Deeply love with the darkness -4-
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『空条だ。仗助に聞いてここへ来た』
という承太郎に露伴は素直にドアを開けて出迎えた。
インターフォンが鳴った瞬間、まるで銃で撃たれたかのように(撃たれたことないけど)衝撃が走った。リカの言う、『冷たいし怒ると怖い』…そして『しつこい』という言葉が頭を駆け巡った。
しかし居留守を使おうにも家の電気はついているし、テレビの音も聞こえてくる。一切合切無視をするのは怪しすぎる。
すぐさま冷静に思考を切り替え、『ここで博士の好感度を上げておけば、さらに仗助に吠え面かかせてやれるかもしれないぞ』と覚悟を決めた。
ちらりと自分の服を被って眠っているリカを見たら、この空間を終わらせるのがとんでもなくもったいないと感じた。
「夜分にすまないな」
「…夜更かしは漫画家の本分でしてね…かまいやしませんよ…で?こんな時間に一体全体どうしたんです?」
相対して気丈にしてはみるものの、相変わらずの迫力の承太郎に露伴は動揺していた。物静かな表情からは何も読み取れない。ただ、一瞬露伴と目を合わせるとちらちらと家の中を覗き込むような素振りを見せたので、ああこれは彼女を探しにきたんだなと容易に読み取ることができた。
承太郎は気を取りなおすかのように帽子のツバの位置を整えた。
「…うちのリカなんだが……露伴くん、君はあいつと親しいようだな」
「ええ、まぁ…カフェで会ったときには良く話しますよ。なんてことない雑談ですけど……同い年で気が合うのかな、はは…」
承太郎はぴくりとも笑っていない。おいおいおい、愛想笑いは日本人の得意技だろうが。返してこいよコミュニケーションの基本だろ!
お前が言うなという感じだが、とにかく露伴は心の中で文句を垂れた。できることなら早くこの場を終わらせたいのだ。
「今日は会ってはいないかな…どうにも、仗助と別れた後家に帰っていないらしい」
「えぇ?リカさんが?」
「………。」
「家に帰らないとは心配だなぁ。僕は今日仕事で家に缶詰めでしたから、ぜんっぜんわからないけど……あんなに可愛いお嬢さんだ。それはそれは心配でしょう」
「……仗助も俺も、ここにいるんじゃあないかとふんでいる」
あ、コミュニケーション取らないタイプだ、こいつ。
露伴は半端な困り顔のまま固まった。察しの通り承太郎は自分の行動に迷わないタイプだ。
「…君がリカと親しいからこそ聞いているんだ…失礼だが、どうかな……やましいことがなければ少しだけ家の中を見せてほしいんだが…」
あるぞ。やましいこと。まずすぐ真横の靴箱にそのリカの靴が放り込んであるからな。
「それに、リカのスタンドは…影さえあればどこにでも侵入可能だ。君も知ってるだろうが……念のためというやつだよ」
「えっ!ああ……どうかなぁ〜〜!ちょっと今は…描いたばかりの貴重な原稿もたくさん置いてありますし……!正直家の中までは困るなぁ〜!いや、僕もリカさんのことは心配ですけどもっもちろん!」
開いたドア枠を掴んで両手で通せんぼしてしまった。とっさにそうしてから露伴はしまったと冷や汗を浮かべる。これじゃあ中に何かあると言ってるようなものだ。
それにしても、ここまで話の通じない人物だとは思わなかった。こいつは相当変わっているし、相当リカに対して思い入れが強そうだぞ。とにかく、『怒ると怖い』らしいし中で何も知らずにぐーすか寝てる奴を見られたら大変だ。
「それにしてもっ、親戚のあなたにも何も言ってないなんて…よほど家に帰りたくない何かがあるんでしょうかねぇ?!」
「………。」
今にも玄関に入ってきそうな承太郎の動きが止まった。それは承太郎にとって触れられたくない部分だ。もう本当に考えたくなくて心が折れそうになる。どうやら5年越しにようやく会うことのできたリカは、自分を嫌っているらしい。自業自得といえば自業自得。しかし今更過去に戻ってやり直すことはできねぇ。今度こそ2度と離れることはねぇぜ。
リカへの愛を思えばどんなことからでも一瞬で立ち直るのが承太郎だった。彼女で落ち込み彼女で復活するという、諦めることを知らないとんでもないサイクルが完成している。
「……あいつの父親代わりの人物が、とんでもなく過保護でな…。あいつに何かあったら、今度こそ合わせる顔がない」
「……。」
一瞬ではあったが、深い覚悟が伝わってきた。様々な経験を積んだ男の表情に露伴は一瞬飲み込まれ、次描くことのできるよう瞼に強く刻んだ。
「あっ」
「邪魔するぜ」
そしてその隙に、露伴を脇から押しのけるようにして承太郎が家の中に侵入してきた。
つかつかと素早い歩みでリビングに突き進む。靴は履いたままだった。
これは非常にまずい。
そんな大事な女性が見ず知らずの男の家で無防備に寝こけてる場面に遭遇してみろ。マジで、こんな大男に暴れられちゃあ大事件になるぞ。この僕の漫画人生にも関わってくる。
こりゃあ言い訳を考えるのも大事だが、一刻も早くリカのアホを起こして僕は何一つ悪くないって説明してもらわなきゃあな!
「………。」
パニックになりかけの頭のまま足早に承太郎の背中を追いかけリビングに出た。
訝しげに立ち止まっている承太郎の背中からそっと中を確認すると、ソファはもぬけの空だった。まるで夢だったかのように、さっきまでリカを包んでいた露伴の服がそこに同じ形で落ちている。
「…ここで食事を?」
「(???……)あっ、ええ」
「量が多いな」
「……そう、2人分食べたんです。漫画描くのに体力使うんでね…」
「なるほど」
我ながら天才的な言い訳だ。
よしよし、リカのやつタイミングよく起きて逃げ出したな。なんてツイてるんだ僕は!普段の行い良いからだろうな…。
露伴がニヤつく口元を隠している間に承太郎はがさがさゴミを漁ると、今度はソファを観察し始めた。落ちている服を注意深く触っている。
「まだ温かいな」
そしてふんふんと匂いを嗅ぎ始めた。このとき初めて露伴は空条承太郎という人物の特異性を認識し、先ほどまでとはまた別の恐怖に寒気を覚えたのだった。ちなみにほのかな香りから、承太郎はつい今しがたまでリカがここにいたであろうことを確信していたのだが、露伴はそこまでは知らない。知らなくて良かった。
「…ソファやテーブルの下には隠れていないようだが……念のため、ベッド下の影も確認させてもらいたい」
(おいおいおいおいほぼ初対面の人んちだぞ!仗助以上にヤバいな、こいつ……)
そして考えた。
そういえば、リカのスタンドに詳しいようだが…彼は僕のスタンドについてはほとんど何も知らないはずだ。今も無防備にこちらに背を向けている。こいつのスタンドがどんなものかは知らないが、素早さならヘヴンズドアーの方が上だろう。
(やってやる)
そう決意した途端、露伴の中に力がみなぎった。何をびびっていたんだ僕は。僕にはヘヴンズドアーがあるじゃあないか。
今までと同じように書き込んでやるだけだ。
『この家には何もなかった。2度とリカに付きまとわない。見惚れたら犬のクソを踏みます』ってなーーー!
「むっ、これは」
「!」
露伴の体から飛び出そうとしていたスタンドは承太郎の声にすんでのところでかき消えた。
代わりに承太郎の両手に、さっきまでなかったA4のケント紙が広げられている。
(なっ!!なんだってぇぇええーーーーッ!!?)
露伴が座っていたソファに裏返して置いていたそれは、眠っているリカの肖像をスケッチしたものである。まるで眠り姫のように美しい……。
「…露伴くん……これは」
マジマジと絵を眺める承太郎に露伴は頭を抱えているが、もしも先ほどヘヴンズドアーで攻撃していたら瞬時に時を止められ、スタープラチナのラッシュをくらっていたことだろう。
「………良く描けている。さすがだな」
確実に怒り出すと思われた承太郎は薄く微笑んで露伴を見た。素直に感心したのだ。まるでリカの魅力が全て写し取られたかのように愛らしい肖像。本物がそこにいるかのような…。
ぽかんとしている露伴はもう少し自分の能力に感謝した方が良い。
「…その、時々デッサンのモデルをやってもらってるんです。彼女は…なんというか、唯一無二だ。まるで内側から輝いているようで…すごく…… 。いや、それはあなたの方が良く分かっているでしょう。…さっきまで彼女はここにいた。どうやらあなたによほど会いたくないらしい…。あなたと『一緒にいると良くないことが起こる』と言っていましたが…ケンカでも?」
何故だか急激に承太郎と分かりあった気がして、露伴は饒舌になる自分を頭を振って止めなければならなかった。
「……まぁ、そんなところかな。私は『良くないこと』とは思っていないんだが」
「え?」
「邪魔したな、露伴くん。君が誠実な人間で良かった」
承太郎は相変わらず持っているデッサンを見つめている。
少ししてようやく露伴に顔を向けた。
「…さて、一応他の影も見ておくかな…」
「良かったと言っておきながらめちゃくちゃ疑ってんじゃないか!」
部屋を見渡す素振りの承太郎は本気なのか冗談なのかわからない。リカが見つかるまで帰ってくれないような気さえして、露伴はどっと疲れを感じてうなだれた。
「お待たせしましたぁ」
次の日、いつもより遅く起きた露伴は昼をかなり過ぎてからドゥ・マゴにやってきた。テラス席で待っていると、いつもより少し遅めに注文が届いた。
「…昨日、ありがと。これ、お礼ね」
照れているのか気まずいのか、カフェの制服に身を包んだリカは露伴から視線をそらしたままガラスカップをテーブルにことりと置いた。
ピンクっぽい色の飲み物を前に露伴は顔をしかめる。
「……コーヒーを頼んだんだが」
「私がブレンドしたハーブティ」
「コーヒーが飲みたい」
「疲れに効くし目にもいいのよ」
今度はほかほかのハーブティの横にコーヒーカップが置かれる。露伴は黒く良い香りのするそれを手で少し遠くにずらすようにした。
「2杯もいらない。君が飲めよ」
「……。」
おぼんを両手で抱えたまま大人しく正面の椅子に座るリカ。
「…承太郎がね、勝手に家には入らないって言ったの。今朝電話で話して……。『良いものをもらったから』って言ってた」
仲が良い親戚ったって、年頃の女の子の部屋には勝手に入らないのが普通だろ。
「なんか機嫌良かったんだよね……良いものって何?露伴、承太郎に何かあげたの?」
大きな瞳で顔を覗き込まれて、露伴の脳裏に昨夜の出来事がフラッシュバックする。
結局、仕事場を荒らされるのは困るからと断っても承太郎は納得しなかった。リカがどこかに隠れていると思っていたのだろう。
『とにかく、リカはもうここにはいないんですよ!いないものをいつまでも探されても困るなぁ……。!そうだ。その絵、差し上げますから…本人の代わりに……』
『……。』
「……まぁ、ただのラクガキだよ」
「そう?ほんと?」
「とんでもなく価値のあるラクガキだがね」
(承太郎そんなの欲しがる?)
答えが分からず戸惑う子供のようなリカが面白くて、露伴はにやつくのをごまかすためにハーブティをすすった。
やっぱりコーヒーが飲みたいと思った。