一年生
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『…ハリー、ロン。』
「お…おはよう。ナマエ。」
「…すごいね。」
『………』
翌朝、彼の頭は鳥の巣になっていた。
「なかなか直らないなぁ。」
『………』
「ナマエ、寝癖なんか気にするなよ。誰だってなるからさ。」
「そうだよ、ナマエ。」
入学式の翌日、ハリーが寮を出た途端、歩く者全ての者がハリーを物珍しげにジロジロと見てきたり、何か囁きあったりしていた。
それだけでも疲れるというのに、ホグワーツは広く、階段がいくつもあり、移動教室には走らなければならないことが多々あったのだ。精神的にも肉体的にも、ハリーはもうヘトヘトだ。
初めて受ける魔法の授業は確かにワクワクした。
だが期待外れというか、眠たくなることが多かった。
変身術でマクゴナガル先生が机を豚に変え、また元の姿に戻してみせたときは感激して、早くやってみたくて仕方なかったが、散々知っておく必要があるのか?というくらい複雑なノートを採った後、マッチ棒が配られ、それを針に変える練習をした。
結局変えられたのは、ハーマイオニー・グレンジャーと名前だけだった。
彼女は聡明というか、勉強熱心だったので納得できたが、名前が一度で変えてみせたときは驚いた。
みんなが一番期待していた授業は『闇の魔術の防衛術』だったが、きっとみんなが一番期待外れだと思っただろう授業だった。
授業中ずっとにんにくの匂いが教室内を漂っていて耐えがたかったし、クィレルは何か話すたびにどもっていたからだ。
たくさんの初めての魔法の授業を受け、早くも週末となった今日。
ハリーとロン、そして名前は、初めて一度も迷わず大広間まで朝食に下りてくることができた。
「今日はなんの授業だっけ?」
「スリザリンの連中と一緒に、魔法薬学さ。
スネイプはスリザリンの寮監だ。
いつもスリザリンを贔屓するってみんなが言ってる。
本当かどうか、今日わかるだろう。」
「マクゴナガルが僕たちを贔屓してくれたらいいのに。
ね、ナマエ。」
『…しないと思う。』
「「だよね。」」
名前のボソボソとした小さな意見に、ハリーとロンは声を揃えて同意した。
この一週間で、ロンは名前を怖がることはなくなった。ただ未だに無表情な名前を笑わそうと、日々楽しい話を持ち込んでくる。
だけど名前は何を話しても、やっぱり無表情だった。
名前がもそもそとポテトフライを口に運ぶのを見ていると、ヘドウィグが皿の上に手紙を置いていった。
もう郵便の時間らしい。
ポテトフライを食べ終え、置いてある紅茶を無視してミルクを飲む名前を横目に、ハリーは急いで封を開けた。
手紙はハグリッドからだった。お茶のお誘いらしい。
ハリーはロンの羽ペンを借り、手紙の裏に返事を書いてヘドウィグを飛ばせた。
「あ、ナマエも来る?
ハグリッドがお茶のお誘いを…」
「ハリー、ナマエなら図書館に行っちゃったよ。
今日返す日だからって。」
「あ…そうなの。」
「うん、先に行っててくれだってさ。」
「そっか。
じゃあまた後で誘ってみようかな。」
「うん、そうしろよ。」
ハリーとロンは朝食を食べ終え、授業の荷物を持ち、大広間を出ていった。
名前は後で来る、そう信じて疑わなかった。
「はい、確かに。」
ところ変わって図書館。
名前は借りていた本を返していた。
廊下へ出て腕時計を見てみると、もう授業が始まる時間帯だった。
走れば間に合うだろうか。
名前は荷物をしっかり抱え、階段まで走った。
タッ タッ タッ タッ タッ…
軽い足音が廊下に響く。
飾られた絵画から廊下は走るな、と叱られたが、謝りながらそれでも名前は走り続けた。
地下牢までもうすぐだ。
既に時間は五分ほど過ぎていたが、無断欠席よりは遅刻の方がましだと、名前は足を止めなかった。
『!』
しかし、足を止めざるをえないことが起きた。
名前は荒い呼吸を繰り返しながら、目の前の出来事を見つめていた。
───アスフォルデの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
「わかりません。」
「チッ、チッ、チ───
有名なだけではどうにもならんらしい。」
「………」
「ポッター、もう一つ聞こう。
ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」
「わかりません。」
「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ポッター、え?」
「………」
「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
「…わかりませ───
ギィ───…
嗄れた悲鳴のような音が、緊迫した地下牢の教室に響き渡った。
反射的に音の発生源を求めて、生徒が一斉に振り向く。
ハリーも、天高く手を挙げていたハーマイオニー・グレンジャーも、この授業の担当のスネイプも。
教室の入口。
そこにはドアに手を掛けたまま佇む名前がいた。
その姿を捉えるやいなやハリーは目を見開いた。
間の悪い友人の登場に、頭を抱えてうずくまりたかった。
スネイプは出席確認のとき、名前がいないことで眉間に皺を寄せていた。無断欠席だと思ったのだろう。
とても不快そうだった。
スネイプの機嫌を損ねた本人がその上、この間の悪い時に現れてしまったのだ。
『遅れてすみません。授業に参加をさせてください。』
名前ははっきりとした口調でそう言った。
生徒の中の何人かは、あいつ喋れるんだとひそかに驚いていた。
スネイプは口をヘの字に曲げて名前睨んでいて、ハリーは矛先が名前に向けられたことを感じとった。
「ああ、Mr.ミョウジ───
ちょうどいいところに。」
『…』
「それでは君に聞くことにしよう。
…授業に遅れても自分にはわかると、自信がある君にね。」
『………』
スリザリンの生徒がくすくすと笑いながら名前を見ている。
矛先が変わった事にハリーは安堵しながらも、次のターゲットになった名前を心配した。
名前が何故授業に遅れたのかはわからないが、サボりたくて遅れたわけではないと思っている。
何か理由がある。そのはずだと。
スネイプは先程と同じように名前に聞いた。
「ミョウジ、アスフォルデの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
名前は無表情で黙ったままだった。
そりゃあ、いきなりそんな質問をされてもすぐに答えられるわけがない。
スリザリンの生徒が意地悪く笑みを浮かべるのを見て、ハリーは拳をぎゅっと握った。
こんな扱いは理不尽だし不当だ。
けれど自分に何が出来る?
ただこの時間を、スネイプの気が済むまで黙って耐え忍ぶしかないのか?
黙ったままの名前を見て、スネイプは満足そうに口角を上げる。
そしておもむろに口を開き息を吸う。
次の問題を言おうとしたときだ。
名前は涼しげな表情で、真っ直ぐスネイプを見つめながら答えたのだ。
『…眠り薬です。
とても強力なために、『生ける屍の水薬』といわれています。』
「……それではもう一つ聞こう、ミョウジ。
ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」
『…ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石です。
大抵の薬に対する解毒剤になります。』
「………モンクスフードとウルフスベーンとの違いは?」
『…それは同じ植物です。別名をアコナイトとも言います。鳥兜のことです。
塊根を乾かしたものは鳥頭(ウズ)または附子(ブシ)といい猛毒ですが、東洋では生薬として利用されており、鎮痛、鎮痙、新陳代謝賦活薬の効果があります。
ヤマトリカブトなど同属近似の種が多く、それらを総称することが多いです。
種によって薬効、毒性は異なりますが、』
「もうよい。
諸君、何故今のを全部ノートに書き取らんのだ?」
鬱陶しそうに手を払い、スネイプはとても不快そうに名前に座るよう言った。
ハリーは込み上げてくる笑いを我慢したが、唇がひくひくと痙攣してしまう。
今そのような姿をスネイプに見られでもしたら面倒だ。
ノートを取る振りをして俯き、顔を隠した。
しずしずと教室内に歩を進めた名前は、ハリーの隣に座った。
ハリーは少しだけ名前に目を向ける。
普段通りの無表情だ。鞄から筆記具を取り出している。
この状況で普段通りの姿という事は、名前は凄まじく鈍感か、恐ろしく強かなのかもしれない。
視線に気が付いたのか、名前はハリーを見た。
ハリーは名前に笑いかけた。
名前は首を傾げただけだった。
皆一斉に羽ペンと洋皮紙を取り出し、急いで書き取っている。
そんな中スネイプは、不機嫌そうな声で言ったのだった。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点。
ミョウジ、君は授業に遅刻したので一ヶ月の罰則を与える。」
心から同情してロンとハリーが名前を見た。
名前はスネイプを真っ直ぐと見据え、はっきりと『分かりました』と返事をし、それから何事もなかったかのようにノートに書き取り始めた。
泰然自若、慇懃無礼とも呼べるその態度に、スネイプの口角が引きつっている。
名前はそんな負のオーラを放つスネイプの様子には気付かず、ただ黙々とノートに書き込んでいる。
周囲から見れば異様な光景なのだが、本人はただの大真面目なのかもしれない。
ノートに書き取った後、スネイプは生徒を二人一組にさせて、おできを治す薬を調合させた。
奇数だったのか、グリフィンドールでは名前が一人で調合を行っていた。
一番後ろの、壁よりの隅の机に移り、黙々と作業をしている。
さっさと干イラクサを計り、ヘビの牙を飛び散らないように砕き、角ナメクジを茹でた。
「ミョウジ。」
すぐ目の前から声が聞こえてきて、作業に集中していた名前は少し驚いた様子で顔を上げた。
大鍋を挟んで目の前にスネイプが立っていた。
あまり身長が変わらないから、思いの外顔が近い。
近くで見るスネイプの顔はどこもかしこも不快そうに歪められている。
眉間に寄せられた深い皺。
軽蔑するように細められた目。
への字に曲げられた口元。
その不快そうな表情を見て、名前はおできを治す薬に目を落とし、微かに首を傾げる。
薬は教科書に載っているものと全く同じ色をしている。
「違う、薬のことではない。罰則のことだ。」
『…。』
再び顔をスネイプに向ける。
「授業が終わったら教壇まで来たまえ。
その時罰則を言いわたそう。」
『………』
「聞いているのかね?」
『………
スネイプ先生、何か変な匂いがしませんか。』
そう言いながら、名前は視線をネビル・ロングボトムに向けた。
つられてスネイプがそちらを見てみると、大鍋から薄く煙が出ているのを見つけた。
スネイプは早足でネビルの元へ向かい、バカ者と怒鳴った。
早く気付いたせいか大きな被害はなく、スネイプの怒鳴り声に驚いたネビルが鍋に指を突っ込み、それによって指におできができただけだった。
スネイプはネビルと組んでいたシェーマスに医務室に連れていくよう言いつけてから、隣で薬を作っていたハリーに何故ネビルに注意しなかったと、理不尽な減点をした。
ハリーも言い返そうと口を開きかけたが、ロンに小突かれ、悔しそうに唇を噛み締めてから小さな声で謝った。
一方名前は出来上がった薬を小瓶に入れ、もう片付けを始めていた。
「それじゃあ、僕ら行くけど…」
『…後で。』
「うん。…頑張って、ホントに。」
「くじけんなよ。後で話聞くから。ね。」
「お…おはよう。ナマエ。」
「…すごいね。」
『………』
翌朝、彼の頭は鳥の巣になっていた。
「なかなか直らないなぁ。」
『………』
「ナマエ、寝癖なんか気にするなよ。誰だってなるからさ。」
「そうだよ、ナマエ。」
入学式の翌日、ハリーが寮を出た途端、歩く者全ての者がハリーを物珍しげにジロジロと見てきたり、何か囁きあったりしていた。
それだけでも疲れるというのに、ホグワーツは広く、階段がいくつもあり、移動教室には走らなければならないことが多々あったのだ。精神的にも肉体的にも、ハリーはもうヘトヘトだ。
初めて受ける魔法の授業は確かにワクワクした。
だが期待外れというか、眠たくなることが多かった。
変身術でマクゴナガル先生が机を豚に変え、また元の姿に戻してみせたときは感激して、早くやってみたくて仕方なかったが、散々知っておく必要があるのか?というくらい複雑なノートを採った後、マッチ棒が配られ、それを針に変える練習をした。
結局変えられたのは、ハーマイオニー・グレンジャーと名前だけだった。
彼女は聡明というか、勉強熱心だったので納得できたが、名前が一度で変えてみせたときは驚いた。
みんなが一番期待していた授業は『闇の魔術の防衛術』だったが、きっとみんなが一番期待外れだと思っただろう授業だった。
授業中ずっとにんにくの匂いが教室内を漂っていて耐えがたかったし、クィレルは何か話すたびにどもっていたからだ。
たくさんの初めての魔法の授業を受け、早くも週末となった今日。
ハリーとロン、そして名前は、初めて一度も迷わず大広間まで朝食に下りてくることができた。
「今日はなんの授業だっけ?」
「スリザリンの連中と一緒に、魔法薬学さ。
スネイプはスリザリンの寮監だ。
いつもスリザリンを贔屓するってみんなが言ってる。
本当かどうか、今日わかるだろう。」
「マクゴナガルが僕たちを贔屓してくれたらいいのに。
ね、ナマエ。」
『…しないと思う。』
「「だよね。」」
名前のボソボソとした小さな意見に、ハリーとロンは声を揃えて同意した。
この一週間で、ロンは名前を怖がることはなくなった。ただ未だに無表情な名前を笑わそうと、日々楽しい話を持ち込んでくる。
だけど名前は何を話しても、やっぱり無表情だった。
名前がもそもそとポテトフライを口に運ぶのを見ていると、ヘドウィグが皿の上に手紙を置いていった。
もう郵便の時間らしい。
ポテトフライを食べ終え、置いてある紅茶を無視してミルクを飲む名前を横目に、ハリーは急いで封を開けた。
手紙はハグリッドからだった。お茶のお誘いらしい。
ハリーはロンの羽ペンを借り、手紙の裏に返事を書いてヘドウィグを飛ばせた。
「あ、ナマエも来る?
ハグリッドがお茶のお誘いを…」
「ハリー、ナマエなら図書館に行っちゃったよ。
今日返す日だからって。」
「あ…そうなの。」
「うん、先に行っててくれだってさ。」
「そっか。
じゃあまた後で誘ってみようかな。」
「うん、そうしろよ。」
ハリーとロンは朝食を食べ終え、授業の荷物を持ち、大広間を出ていった。
名前は後で来る、そう信じて疑わなかった。
「はい、確かに。」
ところ変わって図書館。
名前は借りていた本を返していた。
廊下へ出て腕時計を見てみると、もう授業が始まる時間帯だった。
走れば間に合うだろうか。
名前は荷物をしっかり抱え、階段まで走った。
タッ タッ タッ タッ タッ…
軽い足音が廊下に響く。
飾られた絵画から廊下は走るな、と叱られたが、謝りながらそれでも名前は走り続けた。
地下牢までもうすぐだ。
既に時間は五分ほど過ぎていたが、無断欠席よりは遅刻の方がましだと、名前は足を止めなかった。
『!』
しかし、足を止めざるをえないことが起きた。
名前は荒い呼吸を繰り返しながら、目の前の出来事を見つめていた。
───アスフォルデの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
「わかりません。」
「チッ、チッ、チ───
有名なだけではどうにもならんらしい。」
「………」
「ポッター、もう一つ聞こう。
ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」
「わかりません。」
「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ポッター、え?」
「………」
「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
「…わかりませ───
ギィ───…
嗄れた悲鳴のような音が、緊迫した地下牢の教室に響き渡った。
反射的に音の発生源を求めて、生徒が一斉に振り向く。
ハリーも、天高く手を挙げていたハーマイオニー・グレンジャーも、この授業の担当のスネイプも。
教室の入口。
そこにはドアに手を掛けたまま佇む名前がいた。
その姿を捉えるやいなやハリーは目を見開いた。
間の悪い友人の登場に、頭を抱えてうずくまりたかった。
スネイプは出席確認のとき、名前がいないことで眉間に皺を寄せていた。無断欠席だと思ったのだろう。
とても不快そうだった。
スネイプの機嫌を損ねた本人がその上、この間の悪い時に現れてしまったのだ。
『遅れてすみません。授業に参加をさせてください。』
名前ははっきりとした口調でそう言った。
生徒の中の何人かは、あいつ喋れるんだとひそかに驚いていた。
スネイプは口をヘの字に曲げて名前睨んでいて、ハリーは矛先が名前に向けられたことを感じとった。
「ああ、Mr.ミョウジ───
ちょうどいいところに。」
『…』
「それでは君に聞くことにしよう。
…授業に遅れても自分にはわかると、自信がある君にね。」
『………』
スリザリンの生徒がくすくすと笑いながら名前を見ている。
矛先が変わった事にハリーは安堵しながらも、次のターゲットになった名前を心配した。
名前が何故授業に遅れたのかはわからないが、サボりたくて遅れたわけではないと思っている。
何か理由がある。そのはずだと。
スネイプは先程と同じように名前に聞いた。
「ミョウジ、アスフォルデの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
名前は無表情で黙ったままだった。
そりゃあ、いきなりそんな質問をされてもすぐに答えられるわけがない。
スリザリンの生徒が意地悪く笑みを浮かべるのを見て、ハリーは拳をぎゅっと握った。
こんな扱いは理不尽だし不当だ。
けれど自分に何が出来る?
ただこの時間を、スネイプの気が済むまで黙って耐え忍ぶしかないのか?
黙ったままの名前を見て、スネイプは満足そうに口角を上げる。
そしておもむろに口を開き息を吸う。
次の問題を言おうとしたときだ。
名前は涼しげな表情で、真っ直ぐスネイプを見つめながら答えたのだ。
『…眠り薬です。
とても強力なために、『生ける屍の水薬』といわれています。』
「……それではもう一つ聞こう、ミョウジ。
ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」
『…ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石です。
大抵の薬に対する解毒剤になります。』
「………モンクスフードとウルフスベーンとの違いは?」
『…それは同じ植物です。別名をアコナイトとも言います。鳥兜のことです。
塊根を乾かしたものは鳥頭(ウズ)または附子(ブシ)といい猛毒ですが、東洋では生薬として利用されており、鎮痛、鎮痙、新陳代謝賦活薬の効果があります。
ヤマトリカブトなど同属近似の種が多く、それらを総称することが多いです。
種によって薬効、毒性は異なりますが、』
「もうよい。
諸君、何故今のを全部ノートに書き取らんのだ?」
鬱陶しそうに手を払い、スネイプはとても不快そうに名前に座るよう言った。
ハリーは込み上げてくる笑いを我慢したが、唇がひくひくと痙攣してしまう。
今そのような姿をスネイプに見られでもしたら面倒だ。
ノートを取る振りをして俯き、顔を隠した。
しずしずと教室内に歩を進めた名前は、ハリーの隣に座った。
ハリーは少しだけ名前に目を向ける。
普段通りの無表情だ。鞄から筆記具を取り出している。
この状況で普段通りの姿という事は、名前は凄まじく鈍感か、恐ろしく強かなのかもしれない。
視線に気が付いたのか、名前はハリーを見た。
ハリーは名前に笑いかけた。
名前は首を傾げただけだった。
皆一斉に羽ペンと洋皮紙を取り出し、急いで書き取っている。
そんな中スネイプは、不機嫌そうな声で言ったのだった。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点。
ミョウジ、君は授業に遅刻したので一ヶ月の罰則を与える。」
心から同情してロンとハリーが名前を見た。
名前はスネイプを真っ直ぐと見据え、はっきりと『分かりました』と返事をし、それから何事もなかったかのようにノートに書き取り始めた。
泰然自若、慇懃無礼とも呼べるその態度に、スネイプの口角が引きつっている。
名前はそんな負のオーラを放つスネイプの様子には気付かず、ただ黙々とノートに書き込んでいる。
周囲から見れば異様な光景なのだが、本人はただの大真面目なのかもしれない。
ノートに書き取った後、スネイプは生徒を二人一組にさせて、おできを治す薬を調合させた。
奇数だったのか、グリフィンドールでは名前が一人で調合を行っていた。
一番後ろの、壁よりの隅の机に移り、黙々と作業をしている。
さっさと干イラクサを計り、ヘビの牙を飛び散らないように砕き、角ナメクジを茹でた。
「ミョウジ。」
すぐ目の前から声が聞こえてきて、作業に集中していた名前は少し驚いた様子で顔を上げた。
大鍋を挟んで目の前にスネイプが立っていた。
あまり身長が変わらないから、思いの外顔が近い。
近くで見るスネイプの顔はどこもかしこも不快そうに歪められている。
眉間に寄せられた深い皺。
軽蔑するように細められた目。
への字に曲げられた口元。
その不快そうな表情を見て、名前はおできを治す薬に目を落とし、微かに首を傾げる。
薬は教科書に載っているものと全く同じ色をしている。
「違う、薬のことではない。罰則のことだ。」
『…。』
再び顔をスネイプに向ける。
「授業が終わったら教壇まで来たまえ。
その時罰則を言いわたそう。」
『………』
「聞いているのかね?」
『………
スネイプ先生、何か変な匂いがしませんか。』
そう言いながら、名前は視線をネビル・ロングボトムに向けた。
つられてスネイプがそちらを見てみると、大鍋から薄く煙が出ているのを見つけた。
スネイプは早足でネビルの元へ向かい、バカ者と怒鳴った。
早く気付いたせいか大きな被害はなく、スネイプの怒鳴り声に驚いたネビルが鍋に指を突っ込み、それによって指におできができただけだった。
スネイプはネビルと組んでいたシェーマスに医務室に連れていくよう言いつけてから、隣で薬を作っていたハリーに何故ネビルに注意しなかったと、理不尽な減点をした。
ハリーも言い返そうと口を開きかけたが、ロンに小突かれ、悔しそうに唇を噛み締めてから小さな声で謝った。
一方名前は出来上がった薬を小瓶に入れ、もう片付けを始めていた。
「それじゃあ、僕ら行くけど…」
『…後で。』
「うん。…頑張って、ホントに。」
「くじけんなよ。後で話聞くから。ね。」