一年生
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ベッドに横たわる名前は、ぼんやりと天蓋を見詰めていた。
視線の先にあるのは木製の天蓋の微かな木目模様だ。
でも名前は模様を見ているわけではないようだった。
視線の先に模様があるだけで、意識は別の所にあるように見えた。
ベッドのカーテンを閉め切ってはいるが、名前は部屋にいるのが自分一人だけという事を分かっていた。
静かな室内で聞こえるのは、いつもより大きく響いて聞こえる自身の呼吸音。
それと、閉じられたドア越しに聞こえる笑い声だ。
くぐもっていて何を言っているかまでは聞き取れないが、談話室の方は随分と賑やかだった。
『………ゴホッ、』
一つ咳をすると、堰を切ったように、立て続けに咳が出てきてしまう。
それは息をする暇も無く、何とか息をしようとしても、その刺激でまた新たな咳が現れる。
まるで見えない誰かに肺を握り締められたように息苦しい。
名前は仰向けから横向きになり、そのまま枕へ顔を沈めた。
胎児のように丸まって、少しでも苦痛を逃がそうとする。
それから少しずつ、ゆっくりと、慎重に、息を吸った。
頭がクラクラしていた。
眠っているのか、起きているのか。
今この時が、現実なのか夢なのか分からなくなる。
指先で布団を手繰り寄せ頭まで被ってみる。
この動作が出来たのだから、自分は起きている。これは現実だ。
けれど布団越しにも、ずっと笑い声が聞こえてきた。
「ねえ、ロン。ナマエ、大丈夫かな。」
「僕に聞かれても分からないよ。」
「それはそうだけど……ずっと寝ていて、何も食べないし、今日は一度もナマエと話してない。」
「ハリー、君がナマエの事を心配だって気持ちは分かるよ。僕だって心配さ。でも僕達にはどうしようもないだろ。」
「うーん……」
「それにいざとなったら、マクゴナガルが何とかするよ。だからきっと大丈夫さ。」
暗闇の中で声が聞こえる。
声は会話をしているようだが、名前は会話の内容が分からなかった。
眠りに落ちる直前のフワフワとした感覚で、耳に届いた言葉は理解をする前に霧散してしまうからだ。
抗えないほどに心地よい眠気に、言葉を聞き取ろうとする気力さえ奪われてしまう。
しかし突然、思わず息を飲むような冷たさに、フワフワとした感覚は消え失せた。
視界は明るい。ハリーとロンが心配そうに覗き込んでいる。
いつの間にか名前は眠っていたのだ。
「良かった、意識はあるみたいだ。」
「おい、なあ、ナマエ。大丈夫か?」
名前は何も言えずに、ただ何度か瞬きをした。
記憶が曖昧で、状況が飲み込めなかった。
黙ったまま目だけを動かして、ゆっくりと辺りの様子を窺う。
そして徐々に思い出してきた。
体の具合が悪い事、寮のベッドで寝ている事を。
サイドテーブルに目を遣ると、見慣れないボウルを見付けた。
氷がゴロゴロ浮いた、とても冷たそうな水が入っている。
ハリーとロンの手を見ると、二人の手は妙に赤かった。
名前は意識を額に向けた。
額はひんやりと心地よい。
二人は談話室に行っていたはずだが、たっぷり時間を割いて名前の看病をしてくれていたらしい。
『大丈夫。二人とも、ありがとう。』
「うわっ、ヒッデー声だ。」
「本当だ。掠れていて何を言ってるか分からないよ。」
名前の意識がはっきりしている事が分かって、ハリーとロンは一安心したようだ。
肩の力が抜けて、声と表情に張りが戻った。
けれど名前が上半身を起こそうとすると、二人の表情はたちまち曇ってしまった。
「ナマエ、起きて大丈夫なの?まだ寝ていた方がいいんじゃない。」
「そうだよ。君、ひっどい声だったし。顔だって真っ赤だ。」
『大丈夫。少しだけ、水が飲みたいだけだから。』
「そう?それなら、ちょっと待って。」
そう言うとハリーはベッドの脇に屈み込み、そこからピッチャーとコップを取り出した。
そしてピッチャーの中身をコップに注ぎ、慎重に名前の手に握らせた。
体の具合が思ったよりも悪いのか、体力を消耗しているのか。
分からないが、名前は水の入ったコップを重たく感じて、落とさないように両手で包みこんだ。
そして恐る恐る口元へ運ぶ。
ハリーとロンが黙って見守るので、名前は何だか、水を飲む動作に緊張した。
起きてから一度、常備薬を飲むために水分を摂っただけだ。
すごく喉が渇いているはずなのに、口に含んだ水分が固い異物のように感じる。
それでも何とか飲み込んで、それを何度か繰り返した。
「それにしても、クリスマス休暇早々に風邪をひいて寝込むなんて、ナマエってついてないよな。」
そう言いながらロンは膝立ちをやめて、床の上で胡座をかいた。
ハリーは床の上にピッチャーを置いてから、ロンと同じように胡座をかいた。
『でも、授業がある時じゃなくて良かった。』
「え、そうかな。どうして?」
「そうだよ、逆じゃない?」
『勉強が遅れるから。』
「ウゲーッ!まじかよ!」
「そんなこと言うの、ナマエとハーマイオニーくらいだよ!」
「そんなにお勉強がいいわけ?僕は休みたいくらいだってのに。」
『それは……』
名前はコップから片手を離して、自分の口元をパッと塞いだ。
そして素早く二人に背を向けると、ゴホゴホと続けて咳をした。
いきなり猛烈な勢いで咳が込み上げてきて会話を中断せざるを得なかったのだ。
一度始まった咳は中々止まらない。
ハリーとロンの二人は心配そうに顔を見合わせた。
それからすぐにハリーが立ち上がった。
ベッドの脇に腰掛けて、名前の背中を撫でた。
「ナマエ、大丈夫?」
『……うん……。』
「何か食べられそう?僕、持ってくるよ。」
『大丈夫。ありがとう。』
「……あ、そうだ。ねえ、ナマエ、君宛にプレゼントが届いていたよ。持ってこようか?」
『……うん。お願い、ハリー。』
名前が返事をすると、ハリーはすぐさま談話室に向かった。
そんなに慌てる必要はないのに急ぎ足で、寮のドアを潜って行った。
静かに閉まったドアを、名前はじっと見詰める。
まるでドアの向こうへ行ったハリーの気配を、透視でもして探ろうとするみたいに。
「心配してるんだよ、ハリーは。」
『……』
「まあ、それは僕もだけど……。」
『……ありがとう。』
「それは、……あのさ、そうだけど、……そうじゃなくって……。」
『……』
「ねえ、ナマエ。君が何をして欲しいか、ちゃんと僕らに言って欲しいんだよ。今だって僕らが水やタオルを持ってきてなきゃ、君は何もせずにずーっと寝たままだった。」
『薬は飲んだ。』
「ああ、そう。それで十分?」
『……。』
名前はじっとロンを見詰めた。
への字に曲がった唇に、八の字に寄せられた眉に、此方を睨み付けるような目つき。
怒っているのは明らかだ。でもただ怒っているわけではない。
悲しそうでもあるし、拗ねているようにも見えるし、心配そうでもある。
ロンが複雑な感情を抱いている事は分かる。
そしてその感情を抱かせたのは名前だ。
でもどうしてそのような感情を向けられたのか、名前には分からないようだった。
黙ってロンの顔を見詰めたまま、熱で浮かされた頭の中で、必死に言葉を探していた。
黙りこくった名前を見たロンはかえって冷静になったらしい。
名前から視線を外して軽く息を吐いた。
「ごめん、本当に心配なだけなんだ。もしかして大袈裟だった?」
『……いや、』
「だよな!友達なんだから、心配するのは普通の事だよな。」
『……うん。』
「いつもより更に痩せてるし、声だってガラガラだし?まあそれだけ具合が悪かったら、僕らに助けを求めるのは、難しかったかもね。」
『……。』
「薬は飲んだって言ってたけど、本当に医務室へ行かなくていいのかい?」
『………大丈夫。』
「……ナマエがいいならいいけどさ。それじゃ、約束してくれる?熱が下がらないようだったら絶対に医務室へ行くんだぞ。分かったかい?」
『………。』
そう言うロンの眼差しはとても真剣で、断れるような雰囲気ではない。
そもそも名前に断るつもりがあったかどうかは分からないが、名前はじっとロンの真剣な瞳を見詰め返した。
それも数秒ではない。十秒は見詰め返した。
ロンの方がたじろぐくらいに。
早々に我慢の限界を迎えたロンは、もう一度名前に問い掛けようと、口を開いて息を吸った。
けれど声を発するところまでは至らなかった。
ドアが勢い良く開いて、両手と両腕にプレゼントを抱えたハリーが、フラフラとした足取りで現れたからだ。
「ごめん、遅くなって……全部持って来ようとしたら手こずっちゃったんだ。」
プレゼントはハリーの両手にうずたかく抱えられ、ハリーの顔を隠してしまっていた。
それをハリーは腰で支えて、落とさないように慎重に、ゆっくりとすり足で近付いてくる。
しかもその両腕にはそれぞれ、風呂敷代わりに使われたブランケットが掛けられていて、隙間からみっちり詰まったプレゼントが見えた。
プレゼントの量に、名前は石像の如く固まった。
それから小さく頭を左右に振った。
まさかあのプレゼントが全て名前のものではあるまい。
ハリーとロンのものも含まれていて、きっと三人分なのだろう、と。
しかし次にロンとハリーから発せられた言葉を聞いて、名前は衝撃のあまり再び石像と化したのだった。
「これ全部、ナマエのなんだぜ?」
何故かロンは楽しそうだ。
名前はちっとも笑えない。
「これがナマエのパパとママからで、これは僕たちから。あとは女の子からみたい。」
「ナマエってモテるんだなあ。……あ、これ、僕のママから。
ナマエにも"ウィーズリー家特製セーター"を贈るなんて……。」
ロンの声はだんだん萎んでいって、最後の方は殆ど聞き取れなかった。
頬が赤くて何だか恥ずかしがってる様子だ。
しかし恥ずかしがってる割にはロンは栗色の、ハリーはエメラルドグリーンのセーターを着ている。
とても素晴らしい作品だ。
名前は大きく膨らんだ包みを一番に開けた。
萌葱色のセーターだ。
ハリーのセーターの色と似ているけれど、名前の方が青みが強くて濃いグリーンだった。
広げて羽織ってみると、だいぶ大きい。
「あ、いいんじゃない?なんだかナマエ、爽やかに見える。」
「うちのセーターが役に立ったようで良かったよ。いや、色が良かったのかな?」
『……へん、かな。』
「別に変じゃないよ。何て言うか、新鮮なだけ。ほら、ナマエの私服はいつも黒とか灰色とか、暗い色のしか見たこと無いから。」
「でもこれは、さすがにちょっと……大きすぎたな。ウン……。
確かに僕はママに、ナマエが大きい事は伝えたよ。でもこれじゃ巨人の服だよ……。」
「それは言い過ぎじゃない?」
『大きくなれば大丈夫。』
「ナマエもジョークを言うんだね。」
『……。』
それからは順番にプレゼントを開けていった。
ハリーとロンからはお菓子、ハーマイオニーからは本で、両親からは日本のお菓子が贈られてきた。
ハリーとロンが興味深そうに見るので、名前はお菓子を二人に分けた。
友人達と両親のプレゼントを確認したら、後に残るのは女の子たちからの大量のプレゼントだ。
名前はひとつひとつ手に取って名前を確認するだけで、開けて中身を見ようとはしなかった。
「開けないの?」
どら焼きを頬張ったまま、モゴモゴとロンが言う。
『知らない人達ばかりだ。』
「そうなんだ。でも、だから?」
ハリーの口元は大福の粉だらけだ。
『お返しをするべきなのかな……。』
「あー……。」
「うーん……。」
ハリーは腕を組み唸り、名前は残ったプレゼントの山を見つめ、ロンはモグモグとお菓子を食べ続けている。
顔も知らない。好みも、苦手なものも分からない。話した事さえない。
多分……。名前が忘れていなければ。
そんな相手にどのような「お返し」をするべきか?
そもそもこのプレゼントの送り主全員に「お返し」をするべきなのか?
それが誠実なのか?不誠実なのか?
考え込んだ名前の頭が痛くなって寝込むまで、脳内の会話は続いた。
視線の先にあるのは木製の天蓋の微かな木目模様だ。
でも名前は模様を見ているわけではないようだった。
視線の先に模様があるだけで、意識は別の所にあるように見えた。
ベッドのカーテンを閉め切ってはいるが、名前は部屋にいるのが自分一人だけという事を分かっていた。
静かな室内で聞こえるのは、いつもより大きく響いて聞こえる自身の呼吸音。
それと、閉じられたドア越しに聞こえる笑い声だ。
くぐもっていて何を言っているかまでは聞き取れないが、談話室の方は随分と賑やかだった。
『………ゴホッ、』
一つ咳をすると、堰を切ったように、立て続けに咳が出てきてしまう。
それは息をする暇も無く、何とか息をしようとしても、その刺激でまた新たな咳が現れる。
まるで見えない誰かに肺を握り締められたように息苦しい。
名前は仰向けから横向きになり、そのまま枕へ顔を沈めた。
胎児のように丸まって、少しでも苦痛を逃がそうとする。
それから少しずつ、ゆっくりと、慎重に、息を吸った。
頭がクラクラしていた。
眠っているのか、起きているのか。
今この時が、現実なのか夢なのか分からなくなる。
指先で布団を手繰り寄せ頭まで被ってみる。
この動作が出来たのだから、自分は起きている。これは現実だ。
けれど布団越しにも、ずっと笑い声が聞こえてきた。
「ねえ、ロン。ナマエ、大丈夫かな。」
「僕に聞かれても分からないよ。」
「それはそうだけど……ずっと寝ていて、何も食べないし、今日は一度もナマエと話してない。」
「ハリー、君がナマエの事を心配だって気持ちは分かるよ。僕だって心配さ。でも僕達にはどうしようもないだろ。」
「うーん……」
「それにいざとなったら、マクゴナガルが何とかするよ。だからきっと大丈夫さ。」
暗闇の中で声が聞こえる。
声は会話をしているようだが、名前は会話の内容が分からなかった。
眠りに落ちる直前のフワフワとした感覚で、耳に届いた言葉は理解をする前に霧散してしまうからだ。
抗えないほどに心地よい眠気に、言葉を聞き取ろうとする気力さえ奪われてしまう。
しかし突然、思わず息を飲むような冷たさに、フワフワとした感覚は消え失せた。
視界は明るい。ハリーとロンが心配そうに覗き込んでいる。
いつの間にか名前は眠っていたのだ。
「良かった、意識はあるみたいだ。」
「おい、なあ、ナマエ。大丈夫か?」
名前は何も言えずに、ただ何度か瞬きをした。
記憶が曖昧で、状況が飲み込めなかった。
黙ったまま目だけを動かして、ゆっくりと辺りの様子を窺う。
そして徐々に思い出してきた。
体の具合が悪い事、寮のベッドで寝ている事を。
サイドテーブルに目を遣ると、見慣れないボウルを見付けた。
氷がゴロゴロ浮いた、とても冷たそうな水が入っている。
ハリーとロンの手を見ると、二人の手は妙に赤かった。
名前は意識を額に向けた。
額はひんやりと心地よい。
二人は談話室に行っていたはずだが、たっぷり時間を割いて名前の看病をしてくれていたらしい。
『大丈夫。二人とも、ありがとう。』
「うわっ、ヒッデー声だ。」
「本当だ。掠れていて何を言ってるか分からないよ。」
名前の意識がはっきりしている事が分かって、ハリーとロンは一安心したようだ。
肩の力が抜けて、声と表情に張りが戻った。
けれど名前が上半身を起こそうとすると、二人の表情はたちまち曇ってしまった。
「ナマエ、起きて大丈夫なの?まだ寝ていた方がいいんじゃない。」
「そうだよ。君、ひっどい声だったし。顔だって真っ赤だ。」
『大丈夫。少しだけ、水が飲みたいだけだから。』
「そう?それなら、ちょっと待って。」
そう言うとハリーはベッドの脇に屈み込み、そこからピッチャーとコップを取り出した。
そしてピッチャーの中身をコップに注ぎ、慎重に名前の手に握らせた。
体の具合が思ったよりも悪いのか、体力を消耗しているのか。
分からないが、名前は水の入ったコップを重たく感じて、落とさないように両手で包みこんだ。
そして恐る恐る口元へ運ぶ。
ハリーとロンが黙って見守るので、名前は何だか、水を飲む動作に緊張した。
起きてから一度、常備薬を飲むために水分を摂っただけだ。
すごく喉が渇いているはずなのに、口に含んだ水分が固い異物のように感じる。
それでも何とか飲み込んで、それを何度か繰り返した。
「それにしても、クリスマス休暇早々に風邪をひいて寝込むなんて、ナマエってついてないよな。」
そう言いながらロンは膝立ちをやめて、床の上で胡座をかいた。
ハリーは床の上にピッチャーを置いてから、ロンと同じように胡座をかいた。
『でも、授業がある時じゃなくて良かった。』
「え、そうかな。どうして?」
「そうだよ、逆じゃない?」
『勉強が遅れるから。』
「ウゲーッ!まじかよ!」
「そんなこと言うの、ナマエとハーマイオニーくらいだよ!」
「そんなにお勉強がいいわけ?僕は休みたいくらいだってのに。」
『それは……』
名前はコップから片手を離して、自分の口元をパッと塞いだ。
そして素早く二人に背を向けると、ゴホゴホと続けて咳をした。
いきなり猛烈な勢いで咳が込み上げてきて会話を中断せざるを得なかったのだ。
一度始まった咳は中々止まらない。
ハリーとロンの二人は心配そうに顔を見合わせた。
それからすぐにハリーが立ち上がった。
ベッドの脇に腰掛けて、名前の背中を撫でた。
「ナマエ、大丈夫?」
『……うん……。』
「何か食べられそう?僕、持ってくるよ。」
『大丈夫。ありがとう。』
「……あ、そうだ。ねえ、ナマエ、君宛にプレゼントが届いていたよ。持ってこようか?」
『……うん。お願い、ハリー。』
名前が返事をすると、ハリーはすぐさま談話室に向かった。
そんなに慌てる必要はないのに急ぎ足で、寮のドアを潜って行った。
静かに閉まったドアを、名前はじっと見詰める。
まるでドアの向こうへ行ったハリーの気配を、透視でもして探ろうとするみたいに。
「心配してるんだよ、ハリーは。」
『……』
「まあ、それは僕もだけど……。」
『……ありがとう。』
「それは、……あのさ、そうだけど、……そうじゃなくって……。」
『……』
「ねえ、ナマエ。君が何をして欲しいか、ちゃんと僕らに言って欲しいんだよ。今だって僕らが水やタオルを持ってきてなきゃ、君は何もせずにずーっと寝たままだった。」
『薬は飲んだ。』
「ああ、そう。それで十分?」
『……。』
名前はじっとロンを見詰めた。
への字に曲がった唇に、八の字に寄せられた眉に、此方を睨み付けるような目つき。
怒っているのは明らかだ。でもただ怒っているわけではない。
悲しそうでもあるし、拗ねているようにも見えるし、心配そうでもある。
ロンが複雑な感情を抱いている事は分かる。
そしてその感情を抱かせたのは名前だ。
でもどうしてそのような感情を向けられたのか、名前には分からないようだった。
黙ってロンの顔を見詰めたまま、熱で浮かされた頭の中で、必死に言葉を探していた。
黙りこくった名前を見たロンはかえって冷静になったらしい。
名前から視線を外して軽く息を吐いた。
「ごめん、本当に心配なだけなんだ。もしかして大袈裟だった?」
『……いや、』
「だよな!友達なんだから、心配するのは普通の事だよな。」
『……うん。』
「いつもより更に痩せてるし、声だってガラガラだし?まあそれだけ具合が悪かったら、僕らに助けを求めるのは、難しかったかもね。」
『……。』
「薬は飲んだって言ってたけど、本当に医務室へ行かなくていいのかい?」
『………大丈夫。』
「……ナマエがいいならいいけどさ。それじゃ、約束してくれる?熱が下がらないようだったら絶対に医務室へ行くんだぞ。分かったかい?」
『………。』
そう言うロンの眼差しはとても真剣で、断れるような雰囲気ではない。
そもそも名前に断るつもりがあったかどうかは分からないが、名前はじっとロンの真剣な瞳を見詰め返した。
それも数秒ではない。十秒は見詰め返した。
ロンの方がたじろぐくらいに。
早々に我慢の限界を迎えたロンは、もう一度名前に問い掛けようと、口を開いて息を吸った。
けれど声を発するところまでは至らなかった。
ドアが勢い良く開いて、両手と両腕にプレゼントを抱えたハリーが、フラフラとした足取りで現れたからだ。
「ごめん、遅くなって……全部持って来ようとしたら手こずっちゃったんだ。」
プレゼントはハリーの両手にうずたかく抱えられ、ハリーの顔を隠してしまっていた。
それをハリーは腰で支えて、落とさないように慎重に、ゆっくりとすり足で近付いてくる。
しかもその両腕にはそれぞれ、風呂敷代わりに使われたブランケットが掛けられていて、隙間からみっちり詰まったプレゼントが見えた。
プレゼントの量に、名前は石像の如く固まった。
それから小さく頭を左右に振った。
まさかあのプレゼントが全て名前のものではあるまい。
ハリーとロンのものも含まれていて、きっと三人分なのだろう、と。
しかし次にロンとハリーから発せられた言葉を聞いて、名前は衝撃のあまり再び石像と化したのだった。
「これ全部、ナマエのなんだぜ?」
何故かロンは楽しそうだ。
名前はちっとも笑えない。
「これがナマエのパパとママからで、これは僕たちから。あとは女の子からみたい。」
「ナマエってモテるんだなあ。……あ、これ、僕のママから。
ナマエにも"ウィーズリー家特製セーター"を贈るなんて……。」
ロンの声はだんだん萎んでいって、最後の方は殆ど聞き取れなかった。
頬が赤くて何だか恥ずかしがってる様子だ。
しかし恥ずかしがってる割にはロンは栗色の、ハリーはエメラルドグリーンのセーターを着ている。
とても素晴らしい作品だ。
名前は大きく膨らんだ包みを一番に開けた。
萌葱色のセーターだ。
ハリーのセーターの色と似ているけれど、名前の方が青みが強くて濃いグリーンだった。
広げて羽織ってみると、だいぶ大きい。
「あ、いいんじゃない?なんだかナマエ、爽やかに見える。」
「うちのセーターが役に立ったようで良かったよ。いや、色が良かったのかな?」
『……へん、かな。』
「別に変じゃないよ。何て言うか、新鮮なだけ。ほら、ナマエの私服はいつも黒とか灰色とか、暗い色のしか見たこと無いから。」
「でもこれは、さすがにちょっと……大きすぎたな。ウン……。
確かに僕はママに、ナマエが大きい事は伝えたよ。でもこれじゃ巨人の服だよ……。」
「それは言い過ぎじゃない?」
『大きくなれば大丈夫。』
「ナマエもジョークを言うんだね。」
『……。』
それからは順番にプレゼントを開けていった。
ハリーとロンからはお菓子、ハーマイオニーからは本で、両親からは日本のお菓子が贈られてきた。
ハリーとロンが興味深そうに見るので、名前はお菓子を二人に分けた。
友人達と両親のプレゼントを確認したら、後に残るのは女の子たちからの大量のプレゼントだ。
名前はひとつひとつ手に取って名前を確認するだけで、開けて中身を見ようとはしなかった。
「開けないの?」
どら焼きを頬張ったまま、モゴモゴとロンが言う。
『知らない人達ばかりだ。』
「そうなんだ。でも、だから?」
ハリーの口元は大福の粉だらけだ。
『お返しをするべきなのかな……。』
「あー……。」
「うーん……。」
ハリーは腕を組み唸り、名前は残ったプレゼントの山を見つめ、ロンはモグモグとお菓子を食べ続けている。
顔も知らない。好みも、苦手なものも分からない。話した事さえない。
多分……。名前が忘れていなければ。
そんな相手にどのような「お返し」をするべきか?
そもそもこのプレゼントの送り主全員に「お返し」をするべきなのか?
それが誠実なのか?不誠実なのか?
考え込んだ名前の頭が痛くなって寝込むまで、脳内の会話は続いた。