一年生
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授業の終わりを告げるベルが鳴った。
ハリーたちは移植ごてを放り投げて、他の生徒の誰よりも早く教室を飛び出していく。
ハリーたちは風の子のように校庭を全速力で駆け抜け、後ろ姿は瞬く間に遠く離れていった。
何事かと顔を見合わせる生徒達をチラリと見て、名前はゆっくりと教材を片付けている。
日当たりの良い窓際に一人座り込み、名前はのんびりと宿題をこなしていた。
降り注ぐ日差しはぽかぽかと暖かくて、次第に頭がぼんやりとしてきてしまう。
これではいけない、名前はぶるぶると頭を振る。
問題集から顔を上げて、名前は少しだけ窓を開けた。
冷たく乾燥した風が名前の顔に吹き付ける。
そのまま風を浴びていると僅かに頭が冴えてきた。
ぼんやりと青空を眺め、眩しそうに目を細める。
『(きっともう、孵る頃だ。)』
今日、ハグリッドの小屋でドラゴンの卵が孵る。
一緒に見に行こうと、ロンに何度も誘われてはいた。
いかにドラゴンが素晴しいか、ドラゴンの卵が孵るところが見られるのはとても珍しいことか、懇懇と説明された。
けれど名前は山のような宿題があったから断ったのだ。
しかしそれでもロンはしばらく食い下がった。
その姿はとても熱狂的で、名前はあまりの圧に気圧されて口を噤んでしまった。
それを見兼ねたハーマイオニーが割って入って事態は何とか収束したのだが、一時は酷い言い争いにまで発展して、このまま喧嘩してしまうのではないかと生きた心地がしなかった。
あんなに言い争うのならば誘われるままに同行した方が良かったかもしれない。
名前は友情を引き換えに、自身の学業を選んだのだ。
いくら時間をかけても減らない、山積みの宿題をやる為に。
『(あれは……話を聞かれていたのかな。)』
ドラゴンの卵が孵る場面を一目見ようと、ロンは授業をサボってまで見に行こうとしていた。
けれどそこにハーマイオニーがいるのだから、当然行かせはしない。
"行く"、"行かない"の口論は、手紙が届いてから教室に行く間まで、ずーっと続いていた。
結局、授業が終わった直後に教室を飛び出していってしまったけれど。
そのやり取りをマルフォイが見ていた。
話まで聞いていたかは分からないけれど、立ち止まってじっとハリーたちの方を見ていたから、聞かれていた可能性は高い。
他の生徒達に比べて名前は抜きん出て背が高かったから、周囲の様子を察知しやすかった。
誰が誰を見ているか、意識を向けているのか。
まるでキリンのようによく見えた。
ハリーとマルフォイは仲が悪いようだし、この話がいさかいの種にならなければいいが、なんだか胸騒ぎがする。
名前は頭を振った。
せっかく宿題をやる時間があるのだから、集中して取り組んで、さっさと終わらせるべきだ。
名前は再び問題集に目を戻す。
参考のために借りてきた本を開き、目的の言葉を索引から調べる。
時計の針は淡々と時を刻んでいく。
談話室から話し声が聞こえる。
耳を澄ませば話の内容が微かに聞き取れる。
壁やドアに遮られて全ての内容では無いけれど、辺りが静かだから分かるのだ。
階段を上る音。
一人だ。
廊下を歩いて、この部屋の前で止まった。
慎重にドアの取手を捻っている。
しかし僅かに金属が擦れ合う音がする。
誰かが部屋に入ってきた。
床が軋んでいる。
一歩一歩忍び足で、真っ直ぐ名前のベッドへ向かってくる。
まだ談話室からは話し声が聞こえる。
「……ナマエ?」
天蓋のカーテンの向こうから、小さくて弱々しい声が聞こえた。
ハリー?ロン?どちらだろうか。
名前は身を起こして、カーテンの向こうを透視でもするかのように見た。
耳を澄ませる。
静かにしようと抑え込んだ衣擦れの音と、微かな呼吸の音聞こえる。
そっとカーテンを開ける。
カーテンの向こうにいたのはロンだった。
青白い顔をして、幽霊のように立っている。
「ちょっといい……?」
名前はすぐに頷いて、自分のベッドへ招き入れた。
ロンがカーテンの中へ潜り込み、それから名前は素早くカーテンを閉めた。
ロンはベッドへ倒れ込むように深く座った。
そして自身の身に起きた出来事を話し始めた。
『……噛まれた。』
「うん。ほら、見てよこれ。」
ロンは勢いよく名前の顔の前に手を突き出した。
近すぎて分からないから、名前は少しだけ頭を後ろに引く。
手がハンカチにくるんであった。
元の色が分からなくなるくらい真っ赤に染まっている。
絞れば滴り落ちそうなくらいだ。
『すごい血……手当てはしたの。』
「ううん、まだ。今エサやりから帰ってきたばっかりだもの。」
『……。』
突き出された手が引かれた。
ロンは血に染まった自分の手を色んな方向から眺めている。
名前は少しの間、その姿をじっと見つめた。
それから静かに手を差し出した。
ロンが不思議そうにその手と、名前の顔を見比べる。
「何?ナマエ。」
『手を見せて。』
「え?何でさ。」
『手当て、俺がする。よかったら……。片手で手当てするのは、大変だと思うから。』
「……それもそうだね。じゃ、お願い。」
名前は頷き返して、ベッドの下を覗き込む。
手探りで鞄を引き出して、足の上で鞄を開く。
鞄の中から救急箱を取り出し、いくつかの道具を抜き取った。
準備を終えて、改めてロンに向き合う。
ロンは大して迷いも疑いもせず、簡単に負傷した手を差し出した。
その手を支えて、慎重に血みどろのハンカチを開いていく。
濡れて固まった布を開く事は難しかった。
少しでも支える手で強く握ってしまったり、振動を与えたりすると、ロンが痛みに呻いて身を捩るからだ。
プレゼントの包装紙を破かないように、丁寧に。
優しい力加減でゆっくりと、ようやくハンカチが解ける。
これまた真っ赤に染まったロンの手が露になった。
『……ハリーとハーマイオニーは。』
「談話室。なんか話してるみたい。」
名前は通常の怪我のように手当てを始めた。
枕元に置いていた水を洗面器に注ぎ、まず徹底的に傷口を洗うことにした。
手を水につける、その刺激だけでも凄く痛むようだ。
けれど時間帯はもう皆が寝静まった深夜で、痛いからと騒ぐわけにはいかない。
それに事情を聞かれても答えられない。
それが分かっているからロンは必死に黙って、体を揺らしたり捻ったりして痛みを散らそうと頑張っていた。
何度か水を変えて洗い続け、段々と水が濁らなくなってきた。
充分かどうかは分からないから、念の為に名前の母親が持たせた紙石鹸で更に洗う。
それから清潔なタオルで水を拭き取り、消毒薬を塗り、ガーゼを重ねて傷口を押さえた。
ロンにとっては拷問の時間だ。
談笑なんて出来ない。
歯を食い縛り、息をするのが精一杯だ。
『……ノーバートは、チャーリーさん、っていう人が引き取るの。』
「……。」
この場を和まそうとでもしたのか、唐突に名前はそう言った。
だが拷問に耐えているロンがすぐに反応が出来るはずもない。
声に反応して顔を上げたものの、名前の言葉を理解するまで時間が掛かった。
「あ、チャーリー……うん……あれ?僕、ナマエに、話したっけ……。」
『談話室から話し声が聞こえた。』
「え、聞こえるの?でも、……だって、ドアは閉まってたし……壁だってあるし……それに、静かに話しているのに?」
『静かだから、よく聞こえるよ。』
少しバツが悪そうに、名前は小さな声で答える。
答えながらガーゼを変えて、もう一度押さえる。
なかなか流れ出る血が止まらない。
「そっかあ……ああ、そうなんだよ。まったく。やっと解放されるよ。ヒドイだろ?この手の傷。ノーバートが噛んだのに、ハグリッドは僕がノーバートを恐がらせたのが悪いって叱ってきてさ、僕の話なんかちっとも聞きやしないんだから。」
『……ハグリッドさんは、ノーバートが可愛いんだね。』
「あれは可愛がってるなんてもんじゃないよ。狂ってるぜ。」
何重にもガーゼを重ねる。
丁寧に、几帳面に包帯をくるくると巻き付ける。
巻き終えると、必要のない部分をハサミで切った。
とれないように固定する。
真っ白い包帯を透かして、あてたばかりのガーゼが赤くなっていくのが見える。
『……。』
「ありがとう、ナマエ。色々と道具を持っててくれたおかげで助かったよ。それにしても君って、準備が良すぎじゃない?」
『ロン。』
「なに?」
『傷……医務室で治療してもらった方がいい。』
「なんで?君が手当てしてくれたばっかりじゃないか。」
『傷が、酷い。』
「そりゃヒドイさ。ドラゴンに噛まれたんだもの。」
『それは……毒かも、しれない……。』
「毒?!」
『しーっ……。』
「あっ……ごめんよ。……毒だって?」
『ドラゴンの牙には毒がある……記憶が正しければ。……本で読んだことがある。』
苦痛で歪んだロンの顔が更に青ざめる。
そして包帯が巻かれた手を見下ろした。
つられて名前もロンの手をじっと見る。
お互いに何も言葉を発せず、沈黙は緊迫した空気を特別強くした。
ゴクリと唾を飲み込む音がした。
そうしてロンの口から発せられた声は掠れていた。
「毒、あったら……ヤバイよ。僕、解毒薬なんか作れない。」
『……医務室に行くべきだ。』
「そりゃ、そうだろうけど。でも、でもさ……なんて説明したらいいんだろう?"犬に噛まれました"って、言ったら……マダム・ポンフリーは信じてくれるかなあ。」
『…………。』
名前は何も言えなかった。
そしてロンは結局、医務室に行かなかった。
ドラゴンの存在が知られることを恐れ、行くのを渋ったのだ。
何か上手い言い訳や誤魔化しを思い付ければ良かったのだろうが、名前は口下手で嘘が苦手だ。
それに解毒となると正しい原因が分からなければ、解毒薬を作ることは困難になるだろう。
解毒薬が必要ならば正直に話すしかないのだ。
『……傷口を下にしないでね。出血がひどくなるだろうから。』
「うーん……。なるべく頑張るよ……。」
ベッドに横になるロンを確認して、名前は自分のベッドへ戻った。
しかし真っ暗な部屋の中で何度も寝返りをうつ音が聞こえるものだから、名前は気になって眠れない。
たまらず起き上がってロンのベッドまでやって来てみると、ロンは眉根を寄せてしっかり目を開いていた。
尋ねてみると、痛くて眠れないのだと言う。
名前はそっと包帯に覆われた手に触れてみた。
ひどく熱をもっている。
治るうちに治した方がいいのでは……と、名前は言ってみたが、ロンは頑なだった。
不安が蔓延したまま翌朝になり、朝日に照らされたロンの手は二倍くらいの大きさにまで腫れ上がっていた。
そして昼過ぎには、傷口が緑色になっていた。
ハーマイオニーが悲鳴を上げかけたほど、傷は酷くなっていたのだ。
───バレるから。───
未だに渋るロンを力ずくで医務室に引っ張っていった。
そんなことを言っている場合ではない。
「じゃあ、ナマエ。僕たちロンのお見舞いに行ってくるからね。」
「ナマエはちゃんと休むのよ。」
『……。』
ハリーとハーマイオニーが部屋を出て、静かにドアがしまる。
誰もいない寮に一人取り残され、名前は一人ベッドに横たわっていた。
昨夜、眠れないロンに付き合って徹夜したのがいけなかったのか。
名前の眠気は、今日一日絶好調だった。
制服を前後反対に着る。
何もないところでこける。
杖を吹っ飛ばす。
机に頭を打ち付ける。
インクを溢す。
眠気が最高潮に達した魔法薬の授業では、名前は薬を作りながら、立ったまま眠ってしまった。
ふらりと体が傾いたことで目が覚めたが、あのまま倒れていたら、鍋に頭から突っ込んでいたことだろう。
幸い、スネイプには気付かれなかったようだが。
(怪訝そうな顔はしていた。)
(一番安心したのはハリーたちだろう。)
自然と瞼が下がり、いつの間にか目を閉じていたことに、その時ばかりは、名前自身とてもびっくりしたのだった。
そしてついには、"このままでは近い内に必ず何かを起こす"とハリーとハーマイオニーに判断された。
授業が終わって間もなく名前は二人に引き摺られ、今は大人しく自室のベッドに横たわっている。
『…………。』
名前はしばらく、ぼんやりと天井の木目を見つめていた。
うつ伏せになって枕に顔を擦り付けると、そのまま寝息を立て始めた。
ハリーたちは移植ごてを放り投げて、他の生徒の誰よりも早く教室を飛び出していく。
ハリーたちは風の子のように校庭を全速力で駆け抜け、後ろ姿は瞬く間に遠く離れていった。
何事かと顔を見合わせる生徒達をチラリと見て、名前はゆっくりと教材を片付けている。
日当たりの良い窓際に一人座り込み、名前はのんびりと宿題をこなしていた。
降り注ぐ日差しはぽかぽかと暖かくて、次第に頭がぼんやりとしてきてしまう。
これではいけない、名前はぶるぶると頭を振る。
問題集から顔を上げて、名前は少しだけ窓を開けた。
冷たく乾燥した風が名前の顔に吹き付ける。
そのまま風を浴びていると僅かに頭が冴えてきた。
ぼんやりと青空を眺め、眩しそうに目を細める。
『(きっともう、孵る頃だ。)』
今日、ハグリッドの小屋でドラゴンの卵が孵る。
一緒に見に行こうと、ロンに何度も誘われてはいた。
いかにドラゴンが素晴しいか、ドラゴンの卵が孵るところが見られるのはとても珍しいことか、懇懇と説明された。
けれど名前は山のような宿題があったから断ったのだ。
しかしそれでもロンはしばらく食い下がった。
その姿はとても熱狂的で、名前はあまりの圧に気圧されて口を噤んでしまった。
それを見兼ねたハーマイオニーが割って入って事態は何とか収束したのだが、一時は酷い言い争いにまで発展して、このまま喧嘩してしまうのではないかと生きた心地がしなかった。
あんなに言い争うのならば誘われるままに同行した方が良かったかもしれない。
名前は友情を引き換えに、自身の学業を選んだのだ。
いくら時間をかけても減らない、山積みの宿題をやる為に。
『(あれは……話を聞かれていたのかな。)』
ドラゴンの卵が孵る場面を一目見ようと、ロンは授業をサボってまで見に行こうとしていた。
けれどそこにハーマイオニーがいるのだから、当然行かせはしない。
"行く"、"行かない"の口論は、手紙が届いてから教室に行く間まで、ずーっと続いていた。
結局、授業が終わった直後に教室を飛び出していってしまったけれど。
そのやり取りをマルフォイが見ていた。
話まで聞いていたかは分からないけれど、立ち止まってじっとハリーたちの方を見ていたから、聞かれていた可能性は高い。
他の生徒達に比べて名前は抜きん出て背が高かったから、周囲の様子を察知しやすかった。
誰が誰を見ているか、意識を向けているのか。
まるでキリンのようによく見えた。
ハリーとマルフォイは仲が悪いようだし、この話がいさかいの種にならなければいいが、なんだか胸騒ぎがする。
名前は頭を振った。
せっかく宿題をやる時間があるのだから、集中して取り組んで、さっさと終わらせるべきだ。
名前は再び問題集に目を戻す。
参考のために借りてきた本を開き、目的の言葉を索引から調べる。
時計の針は淡々と時を刻んでいく。
談話室から話し声が聞こえる。
耳を澄ませば話の内容が微かに聞き取れる。
壁やドアに遮られて全ての内容では無いけれど、辺りが静かだから分かるのだ。
階段を上る音。
一人だ。
廊下を歩いて、この部屋の前で止まった。
慎重にドアの取手を捻っている。
しかし僅かに金属が擦れ合う音がする。
誰かが部屋に入ってきた。
床が軋んでいる。
一歩一歩忍び足で、真っ直ぐ名前のベッドへ向かってくる。
まだ談話室からは話し声が聞こえる。
「……ナマエ?」
天蓋のカーテンの向こうから、小さくて弱々しい声が聞こえた。
ハリー?ロン?どちらだろうか。
名前は身を起こして、カーテンの向こうを透視でもするかのように見た。
耳を澄ませる。
静かにしようと抑え込んだ衣擦れの音と、微かな呼吸の音聞こえる。
そっとカーテンを開ける。
カーテンの向こうにいたのはロンだった。
青白い顔をして、幽霊のように立っている。
「ちょっといい……?」
名前はすぐに頷いて、自分のベッドへ招き入れた。
ロンがカーテンの中へ潜り込み、それから名前は素早くカーテンを閉めた。
ロンはベッドへ倒れ込むように深く座った。
そして自身の身に起きた出来事を話し始めた。
『……噛まれた。』
「うん。ほら、見てよこれ。」
ロンは勢いよく名前の顔の前に手を突き出した。
近すぎて分からないから、名前は少しだけ頭を後ろに引く。
手がハンカチにくるんであった。
元の色が分からなくなるくらい真っ赤に染まっている。
絞れば滴り落ちそうなくらいだ。
『すごい血……手当てはしたの。』
「ううん、まだ。今エサやりから帰ってきたばっかりだもの。」
『……。』
突き出された手が引かれた。
ロンは血に染まった自分の手を色んな方向から眺めている。
名前は少しの間、その姿をじっと見つめた。
それから静かに手を差し出した。
ロンが不思議そうにその手と、名前の顔を見比べる。
「何?ナマエ。」
『手を見せて。』
「え?何でさ。」
『手当て、俺がする。よかったら……。片手で手当てするのは、大変だと思うから。』
「……それもそうだね。じゃ、お願い。」
名前は頷き返して、ベッドの下を覗き込む。
手探りで鞄を引き出して、足の上で鞄を開く。
鞄の中から救急箱を取り出し、いくつかの道具を抜き取った。
準備を終えて、改めてロンに向き合う。
ロンは大して迷いも疑いもせず、簡単に負傷した手を差し出した。
その手を支えて、慎重に血みどろのハンカチを開いていく。
濡れて固まった布を開く事は難しかった。
少しでも支える手で強く握ってしまったり、振動を与えたりすると、ロンが痛みに呻いて身を捩るからだ。
プレゼントの包装紙を破かないように、丁寧に。
優しい力加減でゆっくりと、ようやくハンカチが解ける。
これまた真っ赤に染まったロンの手が露になった。
『……ハリーとハーマイオニーは。』
「談話室。なんか話してるみたい。」
名前は通常の怪我のように手当てを始めた。
枕元に置いていた水を洗面器に注ぎ、まず徹底的に傷口を洗うことにした。
手を水につける、その刺激だけでも凄く痛むようだ。
けれど時間帯はもう皆が寝静まった深夜で、痛いからと騒ぐわけにはいかない。
それに事情を聞かれても答えられない。
それが分かっているからロンは必死に黙って、体を揺らしたり捻ったりして痛みを散らそうと頑張っていた。
何度か水を変えて洗い続け、段々と水が濁らなくなってきた。
充分かどうかは分からないから、念の為に名前の母親が持たせた紙石鹸で更に洗う。
それから清潔なタオルで水を拭き取り、消毒薬を塗り、ガーゼを重ねて傷口を押さえた。
ロンにとっては拷問の時間だ。
談笑なんて出来ない。
歯を食い縛り、息をするのが精一杯だ。
『……ノーバートは、チャーリーさん、っていう人が引き取るの。』
「……。」
この場を和まそうとでもしたのか、唐突に名前はそう言った。
だが拷問に耐えているロンがすぐに反応が出来るはずもない。
声に反応して顔を上げたものの、名前の言葉を理解するまで時間が掛かった。
「あ、チャーリー……うん……あれ?僕、ナマエに、話したっけ……。」
『談話室から話し声が聞こえた。』
「え、聞こえるの?でも、……だって、ドアは閉まってたし……壁だってあるし……それに、静かに話しているのに?」
『静かだから、よく聞こえるよ。』
少しバツが悪そうに、名前は小さな声で答える。
答えながらガーゼを変えて、もう一度押さえる。
なかなか流れ出る血が止まらない。
「そっかあ……ああ、そうなんだよ。まったく。やっと解放されるよ。ヒドイだろ?この手の傷。ノーバートが噛んだのに、ハグリッドは僕がノーバートを恐がらせたのが悪いって叱ってきてさ、僕の話なんかちっとも聞きやしないんだから。」
『……ハグリッドさんは、ノーバートが可愛いんだね。』
「あれは可愛がってるなんてもんじゃないよ。狂ってるぜ。」
何重にもガーゼを重ねる。
丁寧に、几帳面に包帯をくるくると巻き付ける。
巻き終えると、必要のない部分をハサミで切った。
とれないように固定する。
真っ白い包帯を透かして、あてたばかりのガーゼが赤くなっていくのが見える。
『……。』
「ありがとう、ナマエ。色々と道具を持っててくれたおかげで助かったよ。それにしても君って、準備が良すぎじゃない?」
『ロン。』
「なに?」
『傷……医務室で治療してもらった方がいい。』
「なんで?君が手当てしてくれたばっかりじゃないか。」
『傷が、酷い。』
「そりゃヒドイさ。ドラゴンに噛まれたんだもの。」
『それは……毒かも、しれない……。』
「毒?!」
『しーっ……。』
「あっ……ごめんよ。……毒だって?」
『ドラゴンの牙には毒がある……記憶が正しければ。……本で読んだことがある。』
苦痛で歪んだロンの顔が更に青ざめる。
そして包帯が巻かれた手を見下ろした。
つられて名前もロンの手をじっと見る。
お互いに何も言葉を発せず、沈黙は緊迫した空気を特別強くした。
ゴクリと唾を飲み込む音がした。
そうしてロンの口から発せられた声は掠れていた。
「毒、あったら……ヤバイよ。僕、解毒薬なんか作れない。」
『……医務室に行くべきだ。』
「そりゃ、そうだろうけど。でも、でもさ……なんて説明したらいいんだろう?"犬に噛まれました"って、言ったら……マダム・ポンフリーは信じてくれるかなあ。」
『…………。』
名前は何も言えなかった。
そしてロンは結局、医務室に行かなかった。
ドラゴンの存在が知られることを恐れ、行くのを渋ったのだ。
何か上手い言い訳や誤魔化しを思い付ければ良かったのだろうが、名前は口下手で嘘が苦手だ。
それに解毒となると正しい原因が分からなければ、解毒薬を作ることは困難になるだろう。
解毒薬が必要ならば正直に話すしかないのだ。
『……傷口を下にしないでね。出血がひどくなるだろうから。』
「うーん……。なるべく頑張るよ……。」
ベッドに横になるロンを確認して、名前は自分のベッドへ戻った。
しかし真っ暗な部屋の中で何度も寝返りをうつ音が聞こえるものだから、名前は気になって眠れない。
たまらず起き上がってロンのベッドまでやって来てみると、ロンは眉根を寄せてしっかり目を開いていた。
尋ねてみると、痛くて眠れないのだと言う。
名前はそっと包帯に覆われた手に触れてみた。
ひどく熱をもっている。
治るうちに治した方がいいのでは……と、名前は言ってみたが、ロンは頑なだった。
不安が蔓延したまま翌朝になり、朝日に照らされたロンの手は二倍くらいの大きさにまで腫れ上がっていた。
そして昼過ぎには、傷口が緑色になっていた。
ハーマイオニーが悲鳴を上げかけたほど、傷は酷くなっていたのだ。
───バレるから。───
未だに渋るロンを力ずくで医務室に引っ張っていった。
そんなことを言っている場合ではない。
「じゃあ、ナマエ。僕たちロンのお見舞いに行ってくるからね。」
「ナマエはちゃんと休むのよ。」
『……。』
ハリーとハーマイオニーが部屋を出て、静かにドアがしまる。
誰もいない寮に一人取り残され、名前は一人ベッドに横たわっていた。
昨夜、眠れないロンに付き合って徹夜したのがいけなかったのか。
名前の眠気は、今日一日絶好調だった。
制服を前後反対に着る。
何もないところでこける。
杖を吹っ飛ばす。
机に頭を打ち付ける。
インクを溢す。
眠気が最高潮に達した魔法薬の授業では、名前は薬を作りながら、立ったまま眠ってしまった。
ふらりと体が傾いたことで目が覚めたが、あのまま倒れていたら、鍋に頭から突っ込んでいたことだろう。
幸い、スネイプには気付かれなかったようだが。
(怪訝そうな顔はしていた。)
(一番安心したのはハリーたちだろう。)
自然と瞼が下がり、いつの間にか目を閉じていたことに、その時ばかりは、名前自身とてもびっくりしたのだった。
そしてついには、"このままでは近い内に必ず何かを起こす"とハリーとハーマイオニーに判断された。
授業が終わって間もなく名前は二人に引き摺られ、今は大人しく自室のベッドに横たわっている。
『…………。』
名前はしばらく、ぼんやりと天井の木目を見つめていた。
うつ伏せになって枕に顔を擦り付けると、そのまま寝息を立て始めた。