第六話「幼き恋文」
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暑い夏が通り過ぎると木々が紅葉し始め、美しい光景が広がっていた。
試衛館の周りも辺りが赤色や黄色に染まっていて、桜から紅葉や楓に変わる瞬間には季節の流れを感じることが出来る。
そんな想いを一人噛み締めながら、土方歳三は木々を見上げていた。
自分が試衛館に来た時を思い出しながら歩いていた………その時、「なんていい文なんだ…!!」と感動する声が響いた。
聞き覚えのあるその声は涙で震えている気がして、何事だ?と慌てて縁側に回る。
「おい、近藤さ「歳!見てくれ!!羽衣ちゃんが寺子屋で書いた作文だ!」
縁側に腰掛けていた近藤にずいっと作文を渡され、土方は戸惑いながらもそれを受け取った。
大粒の涙を流す近藤に色々尋ねたいことはあるが、彼の横で恥ずかしそうにしている羽衣を見て、取りあえず言う通りにする。
「ったく何だってんだ…………えーと、
<"私の好きなもの"沖田羽衣。わたしの好きなものは、お饅頭とみたらし団子と、白玉ぜんざいとお芋と柿と>……って食べ物ばっかじゃねぇか!!」
「た、食べ物を好きで何が悪い!!好き嫌いがないことはいいことじゃないか!」
「……わかった、わかったから!えーと……
<美味しいものも大好きだけど、わたしが一番好きなのは試衛館の皆です。師範代の近藤さんはいつも優しくて、わたしや兄様のことを家族だと言ってくれました。だから、近藤さんはわたしのお父さんです。
源さんはどんな時も優しく見守ってくれるお母さんです。
歳兄は怖い時もあるけど、いつもわたしのことを心配してくれるお兄ちゃんです。
新兄は明るくていつも一緒に遊んでくれます。左之兄は頭を優しく撫でてくれる、かっこいいお兄ちゃんです。
兄様は、いつもわたしのことを考えてくれて、一生懸命に働いてくれます。すぐぎゅってしたがる寂しがり屋な兄様だけど、とても尊敬しています。
わたしにはお父さんとお母さんがいて、優しいお兄ちゃんがいっぱいいます。
試衛館はわたしの家です。皆が大好きです。>………………まぁ、確かにいい作文だ…………」
ぷるぷると小刻みに肩を揺らしながら、土方は必死で涙を堪えている。
土方が読む声を聞いて再び号泣する近藤と見比べて、『近藤さん?歳兄?』とおろおろと心配する羽衣。
様子が可笑しい父親と長男にどうすることも出来ないでいれば、「皆で何してるの?」と総司がひょっこりと現れた。
泣きすぎて着物まで濡らす近藤と、涙を堪えるあまり鬼のような形相になる土方を見て、ギョッと目を見開く。
「ちょ、ちょっと…どうしたの?この状況……」
頬を引きつらせながら小声で聞いてくる総司に、羽衣も『わ、わかりません』と首を横に振るう。
「総司も読んでみろ…っ」と最早限界が近付いている土方に無理やり作文を渡され、良くわからないままそれに目を通した。
「何ですか?………………………こ、これは…!!?」
目を大きく見開いたと思ったら、バッと片腕を顔に押し付ける総司。
『兄様!?』と慌てて顔を覗き込めば、ズビッと鼻を啜る音が聞こえた。
『(に、兄様も泣いてる……?)』
自分の作文はそんなに感動するのだろうか。
寺子屋で書いた時は先生にも「良い作文ね」と誉められたが、ここまで喜んで貰えるとは思っていなかった。
呆然とする羽衣を助けたのは、「何かあったのか」と尋ねてきた声だった。
『一様!』
「……何故泣いているのですか?」
「斎藤か……っ」
「一くん…一くんも読んでみなよ……っ」
「??」
「ぉおおお」と男泣きする近藤に戸惑いつつ、総司が渡してきた作文に斎藤も目を通した。
「………………成る程。大方理解しました」
最後までそれを読み、皆が可笑しくなっている理由がわかった。
「とにかく落ち着いて下さい」と土方や近藤の背中をさすった後、羽衣をチラリと見つめた。
『?』
じっと深い紺青色の瞳に見つめられれば、ドキッと胸が高鳴る。
途端に恥ずかしくて居たたまれなくなり、じわじわと身体中が熱くなっていくのを感じた。
『は、一様…?』
「……羽衣、すまないが源さんに茶を持ってくるよう頼んでくれぬか。温かいものを飲めば身も心も落ち着くだろう」
『はい…!』
ピシッと敬礼する羽衣に、いつもならふっと微笑んでくれる斎藤だが、何故か顔を背けた。
その様子を不思議に思いながら、羽衣は小走りで勝手場に向かった。