ユーリス篇
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
突如として戦争が始まり、命の価値は下落した。毎日どこかで誰かが殺して、誰かが殺される。そんな日常の中で、どう生きていくのが正しいことなのか、そもそも正しさとは一体何なのか、答えのない問を幾度か自分に投げかけた。それはきっと、この人生をかけて探し続けるものなのだろう。けれど、一つだけ分かったことがある。
戦闘中にユーリスが怪我を負った。すぐさま治療魔法をかけたが、拠点に戻ってもまだ意識を取り戻さない。呆然としている間に、どれほど時間が過ぎたのだろう。俯いた顔を隠す髪が払われ、視界が僅かに明るくなった。
「………なんだ、泣いてるのかと思ったぜ」
怪我をして寝台に寝かされてたユーリスが目を覚ましてこちらに手を伸ばしていた。私の顔を見て安堵の表情を浮かべている。それでようやく安心することができた。
「……泣くなと、あなたが言うから」
意識を失う直前に、そう言われた。泣きそうな顔をしていたのだろう。戦場で泣いている暇などないというのに。
「かすり傷なのに大袈裟な反応するからだろ」
「かすり傷なもんですか。急所を外していたからいいものを……」
声が上擦る。私を庇って負った傷だ。目を覚ますまでの間、怖くて怖くて仕方がなかった。私のせいでユーリスが死ぬだなんて、そんなの許せるはずがない。自分が傷ついたほうがまだましだった。泣くのを堪えていると、ユーリスは笑った。
「言っておくが、俺の中にお前を庇わないって選択肢はない。だから、気にしろ」
「……そこは、気にするな、じゃないの?」
「んな事言ったってどうせ気にするだろ。お前が無茶すると、俺がこうなる」
決して軽くない傷を負ったというのに、なんて事を言うのだろう。こんな思いはもう二度としたくないけど、戦場ではいつ何が起きるか分からない。無茶をした覚えはないけれど、私が下手を打てばまたユーリスがこうなることを考えると一層慎重にならざるを得なくなる。
「これって、もしかして脅されてるのかしら」
「はあ?んな訳あるか。……なら、俺の命に代えてもお前を守る、ってのは?」
「やっぱり脅しなんじゃない……」
「何でだよ。それだけお前が大事ってことだろうが」
ユーリスは僅かに機嫌を損ねたようだったが、そんな事を言われてもちっとも嬉しくない。それなら、ユーリスにとって取るに足らない、路傍の石のような存在でいたかった。私のせいで死ぬより、その方が余程いい。けれど、ユーリスはいつも私を見捨ててはくれないのだ。
「……私のことよりも自分のことを大事にしなさいよ」
「……俺が怪我しても、レイラが治してくれるからな。心配はいらねえよ。そうだろ?」
どうしてそんな確証のないことを、自信ありげに言えるのだろう。涼し気な表情は腹立たしくさえある。それに、私には無茶をするなと言うくせに、ユーリスは無茶をする気満々なのだ。
でも、その言い分は勝手だが、単純明快でいい。私のために無茶をするというのなら、私がユーリスを助ければいいだけのことだ。
「当たり前よ。あなたを、死なせたりしない。……私がユーリスを守る。…………今度こそ、絶対に」
私には、守れなかったものがある。大事な家族を、死なせてしまった。だからこそ、今度は絶対に、大事なものを守り抜く。この混乱しきった世の中で、それだけがはっきりしていた。ユーリスのいない世界では、私はもう、二度と立ち直ることはできないだろう。一歩間違えれば、私はまた大切な人を永遠に失うところだった。
「……結局、泣くんだな」
こうして生きているという事実に、どれほど救われたか。静かに泣き出した私にユーリスは呆れたように言うけれど、一体誰のせいだと思ってるのだろう。
「ユーリスが、散々泣かせてきたせいじゃない。私、あなた以外の前じゃ滅多に泣かないんだから」
泣かないようにしている私を、いつも泣かせてくるものだから、この人の前では涙腺がいとも容易く緩んでしまう。情けない癖がついてしまって、自分でも格好悪いと思うのに、ユーリスはおかしそうに笑う。
「あんなに強情だったのに、素直に泣くようになったな。泣かせてきた甲斐があったぜ」
「はあ?何よそれ」
「誰にも弱音を吐けなかったお前が、俺の前では泣けるっつうのは、気分がいい」
「……はあ?」
私は情けない気持ちで一杯だというのに、気分がいいとはどういうことかと問いただしたかったが、面白がっている風でもない。ただ、とても穏やかな眼差しに見つめられている。優しくて、暖かくて、昔から何一つ変わらない。私の大切な人。
「……ねえ。昔した約束、覚えてる?」
「約束?……どこへでも連れていってやるってやつか」
「…………」
聞いたはいいものの、期待はしていなかったので驚いてしまった。ユーリスは心外だとでも言うように眉を寄せた。
「おいおい、驚くことないだろうが。忘れたとでも思ったのか」
「だってもう、何年も前のことだし」
「忘れねえよ。何せ、まだ果たしてないんでね」
もう、何年も経っているのに。ただの口約束なのに。果たしてない、なんて、果たす気があるみたいなことを言う。
「……」
「なんだよ変な顔して」
「……まだ、有効なの?」
「当たり前だろ。一度した約束取り下げるかよ。お前が望むなら、今からだって俺は構わないぜ」
「本気?」
「ああ。それで、どうする?」
そうは言うものの、私が頷く訳が無いと思ってるような顔だ。実際そうなのだから、こんなやり取りは茶番だと、お互い分かってる。
「今は、まだその時じゃない。だけど、この戦争が終わって、私のすべきことと、あなたのすべきことが終わったら、その時にはーーーあなたと一緒に、どこへでも行きたい」
そう答えると、ユーリスは満足そうに微笑んだ。まるでずっと待ち望んでいた答えを聞いたかのように。
「やっと言ったな」
「ええ、やっと言えたわ。本当は、ずっと、言いたかったのかもしれない」
「お前は本当に昔から強情だもんな。おかげで俺はいつもハラハラさせられてさ」
「……それは、悪かったわね」
「いいよ、もう慣れた。それに……今は………傍に、いてやれるから」
ユーリスはそれだけ言うとまた眠りについたようだった。あれだけ血を流したのだから、無理もない。手に触れると冷たくて、それがまだ死に近いようで恐ろしく、強く握りしめた。
それから時は流れ、長く続いた戦争がようやく終結した。戦禍の傷跡はそう簡単にはなくならないだろうが、それでも人間は前へ進み続けなければならない。私も、自分の人生に責任を持って生きていく。そして、その隣にいてほしい人はたった一人だけだ。
「それで、話って?」
「……ああ。…………その、だな。どう話したもんか」
戦争の後片付けが残る中、話があると言いて呼び出したはずのユーリスだったがどうも様子がおかしい。どうかしたのかと首を傾げていると、彼は綺麗な髪をぐしゃぐしゃと手でかき混ぜた。
「どうしたの?」
「…………なあ、俺たち、長い付き合いになるよな」
「そうね」
「いろいろと、約束もしたよな」
「したわね」
「つまり、これからも付き合いを続けるってことでいいんだよな」
「私はそのつもりだけど」
これは一体何の確認作業なのだろう。質問に答えていくと、ユーリスは深く息を吐いた。それから背を正して、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。
「……よし。なら、レイラ、こいつを受け取る気はあるか」
「…………指輪?」
「この先もつるんでくなら、一つ証を立ててみるってのもいいんじゃねえかと思ってな。どうだ」
指輪を送ることの意味を、この人は本当に分かっているのだろうか。分かってないはずないのに、こんな言い方をするなんてと思うと、思わず笑ってしまった。
「あっはは、何よその言い方」
「うるせえ、こういうの慣れてねえんだよ。……気の利いた事言えなくて悪かったな」
「悪かないわよ。ふふ」
「笑うなっての」
「ごめんなさい。つい、嬉しくて。じゃあ、交換といきましょうか」
用意していたそれをユーリスへと差し出すと、彼は僅かに目を見開いた。
「…………俺から言い出しておいてなんだが、本当にいいのか?ずっと真っ当な道を歩いてきたお前と違って、俺は理想のためになんでもやってきた悪人なんだぜ」
「今更よ。それに、私はあなたが思うほど善人ではないわ」
「けど、犯罪に手を染めちゃいない。俺は自分が生きるために盗みも、殺しも、なんでもやってきた。お前が知恵を使って町の人間を助けている時に、俺は他人のものを奪って生きてきた」
「私だって、私が生きていくためにしていたことよ。他人を利用したことにかわりない。それに、そんなこと関係なしに、私の幸せはもうユーリスがいなくちゃ成り立たないのよ。あなたが何をしてこようと、何者だろうと、あなたのことが大好きなんだから。だからユーリス、私とーーー結婚しましょう」
結局その言葉を口にしたのは私だった。でも、悪い気はしない。私はこの人の傍にいたい。だから躊躇う必要なんて何もないのだ。
「……そこまで言われちまうと、俺の立つ瀬が無くなるじゃねえか」
「最初から素直に言えばいいのに。気が利いた言葉なんていいから、あなたの気持ちを聞かせてよ」
「……俺も、お前が好きだよ。誰にも渡したくない。ずっと傍で、お前を見ていたい。ーーー結婚してくれ」
「……はい。喜んで」
私たちは子どものころからの付き合いだったけれど、こんな日が来るとは想像もできなかった。でも、ようやく、私は欲しいものに手を伸ばすことが出来た。
「はは、ようやく、俺のものになったな」
「……ようやくって?」
「さあな。いつからかも分からねえし、恋なのか憧れなのか、それとも同情なのかも分からねえうちに、気づけば特別になってたからなあ。欲しがっていいものかすらも分からなかったが、結局、欲しがらずにはいられなかった」
「……ユーリス」
「いつか離れたいって言っても、もう遅いからな」
あり得るはずないことを言う。ユーリスはいつだって私の特別で、忘れられない人で、失いたくない、一番大切な人。
「それはこっちも同じよ。私の方こそ、ようやくあなたを手に入れられたんだから」
戦闘中にユーリスが怪我を負った。すぐさま治療魔法をかけたが、拠点に戻ってもまだ意識を取り戻さない。呆然としている間に、どれほど時間が過ぎたのだろう。俯いた顔を隠す髪が払われ、視界が僅かに明るくなった。
「………なんだ、泣いてるのかと思ったぜ」
怪我をして寝台に寝かされてたユーリスが目を覚ましてこちらに手を伸ばしていた。私の顔を見て安堵の表情を浮かべている。それでようやく安心することができた。
「……泣くなと、あなたが言うから」
意識を失う直前に、そう言われた。泣きそうな顔をしていたのだろう。戦場で泣いている暇などないというのに。
「かすり傷なのに大袈裟な反応するからだろ」
「かすり傷なもんですか。急所を外していたからいいものを……」
声が上擦る。私を庇って負った傷だ。目を覚ますまでの間、怖くて怖くて仕方がなかった。私のせいでユーリスが死ぬだなんて、そんなの許せるはずがない。自分が傷ついたほうがまだましだった。泣くのを堪えていると、ユーリスは笑った。
「言っておくが、俺の中にお前を庇わないって選択肢はない。だから、気にしろ」
「……そこは、気にするな、じゃないの?」
「んな事言ったってどうせ気にするだろ。お前が無茶すると、俺がこうなる」
決して軽くない傷を負ったというのに、なんて事を言うのだろう。こんな思いはもう二度としたくないけど、戦場ではいつ何が起きるか分からない。無茶をした覚えはないけれど、私が下手を打てばまたユーリスがこうなることを考えると一層慎重にならざるを得なくなる。
「これって、もしかして脅されてるのかしら」
「はあ?んな訳あるか。……なら、俺の命に代えてもお前を守る、ってのは?」
「やっぱり脅しなんじゃない……」
「何でだよ。それだけお前が大事ってことだろうが」
ユーリスは僅かに機嫌を損ねたようだったが、そんな事を言われてもちっとも嬉しくない。それなら、ユーリスにとって取るに足らない、路傍の石のような存在でいたかった。私のせいで死ぬより、その方が余程いい。けれど、ユーリスはいつも私を見捨ててはくれないのだ。
「……私のことよりも自分のことを大事にしなさいよ」
「……俺が怪我しても、レイラが治してくれるからな。心配はいらねえよ。そうだろ?」
どうしてそんな確証のないことを、自信ありげに言えるのだろう。涼し気な表情は腹立たしくさえある。それに、私には無茶をするなと言うくせに、ユーリスは無茶をする気満々なのだ。
でも、その言い分は勝手だが、単純明快でいい。私のために無茶をするというのなら、私がユーリスを助ければいいだけのことだ。
「当たり前よ。あなたを、死なせたりしない。……私がユーリスを守る。…………今度こそ、絶対に」
私には、守れなかったものがある。大事な家族を、死なせてしまった。だからこそ、今度は絶対に、大事なものを守り抜く。この混乱しきった世の中で、それだけがはっきりしていた。ユーリスのいない世界では、私はもう、二度と立ち直ることはできないだろう。一歩間違えれば、私はまた大切な人を永遠に失うところだった。
「……結局、泣くんだな」
こうして生きているという事実に、どれほど救われたか。静かに泣き出した私にユーリスは呆れたように言うけれど、一体誰のせいだと思ってるのだろう。
「ユーリスが、散々泣かせてきたせいじゃない。私、あなた以外の前じゃ滅多に泣かないんだから」
泣かないようにしている私を、いつも泣かせてくるものだから、この人の前では涙腺がいとも容易く緩んでしまう。情けない癖がついてしまって、自分でも格好悪いと思うのに、ユーリスはおかしそうに笑う。
「あんなに強情だったのに、素直に泣くようになったな。泣かせてきた甲斐があったぜ」
「はあ?何よそれ」
「誰にも弱音を吐けなかったお前が、俺の前では泣けるっつうのは、気分がいい」
「……はあ?」
私は情けない気持ちで一杯だというのに、気分がいいとはどういうことかと問いただしたかったが、面白がっている風でもない。ただ、とても穏やかな眼差しに見つめられている。優しくて、暖かくて、昔から何一つ変わらない。私の大切な人。
「……ねえ。昔した約束、覚えてる?」
「約束?……どこへでも連れていってやるってやつか」
「…………」
聞いたはいいものの、期待はしていなかったので驚いてしまった。ユーリスは心外だとでも言うように眉を寄せた。
「おいおい、驚くことないだろうが。忘れたとでも思ったのか」
「だってもう、何年も前のことだし」
「忘れねえよ。何せ、まだ果たしてないんでね」
もう、何年も経っているのに。ただの口約束なのに。果たしてない、なんて、果たす気があるみたいなことを言う。
「……」
「なんだよ変な顔して」
「……まだ、有効なの?」
「当たり前だろ。一度した約束取り下げるかよ。お前が望むなら、今からだって俺は構わないぜ」
「本気?」
「ああ。それで、どうする?」
そうは言うものの、私が頷く訳が無いと思ってるような顔だ。実際そうなのだから、こんなやり取りは茶番だと、お互い分かってる。
「今は、まだその時じゃない。だけど、この戦争が終わって、私のすべきことと、あなたのすべきことが終わったら、その時にはーーーあなたと一緒に、どこへでも行きたい」
そう答えると、ユーリスは満足そうに微笑んだ。まるでずっと待ち望んでいた答えを聞いたかのように。
「やっと言ったな」
「ええ、やっと言えたわ。本当は、ずっと、言いたかったのかもしれない」
「お前は本当に昔から強情だもんな。おかげで俺はいつもハラハラさせられてさ」
「……それは、悪かったわね」
「いいよ、もう慣れた。それに……今は………傍に、いてやれるから」
ユーリスはそれだけ言うとまた眠りについたようだった。あれだけ血を流したのだから、無理もない。手に触れると冷たくて、それがまだ死に近いようで恐ろしく、強く握りしめた。
それから時は流れ、長く続いた戦争がようやく終結した。戦禍の傷跡はそう簡単にはなくならないだろうが、それでも人間は前へ進み続けなければならない。私も、自分の人生に責任を持って生きていく。そして、その隣にいてほしい人はたった一人だけだ。
「それで、話って?」
「……ああ。…………その、だな。どう話したもんか」
戦争の後片付けが残る中、話があると言いて呼び出したはずのユーリスだったがどうも様子がおかしい。どうかしたのかと首を傾げていると、彼は綺麗な髪をぐしゃぐしゃと手でかき混ぜた。
「どうしたの?」
「…………なあ、俺たち、長い付き合いになるよな」
「そうね」
「いろいろと、約束もしたよな」
「したわね」
「つまり、これからも付き合いを続けるってことでいいんだよな」
「私はそのつもりだけど」
これは一体何の確認作業なのだろう。質問に答えていくと、ユーリスは深く息を吐いた。それから背を正して、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。
「……よし。なら、レイラ、こいつを受け取る気はあるか」
「…………指輪?」
「この先もつるんでくなら、一つ証を立ててみるってのもいいんじゃねえかと思ってな。どうだ」
指輪を送ることの意味を、この人は本当に分かっているのだろうか。分かってないはずないのに、こんな言い方をするなんてと思うと、思わず笑ってしまった。
「あっはは、何よその言い方」
「うるせえ、こういうの慣れてねえんだよ。……気の利いた事言えなくて悪かったな」
「悪かないわよ。ふふ」
「笑うなっての」
「ごめんなさい。つい、嬉しくて。じゃあ、交換といきましょうか」
用意していたそれをユーリスへと差し出すと、彼は僅かに目を見開いた。
「…………俺から言い出しておいてなんだが、本当にいいのか?ずっと真っ当な道を歩いてきたお前と違って、俺は理想のためになんでもやってきた悪人なんだぜ」
「今更よ。それに、私はあなたが思うほど善人ではないわ」
「けど、犯罪に手を染めちゃいない。俺は自分が生きるために盗みも、殺しも、なんでもやってきた。お前が知恵を使って町の人間を助けている時に、俺は他人のものを奪って生きてきた」
「私だって、私が生きていくためにしていたことよ。他人を利用したことにかわりない。それに、そんなこと関係なしに、私の幸せはもうユーリスがいなくちゃ成り立たないのよ。あなたが何をしてこようと、何者だろうと、あなたのことが大好きなんだから。だからユーリス、私とーーー結婚しましょう」
結局その言葉を口にしたのは私だった。でも、悪い気はしない。私はこの人の傍にいたい。だから躊躇う必要なんて何もないのだ。
「……そこまで言われちまうと、俺の立つ瀬が無くなるじゃねえか」
「最初から素直に言えばいいのに。気が利いた言葉なんていいから、あなたの気持ちを聞かせてよ」
「……俺も、お前が好きだよ。誰にも渡したくない。ずっと傍で、お前を見ていたい。ーーー結婚してくれ」
「……はい。喜んで」
私たちは子どものころからの付き合いだったけれど、こんな日が来るとは想像もできなかった。でも、ようやく、私は欲しいものに手を伸ばすことが出来た。
「はは、ようやく、俺のものになったな」
「……ようやくって?」
「さあな。いつからかも分からねえし、恋なのか憧れなのか、それとも同情なのかも分からねえうちに、気づけば特別になってたからなあ。欲しがっていいものかすらも分からなかったが、結局、欲しがらずにはいられなかった」
「……ユーリス」
「いつか離れたいって言っても、もう遅いからな」
あり得るはずないことを言う。ユーリスはいつだって私の特別で、忘れられない人で、失いたくない、一番大切な人。
「それはこっちも同じよ。私の方こそ、ようやくあなたを手に入れられたんだから」
4/4ページ