まった。
嗅いだ事のない匂いと見た目だ。
これは本当に口にして良いものだろうか?
躊躇する名前の目の前に立ち塞がり、マダム・ポンフリーが圧を掛ける。
息を吐くと、一気にゴブレットの中身を飲み干した。
一息で飲み込んだ名前の手から、マダム・ポンフリーはゴブレットを奪い去った。
ちゃんと全部飲んだか確認しているらしい。
名前は微動だにしなかった。
「ナマエ、いいですか。今日一日は安静にしているのですよ。さもなくば、骨が治りにくくなります。
確か、もう授業の予定はありませんでしたね?」
『はい……。
…あ…………』
「何ですか?」
『…罰則があります。』
「罰則?何の罰則です?」
『魔法薬で、罰則が…』
「スネイプ先生の授業ですか…
……しかし、譲るわけにはいきませんからね。今日罰則を受けるのはおやめなさい。
私からスネイプ先生にお手紙を書きますから、訳をお話するついでに渡しに行ってください。そしてその後は、真っ直ぐここへ戻ってらっしゃい。
いいですね。」
『………はい。』
ゴブレットを片手にマダム・ポンフリーは、せかせかと自分の机に向かって歩いていった。
机の引き出しを開けて一枚の紙を取り出し、羽ペンを使って慣れた手付きで内容を書いている。
書き終わると丁寧に畳み、便箋を封筒の中へ滑り込ませる。
そしてまたせかせかと歩いて戻ってきて、包帯をしていない方の名前の手にその封筒を渡した。
飾り気の無いシンプルな封筒だ。
マダム・ポンフリーの様子から察するに、このような手紙はもともと医務室に用意されているものなのだろう。
多分、授業が受けられない状態のときに、理由を書いてその時の担当教師に渡す専用のものが。
まぁ魔法に失敗して怪我をしたり、飛行に失敗して怪我したりと、何かとこの学校は怪我が多いから、あっても不思議ではないのだが。
「それでは渡してきてください。」
『はい。』
頷きながら返事をする。
「ちゃんとここへ戻ってくるんですよ。」
『はい。』
「寄り道はせずに。いいですね。」
『はい。分かりました。』
マダム・ポンフリーが心配性なのか、医務室にやって来る生徒にやんちゃな性格が多いのか、そもそもこのような行動を起こした名前に信用が無いのか。
理由は分からないが兎に角すごく念を押されてしまった。
椅子から立ち上がると、心臓の脈に合わせるように手首がズキズキと痛んだ。
骨折をしたのは名前にとって初めての経験で、どうしたらいいかよく分からないが、あまり振動を与えない方が良いのかもしれない。
手首の様子を気にしながら、名前はゆっくりとした足取りで医務室のドアへ向かう。
ドア付近まで来ると小さな声で名前を呼ばれた。
立ち止まり、声の主を探してそちらへ顔を向ける。
ベッドに寝ていたネビルが、じっと名前を見ていた。
『怪我は大丈夫なの。』
「あ…、うん、ちょっと頭がクラクラするけど、僕は大丈夫だよ。
それより、ナマエこそ大丈夫なの?」
『俺は一日安静にして、明日には治るらしい。』
「そっか、良かった。いや、うん、でも…良くないよね。
ごめんね、ナマエ。僕なんかのために、手首が…骨折しちゃったんでしょ?」
『…。
俺が勝手にした事だから、気にする必要はないよ。』
「そんなの無理だよ。気にするよ…。」
『………』
「………」
『………』
「………うん、わかったよ。でも…どうしても気にしちゃうよ。…
ごめんね…。」
『謝らないで。俺は咄嗟にそうしてしまったけど、それが正しい事なのかは分からない。悪いのは俺かもしれない。』
「ナマエは悪い事なんてしてないよ。」
『そうかな。先生に任せるべきだったかも。』
「でも、実際に動いてくれたのは君でしょ?」
『……。』
続けてネビルは渾身の勇気を振り絞って、名前に『ありがとう』と伝えた。
名前は曖昧に頷いて、『手紙を渡さなければいけないから』という理由でその場を後にした。
名前が話すのは自分の考えで、ネビルは事実だけを言っていた。
どちらを重視したら良いか分からなくて、名前はネビルに言葉を返せなかった。
(そもそもホグワーツに入学する為に本腰を入れて英語を学んだのは短期間であまり言葉を知らないし、名前自身が元々口下手で日本語だろうが英語だろうが会話が続かないのだが。)
人助けは良い事だ。日本で生まれ育ってきた名前は、周囲からそう教えられてきたし、そう行動してきた。
しかし今日実際ネビルを助けた時、怒られるばかりでやめろとすら言われてしまう。
名前はあの高さから人が落ちたら最悪の結果も考えられると思ったし、そう想像もしてしまった。
だから動いてしまったのだ。
でもいけない事だったのだろうか?
いけない事だとして、もしまた同じような状況に陥ったら、その時に『何もしない』事が出来るのだろうか。
身に染み付いた癖だ。名前に自信は無い。
「………。」
薄暗い地下牢の教室の中で文字を読むのは大変そうだ。
名前から手渡された手紙を、スネイプは目を細めてじっくりと読んでいる。
マダム・ポンフリーはそんなに長い文章を書いていたように見えなかったが、実際中身を見ていない名前には分からない。
動物のアルコール漬けの瓶がずらりと壁に並ぶここは、光りが少しも届かなくて肌寒い。
そのせいかこの教室で魔法薬を担当するスネイプの顔は青白くて、とても不健康そうに見える。
名前の視線に気が付いたのか、手紙を読み終わったのか。
スネイプは手紙の向こうから睨むように名前を見た。
そして手紙を折り畳み、次にゆらりと名前の手首を見た。
「危険を顧みず仲間を救う。勇敢なものだ。
正にグリフィンドールの生徒と言えよう。」
『………。』
「フリントの次はロングボトムかね。君は余程人助けが好きらしい。
それが本心からなのか偽善からなのかは、我輩には分からんが。」
『………ごめんなさい。』
「何故謝るのだね?君はロングボトムを助けたというのに。
人助けは尊ぶべき善行だ。そうは思わないかね?Mr.ミョウジ。」
言動と表情が一致していない。
眉間の皺も、睨み付ける目付きも、少しも上がらない口角も、全てが苛立ちを物語っている。
名前はじっと、スネイプの眉間の皺を見詰めた。
彫刻刀で彫られたかのようにくっきりと深い皺だ。
とんでもなく呑気なのか、はたまた現実逃避か。
しばらく沈黙が続いて、それからまたスネイプが口を開いた。
「確かに、今の状態では罰則は受けられん。」
『………。』
「そのため、一日罰則を伸ばすことにする。
それで良いかね?君に聞いたところで拒否権はないのだが。」
『わかりました。ごめんなさい。明日に、また受けに来ます。』
「………」
『……
失礼します。』
「………ミョウジ、」
『…はい。』
ドアへ向かおうと教室の半ばまで歩いたところで呼び止められて、
名前は振り返りながら返事をした。
振り返った先にいたスネイプは此方に背中を向けていて、教室の奥の扉に姿を消した。
呼び止められたはずだが、聞き間違いだろうか?
ひとまずその場に佇み変化を待ってみる。
すると奥の扉が開いて、スネイプは何かを持って現れた。
そしてつかつかと圧を感じさせる大股で名前の前まで来ると、怪我をしていない方の手首をがっしりと掴み、その手に半ば押し付けるように持ってきたものを渡した。
そして素早く手が離される。
スネイプの手が離れた事で見えたものは、掌に収まるくらいの、小さな紙袋だった。
とても軽く、傾けると砂のような音がする。
「それは痛み止めだ。」
『痛み止め、ですか。』
「明日は我輩の授業があるだろう。
痛みで寝不足になって授業に支障が出るようでは困るのでな。
もっとも君がロングボトムのように、そうでなくても問題を起こすようなら、解決にはならんだろうが。」
『……ありがとうございます。』
ロングボトムのように───という言葉が引っ掛かったのか、名前は少し頭を傾げた。
しかし痛み止めまで与えてとても心配をしてくれているようだ。
すぐに名前は姿勢を正して、会釈をしながらお礼を言った。
顔を上げると、仏頂面を浮かべたスネイプと目が合った。
『……それでは、失礼します。』
「………。」
スネイプの様子を気にしながら、名前はゆっくりと背を向ける。
骨折した手首に刺激を与えないように、慎重な足取りで教室を突っ切った。
呼び止められる事は無く、今度こそ教室のドアまで辿り着けた。
教室を出て、ドアを閉める為に振り返る。
すると教室の奥、教壇の上に、まだスネイプは立っていた。
名前がゆっくり歩いていったのを、何が理由かは分からないが、ずっと見ていたようだ。
名前はもう一度『失礼します』と言って頭を下げ、静かにドアを閉めた。
朝食の時間、グリフィンドールのテーブルで、何かただならぬ雰囲気が漂っていた。
「「ナマエ!」」
「…ふん!」
『…』
スリザリン寮生のドラコ・マルフォイは持っていたガラス玉を名前の手に押し付けると、クラッブとゴイルを従えて大広間から出ていった。
来たばかりの名前には何が何だか分からない。
去っていくドラコ達を見てから、掌に転がるガラス玉を見つめる。
ハリーとロンが名前のローブを引っ張り椅子に座らせた。
「来るの遅いよ、ナマエ!朝御飯食べない気かい?」
『寝癖を直していた。』
「…ああ、そう。
でもなんか、妙にペッタリしてて違和感あるぜ…。」
『…………
…さっきの、何。
……これ、どうするの。』
違和感という言葉は聞かなかった事にしたようだ。
ガラス玉を片手に、名前は首を傾げる。
ロンとハリーはぷりぷりと怒りながら成り行きを話した。
罵倒が多くて話が長くなったが、要約するとネビル・ロングボトムに送られてきた『思いだし玉』を、ドラコが何も言わずに取り上げた。
らしい。
『じゃあ、これはネビル・ロングボトムの。』
「そうだよ。返してあげなきゃ。」
『…。』
コク、と頷く。
「……アレ?ナマエ、思いだし玉が…」
『………
…壊したかも。』
「ううん、壊してないよ。こういうものなんだ。
何かを忘れていると赤くなるものなんだけど…ナマエ、何か忘れてる?」
『………わからない。
とにかく、返す。』
「…うん、そうだね。」
ハリーとロンの二人に先導され、名前は初めて付き添ってもらいネビル・ロングボトムと対面した。
ネビルは強張った顔で名前を見上げ、差し出された『思いだし玉』を恐る恐る受け取った。
小さく『ありがとう』と言うと、そのままそそくさと席に戻ってしまった。
『………』
「気を落とすなよ、ナマエ。」
『慣れてるから、大丈夫。』
「強がらなくったって平気さ。僕たちは君がどんなに優しくて大物かわかってるし、いずれ僕たち以外のやつにも、それが理解されるときがくるさ。」
「そういうロンも、最初は怖がってたけどね?」
「うるさいなぁ、ハリー。
それは昔の話だろ。」
「そうだったね。今は友達だ。」
二人はわざと明るく振る舞った。
名前を慰めるような会話を重ねて、妙に優しくしてくれる。
名前は会話に耳を傾け、時折相槌を打ちながら、朝食に手を付ける。
ミルクを飲む名前は、いつもより嬉しそうに見えた。
『飛行訓練…』
「うん、今日は飛行訓練だよ。」
「スリザリンと合同でだけどね。
掲示板の『お知らせ』にあっただろ?」
『………。』
「ナマエ、忘れてたのかい?」
『………。』
「…まぁ、忘れたくなるのも分かるけどね。
スリザリンと合同だもの。何でグリフィンドール寮生だけでやらないのかな。」
飛行訓練の授業を楽しみにしていたハリーは不満そうで、歩きながら文句を続けている。
しかし名前の耳には入ってこない。
『忘れている事』とは飛行訓練の事だったのだ。
飛行訓練は他の授業と違って予習が出来ない。
魔法薬学の時のように、予め知っておく事が出来ない。
何があるか分からないのだ。
楽しみでもあるが、不安も大きい。
空は快晴だった。雲一つない。
爽やかな風が草木の匂いを運んでくる。
ハリーのお喋りを聞きながら青々と茂る芝生のところまで来ると、見計らったように飛行訓練の授業の担当教師、マダム・フーチが現れた。
マクゴナガル先生とはまた違った厳しい雰囲気がある。
「みんな箒のそばに立って。さぁ、早く───
右手を箒の上に突き出して───
そして、『上がれ!』と言う。」
マダム・フーチの説明が終わった途端、皆一斉に『上がれ!』と叫んだ。
一回叫んだだけで箒が手に収まる者は極少数で、大抵の生徒がてこずった。
『上がれ!』
『上がれ!』
生徒の声が空に響く。
皆の箒が手に収まった頃、マダム・フーチは箒の乗り方を教えて、そして実際に見て回った。
大口をたたいていたドラコの箒の握り方が間違っていたらしく、マダム・フーチに注意をされ、それを見たハリーとロンは顔を見合わせて笑ったていた。
名前はじっと箒に目を落としていた。
浮遊感に身を委ね、小舟の上で揺れているようだった。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。
箒はぐらつかないように押さえ、2mぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ。
一、二の」
生徒の群集がどよめく。
マダム・フーチが笛を吹く前に、ネビルが力任せに地面を蹴って、勢いよく空高く飛んでいってしまったのだ。
マダム・フーチが『戻ってきなさい』と大声で叫ぶも、パニックに陥った状態のネビルには聞こえるわけもなく、それ以前に乗り手のネビルが恐がっているままでは箒を操作できるわけがないのだ。
4m、6mと、ネビルはどんどん地面から遠ざかっていく。
恐怖に震える手がスルリと箒を離し、ネビルは飛んでいくときと同じように、勢いよく地面に向かって真っ逆さまに落ちていった。
生徒たちから悲鳴が上がった。
「ナマエ!」
名前は地面を思い切り蹴り、生徒の頭上を飛び上がり、ネビルの元へ向かって、風のように飛んでいった。
気付いた時には遅く、ハリーとロンは呆然と小さくなる名前を見つめていた。
名前は水面に落ちるカワセミのようにネビルへ突進し、長い腕を精一杯伸ばしてネビルの脇腹を引き寄せる。
助かるように見えた。
しかし使い古されたこの箒には、二人分の重みに耐えきれなかったのか、ボキリという嫌な音を立て、二人は箒から落ちてしまった。
落ちた二人から、ドサッ、ポキッという不吉な音が、遠くにいたハリーの耳にも届く。
マダム・フーチが真っ青になって、二人の元へ走っていった。
「まったく、なんて無茶をするんですか!あなたは!」
『でも…あんな高さから落っこちてしまったら、』
「言い訳しない!」
『言い訳では』
「なんですって?」
『ごめんなさい。』
医務室では、マダム・ポンフリーが慌ただしく動いている。
名前はパイプ椅子に座りながら、大きな身体を縮こまらせていた。
「本当に信じられません。ネビル・ロングボトムを庇って下敷きになるなんて…
高さがそれほどなくて、手首が折れただけで済んだからいいものの、首の骨を折っていたのかもしれないのですよ!?
人助けは良いことですが、もっと自分を大切にしなさい!」
『…
……ロングボトムは………』
「大丈夫ですよ。
脳震盪を起こしただけです。安静にしていれば良くなります。」
『…そうですか。』
「さ、この薬を飲んでください。
そしてその後は安静にしていることです。
あなたの手首は複雑骨折をしています。
少し時間がかかりますが、明日の朝には治っているでしょう。」
『………』
ネビルが助かったらしいと、安堵したのも束の間。
マダム・ポンフリーから受け取った、正体不明の液体が入ったゴブレットを受け取って、名前は石のように固まった。
嗅いだ事のない匂いと見た目だ。
これは本当に口にして良いものだろうか?
躊躇する名前の目の前に立ち塞がり、マダム・ポンフリーが圧を掛ける。
息を吐くと、一気にゴブレットの中身を飲み干した。
一息で飲み込んだ名前の手から、マダム・ポンフリーはゴブレットを奪い去った。
ちゃんと全部飲んだか確認しているらしい。
名前は微動だにしなかった。
「ナマエ、いいですか。今日一日は安静にしているのですよ。さもなくば、骨が治りにくくなります。
確か、もう授業の予定はありませんでしたね?」
『はい……。
…あ…………』
「何ですか?」
『…罰則があります。』
「罰則?何の罰則です?」
『魔法薬で、罰則が…』
「スネイプ先生の授業ですか…
……しかし、譲るわけにはいきませんからね。今日罰則を受けるのはおやめなさい。
私からスネイプ先生にお手紙を書きますから、訳をお話するついでに渡しに行ってください。そしてその後は、真っ直ぐここへ戻ってらっしゃい。
いいですね。」
『………はい。』
ゴブレットを片手にマダム・ポンフリーは、せかせかと自分の机に向かって歩いていった。
机の引き出しを開けて一枚の紙を取り出し、羽ペンを使って慣れた手付きで内容を書いている。
書き終わると丁寧に畳み、便箋を封筒の中へ滑り込ませる。
そしてまたせかせかと歩いて戻ってきて、包帯をしていない方の名前の手にその封筒を渡した。
飾り気の無いシンプルな封筒だ。
マダム・ポンフリーの様子から察するに、このような手紙はもともと医務室に用意されているものなのだろう。
多分、授業が受けられない状態のときに、理由を書いてその時の担当教師に渡す専用のものが。
まぁ魔法に失敗して怪我をしたり、飛行に失敗して怪我したりと、何かとこの学校は怪我が多いから、あっても不思議ではないのだが。
「それでは渡してきてください。」
『はい。』
頷きながら返事をする。
「ちゃんとここへ戻ってくるんですよ。」
『はい。』
「寄り道はせずに。いいですね。」
『はい。分かりました。』
マダム・ポンフリーが心配性なのか、医務室にやって来る生徒にやんちゃな性格が多いのか、そもそもこのような行動を起こした名前に信用が無いのか。
理由は分からないが兎に角すごく念を押されてしまった。
椅子から立ち上がると、心臓の脈に合わせるように手首がズキズキと痛んだ。
骨折をしたのは名前にとって初めての経験で、どうしたらいいかよく分からないが、あまり振動を与えない方が良いのかもしれない。
手首の様子を気にしながら、名前はゆっくりとした足取りで医務室のドアへ向かう。
ドア付近まで来ると小さな声で名前を呼ばれた。
立ち止まり、声の主を探してそちらへ顔を向ける。
ベッドに寝ていたネビルが、じっと名前を見ていた。
『怪我は大丈夫なの。』
「あ…、うん、ちょっと頭がクラクラするけど、僕は大丈夫だよ。
それより、ナマエこそ大丈夫なの?」
『俺は一日安静にして、明日には治るらしい。』
「そっか、良かった。いや、うん、でも…良くないよね。
ごめんね、ナマエ。僕なんかのために、手首が…骨折しちゃったんでしょ?」
『…。
俺が勝手にした事だから、気にする必要はないよ。』
「そんなの無理だよ。気にするよ…。」
『………』
「………」
『………』
「………うん、わかったよ。でも…どうしても気にしちゃうよ。…
ごめんね…。」
『謝らないで。俺は咄嗟にそうしてしまったけど、それが正しい事なのかは分からない。悪いのは俺かもしれない。』
「ナマエは悪い事なんてしてないよ。」
『そうかな。先生に任せるべきだったかも。』
「でも、実際に動いてくれたのは君でしょ?」
『……。』
続けてネビルは渾身の勇気を振り絞って、名前に『ありがとう』と伝えた。
名前は曖昧に頷いて、『手紙を渡さなければいけないから』という理由でその場を後にした。
名前が話すのは自分の考えで、ネビルは事実だけを言っていた。
どちらを重視したら良いか分からなくて、名前はネビルに言葉を返せなかった。
(そもそもホグワーツに入学する為に本腰を入れて英語を学んだのは短期間であまり言葉を知らないし、名前自身が元々口下手で日本語だろうが英語だろうが会話が続かないのだが。)
人助けは良い事だ。日本で生まれ育ってきた名前は、周囲からそう教えられてきたし、そう行動してきた。
しかし今日実際ネビルを助けた時、怒られるばかりでやめろとすら言われてしまう。
名前はあの高さから人が落ちたら最悪の結果も考えられると思ったし、そう想像もしてしまった。
だから動いてしまったのだ。
でもいけない事だったのだろうか?
いけない事だとして、もしまた同じような状況に陥ったら、その時に『何もしない』事が出来るのだろうか。
身に染み付いた癖だ。名前に自信は無い。
「………。」
薄暗い地下牢の教室の中で文字を読むのは大変そうだ。
名前から手渡された手紙を、スネイプは目を細めてじっくりと読んでいる。
マダム・ポンフリーはそんなに長い文章を書いていたように見えなかったが、実際中身を見ていない名前には分からない。
動物のアルコール漬けの瓶がずらりと壁に並ぶここは、光りが少しも届かなくて肌寒い。
そのせいかこの教室で魔法薬を担当するスネイプの顔は青白くて、とても不健康そうに見える。
名前の視線に気が付いたのか、手紙を読み終わったのか。
スネイプは手紙の向こうから睨むように名前を見た。
そして手紙を折り畳み、次にゆらりと名前の手首を見た。
「危険を顧みず仲間を救う。勇敢なものだ。
正にグリフィンドールの生徒と言えよう。」
『………。』
「フリントの次はロングボトムかね。君は余程人助けが好きらしい。
それが本心からなのか偽善からなのかは、我輩には分からんが。」
『………ごめんなさい。』
「何故謝るのだね?君はロングボトムを助けたというのに。
人助けは尊ぶべき善行だ。そうは思わないかね?Mr.ミョウジ。」
言動と表情が一致していない。
眉間の皺も、睨み付ける目付きも、少しも上がらない口角も、全てが苛立ちを物語っている。
名前はじっと、スネイプの眉間の皺を見詰めた。
彫刻刀で彫られたかのようにくっきりと深い皺だ。
とんでもなく呑気なのか、はたまた現実逃避か。
しばらく沈黙が続いて、それからまたスネイプが口を開いた。
「確かに、今の状態では罰則は受けられん。」
『………。』
「そのため、一日罰則を伸ばすことにする。
それで良いかね?君に聞いたところで拒否権はないのだが。」
『わかりました。ごめんなさい。明日に、また受けに来ます。』
「………」
『……
失礼します。』
「………ミョウジ、」
『…はい。』
ドアへ向かおうと教室の半ばまで歩いたところで呼び止められて、
名前は振り返りながら返事をした。
振り返った先にいたスネイプは此方に背中を向けていて、教室の奥の扉に姿を消した。
呼び止められたはずだが、聞き間違いだろうか?
ひとまずその場に佇み変化を待ってみる。
すると奥の扉が開いて、スネイプは何かを持って現れた。
そしてつかつかと圧を感じさせる大股で名前の前まで来ると、怪我をしていない方の手首をがっしりと掴み、その手に半ば押し付けるように持ってきたものを渡した。
そして素早く手が離される。
スネイプの手が離れた事で見えたものは、掌に収まるくらいの、小さな紙袋だった。
とても軽く、傾けると砂のような音がする。
「それは痛み止めだ。」
『痛み止め、ですか。』
「明日は我輩の授業があるだろう。
痛みで寝不足になって授業に支障が出るようでは困るのでな。
もっとも君がロングボトムのように、そうでなくても問題を起こすようなら、解決にはならんだろうが。」
『……ありがとうございます。』
ロングボトムのように───という言葉が引っ掛かったのか、名前は少し頭を傾げた。
しかし痛み止めまで与えてとても心配をしてくれているようだ。
すぐに名前は姿勢を正して、会釈をしながらお礼を言った。
顔を上げると、仏頂面を浮かべたスネイプと目が合った。
『……それでは、失礼します。』
「………。」
スネイプの様子を気にしながら、名前はゆっくりと背を向ける。
骨折した手首に刺激を与えないように、慎重な足取りで教室を突っ切った。
呼び止められる事は無く、今度こそ教室のドアまで辿り着けた。
教室を出て、ドアを閉める為に振り返る。
すると教室の奥、教壇の上に、まだスネイプは立っていた。
名前がゆっくり歩いていったのを、何が理由かは分からないが、ずっと見ていたようだ。
名前はもう一度『失礼します』と言って頭を下げ、静かにドアを閉めた。