Deeply love with the darkness -4-
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あれからずっとずっと探していた。あの夜、海が好きだって言っていたから。
暇を見つけては出会った海まで遠出して
海岸沿いを当てもなくさまよった。
また会えるって信じて疑わなかった。散歩は心地良かったし、波の音や砂の感触、綺麗な貝殻や石を見つけては、その話をしてやろうって妄想して元気が出た。
小学生のガキが遠出して帰ってくるのをを母さんたちはいつも怒っていたが、そんなことはどうだって良かったんだ。
とにかく俺は、あんたが「海が好きだ」って言いながら、何故そんなに寂しそうな顔をしていたのかが不思議で仕方がなかった。
「………何、泣いてんだよ」
なので忘れもしない、久しぶりに見た背中にこそこそと近づいて正面に回り込んだら、しくしくと涙をこぼしていたので呆気に取られた。
咄嗟に声をかけたものの、次に何を言えばいいかなんてわからないし、夕日に照らされる悲しげな表情がやけに綺麗で見惚れていた。
リカは俺に気づくと驚いて目を開いた。そして同時に涙が引っ込んだので少し安心した。
「…君、この間の」
「探したぜ。お礼も言ってなかったから…」
「元気してる?」
「おかげさまでな」
「めーーっちゃ怒られたでしょ」
うひひ、とリカが悪戯に笑った。
前回溺れたところを助けられたとき、問答無用で連絡先を聞かれ母さんを呼ばれたのだった。
パトカーで母さんがじいちゃんと共に到着したときには、リカは姿を消していた。怒られながらほっとしたのを覚えている。それから、消えた女神を少し探して夢か幻のように思ったのも。
「隣、座ってもいいか?」
少し遠慮したのは、彼女が泣いていたからである。たぶん1人でいたいのだろうと思う。けど、気遣う以上に会えて嬉しかったし、惚れた女をまた幻にしたくはなかった。
「良いよ。今、ブスだけど」
「…んなことねぇよ」
見かけたときと同じように、座った近くにあった小石を海に投げ入れながらリカは許可をくれた。
「ちょうど落ち込んでたから、君にまた会えて良かったぁ」
「なんで落ち込んでんの?」
「……。」
思わず聞いてからしまったと思った。話を聞いて欲しいなんて、頼まれてもいないのに。
リカがまた小石を投げ、沈黙が苦しい。
「好きだった人が結婚しちゃったの」
早口に告げられ、ガキだった俺には色々とショックが強すぎて固まった。リカは俺を少しも見ていなかったので、そのときばかりはありがたかった。
「…大好きだったの。迎えに来てくれると思ってたのに……」
言いながらまた泣き始めるリカを横目に、俺の心臓が忙しすぎて気絶しそうだ。
渇望した再会と失恋と期待と全部が一緒くたにやってきて頭の中は真っ白だった。
「でも、仕方ないの……。けっこう、年上の人だったし、…元はといえば…私たちが約束をやぶったから……!」
苦しそうに一息で言い終えると、ダムが壊れたみたいにリカは再び大粒の涙をこぼして、それを手でごしごしとぬぐい始めた。
それを見た瞬間、こんなに彼女を傷付ける知らない男に対する怒りと失望が俺を満たした。
嫌だって言われても、俺はこの涙を止めるし、絶対にこの人を守ってみせるぜ…。こんなに想われてるあんたがやらないならよぉ〜〜〜。
「やめなよ…砂、入るだろ」
思わず手首を掴んで目を擦ってんのをやめさせた。リカはそのとき初めて俺に気付いたみたいに驚いてこっちを見ていた。少し赤くなった瞳が夕日を反射して宝石みてぇにキラキラ輝いている。
「もう、結婚しちまったんなら仕方ないんだろうけどさ…そいつ、めちゃくちゃバカな野郎だな……」
「…。」
「俺なら、絶対迎えに来るよ。死んでも来る」
ずいぶん大人だと思っていたが、リカの腕はやたら細いし、ぐっと近付いた距離に驚いて目をぱちぱちしてんのは子供みたいだった。
その瞳の中にいる俺ごとキラキラ輝いて、自分で言っちゃあなんだが、人生イチ輝いている瞬間だと感じた。
「…死んだら、ダメでしょ」
「いいや、あんたのためなら許されると思うぜー。助けられてなきゃあ俺は今ここにいなかっただろうからなぁ」
「…。」
「借りは返すぜ。命がけで」
夜だし、2人きりだし、奇跡みてぇな再会で俺は舞い上がっていた。
何とか止めてやりたいと思った涙がようやく引っ込み、じっと見つめられて動揺する。
リカはマジマジと俺の顔面を観察すると、壊れものに触るかのようにそっと、俺の頬に手を添えた。あったかくて、潮に混ざって甘い良い香りがした。
「……君、かっこいいね」
「え、な」
「やっぱりちょっと似てる気がする」
「は」
ひたすら心臓を跳ねさせていた俺の頭は案外冷静だったらしい。
似てるってのが、誰になのか…すぐに思い付いた。そして嫌な気分になった。何故なら俺は、マジにそいつのことを大馬鹿野郎だと思っているからだ。
思わずむっと眉間にしわを寄せたら、リカは気付いてくすくすと笑っている。
「うそうそ。…目の色だけね」
悪戯な瞳と仕草に吸い込まれちまった。ああなるほど。これが小悪魔ってやつね…。
むずむず心臓をくすぐられている感じがして顔を背けたら、リカも海に向かって座り直して膝を抱えた。けど、さっきまでと違ってその表情には笑みが浮かんでいる。
「君、名前なんていうの?」
「…東方…仗助」
「仗助。私が泣いてたこと、秘密だからね」
「おぅ」
秘密にするから、泣くのは俺がいる時だけにしなよ。
そこまで言える勇気はなかった。
「ありがとう」
どれだけ礼を言われようとも、俺が借りた分には足りない。
だから…これから、あんたのことは俺が守るよ。
少しだけ触れ合っているところがじんじんと熱かった。
