一年生
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一二月のある朝、異様な寒さで目が覚めた。
空気まで凍り付いてしまったように室内は静かだ。
耳をそばだてると微かに寝息が聞こえてくる。
ベッドから身を起こして周りを見ると、まだ誰も彼もすやすやと眠っていた。
カーテンの隙間からはいつもと違う、際立って白い光が室内に射し込んでいる。
名前はベッドから足を抜き出し、素足をローファーに滑り込ませた。
あまりの冷たさにその一瞬、まるで背中に氷の塊を入れられたかのような寒気が走った。
身を縮こまらせながら名前は、静かに窓際に近付く。
音を立てないようにカーテンの隙間へ顔を覗かせた。
すると窓の外には、白銀の世界が広がっていた。
目を見開き、窓ガラスが結露して滴が伝うのも構わずに窓にへばりつく。
いつもの涼しげな瞳はそこにはなく、無邪気な子供のようなキラキラと輝かせた目で、まだちらちらと降る雪を食い入るように見つめている。
しばらくその景色を眺めた後に、急いで寝間着を脱ぎ捨て厚着をすると、名前は忍び足で寮を出ていった。
「「おや?」」
「フレッド、君には何が見える?」
「ジョージ、おそらく君と同じものさ。」
「「あそこに見えるは、長身白皙の美少年と有名な、
ナマエ・ミョウジじゃないか!」」
雪の降る朝、静かな中庭で、彼らの声はよく響いた。
でも雪玉を大きくするのに夢中な名前には聞こえていないようだ。
彼らは揃いの暖かそうな毛糸の帽子を、目元が隠れてしまうくらいすっぽりと被っていたが、首筋辺りに燃えるような赤毛がこっそりと顔を出している。
一目見ただけでは誰だか判断できないだろうが、全く似た格好をした者が並んでいれば、知っている者ならなんとなく察しがつくだろう。
彼らは抜き足差し足で、足元一面に広がる雪を掬いとり、
固い丸い雪玉を作ると、勢いよく名前の頭にぶつけた。
『───!』
「「ハーイ、ごきげんよう、Mr.ミョウジ。」」
『………誰。』
「…聞いたかい?ジョージ。」
「聞いたとも。フレッド。」
「ああ、なんて悲しいことだろう!」
「僕らはナマエに、あのハロウィンの日に、心をこめてプレゼントをお贈りしたのに!」
「「まさかその思いが伝わらなかったなんて!」」
『………
もしかして、ロンの、双子のお兄さん…ですか。』
これ以上悲しいことはない、と言いたげに、涙を拭う動作をしていた二人は、ニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。
さっと姿勢を正すと、名前に向かって恭しくお辞儀をした。
先程から大層大仰な立ち居振る舞いだ。
突然の出来事で何がなんだかわからない様子の名前は、雪玉をぶつけられた後頭部をさすりさすり、作っていた雪玉の手を休めている。
「正解!まさか本当にわからないのかとヒヤヒヤしたよ。」
「僕ら二人を見分けられる人は少ないけど、僕ら二人を知ってる人はたくさんいるからな。少なくとも、この学校の中ではね。ところで、ナマエ。
僕らの名前はご存知かな?」
『いや…。』
「ならば名乗ろう。僕はフレッド。で、」
「僕はジョージ。」
「「以後お見知り置きを、ナマエ。」」
『……こちらこそ。』
「………」
「………」
『…』
「ナマエお坊ちゃんは、やっぱりちょっとズレてるよな。フレッド。」
「ああ。ネジの二・三本は抜けてるな。ジョージ。」
『…何の話を。』
「だって怒らないじゃないか。ハロウィンの日、君に悪戯を仕掛けたのは僕らなんだぜ。今だって出会い頭に雪玉をぶつけたんだ。君はそれがわかってるのに。」
「なのに君ときたら『こちらこそ』だなんて言うんだから。」
「「そこは普通は怒るところだろ!」」
真剣そうな二人の顔を前に、名前は相変わらず無表情だ。
良くも悪くも取られるその表情で、名前は微かに首を傾げた。
『…二ヶ月近くも前のことですから。』
それだけ言うと、くるりと向きを変えて、ゴロゴロと雪玉を転がし始める。
その後ろを彼らは「「ちょっと待って!」」とすぐさま追いかけ、名前の両脇にピッタリくっついて付き纏い、「本当に怒ってないのか」と何度も尋問のように問いただす。
いくら問いただされても、名前は微かに頷いてみせるだけ。
相変わらず表情というものはなく、大股で雪の中をざくざくと踏み鳴らして歩いていくので、彼らは名前が本当に怒ってないとは信じることができなかった。
そのうち大きな雪玉が出来上がり、木の実と小枝で装飾された、背の高い雪だるまが完成しても、名前は嬉しそうにも楽しそうにもしない。
ただだんまりと遠くから雪だるまを眺めている。
途中から付き纏いをやめた彼らは、名前から少し離れたところで額を寄せあい、ひたすら困っていた。
「ロンに聞いていた通り、ニコリともしないな。」
「怒りもしないけどな。ここまで無反応だとは予想外だ。」
「でも、そんなヤツから表情を引き出せたら、俺達の巧みな話術に箔が付くってもんじゃないか?」
「人を笑わせるのは得意だ。」
「怒らせる事もな。」
「普段静かな人が怒ると怖いっていうぞ?」
「それも俺達にとっては大きな収穫だ。」
「まあな。」
「よし。まずは、」
「「どうしたらナマエの笑顔を見れるかだな。」」
むむ、と全く同じ顔で悩む顔が二つ並ぶ。
首を傾げて唸るタイミングまで一緒だ。
まるで打ち合わせでもしてあったかのように、左右対称の動きをしている。
そんな彼らの視界に、身を縮めて寒そうに廊下を歩くクィレルの姿が入ってきた。
二人は少し思案するように視線を上の方にやったあと、にんまりと笑ってお互いの顔を見遣る。
そして杖を取り出すと、黙々と雪ウサギを生産する名前に向かって高々と言い放った。
「こっちをご覧、ナマエお坊ちゃん!」
「もっと面白いもんを見れるからさ!」
『…』
名前が振り返ると、なんと彼らは雪玉に魔法をかけて、クィレルを追尾するようにした。
クィレルの重たそうなターバンに、ぽんぽんと雪玉が跳ね返っている姿が見える。
彼らは、あわあわと慌てふためくクィレルを指差して、腹を抱えて笑っている。
名前の顔色は雪景色に溶け込みそうなくらい蒼白になった。
この時の名前の心境を率直に代弁するならば、『さすがにあれはねーわ。』というところだろう。
ケタケタ笑いながら駆け寄ってきた二人は、「どうだい、最高だろ?」と言いながら、肩をバンバン叩いてくる。
名前はぶんぶんと首を横に振るだけで何も言わない。
その名前の反応が面白かったのか、二人は更に笑った。
少しして廊下を歩いて来た別の先生が騒ぎに気付き、その場は収まった。
しかし二人は罰を受ける事となり、連行されていった。
自業自得である。
辺りは急に静まり返った。
彼らは二人だけでも、とても賑やな存在だったのだ。
廊下には、クィレルと名前が取り残されていた。
『………雪が、』
「な、なんだい?」
『雪が、背中に……』
唐突に口を開いたせいか、クィレルは名前が何を言ったのか分からなかったようだ。
首を痛めそうなほど勢い良く此方を見て、驚いた様子で神経質なくらい素早く何度も瞬きをしている。
名前はゆっくりと手を伸ばして、クィレルの背についた雪を軽く払った。
ああ、雪を払ったのか。と、クィレルはそこで気付いたようだ。
ホッと安堵の息を吐き、すぼめた肩を緩めた。
「あ、ああ、ありがとう、ミョウジ君。」
『……俺の名前を、ご存知なんですか。』
「あ、ああ、もちろんだよ。だ、だってき、君はわた、私の授業に、で、出ているだろう?」
『……。』
確かに名前はクィレルの授業に出席はしている。
けれど教師であるクィレルは全ての寮生、そして一年生から七年生まで扱っているはずだから、数で言えば優に百人以上は見ているだろう。
授業に出席しているからと言って、そこまで交流の無いいち生徒の名前と顔をそう簡単に覚えられるものだろうか。
しかも名前は今年入ってきたばかりの、まだ半年も経っていない新入生だ。
それに名前は取り立てて問題も起こさない、積極的な発言もしない、物静かで大人しい性格の持ち主である。
それともクィレルや他の教師陣は、全ての生徒の顔と名前を把握しているのだろうか。
教師であればそれが普通なのだろうか。
少し間をあけて、名前はコクリと頷いた。
「き、き、君は、目立つからね。あ、い、いや、悪い意味じゃなくてね……に、日本人は珍しいし、き、君は、一年生のわりに、せ、背が高いから……。」
『……。』
名前は頷きもせず、首も振らず、口も開かず、何の反応も示さない。
ピクリとも身動ぎもせず、クィレルまるでマネキンに話し掛けているような気分になる。
黙り込んだ名前を見て、怒らせたかとでも思ったのかもしれない。
クィレルは無理に作ったような笑顔を名前に向けた。
上げた口角がぴくぴくと痙攣している。
それでも名前は何の反応も示さない。
笑い返すこともしない。
それで、クィレルは扱いに困ったのかもしれない。
「それでは、また授業で」と言うと、そそくさとその場を後にした。
小さくなっていくクィレルの背中を、名前はじっと見つめる。
『……っくしゅん。』
くしゃみが出たところで、名前は図書室へ向かった。
暖を取りに行くためだった。
「ナマエ、何をやってるの?」
『……ハリー。』
図書室にやって来たハリーはいつものクセで、名前やハーマイオニーがよく座る席をまず見に行った。
そこには案の定名前がいたのだが、ハリーの目に映ったのは、積み上げられた本に埋もれながら本を読む名前の姿だった。
『本を読んでいる。』
「本に埋もれながらかい?」
『………。』
言われて名前は、右、左、と自分の周りを眺め、やがてハリーに目を戻し、こっくり頷く。
ハリーは深い溜め息をこぼした。
「この本は必要なの?」
『いや、もう読んだ本だ。』
「読んだら戻さなきゃだめだよ。」
『うん……そうだね、ごめん。気になる言葉を探していたら、どんどん本を取ってしまっていた。』
「気になる言葉って?呪文とか、誰かの名前とか?」
『ええと……うーん……何というか……。』
名前は席を立って、読んだ本を抱えて元の位置に戻す。
その名前を手伝って、ハリーも本を元ある場所に戻す。
『本を読んでいると、わからない言葉が出てくる。だから、それが何か調べながら読んでいた。』
「ふーん。なんだかナマエって、時々ハーマイオニーみたい……あっ、」
『……』
「ねえ、ナマエ……ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
ハリーは名前に身を寄せて、内緒話でもするかのように声を潜めた。
それにつられてか名前も周囲をキョロキョロと見回して、誰もいない事を確認してから、体と耳を傾けた。
「ニコラス・フラメルって知ってる?」
そのままの体勢で名前は二、三度ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
数秒の時を経て名前は体勢を立て直し、いつもの姿勢に戻る。
真っ直ぐと伸びた背筋に、少し俯いた頭で、何か思案しているようだ。
どこを見るでもなく、抱えた本の山をじっと見つめている。
ハリーは期待を込めた眼差しを名前に向けた。
授業中の名前はとても消極的で、求められない限り一切発言をしない。
でも近くで見ているハリーは、名前が努力家で賢い事を知っている。
きっとハーマイオニーと同じくらいに。
何か知っているかもしれない、そう期待を抱かずにはいられない。
『名前は聞いたことがある。』
「え!ほんとに?」
『でも疎覚えなうえに、マグルの世界で得た幼少の知識だ。魔法界とは違うかもしれない。不確かなことを教えることはできない。』
「でも、それでもさ……うーん……そっか……。」
『……ごめん。』
「ううん、気にしないで。」
ハリーは肩を竦めて、大した事はないとでも言うふうに笑って見せた。
無理矢理に言葉を飲み込んだのだ、納得しているわけがない。
何でも無いふうに本を戻す作業を再開しているが、どことなく残念そうだ。
ハリーの横顔をチラリと見て、名前は少し俯いて唇を一文字に引き結んだ。
腕の中に抱えた様々な本を、一冊一冊手に取り、ゆっくりと本棚に戻していく。
『調べる理由は何。』
「えっ……
……あー……ウン……。」
本を戻しながら、突然呟くような声量で名前がハリーに問う。
淡白で抑揚のない、一定に保たれた声量。名前の話し方だ。
慣れてしまえば気にならない。
しかし慣れていない者にはある種の威圧感を感じさせるようだった。
まるで自分が悪い事をしていて、名前がそれを淡々と詰っているような、そんな感覚だ。
友人であるハリーは当然、名前のこの話し方に慣れていたが、この時ばかりは凄まじい威圧感を感じた。
ハリーとしては別に、やましいことを企んでいるわけではないのだが、打ち明けねばならないような気持ちになったのだ。
「あのね、ナマエ……これは秘密のことなんだ。誰にも話しちゃいけないよ?」
最後の一冊を棚に納めて此方に振り向いたハリーは、覚悟を決めたような真面目な顔で、とても真剣な眼差しを名前に向けた。
何か重大な告白があるようだ。
名前はじっとグリーンに輝く瞳を見つめて、ゆっくりと深く頷いた。
二人は再び身を寄せ合った。
周囲に誰もいない事を二人で入念に確認する。
内緒話をするかのように、ハリーは背伸びをして身を寄せて、口元に手をあてる。
ハリーに合わせて名前も身を屈めて体をくっつけた。
「"クィディッチ今昔"をスネイプに没収されて、取り返しに行った夜のことを覚えている?」
『………』
コクリ、頷く。
「スネイプが足に怪我をしていたのを見た?」
『……』
またコクリ、頷く。
「三頭犬は知ってる?」
『……』
ややあってから、頷く。
「今、ホグワーツには三頭犬がいるんだ。その三頭犬は何かを守ってる。それをスネイプが狙っているみたいなんだ。
スネイプが狙っているものが何かも、三頭犬が何を守っているのかも、まだわからないんだけれど……ニコラス・フラメルっていう人が関係しているみたいなんだ。」
『…………』
「ナマエ、この話は秘密だ。誰にも話しちゃいけない。約束できる?」
『………。』
名前はハリーの目を真っ直ぐ見詰めて、はっきりと頷く。
口下手で嘘が吐けない名前だけれど、口は堅くて信頼の置ける人物だ。
だから初めからハリーは心配していなかったが、それを確認してから、寄せていた身を離した。
数分間背伸びを続けて悲鳴を上げる足首を、ハリーは床の上で爪先を立ててぐるぐると回す。
ふと気が付くと、名前はハリーを見詰めていた。
ずっと見詰め続けていたのか、それとも偶然視線が合っただけなのか。
ハリーが名前を見詰め返すと、名前は珍しくも視線を外さず見詰めてくる。
いつもなら三秒と経たない内に、いっそ感動してしまうくらい、素早くナチュラルにそっぽを向かれるのだが。
驚いたハリーは思わず名前に見入ってしまった。
それでも名前は相変わらず涼しげな目元で見詰めている。
「ナマエ?」
『……』
「ねえ、どうしたの?」
『……ううん、何でもない。』
そう言って名前は本当に何事も無かったかのように、あれだけ頑なだった視線をするりと外し、次に読む本を物色し始めた。
視線の動きも、瞬きの早さも、何も変わりない。
驚くくらい、いつもの名前だ。
実のところハリーは、自分の話は受け入れられる人がいないと思っていた。
でも名前は何も言わずにハリーの話を受け止めた。
それは間違った考えだと否定するわけでもなく。
荒唐無稽な思想だと距離を置くでもなく。
馬鹿げた話だと呆れるわけでもなく。
心の中では色々と考えているかもしれないけれど、名前は自分の話を聞いて信じてくれた。
ハリーは、そう思うことが出来た。
棚から本を抜き出し、名前は椅子に腰掛けた。
読書を再開する名前を見て、ハリーは図書室に来た当初の目的を思い出す。
"昼食でまた会おうね"と言うと、名前の返事も待たないまま慌てて奥へ入っていってしまった。
『………』
返事をしようとして上げた顔を伏せる。
名前は新しく本を開いた。
空気まで凍り付いてしまったように室内は静かだ。
耳をそばだてると微かに寝息が聞こえてくる。
ベッドから身を起こして周りを見ると、まだ誰も彼もすやすやと眠っていた。
カーテンの隙間からはいつもと違う、際立って白い光が室内に射し込んでいる。
名前はベッドから足を抜き出し、素足をローファーに滑り込ませた。
あまりの冷たさにその一瞬、まるで背中に氷の塊を入れられたかのような寒気が走った。
身を縮こまらせながら名前は、静かに窓際に近付く。
音を立てないようにカーテンの隙間へ顔を覗かせた。
すると窓の外には、白銀の世界が広がっていた。
目を見開き、窓ガラスが結露して滴が伝うのも構わずに窓にへばりつく。
いつもの涼しげな瞳はそこにはなく、無邪気な子供のようなキラキラと輝かせた目で、まだちらちらと降る雪を食い入るように見つめている。
しばらくその景色を眺めた後に、急いで寝間着を脱ぎ捨て厚着をすると、名前は忍び足で寮を出ていった。
「「おや?」」
「フレッド、君には何が見える?」
「ジョージ、おそらく君と同じものさ。」
「「あそこに見えるは、長身白皙の美少年と有名な、
ナマエ・ミョウジじゃないか!」」
雪の降る朝、静かな中庭で、彼らの声はよく響いた。
でも雪玉を大きくするのに夢中な名前には聞こえていないようだ。
彼らは揃いの暖かそうな毛糸の帽子を、目元が隠れてしまうくらいすっぽりと被っていたが、首筋辺りに燃えるような赤毛がこっそりと顔を出している。
一目見ただけでは誰だか判断できないだろうが、全く似た格好をした者が並んでいれば、知っている者ならなんとなく察しがつくだろう。
彼らは抜き足差し足で、足元一面に広がる雪を掬いとり、
固い丸い雪玉を作ると、勢いよく名前の頭にぶつけた。
『───!』
「「ハーイ、ごきげんよう、Mr.ミョウジ。」」
『………誰。』
「…聞いたかい?ジョージ。」
「聞いたとも。フレッド。」
「ああ、なんて悲しいことだろう!」
「僕らはナマエに、あのハロウィンの日に、心をこめてプレゼントをお贈りしたのに!」
「「まさかその思いが伝わらなかったなんて!」」
『………
もしかして、ロンの、双子のお兄さん…ですか。』
これ以上悲しいことはない、と言いたげに、涙を拭う動作をしていた二人は、ニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。
さっと姿勢を正すと、名前に向かって恭しくお辞儀をした。
先程から大層大仰な立ち居振る舞いだ。
突然の出来事で何がなんだかわからない様子の名前は、雪玉をぶつけられた後頭部をさすりさすり、作っていた雪玉の手を休めている。
「正解!まさか本当にわからないのかとヒヤヒヤしたよ。」
「僕ら二人を見分けられる人は少ないけど、僕ら二人を知ってる人はたくさんいるからな。少なくとも、この学校の中ではね。ところで、ナマエ。
僕らの名前はご存知かな?」
『いや…。』
「ならば名乗ろう。僕はフレッド。で、」
「僕はジョージ。」
「「以後お見知り置きを、ナマエ。」」
『……こちらこそ。』
「………」
「………」
『…』
「ナマエお坊ちゃんは、やっぱりちょっとズレてるよな。フレッド。」
「ああ。ネジの二・三本は抜けてるな。ジョージ。」
『…何の話を。』
「だって怒らないじゃないか。ハロウィンの日、君に悪戯を仕掛けたのは僕らなんだぜ。今だって出会い頭に雪玉をぶつけたんだ。君はそれがわかってるのに。」
「なのに君ときたら『こちらこそ』だなんて言うんだから。」
「「そこは普通は怒るところだろ!」」
真剣そうな二人の顔を前に、名前は相変わらず無表情だ。
良くも悪くも取られるその表情で、名前は微かに首を傾げた。
『…二ヶ月近くも前のことですから。』
それだけ言うと、くるりと向きを変えて、ゴロゴロと雪玉を転がし始める。
その後ろを彼らは「「ちょっと待って!」」とすぐさま追いかけ、名前の両脇にピッタリくっついて付き纏い、「本当に怒ってないのか」と何度も尋問のように問いただす。
いくら問いただされても、名前は微かに頷いてみせるだけ。
相変わらず表情というものはなく、大股で雪の中をざくざくと踏み鳴らして歩いていくので、彼らは名前が本当に怒ってないとは信じることができなかった。
そのうち大きな雪玉が出来上がり、木の実と小枝で装飾された、背の高い雪だるまが完成しても、名前は嬉しそうにも楽しそうにもしない。
ただだんまりと遠くから雪だるまを眺めている。
途中から付き纏いをやめた彼らは、名前から少し離れたところで額を寄せあい、ひたすら困っていた。
「ロンに聞いていた通り、ニコリともしないな。」
「怒りもしないけどな。ここまで無反応だとは予想外だ。」
「でも、そんなヤツから表情を引き出せたら、俺達の巧みな話術に箔が付くってもんじゃないか?」
「人を笑わせるのは得意だ。」
「怒らせる事もな。」
「普段静かな人が怒ると怖いっていうぞ?」
「それも俺達にとっては大きな収穫だ。」
「まあな。」
「よし。まずは、」
「「どうしたらナマエの笑顔を見れるかだな。」」
むむ、と全く同じ顔で悩む顔が二つ並ぶ。
首を傾げて唸るタイミングまで一緒だ。
まるで打ち合わせでもしてあったかのように、左右対称の動きをしている。
そんな彼らの視界に、身を縮めて寒そうに廊下を歩くクィレルの姿が入ってきた。
二人は少し思案するように視線を上の方にやったあと、にんまりと笑ってお互いの顔を見遣る。
そして杖を取り出すと、黙々と雪ウサギを生産する名前に向かって高々と言い放った。
「こっちをご覧、ナマエお坊ちゃん!」
「もっと面白いもんを見れるからさ!」
『…』
名前が振り返ると、なんと彼らは雪玉に魔法をかけて、クィレルを追尾するようにした。
クィレルの重たそうなターバンに、ぽんぽんと雪玉が跳ね返っている姿が見える。
彼らは、あわあわと慌てふためくクィレルを指差して、腹を抱えて笑っている。
名前の顔色は雪景色に溶け込みそうなくらい蒼白になった。
この時の名前の心境を率直に代弁するならば、『さすがにあれはねーわ。』というところだろう。
ケタケタ笑いながら駆け寄ってきた二人は、「どうだい、最高だろ?」と言いながら、肩をバンバン叩いてくる。
名前はぶんぶんと首を横に振るだけで何も言わない。
その名前の反応が面白かったのか、二人は更に笑った。
少しして廊下を歩いて来た別の先生が騒ぎに気付き、その場は収まった。
しかし二人は罰を受ける事となり、連行されていった。
自業自得である。
辺りは急に静まり返った。
彼らは二人だけでも、とても賑やな存在だったのだ。
廊下には、クィレルと名前が取り残されていた。
『………雪が、』
「な、なんだい?」
『雪が、背中に……』
唐突に口を開いたせいか、クィレルは名前が何を言ったのか分からなかったようだ。
首を痛めそうなほど勢い良く此方を見て、驚いた様子で神経質なくらい素早く何度も瞬きをしている。
名前はゆっくりと手を伸ばして、クィレルの背についた雪を軽く払った。
ああ、雪を払ったのか。と、クィレルはそこで気付いたようだ。
ホッと安堵の息を吐き、すぼめた肩を緩めた。
「あ、ああ、ありがとう、ミョウジ君。」
『……俺の名前を、ご存知なんですか。』
「あ、ああ、もちろんだよ。だ、だってき、君はわた、私の授業に、で、出ているだろう?」
『……。』
確かに名前はクィレルの授業に出席はしている。
けれど教師であるクィレルは全ての寮生、そして一年生から七年生まで扱っているはずだから、数で言えば優に百人以上は見ているだろう。
授業に出席しているからと言って、そこまで交流の無いいち生徒の名前と顔をそう簡単に覚えられるものだろうか。
しかも名前は今年入ってきたばかりの、まだ半年も経っていない新入生だ。
それに名前は取り立てて問題も起こさない、積極的な発言もしない、物静かで大人しい性格の持ち主である。
それともクィレルや他の教師陣は、全ての生徒の顔と名前を把握しているのだろうか。
教師であればそれが普通なのだろうか。
少し間をあけて、名前はコクリと頷いた。
「き、き、君は、目立つからね。あ、い、いや、悪い意味じゃなくてね……に、日本人は珍しいし、き、君は、一年生のわりに、せ、背が高いから……。」
『……。』
名前は頷きもせず、首も振らず、口も開かず、何の反応も示さない。
ピクリとも身動ぎもせず、クィレルまるでマネキンに話し掛けているような気分になる。
黙り込んだ名前を見て、怒らせたかとでも思ったのかもしれない。
クィレルは無理に作ったような笑顔を名前に向けた。
上げた口角がぴくぴくと痙攣している。
それでも名前は何の反応も示さない。
笑い返すこともしない。
それで、クィレルは扱いに困ったのかもしれない。
「それでは、また授業で」と言うと、そそくさとその場を後にした。
小さくなっていくクィレルの背中を、名前はじっと見つめる。
『……っくしゅん。』
くしゃみが出たところで、名前は図書室へ向かった。
暖を取りに行くためだった。
「ナマエ、何をやってるの?」
『……ハリー。』
図書室にやって来たハリーはいつものクセで、名前やハーマイオニーがよく座る席をまず見に行った。
そこには案の定名前がいたのだが、ハリーの目に映ったのは、積み上げられた本に埋もれながら本を読む名前の姿だった。
『本を読んでいる。』
「本に埋もれながらかい?」
『………。』
言われて名前は、右、左、と自分の周りを眺め、やがてハリーに目を戻し、こっくり頷く。
ハリーは深い溜め息をこぼした。
「この本は必要なの?」
『いや、もう読んだ本だ。』
「読んだら戻さなきゃだめだよ。」
『うん……そうだね、ごめん。気になる言葉を探していたら、どんどん本を取ってしまっていた。』
「気になる言葉って?呪文とか、誰かの名前とか?」
『ええと……うーん……何というか……。』
名前は席を立って、読んだ本を抱えて元の位置に戻す。
その名前を手伝って、ハリーも本を元ある場所に戻す。
『本を読んでいると、わからない言葉が出てくる。だから、それが何か調べながら読んでいた。』
「ふーん。なんだかナマエって、時々ハーマイオニーみたい……あっ、」
『……』
「ねえ、ナマエ……ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
ハリーは名前に身を寄せて、内緒話でもするかのように声を潜めた。
それにつられてか名前も周囲をキョロキョロと見回して、誰もいない事を確認してから、体と耳を傾けた。
「ニコラス・フラメルって知ってる?」
そのままの体勢で名前は二、三度ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
数秒の時を経て名前は体勢を立て直し、いつもの姿勢に戻る。
真っ直ぐと伸びた背筋に、少し俯いた頭で、何か思案しているようだ。
どこを見るでもなく、抱えた本の山をじっと見つめている。
ハリーは期待を込めた眼差しを名前に向けた。
授業中の名前はとても消極的で、求められない限り一切発言をしない。
でも近くで見ているハリーは、名前が努力家で賢い事を知っている。
きっとハーマイオニーと同じくらいに。
何か知っているかもしれない、そう期待を抱かずにはいられない。
『名前は聞いたことがある。』
「え!ほんとに?」
『でも疎覚えなうえに、マグルの世界で得た幼少の知識だ。魔法界とは違うかもしれない。不確かなことを教えることはできない。』
「でも、それでもさ……うーん……そっか……。」
『……ごめん。』
「ううん、気にしないで。」
ハリーは肩を竦めて、大した事はないとでも言うふうに笑って見せた。
無理矢理に言葉を飲み込んだのだ、納得しているわけがない。
何でも無いふうに本を戻す作業を再開しているが、どことなく残念そうだ。
ハリーの横顔をチラリと見て、名前は少し俯いて唇を一文字に引き結んだ。
腕の中に抱えた様々な本を、一冊一冊手に取り、ゆっくりと本棚に戻していく。
『調べる理由は何。』
「えっ……
……あー……ウン……。」
本を戻しながら、突然呟くような声量で名前がハリーに問う。
淡白で抑揚のない、一定に保たれた声量。名前の話し方だ。
慣れてしまえば気にならない。
しかし慣れていない者にはある種の威圧感を感じさせるようだった。
まるで自分が悪い事をしていて、名前がそれを淡々と詰っているような、そんな感覚だ。
友人であるハリーは当然、名前のこの話し方に慣れていたが、この時ばかりは凄まじい威圧感を感じた。
ハリーとしては別に、やましいことを企んでいるわけではないのだが、打ち明けねばならないような気持ちになったのだ。
「あのね、ナマエ……これは秘密のことなんだ。誰にも話しちゃいけないよ?」
最後の一冊を棚に納めて此方に振り向いたハリーは、覚悟を決めたような真面目な顔で、とても真剣な眼差しを名前に向けた。
何か重大な告白があるようだ。
名前はじっとグリーンに輝く瞳を見つめて、ゆっくりと深く頷いた。
二人は再び身を寄せ合った。
周囲に誰もいない事を二人で入念に確認する。
内緒話をするかのように、ハリーは背伸びをして身を寄せて、口元に手をあてる。
ハリーに合わせて名前も身を屈めて体をくっつけた。
「"クィディッチ今昔"をスネイプに没収されて、取り返しに行った夜のことを覚えている?」
『………』
コクリ、頷く。
「スネイプが足に怪我をしていたのを見た?」
『……』
またコクリ、頷く。
「三頭犬は知ってる?」
『……』
ややあってから、頷く。
「今、ホグワーツには三頭犬がいるんだ。その三頭犬は何かを守ってる。それをスネイプが狙っているみたいなんだ。
スネイプが狙っているものが何かも、三頭犬が何を守っているのかも、まだわからないんだけれど……ニコラス・フラメルっていう人が関係しているみたいなんだ。」
『…………』
「ナマエ、この話は秘密だ。誰にも話しちゃいけない。約束できる?」
『………。』
名前はハリーの目を真っ直ぐ見詰めて、はっきりと頷く。
口下手で嘘が吐けない名前だけれど、口は堅くて信頼の置ける人物だ。
だから初めからハリーは心配していなかったが、それを確認してから、寄せていた身を離した。
数分間背伸びを続けて悲鳴を上げる足首を、ハリーは床の上で爪先を立ててぐるぐると回す。
ふと気が付くと、名前はハリーを見詰めていた。
ずっと見詰め続けていたのか、それとも偶然視線が合っただけなのか。
ハリーが名前を見詰め返すと、名前は珍しくも視線を外さず見詰めてくる。
いつもなら三秒と経たない内に、いっそ感動してしまうくらい、素早くナチュラルにそっぽを向かれるのだが。
驚いたハリーは思わず名前に見入ってしまった。
それでも名前は相変わらず涼しげな目元で見詰めている。
「ナマエ?」
『……』
「ねえ、どうしたの?」
『……ううん、何でもない。』
そう言って名前は本当に何事も無かったかのように、あれだけ頑なだった視線をするりと外し、次に読む本を物色し始めた。
視線の動きも、瞬きの早さも、何も変わりない。
驚くくらい、いつもの名前だ。
実のところハリーは、自分の話は受け入れられる人がいないと思っていた。
でも名前は何も言わずにハリーの話を受け止めた。
それは間違った考えだと否定するわけでもなく。
荒唐無稽な思想だと距離を置くでもなく。
馬鹿げた話だと呆れるわけでもなく。
心の中では色々と考えているかもしれないけれど、名前は自分の話を聞いて信じてくれた。
ハリーは、そう思うことが出来た。
棚から本を抜き出し、名前は椅子に腰掛けた。
読書を再開する名前を見て、ハリーは図書室に来た当初の目的を思い出す。
"昼食でまた会おうね"と言うと、名前の返事も待たないまま慌てて奥へ入っていってしまった。
『………』
返事をしようとして上げた顔を伏せる。
名前は新しく本を開いた。