Deeply love with the darkness -4-
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「あー、ごめんね仗助くん。リカ疲れて休憩室で寝ちゃってる…。起こして連れて帰ってあげて。」
「りょーかいっス」
俺ってこう見えて優遇されてる方だと思うのよ。
ただの客の立場だがこうしてスタッフ用の休憩室に入れてもらえたり。
リカが俺を全面的に信用して頼りにしているからだぜ。
それだけリカが周りの奴らに大切にされているからだ。みんな、リカを守りたくて、リカが信用する俺を信用しているってわけだ。
友達にもバイト先にも公認なんだったら、俺ってもはや彼氏ってことでいいんじゃねぇの?
「お、いたいた…」
ドゥマゴの裏口を入ってすぐ、小さな扉の小さなスペースに簡易テーブルと椅子が置いてある。
リカはそこに座ったままテーブルに突っ伏して寝ていた。顔が真横に向いているので、綺麗な鼻筋と長いまつ毛が際立つ。
背中を丸めてそれが息する度に小さく上下してんのが何とも言えず可愛かった。
手を枕にするのにぎゅっと折れた剥き出しの腕は滑らかで白い。
(……マジで……!)
見ていたら込み上げるもんがあったので誤魔化すために学ランを脱いで肩にかけてやる。だらんと垂れ下がった部分が多くてその華奢な体を強調させた。
なんでこんな可愛いんだよ。おかしいだろ。
すぐ起こすのなんてもったいないよな?
俺は詰めていた息を吐き出しながらテーブルを挟んでリカの正面に座った。
「なんちゅー無防備…」
確か、友達の誕生日に化粧品を買うとか言ってたな。それでシフトがちょっと多いのかも。
けど、こんなどこでも寝ちまうぐらい疲れてたら危ねーよ。
それか、俺が迎えに来るから安心してんのかな。そうだったら嬉しいんだけど。
1人で妄想して顔がにやけちまった。ま、誰も見てねーから良いけどさ。
起きたときの反応を想像しながら、顔にかかる髪を指で耳元にとかしたら、リカが眉を寄せて少し身じろぎした。
(やべっ)
「……じょう、……ぅ」
「!」
「………。」
俺は間近で身を固めていたから、聞き間違いってことはないと思うんだ。
今、誰かを呼んだよな?
『じょ』が付く誰かを呼んだよな?
こんな幸せそうに微笑んで。夢にまで見る相手なんて。
「…何でだよ」
けど、分かってんだ。
その名前が俺じゃないことぐらい。聞き取れなかったけど、ちゃんと聞こえたから。
…酷い話だよな。
首筋にひやりとしたものを感じて手でそこを押さえた。
なんかさ、急に馬鹿馬鹿しくなってきたぜ。
俺は別に、見返りなんて求めてたわけじゃあねーけど。
ただ、惚れたあの日からあんたのことを守りたくて。一緒にいるのは俺じゃなきゃ駄目だって思ってるし、もう昔のことなんか思い出さないようにいつも笑わせてやりたいって。
今日だって先生の呼び出しフケてここにいるんだぜ。
毎日毎日、どうやったらその綺麗な瞳の中にいれるのかだけ考えて。
なのにあんたは都合良く俺を使ってるだけなんだよな?肝心なときにはいつもアネキぶってはぐらかすじゃねぇか。
「……嫌いだよ…あんたなんか」
ヤバイぜこれは。久々のマジな不貞腐れモードってやつだ。
ため息ついて椅子に深く座り直す。少し項垂れてから顔を上げたら、リカと目が合った。
少しだけ頭を持ち上げて、リカが眠そうに目を開けていた。
「うおっ…!」
「…仗助?」
椅子をがたつかせて驚く俺とは反対に、リカはのんびり目をこすりながら体を起こしている。
「寝てた……起こしてくれたら良かったのに…」
久々に声が聞けた気がして、それだけで無茶苦茶嬉しくなっちまうのが悔しい。
「待っててくれたの?」
「別に…そんな待ってねーよ」
不機嫌全開の俺にリカは怪訝そうに顔をしかめた。や、やめろ。そんな見てんじゃあねーよ。熱くなってきちまうだろ!
「…なんか仗助、元気ない?」
「別に元気だけど」
「何かあった?」
「別に…なんもねーし」
これじゃあ反抗期の弟だよ…。
我ながらかっこ悪い。
リカは態度の悪い俺にちょっと笑って立ち上がった。肩にかかっていた黒い上着が床に落ちる。
「別に別にって、寂しいこと言わないでよ」
俺の服を拾ったリカは嬉しそうに目を細めていた。狭い休憩室ですぐに後ろに回り込んできたら、そのまま俺の背中に上着と一緒に両腕を回して抱きついてきた。
「これ、かけてくれたんでしょ?ありがと」
「………。」
「元気出しなよー。レモネード飲ませてあげるから。それで、一緒にカラオケ行かない?」
ちょっと待っててね、と囁いて、リカはすぐに休憩室を出て行った。
後に残されたのは、背中に残る柔らかい感触とじんじんしてくる温かさと。それから耳から頭の芯まで溶かすみてぇな甘い声。
首筋をぞくっとしたもんが駆け上がってきたんで手で押さえる。
何なんだよ。誰のせいで元気ねーと思ってんだ。
まぁ、レモネードおごりは悪い気しねぇけど。
そんで今からカラオケか。俺を元気付けようと思って誘ってくれたんだよな。俺が落ち込んでたから、背中をぎゅっとしてくれたのか。背中を……。
感触を思い出したら猛烈に恥ずかしくなってきた。気付くと俺はさっきまでのリカみてぇにテーブルの上で丸まっていた。
「…やっぱすげぇ好きだ」
夢の中の野郎のために身を引くなんてのは、やめることにした。
