一年生
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『大丈夫か。』
「……ナマエ……」
夜が明けた。
雲ひとつない空は真っ青に澄んでいる。
空気は刺すように冷たいけれど、とてもいい天気だ。
眩しい朝日が大広間をつつみ、朝食にありつく生徒たちの笑顔を照らしている。
だがハリーの顔は反対に強張り、青白く、浮かない様子だった。
「大丈夫じゃないよ…」
溜め息交じりにハリーが呟く。
今日はハリーの、クィディッチ初試合だ。
「ああ、ナマエ…君もハリーに何か言ってくれよ。」
「ナマエ、ハリーったら、何も食べようとしないのよ。もうすぐ試合だっていうのに…」
「お腹が空いてないんだよ。」
『………』
眉根を寄せた二人に挟まれた名前は、ハリーの前に置かれた汚れ一つ無い皿を見つめる。
棒のように佇むだけで何も言わない。
やり取りを見ていたシェーマス・フィネガンが『食べないと力が出ないぞ』と忠告してくる。
それを横目に、名前は思い出したように動き始め、ハリーの向かいの席に腰掛けた。
取り皿にサラダを盛りながら、名前はチラリとハリーに目を遣る。
ハリーの顔は乗り物酔いでもしたように青ざめていた。
それを見た名前はピタリとサラダをよそうのを止め、その手はゆっくりと膝の上に置かれる。
『………』
「ちょっと、ナマエまで食べられなくなってどうするのよ。」
『…。…ごめん。』
「あーもう……ハリーも、ナマエも…ちょっとでもいいから食べろって。
ほら、グリーンピースのスープなんかどうだい?」
スープの入ったカップを勧めるロンに曖昧に頷き返す名前の顔は、ハリーに負けず劣らず青白く見えた。
ハーマイオニーとロンは、まるで通夜のような暗い雰囲気を漂わせる二人に呆れ果て溜め息を吐く。
その様子を横から眺めていたシェーマスも、溜め息を吐いた。
「(ミョウジ、君は試合に出ないだろう…)」
と、特に、名前に向かって。
中途半端によそったサラダを前にして身動ぎ一つしない名前を見て、ハーマイオニーはついに動いた。
パンやらスープやらを名前の口に、無理矢理詰め込み始めたのだ。
「ナマエ、早くしないと始まっちゃうよ!」
『うん…。』
無理矢理詰め込まれた食事でちょっと気持ちが悪く、それに顎も疲れていた。
だから曖昧な返事をしながら名前は、宛てがわれた寮の自室でカイロを探していた。
クィディッチは屋外の、それも高い場所での観戦なので、より厳重な寒さ対策を必要すると考えたのだろう。
だが、トランクに詰め込んだはずのカイロが見つからない。
ロンの声に押されるように動作を速めながら、名前はトランクの中身を掻き出している。
「ナマエ~始まっちゃうよ~!」
『先に行っててくれ。見つからないから…すぐ行くから。』
「まったく、もー…
ちゃんと来いよ!ハリーの初試合なんだから。」
『うん…。』
ドタドタと走り去っていくロンの背中を見送り、名前はまたカイロを探し始める。
そうしてしばらく、微かに歓声が聞こえてきた。
クィディッチの試合が始まったのだろう。
その声に反応してか、名前はピタリと探す手を止める。
しばしそのまま固まっているかと思えば、いきなりトランクの縁を掴み、豪快に中身をベッドの上へぶちまけた。
『あった。』
底にあったらしいカイロは服に巻き込まれ、見えない状態にあったらしい。
呆気なく出てきたカイロをズボンのポケットへ突っ込み、トランクの中身をそのままにして名前は走り出す。
風がゴオゴオと耳元で鳴る。
身を切るような冷たい風だ。
先程詰め込まれた食事が、胃の中で上下に激しくシェイクされている。
ちょっと油断をすれば喉元へ込み上げてくる。
実に危機的状況だ。
だが走るのをやめるわけにはいかなかった。
名前は走りながら、ポケットに入れたカイロを取り出して、落とすまいと手の中へ握り込んだ。
白い吐息が何度も口から出ていく。
込み上げてくるものは何とか飲み込む。
校内は空っぽだ。
反響する名前の足音が、余計にそう感じさせた。
みんなクィディッチの試合を観に行っているのだ。
クィディッチは人気なのだなと、名前は走りながら改めて感じたのだったとか。
『…(あと、ちょっと。)』
観覧席に繋がる階段を駆け上がる。
今まで走ってきたせいで、足も震えるくらいクタクタだったが、それでも走った。
足が重たくて中々持ち上がらない。
スピードが落ちていく。
しかし、止まる事はしなかった。
縺れ合う足でなんとか階段を上りきる。
壁に手をついて倒れそうな体を支えた。
眼界には壮大なクィディッチ競技場が広がり、寮ごとに分けられた観客席のあちこちから喚声が響いていた。
みんな立ち上がってエールや罵声をとばしたりして応援している。
見上げると、箒に乗った選手たちがものすごいスピードで目まぐるしく飛んでいる。
(見ているこっちが目が回りそうなくらいで、食べ過ぎた名前は容易に気持ちが悪くなったようだが)
名前は初めて見たクィディッチの試合の雰囲気に呑まれ、しばしぼおっと棒立ちになった。
『(あっ…)』
スリザリンとグリフィンドール、両チームが激戦を交える中、一人浮いている者がいることに名前は気が付いた。
上の方で、ジグザグに動いたり、グルリと回転したり、様子がおかしい。
まさか、パフォーマンスのつもりだろうか。
それとも、箒が乗り手の意思をきかないのか。
じっと選手の顔を眺めていた名前は、目を剥いた。
『(ハリー…)』
「ちょっとあなた、どいて…えっ、ナマエ!?」
『ハーマイオニー…ハリーはどうしたの。』
「悪いけど、説明している暇はないの!ロンにきいて!
早くスネイプ先生のとこへ行かないと…」
『スネイプ先生…、何で…』
首を傾げる名前を残し、ハーマイオニーは滑るように教員のスタンドへ向かっていった。
邪魔な観衆をなぎ倒したりして疾走している。ハーマイオニーの気迫に気付き、自ら退く者もいた。
放っておかれた名前は、しばしハーマイオニーの力溢れる疾走を見つめていたが、
(その背からは微かに哀愁が漂っていたように見えた)
やがてゆっくり歩き出す。
燃えるような赤毛を発見すると、名前は生徒の間をスルスルと縫うように進み、しずしずと赤毛に歩み寄る。
「ああ、早くしてくれ、ハーマイオニー…」
『ロン。』
「うわあっ!び、びっくりさせるなよ、ナマエ!今までどこにいたんだ!?」
『ごめん。……ハリーは、どうしたの。』
「え?…なに?」
『…ハリーはどうしたんだ。』
周りが騒がしいためか聞こえないらしい。
名前は身を屈めて、ロンの耳元に顔を近付けた。
自分の小さな声が聞こえるように。
ロンはどぎまぎした。
名前は背が高いから、話す時はいつもロンが見上げている。
こんなにも間近で名前の顔を見た事が無かったのだ。
名前は東洋人で、西洋人のロンとは顔の作りが全く違う。
東洋人はあまり見た事が無い。物珍しさもあったかもしれない。
それでも名前の顔立ちが整っている事は分かる。
頬が熱くなってくるのを感じて、ロンは少し混乱しているようだった。
「あ、え、えーと…な、何だっけ、ハリー?」
『うん。』
「そう。ハリーが、何だって?」
『おかしな動きをしている。』
「あ、それね。うん。す、スネイプが、ハリーの箒に呪いをかけているんだ。止めさせるために、今ハーマイオニーがスネイプのとこへ行ってる。」
『どうやって止めるの。』
「ぼ、僕にはわかんないよ。」
『本当にスネイプ先生がやっているのか。』
「そりゃあ、スネイプだよ。だってあいつ、ハリーの方を見てなんかぶつぶつ呟いてたもの。」
『スネイプ先生は教員だ。そんなことを本当に…』
「ああもうお願いだから喋らないでくれ!!とにかく!やってたんだよ!僕だって見たんだから!」
顔を真っ赤にしたロンに大きな声で怒鳴られ、名前は開いた口をぎゅっと閉じた。
そして静かに身を引いて、ロンと距離を置いた。
黙って何も言おうとしない。
顔を真っ赤にするほど嫌がられたのは、名前にとってショックだったのかもしれない。
淡白に見えて案外名前は繊細だ。
少なくともロンはそうだと思っている。
名前が黙り込んだのはロンに拒絶されて怒りを覚えたわけではなく、ただ傷付いて落ち込んでいるのだ。
何も言わない名前を見て、ロンはまずいと少しだけ焦ったが、とにかく早くハリーが復帰するのを祈った。
復帰して、名前の意識がそれることも願った。
「アッ!ナマエ、見てごらん!ハリーが!ネビルも!ほら、もう見ても怖くないよ!」
ロンの声に導かれ、名前はハリーを見る。
ハリーが急降下していた。真っ直ぐと。
多分、自分の意思でそうしているのだろう。
箒はもうおかしな動きをしないようだ。
けれど名前は涼しげな目を細めて、いつもより鋭い目付きで注意深く成り行きを見据えている。
ハリーが地面に転がった。
一瞬、辺りはしんとしたが、その静寂を破って、ハリーは高々と手を挙げた。
「スニッチを取ったぞ!」
170対60───
グリフィンドールの勝利だった。
「あいつは取ったんじゃない。飲み込んだんだ!」
更衣室で着替えている間も、フリントはまだ喚いていたが、グリフィンドールの選手の面々も勝利の雄叫びを上げていた。
その騒がしい更衣室に、名前はそろりとやって来ていた。
『おめでとう、ハリー。』
「ありがとう、ナマエ。見に来てくれたんだね。」
『…ごめん。途中からだったんだ。カイロを探していたから…。』
「そうなの?」
『でも、スニッチを取るところはしっかり見た。怪我、しなかったか。』
「平気だよ。ほら、かすり傷ひとつないでしょ?」
『…』
「ね?」
『…本当におめでとう、ハリー。無事で、よかった。』
普段から名前の声は小さかったけど、今は更衣室の騒がしさで殆ど聞き取れなかった。
だからハリーは読唇術を使うように、名前の唇の動きに注目していた。
そのハリーが、何故か突然ぎょっと目を見開いた。
名前はハリーの反応に首を傾げる。
誰か後ろにいるのかと振り向いてみたり、辺りを見回したりした。
「ナマエが笑った……。」
ハリーの声は名前の耳に届いたようだ。
ハリーに向き直り、真っ直ぐ視線も向ける。
ハリーは暫し驚いた表情で固まっていた。
しかし徐々に表情に変化が表れて、いつの間にか笑みを浮かべていた。
「ナマエ、今、笑ってたよ。」
『そうなんだ。』
「そうなんだ、って。ハア……
ハーマイオニーやロンにも見せてやりたかったな。ナマエ、表情に乏しいんだもの。」
笑っていたかと思えば今度は怒っている。
困ったようにハリーから視線を外した名前は、いきなりピシリと固まった。
一点を見つめたまま微動だにしない。
明らかに様子がおかしい名前を見て、ハリーは視線を辿って後ろを見た。
「……。」
マーカス・フリントが、名前を見て固まっていた。
(ハリーには、微かに頬を染めているように見えた)
ハリーの視線には全く気が付いていない様子だ。
ハリーは名前に向き直った。
名前は不自然な動きで目を逸らし、今は何もない床の上を見つめている。
「まだ薬のが効果切れないの?」
『わからない。』
「まさか本当にナマエに惚れてるって事はないよね?」
『……。先に、寮に戻ってる。』
「うん…。」
『ロンとハーマイオニーが、外で待ってるって言っていたから。……』
「うん…。ありがとう…。」
フリントの熱視線は燃えるようなエネルギーを感じさせて、名前はその熱気に押しやられるかのように、足早に更衣室を出ていった。
途中、つんのめったりしたが、それでも動きは速かった。
長い足を最大限に活用していた。
ハリーはそろりとフリントを見遣る。
フリントの視線は、未だ途切れていない。
───スネイプの罰則とか、双子の悪戯とか、フリントの恋とか、ナマエはなんだかついてないなあ───
と、
ハリーは、名前が哀れに思えて仕方なかった。
「……ナマエ……」
夜が明けた。
雲ひとつない空は真っ青に澄んでいる。
空気は刺すように冷たいけれど、とてもいい天気だ。
眩しい朝日が大広間をつつみ、朝食にありつく生徒たちの笑顔を照らしている。
だがハリーの顔は反対に強張り、青白く、浮かない様子だった。
「大丈夫じゃないよ…」
溜め息交じりにハリーが呟く。
今日はハリーの、クィディッチ初試合だ。
「ああ、ナマエ…君もハリーに何か言ってくれよ。」
「ナマエ、ハリーったら、何も食べようとしないのよ。もうすぐ試合だっていうのに…」
「お腹が空いてないんだよ。」
『………』
眉根を寄せた二人に挟まれた名前は、ハリーの前に置かれた汚れ一つ無い皿を見つめる。
棒のように佇むだけで何も言わない。
やり取りを見ていたシェーマス・フィネガンが『食べないと力が出ないぞ』と忠告してくる。
それを横目に、名前は思い出したように動き始め、ハリーの向かいの席に腰掛けた。
取り皿にサラダを盛りながら、名前はチラリとハリーに目を遣る。
ハリーの顔は乗り物酔いでもしたように青ざめていた。
それを見た名前はピタリとサラダをよそうのを止め、その手はゆっくりと膝の上に置かれる。
『………』
「ちょっと、ナマエまで食べられなくなってどうするのよ。」
『…。…ごめん。』
「あーもう……ハリーも、ナマエも…ちょっとでもいいから食べろって。
ほら、グリーンピースのスープなんかどうだい?」
スープの入ったカップを勧めるロンに曖昧に頷き返す名前の顔は、ハリーに負けず劣らず青白く見えた。
ハーマイオニーとロンは、まるで通夜のような暗い雰囲気を漂わせる二人に呆れ果て溜め息を吐く。
その様子を横から眺めていたシェーマスも、溜め息を吐いた。
「(ミョウジ、君は試合に出ないだろう…)」
と、特に、名前に向かって。
中途半端によそったサラダを前にして身動ぎ一つしない名前を見て、ハーマイオニーはついに動いた。
パンやらスープやらを名前の口に、無理矢理詰め込み始めたのだ。
「ナマエ、早くしないと始まっちゃうよ!」
『うん…。』
無理矢理詰め込まれた食事でちょっと気持ちが悪く、それに顎も疲れていた。
だから曖昧な返事をしながら名前は、宛てがわれた寮の自室でカイロを探していた。
クィディッチは屋外の、それも高い場所での観戦なので、より厳重な寒さ対策を必要すると考えたのだろう。
だが、トランクに詰め込んだはずのカイロが見つからない。
ロンの声に押されるように動作を速めながら、名前はトランクの中身を掻き出している。
「ナマエ~始まっちゃうよ~!」
『先に行っててくれ。見つからないから…すぐ行くから。』
「まったく、もー…
ちゃんと来いよ!ハリーの初試合なんだから。」
『うん…。』
ドタドタと走り去っていくロンの背中を見送り、名前はまたカイロを探し始める。
そうしてしばらく、微かに歓声が聞こえてきた。
クィディッチの試合が始まったのだろう。
その声に反応してか、名前はピタリと探す手を止める。
しばしそのまま固まっているかと思えば、いきなりトランクの縁を掴み、豪快に中身をベッドの上へぶちまけた。
『あった。』
底にあったらしいカイロは服に巻き込まれ、見えない状態にあったらしい。
呆気なく出てきたカイロをズボンのポケットへ突っ込み、トランクの中身をそのままにして名前は走り出す。
風がゴオゴオと耳元で鳴る。
身を切るような冷たい風だ。
先程詰め込まれた食事が、胃の中で上下に激しくシェイクされている。
ちょっと油断をすれば喉元へ込み上げてくる。
実に危機的状況だ。
だが走るのをやめるわけにはいかなかった。
名前は走りながら、ポケットに入れたカイロを取り出して、落とすまいと手の中へ握り込んだ。
白い吐息が何度も口から出ていく。
込み上げてくるものは何とか飲み込む。
校内は空っぽだ。
反響する名前の足音が、余計にそう感じさせた。
みんなクィディッチの試合を観に行っているのだ。
クィディッチは人気なのだなと、名前は走りながら改めて感じたのだったとか。
『…(あと、ちょっと。)』
観覧席に繋がる階段を駆け上がる。
今まで走ってきたせいで、足も震えるくらいクタクタだったが、それでも走った。
足が重たくて中々持ち上がらない。
スピードが落ちていく。
しかし、止まる事はしなかった。
縺れ合う足でなんとか階段を上りきる。
壁に手をついて倒れそうな体を支えた。
眼界には壮大なクィディッチ競技場が広がり、寮ごとに分けられた観客席のあちこちから喚声が響いていた。
みんな立ち上がってエールや罵声をとばしたりして応援している。
見上げると、箒に乗った選手たちがものすごいスピードで目まぐるしく飛んでいる。
(見ているこっちが目が回りそうなくらいで、食べ過ぎた名前は容易に気持ちが悪くなったようだが)
名前は初めて見たクィディッチの試合の雰囲気に呑まれ、しばしぼおっと棒立ちになった。
『(あっ…)』
スリザリンとグリフィンドール、両チームが激戦を交える中、一人浮いている者がいることに名前は気が付いた。
上の方で、ジグザグに動いたり、グルリと回転したり、様子がおかしい。
まさか、パフォーマンスのつもりだろうか。
それとも、箒が乗り手の意思をきかないのか。
じっと選手の顔を眺めていた名前は、目を剥いた。
『(ハリー…)』
「ちょっとあなた、どいて…えっ、ナマエ!?」
『ハーマイオニー…ハリーはどうしたの。』
「悪いけど、説明している暇はないの!ロンにきいて!
早くスネイプ先生のとこへ行かないと…」
『スネイプ先生…、何で…』
首を傾げる名前を残し、ハーマイオニーは滑るように教員のスタンドへ向かっていった。
邪魔な観衆をなぎ倒したりして疾走している。ハーマイオニーの気迫に気付き、自ら退く者もいた。
放っておかれた名前は、しばしハーマイオニーの力溢れる疾走を見つめていたが、
(その背からは微かに哀愁が漂っていたように見えた)
やがてゆっくり歩き出す。
燃えるような赤毛を発見すると、名前は生徒の間をスルスルと縫うように進み、しずしずと赤毛に歩み寄る。
「ああ、早くしてくれ、ハーマイオニー…」
『ロン。』
「うわあっ!び、びっくりさせるなよ、ナマエ!今までどこにいたんだ!?」
『ごめん。……ハリーは、どうしたの。』
「え?…なに?」
『…ハリーはどうしたんだ。』
周りが騒がしいためか聞こえないらしい。
名前は身を屈めて、ロンの耳元に顔を近付けた。
自分の小さな声が聞こえるように。
ロンはどぎまぎした。
名前は背が高いから、話す時はいつもロンが見上げている。
こんなにも間近で名前の顔を見た事が無かったのだ。
名前は東洋人で、西洋人のロンとは顔の作りが全く違う。
東洋人はあまり見た事が無い。物珍しさもあったかもしれない。
それでも名前の顔立ちが整っている事は分かる。
頬が熱くなってくるのを感じて、ロンは少し混乱しているようだった。
「あ、え、えーと…な、何だっけ、ハリー?」
『うん。』
「そう。ハリーが、何だって?」
『おかしな動きをしている。』
「あ、それね。うん。す、スネイプが、ハリーの箒に呪いをかけているんだ。止めさせるために、今ハーマイオニーがスネイプのとこへ行ってる。」
『どうやって止めるの。』
「ぼ、僕にはわかんないよ。」
『本当にスネイプ先生がやっているのか。』
「そりゃあ、スネイプだよ。だってあいつ、ハリーの方を見てなんかぶつぶつ呟いてたもの。」
『スネイプ先生は教員だ。そんなことを本当に…』
「ああもうお願いだから喋らないでくれ!!とにかく!やってたんだよ!僕だって見たんだから!」
顔を真っ赤にしたロンに大きな声で怒鳴られ、名前は開いた口をぎゅっと閉じた。
そして静かに身を引いて、ロンと距離を置いた。
黙って何も言おうとしない。
顔を真っ赤にするほど嫌がられたのは、名前にとってショックだったのかもしれない。
淡白に見えて案外名前は繊細だ。
少なくともロンはそうだと思っている。
名前が黙り込んだのはロンに拒絶されて怒りを覚えたわけではなく、ただ傷付いて落ち込んでいるのだ。
何も言わない名前を見て、ロンはまずいと少しだけ焦ったが、とにかく早くハリーが復帰するのを祈った。
復帰して、名前の意識がそれることも願った。
「アッ!ナマエ、見てごらん!ハリーが!ネビルも!ほら、もう見ても怖くないよ!」
ロンの声に導かれ、名前はハリーを見る。
ハリーが急降下していた。真っ直ぐと。
多分、自分の意思でそうしているのだろう。
箒はもうおかしな動きをしないようだ。
けれど名前は涼しげな目を細めて、いつもより鋭い目付きで注意深く成り行きを見据えている。
ハリーが地面に転がった。
一瞬、辺りはしんとしたが、その静寂を破って、ハリーは高々と手を挙げた。
「スニッチを取ったぞ!」
170対60───
グリフィンドールの勝利だった。
「あいつは取ったんじゃない。飲み込んだんだ!」
更衣室で着替えている間も、フリントはまだ喚いていたが、グリフィンドールの選手の面々も勝利の雄叫びを上げていた。
その騒がしい更衣室に、名前はそろりとやって来ていた。
『おめでとう、ハリー。』
「ありがとう、ナマエ。見に来てくれたんだね。」
『…ごめん。途中からだったんだ。カイロを探していたから…。』
「そうなの?」
『でも、スニッチを取るところはしっかり見た。怪我、しなかったか。』
「平気だよ。ほら、かすり傷ひとつないでしょ?」
『…』
「ね?」
『…本当におめでとう、ハリー。無事で、よかった。』
普段から名前の声は小さかったけど、今は更衣室の騒がしさで殆ど聞き取れなかった。
だからハリーは読唇術を使うように、名前の唇の動きに注目していた。
そのハリーが、何故か突然ぎょっと目を見開いた。
名前はハリーの反応に首を傾げる。
誰か後ろにいるのかと振り向いてみたり、辺りを見回したりした。
「ナマエが笑った……。」
ハリーの声は名前の耳に届いたようだ。
ハリーに向き直り、真っ直ぐ視線も向ける。
ハリーは暫し驚いた表情で固まっていた。
しかし徐々に表情に変化が表れて、いつの間にか笑みを浮かべていた。
「ナマエ、今、笑ってたよ。」
『そうなんだ。』
「そうなんだ、って。ハア……
ハーマイオニーやロンにも見せてやりたかったな。ナマエ、表情に乏しいんだもの。」
笑っていたかと思えば今度は怒っている。
困ったようにハリーから視線を外した名前は、いきなりピシリと固まった。
一点を見つめたまま微動だにしない。
明らかに様子がおかしい名前を見て、ハリーは視線を辿って後ろを見た。
「……。」
マーカス・フリントが、名前を見て固まっていた。
(ハリーには、微かに頬を染めているように見えた)
ハリーの視線には全く気が付いていない様子だ。
ハリーは名前に向き直った。
名前は不自然な動きで目を逸らし、今は何もない床の上を見つめている。
「まだ薬のが効果切れないの?」
『わからない。』
「まさか本当にナマエに惚れてるって事はないよね?」
『……。先に、寮に戻ってる。』
「うん…。」
『ロンとハーマイオニーが、外で待ってるって言っていたから。……』
「うん…。ありがとう…。」
フリントの熱視線は燃えるようなエネルギーを感じさせて、名前はその熱気に押しやられるかのように、足早に更衣室を出ていった。
途中、つんのめったりしたが、それでも動きは速かった。
長い足を最大限に活用していた。
ハリーはそろりとフリントを見遣る。
フリントの視線は、未だ途切れていない。
───スネイプの罰則とか、双子の悪戯とか、フリントの恋とか、ナマエはなんだかついてないなあ───
と、
ハリーは、名前が哀れに思えて仕方なかった。