route : Faith
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定期健診の後、ドクターはどことなく興奮した様子で言った。
「いい知らせがありますよ、司令」
「いい知らせ、ですか」
「ええ。あなたのサブスタンスは、身体の機能を回復させる代わりに、あなたを内側から蝕んでいました。融合率が高まるにつれて身体は動けるようになり、その代わり臓器の機能が衰えていく。それを遅らせるための成分を常日頃から摂取して頂いておりました」
「はい」
「ですがここ最近の結果を見ますと、どうやらそれが安定してきているようなのです」
「安定?それは、どういう」
「サブスタンスは身体の機能を今後も回復させていくでしょう。直に車椅子なしでも歩けるようになります。さて、その時には多臓器不全によりあなたはお亡くなりになる、と以前お話させていただきました。しかし、ここに来てそれが覆ったのです。結論から申し上げますと、歩けるようになっても、あなたが死ぬことはありません」
一瞬、時が止まったかのように感じられた。言っていることが信じられなくて、動揺に思考が鈍くなる。
「……それは、何故なのですか」
「別のサブスタンスが結合したことが好作用となったようです。正確に言うとサブスタンスの残滓ですね。相性もあったのでしょうが、まさかそんなもので覆るとは、私も思いもしませんでした」
「サブスタンスの、残滓?」
「きっとお心当たりがあると思いますよ。ウエストセクターのルーキーのものです」
「―――」
あまりのことに言葉を失った。言われたことを整理して、思っていることが間違いでないのか何回か精査して、そしてようやく飲み込むことが出来た。
「おや、どうしました司令。顔が赤いようですが、発熱ですか?」
「……………いいえ」
羞恥心によるものだと答えられるはずもないが、ドクターにとって大事なのは研究成果だけなので深く追及されずに済んだ。
「そうですか。それにしても良いデータが取れました。ご協力、ありがとうございます」
「……いいえ。全て、私の望みのためにしたことですので。こちらこそ、ありがとうございました」
どうやら、本当に死なずに済むらしい。サブスタンス身体に取り入れてから数年、いつ死ぬのか分からないまま生きてきた。もう一、二年のうちには確実に死に至るだろうと言われてきた。だからか、言葉だけではどうにも実感が湧いてこない。
死ななくなったと伝えるだけなのに、どう言えばいいのか分からないまま時間ばかりが過ぎていった。やがてサブスタンスが完全に体と馴染んだことにより、リハビリなしでも歩行が可能になった。副作用は確認されず、臓器にも異常はない。そこではじめて、私は死ななくてもいいのだと実感できたように思う。
ずっと、行きたい所があった。車椅子では目立ってしまうし、トラブルに巻き込まれる可能性もあったため行けずにいた。だけど、今ならどこへだって行ける。自分の足で、会いに行けるのだ。
中に入ると、音の洪水と人々の熱狂に呑み込まれそうになった。ステージ上に彼の姿を見つけて、その場に立ち尽くす。体中の感覚が、奪われてしまうかのようだった。
いつの間にか、するりと心の内に入り込んできて、死を覚悟していた私に、死にたくないと思わせた。そして、私の命は彼の存在で救われたらしい。
奏でる音に、内側から貫かれてしまいそう。楽しそうな表情に、目が離せない。
―――ああ、好きなのだ。
もう、それしかない。今まで理由をつけて、口にするどころかそう思うことすらしなかった。でも、それしかなかった。いつ頃からなのかは、よく分からないけど、知らぬ間に絆されて、好きになっていた。こうして会いに来て、それが痛いほどよく分かる。それを、確かめたかった。
タワーへ帰ってから、話したいことがあるとメッセージを入れると、しばらくしてから返信がきた。文面から焦りを感じて思わず笑みを零す。どうやら悪い想像をしているらしい。実際はその逆なのだけど、文字ではとても伝えきれない。待ち合わせ場所を指定すると、すぐに行くと返ってきた。
屋上のベンチで待っていると、思いの外早く到着した。息を切らしているから、走ってきてくれたのだろう。立ち上がると、大きく目を見開いた。その様子に微笑んで手を振ると、息も整わぬ間に早足でこちらに歩み寄り、混乱した様子で私の姿を上から下まで見回していた。
「……話って……いや、それよりもその足……」
「欲しいものを、手に入れようと思って」
脈絡なくそう告げると、フェイスは呆けた顔をして私の顔をまじまじと見つめた。
「え?」
「全面降伏、してもらうわ。私の、逆転勝ち」
それでも、言いたいことは分かってくれたようで、彼は少し泣きそうな顔をして微笑んだ。
「……やっと、俺を選んでくれるの?」
きっと、そうではない。彼が、私を選んでくれたのだ。だから私は立ってここにいる。それでも、そう言ってくれるのなら、いい加減答えをあげよう。大分待たせてしまったのだから。
「あなたのことが、好きよ。…………私の事、諦めないでくれて、ありがとう」
そう言うと、フェイスは私のことを抱きしめた。
「やっと好きって、言ってくれた……」
「……ふふ、やっと言えたわ」
特別な人なんて、作るだけ無駄だと思っていた。それなのに、そのことが私の命を救うだなんて。
「好きよ。大好き」
「……」
「フェイス?」
反応がないからどうしたのかと身を離そうとすると、更に強く抱きしめられて身動きが取れなくなった。
「…………今、多分、見せられる顔してないから、見ないで」
どうやら照れているらしい。好きなんて言葉、言われ慣れているだろうに。
「……ふふ」
「ちょっと、笑わないでよ」
今、とても満たされた気分だから、少しくらいは我慢してもらおう。こんな幸せを、感じられる日が来るなんて、思わなかったのだ。本当は、ずっと絶望していた。そうでない振りをしていなければ、耐えられなかった。
「……フェイス」
「……なあに」
「あなたを好きになれて良かった」
そう言うと彼はまた黙り込み、それから小さく呟く。
「……そんなの、俺も同じだよ」
顔を見せてくれる気になったのか、腕の力が緩んだ。見上げると彼はとても優しい顔をしていた。
「好きだよ、レイラ」
そうして顔が近づいてきて、キスをされた。目を閉じると涙が一つ零れて頬を伝う。フェイスは驚いた顔をして、それから柔く微笑む。私も同じように微笑んで、今度は自分から彼にキスをした。
「いい知らせがありますよ、司令」
「いい知らせ、ですか」
「ええ。あなたのサブスタンスは、身体の機能を回復させる代わりに、あなたを内側から蝕んでいました。融合率が高まるにつれて身体は動けるようになり、その代わり臓器の機能が衰えていく。それを遅らせるための成分を常日頃から摂取して頂いておりました」
「はい」
「ですがここ最近の結果を見ますと、どうやらそれが安定してきているようなのです」
「安定?それは、どういう」
「サブスタンスは身体の機能を今後も回復させていくでしょう。直に車椅子なしでも歩けるようになります。さて、その時には多臓器不全によりあなたはお亡くなりになる、と以前お話させていただきました。しかし、ここに来てそれが覆ったのです。結論から申し上げますと、歩けるようになっても、あなたが死ぬことはありません」
一瞬、時が止まったかのように感じられた。言っていることが信じられなくて、動揺に思考が鈍くなる。
「……それは、何故なのですか」
「別のサブスタンスが結合したことが好作用となったようです。正確に言うとサブスタンスの残滓ですね。相性もあったのでしょうが、まさかそんなもので覆るとは、私も思いもしませんでした」
「サブスタンスの、残滓?」
「きっとお心当たりがあると思いますよ。ウエストセクターのルーキーのものです」
「―――」
あまりのことに言葉を失った。言われたことを整理して、思っていることが間違いでないのか何回か精査して、そしてようやく飲み込むことが出来た。
「おや、どうしました司令。顔が赤いようですが、発熱ですか?」
「……………いいえ」
羞恥心によるものだと答えられるはずもないが、ドクターにとって大事なのは研究成果だけなので深く追及されずに済んだ。
「そうですか。それにしても良いデータが取れました。ご協力、ありがとうございます」
「……いいえ。全て、私の望みのためにしたことですので。こちらこそ、ありがとうございました」
どうやら、本当に死なずに済むらしい。サブスタンス身体に取り入れてから数年、いつ死ぬのか分からないまま生きてきた。もう一、二年のうちには確実に死に至るだろうと言われてきた。だからか、言葉だけではどうにも実感が湧いてこない。
死ななくなったと伝えるだけなのに、どう言えばいいのか分からないまま時間ばかりが過ぎていった。やがてサブスタンスが完全に体と馴染んだことにより、リハビリなしでも歩行が可能になった。副作用は確認されず、臓器にも異常はない。そこではじめて、私は死ななくてもいいのだと実感できたように思う。
ずっと、行きたい所があった。車椅子では目立ってしまうし、トラブルに巻き込まれる可能性もあったため行けずにいた。だけど、今ならどこへだって行ける。自分の足で、会いに行けるのだ。
中に入ると、音の洪水と人々の熱狂に呑み込まれそうになった。ステージ上に彼の姿を見つけて、その場に立ち尽くす。体中の感覚が、奪われてしまうかのようだった。
いつの間にか、するりと心の内に入り込んできて、死を覚悟していた私に、死にたくないと思わせた。そして、私の命は彼の存在で救われたらしい。
奏でる音に、内側から貫かれてしまいそう。楽しそうな表情に、目が離せない。
―――ああ、好きなのだ。
もう、それしかない。今まで理由をつけて、口にするどころかそう思うことすらしなかった。でも、それしかなかった。いつ頃からなのかは、よく分からないけど、知らぬ間に絆されて、好きになっていた。こうして会いに来て、それが痛いほどよく分かる。それを、確かめたかった。
タワーへ帰ってから、話したいことがあるとメッセージを入れると、しばらくしてから返信がきた。文面から焦りを感じて思わず笑みを零す。どうやら悪い想像をしているらしい。実際はその逆なのだけど、文字ではとても伝えきれない。待ち合わせ場所を指定すると、すぐに行くと返ってきた。
屋上のベンチで待っていると、思いの外早く到着した。息を切らしているから、走ってきてくれたのだろう。立ち上がると、大きく目を見開いた。その様子に微笑んで手を振ると、息も整わぬ間に早足でこちらに歩み寄り、混乱した様子で私の姿を上から下まで見回していた。
「……話って……いや、それよりもその足……」
「欲しいものを、手に入れようと思って」
脈絡なくそう告げると、フェイスは呆けた顔をして私の顔をまじまじと見つめた。
「え?」
「全面降伏、してもらうわ。私の、逆転勝ち」
それでも、言いたいことは分かってくれたようで、彼は少し泣きそうな顔をして微笑んだ。
「……やっと、俺を選んでくれるの?」
きっと、そうではない。彼が、私を選んでくれたのだ。だから私は立ってここにいる。それでも、そう言ってくれるのなら、いい加減答えをあげよう。大分待たせてしまったのだから。
「あなたのことが、好きよ。…………私の事、諦めないでくれて、ありがとう」
そう言うと、フェイスは私のことを抱きしめた。
「やっと好きって、言ってくれた……」
「……ふふ、やっと言えたわ」
特別な人なんて、作るだけ無駄だと思っていた。それなのに、そのことが私の命を救うだなんて。
「好きよ。大好き」
「……」
「フェイス?」
反応がないからどうしたのかと身を離そうとすると、更に強く抱きしめられて身動きが取れなくなった。
「…………今、多分、見せられる顔してないから、見ないで」
どうやら照れているらしい。好きなんて言葉、言われ慣れているだろうに。
「……ふふ」
「ちょっと、笑わないでよ」
今、とても満たされた気分だから、少しくらいは我慢してもらおう。こんな幸せを、感じられる日が来るなんて、思わなかったのだ。本当は、ずっと絶望していた。そうでない振りをしていなければ、耐えられなかった。
「……フェイス」
「……なあに」
「あなたを好きになれて良かった」
そう言うと彼はまた黙り込み、それから小さく呟く。
「……そんなの、俺も同じだよ」
顔を見せてくれる気になったのか、腕の力が緩んだ。見上げると彼はとても優しい顔をしていた。
「好きだよ、レイラ」
そうして顔が近づいてきて、キスをされた。目を閉じると涙が一つ零れて頬を伝う。フェイスは驚いた顔をして、それから柔く微笑む。私も同じように微笑んで、今度は自分から彼にキスをした。
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