一年生
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白いカーテンを風が揺らしている。
カーテンの隙間から射し込む光も風に揺られて、好き勝手に辺りを照らしている。
揺らぐ光が撫でるように顔へ降り注ぐ。
閉じられた瞼がピクリと動いた。
血の気のない瞼が持ち上がる。
開かれた黒い瞳は光を吸い込み、まるで生気を感じさせない。
ぼんやりと天井を見つめ、名前は眩しそうに瞬きを繰り返した。
『……。』
光に目を細めながら、名前は目だけを動かして、周囲を見回した。
高い天井。
白いカーテン。
鼻にツンとする薬品の匂い。
どこかで見たことがある光景だ。
ぼんやりする頭で、名前はなんとか考えた。
そしてようやく、ここが医務室だということを理解した。
『……。』
この前みたく体が動かない、ということはなかった。
ベッドの中で身動いで、自分の手を引きずり出せた。
それでも腕は重たかった。
乾いた掌を顔の前に出して、降り注ぐ光を遮った。
掌から肘の手前あたりまで、包帯でぐるぐる巻きだ。
それも取り換えられたばかりのような、真っ白い包帯だ。
丁寧に巻かれた包帯を、名前はじっと見つめた。
それから名前は、もう片方の手も出してみた。
同じように包帯でぐるぐる巻きだ。
両手で首に触れてみる。
首にもしっかりと包帯が巻かれている。
首から手を離して、名前はもう一度、じっと両手を見つめた。
そして突然、疲れたように手を下ろした。
「ノック、ノック。」
カーテンの向こうから声が掛けられた。
誰かが立っている。
背の高い人影がカーテン越しに分かる。
聞き覚えのある男性の声だ。
『ダンブルドア校長先生。』
名前を呼ぶとカーテンが開かれた。
開かれた隙間から、にゅっとダンブルドアの顔が現れる。
「ジョークは苦手だったかのう?」
『……いいえ、苦手というわけでは……あの、どうしてジョークの話を……』
「ふーむ。若い者には少し古いかもしれん。」
『……』
「新しく学ぶ必要がありそうじゃ。ありがとう、ナマエ。わしは一つ気付きを得られた。」
目をぱちくりさせている名前を見て、ダンブルドアはにっこりと微笑んだ。
そしてカーテンを開いて中へ入ると、後ろ手に閉めた。
「さて。目が覚めたて何よりじゃ。おはよう、ナマエ。」
『ええと……』
「ああ、寝たままでも構わんぞ。」
『いいえ、大丈夫です。おはようございます、ダンブルドア校長先生。』
「うむ。座ってもいいかの?」
『はい。ええと……』
「よいよい、ナマエ。年寄りでも椅子は探せる……ほれ、ここじゃ。」
ダンブルドアは起きて動こうとする名前を手で制した。
そして備え付けのチェストに立て掛けてあったパイプイスを見つけた。
ダンブルドアは自分で組み立て、そこに座った。
名前とダンブルドアの目線は一気に近くなった。
キラキラと輝くブルーの瞳が弧を描いている。
「ナマエ、体の具合はどうじゃ?気分は悪くないかのう?」
『大丈夫です。』
「それならば、紅茶でも飲みながら話をしよう。先日良い茶葉が手に入ってのう。茶請けのクッキーもあるぞ。」
『……。』
「おや、好物ではなかったかのう。」
『あ……いいえ、そういうわけでは……少し緊張してしまって。』
「ならばより一層お茶を飲むとよい。心が緩んで楽になるじゃろう。」
ダンブルドアはゆっくりと杖を持ち上げて、空中で一振りした。
瞬く間にカップやポットが現れ、それらは宙をふわふわと移動しながら、チェストの上に静かに降り立った。
紅茶とバターの香りが辺りに満ちて、名前の鼻をくすぐった。
「ほれ、君の分じゃ。熱いから、火傷には気を付けるように。」
『あ…ありがとうございます。』
紅茶が注がれ、カップをソーサーごと受け取る。
立ち上る湯気が名前の顔を包み込み、肌がしっとりと湿った。
ダンブルドアは紅茶を一口飲んだ。
にっこりと微笑み、名前も飲むように促す。
名前はカップを口元まで運んだ。
おそるおそる紅茶を一口飲む。
わずかに名前の顔が綻んだ。
それを見てダンブルドアは、にっこりと笑った。
「うむ。やっぱり美味しいのう。ナマエ、君の口に合ったかな?」
『はい。美味しいです。』
「それはよかった。」
もう一口紅茶を飲んで、ダンブルドアはクッキーに手を伸ばした。
バターと卵がたっぷり入っていそうな、一口サイズのプレーンクッキーだ。
ダンブルドアはパクリとクッキーを口に放り込んだ。
満足そうに微笑んで、また一口クッキーを摘む。
「君が眠っていた日数は三日じゃ。思っていたよりも元気そうで安心したわい。」
『……ダンブルドア校長先生、』
「ん?」
『あの、お聞きしたいことがあって……』
「……ああ!大丈夫じゃ。心配せずとも。」
『……』
「君の分のクッキーは残しておくからの。」
『……いいえ。先生、それは……有り難いのですが、俺がお聞きしたいことは、別のことなのです。』
「なに、冗談じゃ。いや、クッキーは残しておくがの。」
『……ありがとうございます。……』
「さて、何から話そうかの。」
ダンブルドアはクッキーを摘む手を止めた。
それから反対の手で、長い白い髭を撫でた。
キラキラと輝くブルーの瞳が少しだけ伏せられている。
どこか遠くを見つめて、考え事をしているようだった。
『……ダンブルドア校長先生。』
「何じゃ?」
『ハリーは……先生は、……クィレル先生は、無事なんですか。』
「二人とも無事じゃよ。ハリーはまだ眠ってはいるが、順調に回復しておる。クィレル先生は……しかるべき処罰を受けるじゃろう。」
『……』
ダンブルドアの声は固く、言葉はやけに重たかった。
名前は黙り込んだダンブルドアを見つめた。
黒い瞳が揺れていて、内側で思考が激しく乱れているようだった。
唇を一文字に結び、紅茶の水面に視線を落とす。
カップを包み込む手は、真っ白に見えるくらい血の気が失せていた。
『……アズカバンですか。』
「……そうじゃな。その可能性もある。」
『……。』
「今は魔法省で裁判中じゃ。どうなるかはわからん。じゃがな、ナマエ。クィレル先生は償いたいと言っているそうじゃ。」
頭に重みがかかり、名前は思わず見上げた。
ダンブルドアが優しい笑みを浮かべて名前を見つめ返した。
シワだらけの大きな手が、名前の頭を撫でた。
「驚いたかの?」
『……はい。』
「わしも、その話を聞いたときは驚いた。クィレル先生の心は、もう取り戻しようがないくらい闇に染まっておったからのう。何故クィレル先生は、そう言ったと思う?」
『わかりません……。』
「君はよくクィレル先生と個人授業をしていたじゃろ?」
『え、は……はい。』
「君と触れ合っている内に、どうやらクィレル先生の中に迷いが生じらしい。」
『迷い、ですか。』
「そう。君を傷つけることが心苦しかったのじゃ。」
『……。』
「ハリーが君と"石"を守ろうと、とても頑張った。わしが君達を見つけたときは、とても危ない状態じゃった。あのまま続けておったら、危うく死ぬところだったじゃろう。ハリーとクィレル先生、二人とも……。」
『……』
「……じゃが、君がそれを止めた。そして、助けた。それが決定的だったのじゃ。」
『……何を確実なものにしたのですか。』
名前は首を傾げる。
ダンブルドアはにっこりと笑う。
「クィレル先生の心に光を取り戻したのじゃよ。」
『……』
名前は目をぱちくりさせた。
たぶん、ダンブルドアの言葉がすぎたか、どう解釈すればいいのか、よく分からないのだろう。
ダンブルドアは名前を放って話を続けた。
「"石"も無事じゃ。もう壊してしまったがの。」
『……壊して良かったのですか。あれを壊してしまったら……』
「"石"の持ち主と相談して決めたことじゃ。快く了承してくれた。」
名前はダンブルドアを見つめた。
相変わらず無表情だったが、いつもより強張っていた。
ダンブルドアはにっこりと微笑みかけた。
そして安心させるように、また頭を撫でた。
「甘いものは苦手かの?」
『いいえ。』
「遠慮せず、たんとお食べ。」
『ありがとうございます。いただきます。』
ダンブルドアは数種類のクッキーが乗った大皿を持ち上げて、名前の前に差し出した。
プレーン、チョコチップ、ナッツ、シナモン……
おもちゃ箱のように華やかだ。
少しの間、名前は目移りした。
そしてそろりと、プレーンクッキーに手を伸ばした。
口元に運ぶだけでバターの濃厚な香りが漂う。
一口サイズのクッキーを、名前はパクリと口に入れた。
軽やかな歯触りで、綿飴のように消えていった。
『……ヴォルデモートは、』
咀嚼して、ごくりと飲み込む。
声は呟くように小さい。
その名前を呼ぶことを咎められるかと思われた。
けれどダンブルドアは黙っていた。
名前の話を待っていた。
『きっとまだ生きている。……また目の前に現れる気がします。俺は……』
「……」
『見たんです。クィレル先生の体から、人の顔をした黒い煙が出ていくのを、……見たんです。』
そう言って、名前はダンブルドアを見た。
顔は無表情で、声の抑揚はない。
しかし黒い瞳は力強く訴えていた。
ダンブルドアは頷いた。
「今のヴォルデモートの体は霞のようなものじゃ。」
『……』
「だが、侮ってはならん。そうじゃの。君の思うた通り、今頃、乗り移る体を探していることじゃろう。」
『また現れたとき……そのときは……、』
「人によっては、逃げる選択もあるかもしれんの。じゃが、戦うことになるじゃろう。」
『……』
「ナマエ、今は休みなさい。今は、忘れるのじゃ。」
『……はい。』
名前は頷いたが、顔は固く強張ったままだった。
ヴォルデモートが自然消滅するとは思えなかった。
そもそも生き当たりばったりで行動しないはずだ。
今、実体を伴っていなくても、代わりの人材や仲間たちが、既にいるかもしれない。
こうしている間にも計画は進んでいるかもしれない。
そうしたら今回のように、事は簡単に収まらないだろう。
今回は奇跡的に誰も死なずに済んだ。
けれど次はどうだろう?
友人や、家族はどうなるだろう?
今ある光景がどのように塗り替えられてしまうのだろう?
不安が胸から込み上げてしまいそうだった。
名前は紅茶を飲み干した。
『ダンブルドア校長先生。紅茶とクッキー、ごちそうさまでした。ありがとうございました。』
「うむ。口に合ったかのう?」
『はい。美味しかったです。』
「そうか。」
ダンブルドアは本当に嬉しそうに、にっこりと笑った。
その笑顔を見て、名前は少しだけ強張りが取れた。
名前の不安は、名前一人だけのものではない。
ダンブルドアも同じ状況に立っているのだ。
そのダンブルドアが「休め」と言うのだから、休むべきなのだろう。
「そうじゃ、ナマエ。普段も暇があればわしの部屋に来ると良い。またお茶をしよう。校長といっても寂しいものでのう。いつもひとりぼっちじゃ。生徒と話がしたくてのう。どうかな?」
『はい。俺も、話がしたいです。』
名前は真っ直ぐとダンブルドアを見つめた。
カーテンの隙間から射し込む光が、名前の表情を彩った。
切れ長の目はキラキラと輝き、木陰のように涼しげだ。
ダンブルドアはにっこりと笑みを深くさせた。
カーテンの隙間から射し込む光も風に揺られて、好き勝手に辺りを照らしている。
揺らぐ光が撫でるように顔へ降り注ぐ。
閉じられた瞼がピクリと動いた。
血の気のない瞼が持ち上がる。
開かれた黒い瞳は光を吸い込み、まるで生気を感じさせない。
ぼんやりと天井を見つめ、名前は眩しそうに瞬きを繰り返した。
『……。』
光に目を細めながら、名前は目だけを動かして、周囲を見回した。
高い天井。
白いカーテン。
鼻にツンとする薬品の匂い。
どこかで見たことがある光景だ。
ぼんやりする頭で、名前はなんとか考えた。
そしてようやく、ここが医務室だということを理解した。
『……。』
この前みたく体が動かない、ということはなかった。
ベッドの中で身動いで、自分の手を引きずり出せた。
それでも腕は重たかった。
乾いた掌を顔の前に出して、降り注ぐ光を遮った。
掌から肘の手前あたりまで、包帯でぐるぐる巻きだ。
それも取り換えられたばかりのような、真っ白い包帯だ。
丁寧に巻かれた包帯を、名前はじっと見つめた。
それから名前は、もう片方の手も出してみた。
同じように包帯でぐるぐる巻きだ。
両手で首に触れてみる。
首にもしっかりと包帯が巻かれている。
首から手を離して、名前はもう一度、じっと両手を見つめた。
そして突然、疲れたように手を下ろした。
「ノック、ノック。」
カーテンの向こうから声が掛けられた。
誰かが立っている。
背の高い人影がカーテン越しに分かる。
聞き覚えのある男性の声だ。
『ダンブルドア校長先生。』
名前を呼ぶとカーテンが開かれた。
開かれた隙間から、にゅっとダンブルドアの顔が現れる。
「ジョークは苦手だったかのう?」
『……いいえ、苦手というわけでは……あの、どうしてジョークの話を……』
「ふーむ。若い者には少し古いかもしれん。」
『……』
「新しく学ぶ必要がありそうじゃ。ありがとう、ナマエ。わしは一つ気付きを得られた。」
目をぱちくりさせている名前を見て、ダンブルドアはにっこりと微笑んだ。
そしてカーテンを開いて中へ入ると、後ろ手に閉めた。
「さて。目が覚めたて何よりじゃ。おはよう、ナマエ。」
『ええと……』
「ああ、寝たままでも構わんぞ。」
『いいえ、大丈夫です。おはようございます、ダンブルドア校長先生。』
「うむ。座ってもいいかの?」
『はい。ええと……』
「よいよい、ナマエ。年寄りでも椅子は探せる……ほれ、ここじゃ。」
ダンブルドアは起きて動こうとする名前を手で制した。
そして備え付けのチェストに立て掛けてあったパイプイスを見つけた。
ダンブルドアは自分で組み立て、そこに座った。
名前とダンブルドアの目線は一気に近くなった。
キラキラと輝くブルーの瞳が弧を描いている。
「ナマエ、体の具合はどうじゃ?気分は悪くないかのう?」
『大丈夫です。』
「それならば、紅茶でも飲みながら話をしよう。先日良い茶葉が手に入ってのう。茶請けのクッキーもあるぞ。」
『……。』
「おや、好物ではなかったかのう。」
『あ……いいえ、そういうわけでは……少し緊張してしまって。』
「ならばより一層お茶を飲むとよい。心が緩んで楽になるじゃろう。」
ダンブルドアはゆっくりと杖を持ち上げて、空中で一振りした。
瞬く間にカップやポットが現れ、それらは宙をふわふわと移動しながら、チェストの上に静かに降り立った。
紅茶とバターの香りが辺りに満ちて、名前の鼻をくすぐった。
「ほれ、君の分じゃ。熱いから、火傷には気を付けるように。」
『あ…ありがとうございます。』
紅茶が注がれ、カップをソーサーごと受け取る。
立ち上る湯気が名前の顔を包み込み、肌がしっとりと湿った。
ダンブルドアは紅茶を一口飲んだ。
にっこりと微笑み、名前も飲むように促す。
名前はカップを口元まで運んだ。
おそるおそる紅茶を一口飲む。
わずかに名前の顔が綻んだ。
それを見てダンブルドアは、にっこりと笑った。
「うむ。やっぱり美味しいのう。ナマエ、君の口に合ったかな?」
『はい。美味しいです。』
「それはよかった。」
もう一口紅茶を飲んで、ダンブルドアはクッキーに手を伸ばした。
バターと卵がたっぷり入っていそうな、一口サイズのプレーンクッキーだ。
ダンブルドアはパクリとクッキーを口に放り込んだ。
満足そうに微笑んで、また一口クッキーを摘む。
「君が眠っていた日数は三日じゃ。思っていたよりも元気そうで安心したわい。」
『……ダンブルドア校長先生、』
「ん?」
『あの、お聞きしたいことがあって……』
「……ああ!大丈夫じゃ。心配せずとも。」
『……』
「君の分のクッキーは残しておくからの。」
『……いいえ。先生、それは……有り難いのですが、俺がお聞きしたいことは、別のことなのです。』
「なに、冗談じゃ。いや、クッキーは残しておくがの。」
『……ありがとうございます。……』
「さて、何から話そうかの。」
ダンブルドアはクッキーを摘む手を止めた。
それから反対の手で、長い白い髭を撫でた。
キラキラと輝くブルーの瞳が少しだけ伏せられている。
どこか遠くを見つめて、考え事をしているようだった。
『……ダンブルドア校長先生。』
「何じゃ?」
『ハリーは……先生は、……クィレル先生は、無事なんですか。』
「二人とも無事じゃよ。ハリーはまだ眠ってはいるが、順調に回復しておる。クィレル先生は……しかるべき処罰を受けるじゃろう。」
『……』
ダンブルドアの声は固く、言葉はやけに重たかった。
名前は黙り込んだダンブルドアを見つめた。
黒い瞳が揺れていて、内側で思考が激しく乱れているようだった。
唇を一文字に結び、紅茶の水面に視線を落とす。
カップを包み込む手は、真っ白に見えるくらい血の気が失せていた。
『……アズカバンですか。』
「……そうじゃな。その可能性もある。」
『……。』
「今は魔法省で裁判中じゃ。どうなるかはわからん。じゃがな、ナマエ。クィレル先生は償いたいと言っているそうじゃ。」
頭に重みがかかり、名前は思わず見上げた。
ダンブルドアが優しい笑みを浮かべて名前を見つめ返した。
シワだらけの大きな手が、名前の頭を撫でた。
「驚いたかの?」
『……はい。』
「わしも、その話を聞いたときは驚いた。クィレル先生の心は、もう取り戻しようがないくらい闇に染まっておったからのう。何故クィレル先生は、そう言ったと思う?」
『わかりません……。』
「君はよくクィレル先生と個人授業をしていたじゃろ?」
『え、は……はい。』
「君と触れ合っている内に、どうやらクィレル先生の中に迷いが生じらしい。」
『迷い、ですか。』
「そう。君を傷つけることが心苦しかったのじゃ。」
『……。』
「ハリーが君と"石"を守ろうと、とても頑張った。わしが君達を見つけたときは、とても危ない状態じゃった。あのまま続けておったら、危うく死ぬところだったじゃろう。ハリーとクィレル先生、二人とも……。」
『……』
「……じゃが、君がそれを止めた。そして、助けた。それが決定的だったのじゃ。」
『……何を確実なものにしたのですか。』
名前は首を傾げる。
ダンブルドアはにっこりと笑う。
「クィレル先生の心に光を取り戻したのじゃよ。」
『……』
名前は目をぱちくりさせた。
たぶん、ダンブルドアの言葉がすぎたか、どう解釈すればいいのか、よく分からないのだろう。
ダンブルドアは名前を放って話を続けた。
「"石"も無事じゃ。もう壊してしまったがの。」
『……壊して良かったのですか。あれを壊してしまったら……』
「"石"の持ち主と相談して決めたことじゃ。快く了承してくれた。」
名前はダンブルドアを見つめた。
相変わらず無表情だったが、いつもより強張っていた。
ダンブルドアはにっこりと微笑みかけた。
そして安心させるように、また頭を撫でた。
「甘いものは苦手かの?」
『いいえ。』
「遠慮せず、たんとお食べ。」
『ありがとうございます。いただきます。』
ダンブルドアは数種類のクッキーが乗った大皿を持ち上げて、名前の前に差し出した。
プレーン、チョコチップ、ナッツ、シナモン……
おもちゃ箱のように華やかだ。
少しの間、名前は目移りした。
そしてそろりと、プレーンクッキーに手を伸ばした。
口元に運ぶだけでバターの濃厚な香りが漂う。
一口サイズのクッキーを、名前はパクリと口に入れた。
軽やかな歯触りで、綿飴のように消えていった。
『……ヴォルデモートは、』
咀嚼して、ごくりと飲み込む。
声は呟くように小さい。
その名前を呼ぶことを咎められるかと思われた。
けれどダンブルドアは黙っていた。
名前の話を待っていた。
『きっとまだ生きている。……また目の前に現れる気がします。俺は……』
「……」
『見たんです。クィレル先生の体から、人の顔をした黒い煙が出ていくのを、……見たんです。』
そう言って、名前はダンブルドアを見た。
顔は無表情で、声の抑揚はない。
しかし黒い瞳は力強く訴えていた。
ダンブルドアは頷いた。
「今のヴォルデモートの体は霞のようなものじゃ。」
『……』
「だが、侮ってはならん。そうじゃの。君の思うた通り、今頃、乗り移る体を探していることじゃろう。」
『また現れたとき……そのときは……、』
「人によっては、逃げる選択もあるかもしれんの。じゃが、戦うことになるじゃろう。」
『……』
「ナマエ、今は休みなさい。今は、忘れるのじゃ。」
『……はい。』
名前は頷いたが、顔は固く強張ったままだった。
ヴォルデモートが自然消滅するとは思えなかった。
そもそも生き当たりばったりで行動しないはずだ。
今、実体を伴っていなくても、代わりの人材や仲間たちが、既にいるかもしれない。
こうしている間にも計画は進んでいるかもしれない。
そうしたら今回のように、事は簡単に収まらないだろう。
今回は奇跡的に誰も死なずに済んだ。
けれど次はどうだろう?
友人や、家族はどうなるだろう?
今ある光景がどのように塗り替えられてしまうのだろう?
不安が胸から込み上げてしまいそうだった。
名前は紅茶を飲み干した。
『ダンブルドア校長先生。紅茶とクッキー、ごちそうさまでした。ありがとうございました。』
「うむ。口に合ったかのう?」
『はい。美味しかったです。』
「そうか。」
ダンブルドアは本当に嬉しそうに、にっこりと笑った。
その笑顔を見て、名前は少しだけ強張りが取れた。
名前の不安は、名前一人だけのものではない。
ダンブルドアも同じ状況に立っているのだ。
そのダンブルドアが「休め」と言うのだから、休むべきなのだろう。
「そうじゃ、ナマエ。普段も暇があればわしの部屋に来ると良い。またお茶をしよう。校長といっても寂しいものでのう。いつもひとりぼっちじゃ。生徒と話がしたくてのう。どうかな?」
『はい。俺も、話がしたいです。』
名前は真っ直ぐとダンブルドアを見つめた。
カーテンの隙間から射し込む光が、名前の表情を彩った。
切れ長の目はキラキラと輝き、木陰のように涼しげだ。
ダンブルドアはにっこりと笑みを深くさせた。
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