Deeply love with the darkness -4-
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「どうして女の人って、男にかわいいって言うのかなぁ?」
ことの発端は、康一のしょんぼりとしたこの一言だった。
「注文決まった?あ!康一くんそのパーカーかっわいい!」
「…君今仕事中だよね?僕ら客なんだけど……敬語とか使ってくれない?」
横から露伴がぐちぐち言ってくるけど無視してリカは康一を見ていた。「ハハ……そんなにかわいいかな…」と康一が自分の服を引っ張って苦笑いしているのが気になったのだ。
「…康一くん、なんか元気なくない?何かあった?」
「注文を取ってくれないかな…」
そうしてまた露伴を無視していると、康一から冒頭のセリフが漏れたというわけ。
カフェドゥマゴの制服を着たまま、リカは2人の正面の椅子に座ってしまった。康一と2人でゆっくり話そうとしていた露伴は露骨に嫌な顔をしている。しかし康一の方は何か話したそうにリカに身を乗り出したので、露伴も大人しく頬杖をついて終わった。
「家族はまだわかるよ。母さんとか……でも、昨日由香子さんにもかわいいって言われてしまって…」
しょんぼりしている康一を見て、リカと露伴はお互い顔を見合わせた。
へぇー康一くんって、プッツン由香子にかわいいって言われて落ち込んでるんだぁ。
「そんなに嫌なら言ってやれば…。『おい由香子、僕は男にかわいいだの言ってくる女は嫌いだ。故に君のことも嫌いだ』ってね」
「ちなみになんでかわいいって言われたの?」
「鳩にお菓子をあげていたんだよ」
「おいリカ…今確信したぞ。僕をわざと無視しているよな?」
「私お客様とは私語しないの」
「………。」
露伴は苦々しい顔のまま黙りこくった。
露伴先生を黙らせるなんてリカさんやっぱりすごいな……と康一はそっと思った。
「違う違う。鳩にごはんあげる康一くんが素敵に見えたってことでしょ」
「だったらそう言ってくれたら…いいや、きっと鳩にお菓子ばらまいてるなんて子供みたいって思われたんだよ…」
康一くんが意外と頑固なのは私も露伴もみんなもよく知ってる。
なんだか思ったよりちゃんと落ち込んでいて、リカと露伴はもう一度顔を見合わせた。
(露伴、康一くんと仲良しでしょ!元気付けてよ!)
「(…。)気にするなよ康一くん。女子が言う『かわいい』なんて挨拶みたいなもんだろ?由香子は君のことなんとも思っちゃあいないよ」
「な、なんとも…」
「露伴、やっぱり黙ってて」
「はぁ?」
リカが持っていたお店のトレーで顔を隠したため、露伴はまともに銀色のそれに映った自分と目を合わせることになった。なんだか不満たらたらの顔をしていて、なんで僕がリカにこんな調子を乱されてるんだと腹が立った。
「そんなわけない。由香子は康一くんのこと大好きだもん。だからね、つまり…由香子の言った『かわいい』は、『素敵ぃ〜私の彼はなんてかっこいいのっ!?あなたのことが好き好き大好きっっ!!』って意味よ!」
「う、うーん…そう…かな?」
「そうよ!だって好きとかなかなか言えなくない?代わりに『かわいい』って言ってるの!」
リカが自信満々に人差し指をぴんと立たせて宣言した。えっへん!と聞こえてきそうである。
(そんなことないだろ……由香子のやつ、素敵だの愛してるだの息するように言っているじゃあないか…)
露伴なりに気を遣って言葉には出さなかった。ついでに仗助がリカに対してよく『かわいい』と評しているのも思い出して、うげぇと顔を歪めてしまった。
「ありがとうリカさん。確かに僕も、あの…好きとか、言えないからさ……」
「じゃあ今度かわいいねって言ってあげたら、すっごく喜ぶと思うよ〜!」
「うん」
いつも言われるばかりだから、たまにはいいかもしれない。康一は気持ちがすっきりとして笑顔になった。リカの言うことを全部信じているわけじゃないけれど、元気付けようとしてくれるその気持ちが嬉しかったのだ。
「ぼ、僕、ちょっと由香子さんに電話してきます…!昨日ぎくしゃくして帰っちゃったから…」
言いながら席を立って康一は見えないところに行ってしまった。
にこにこ見送るリカとずっと不服そうな露伴の間に沈黙が流れる。
「あれじゃあまるで付き合ってるみたいじゃないか?なぁリカ、君どう思う?」
「えわかんない。でもああいうときが1番楽しいよね!」
「そうかぁ?めんどくさいとしか思わないね」
「そう?…ていうか注文どうしよう。また後にする?」
「そんな時間かからないだろ。混んでるわけでもないし待ってなよ」
「じゃあそうしようかな。康一くんにどうなったか聞きたいし」
(何引きとめてんだ僕は…)
正直、仕事の邪魔になる…。誰か1人のことを考えてああでもないこうでもないって一喜一憂するのなんか。
しかし露伴は今、出来る限り長くリカと2人で話したいと感じていた。まったく面白くない。恋愛マンガとか描くわけじゃああるまいに。
こっそりとため息をつく露伴に気付くことなく、リカは店内の様子と自分の腕時計を確認していた。今はまだ暇な時間だし、もうすぐ休憩だしのんびりしていても大丈夫よね。
「…露伴ねぇ、さっきから寝癖ついてるのよ」
「ぇえ?」
姿勢をこちらに向けたと思ったら、悪戯に笑われて露伴は動揺した。
おかしいな…いつも通り準備したし、寝癖なんか気にならなかったけど。
言われた瞬間無意識に手で自分の頭を撫で付けていた。
「違う違う。ここよ」
伸びてきたリカの細い指が露伴の髪をそっとすくった。ああ、後ろの方ね。それなら自分で分からなかったのも納得だ。
そう1人で心の中でしゃべっていないと自分を保つのが難しかった。テーブルに手をついて身を乗り出してきたリカが急に近づいて、良い匂いがするし髪に触れられた。光を反射する海のような不思議な瞳に吸い込まれるも、その瞳と視線が合うことはない。けれどそれで良かった。意識されていなくても。今この瞬間誰よりも近いところに2人でいる。高鳴る鼓動にすら落ち着きを覚えてしまうのだ。
「…なおらないね」
「そんなに酷い?」
「けっこう。ぴょーんってなってる」
寝癖頭で会ってしまったなんて最悪だ。康一くんも教えてくれたらいいのに。
むっとしたまま自分で髪を撫で付けていたら、リカが持っていたトレーを胸の前で抱きしめて笑った。
「かわいー」
「(…。)……。……えと」
目の前の彼女の方が絶対かわいい。
反射的に確信しつつ、露伴は動きを止めざるを得なかった。
いや、だって。自分で言っていたんだぜ。
女の子が男に言うかわいいって、『あなたのことが…………』
いやいや落ち着け。
こんなノリだけで会話してるやつの言ったことを真に受けてどうする。
「やぁ、リカ。…今、空いてる?そっち座ってるから、オーダー取りに来て欲しいなぁ……」
「はぁい」
ぽんぽんと見知らぬ男がリカの肩を叩いて奥の席に去って行った。
辺りには他の店員もいるのに。
すぐさまリカの触られた肩をはたいてやろうかと思った。何故か嫌な感じがして、露伴は奥の席からこっちをじっと見ている男の方にリカ越しに身を乗り出した。
「…何あいつ」
「なんか、最近良く来るんだよね」
「ふぅん」
「ちょっと行ってくるね」
くるりと踵を返して手を振りながら離れていく。おいおい、こっちの注文はどうするんだよ。まぁ……康一くんもまだだし別にいいけど……。
さっきの男と親しげに話しているのを見たら、ふつふつと湧き上がってくるものがあった。
露伴の背後に彼の描くキャラクターと同じような存在が浮かんでいたが、リカがそれを見ることはなかった。
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