Deeply love with the darkness -4-
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「露伴!露伴っ!!」
さっきからドンドンと玄関のドアが外から叩かれている。
岸辺露伴は自分を呼ぶ声の人物を良く知っていた。カフェ『ドゥ・マゴ』でアルバイトをしている彼女。感じ良く可愛いので珍しく話しかけてから、同い年だったこともあり徐々に仲良くなった。それから漫画家の仕事が大変だろうからとケータリングを届けてくれるようになった彼女に間違いない。
「ねぇなんでっ!無視するのよ!いるんでしょ露伴っ!!」
仲良くなったついでに最近は遠慮のなくなった彼女を度々無視しようとするのだが、あいにくのしつこさであることも良くわかっている。
インターホン攻撃が終わったかと思えば始まったドア叩きにほとほとストレスを感じて、露伴は持っていたペンを机に置いて立ち上がった。
「しつこいんだよさっきからっ。あのさぁ、この僕が仕事中だとか、近所迷惑だとか考えないワケ?」
「今日泊めて!」
「………。……え?!」
ドアを開けたとたんすがるように見上げられて激しく動揺してしまう。
目の前にいるのは予想通りのリカだったけれど、言われたことは予想外…。
「お願い!」
リカはよほど焦っているようで、大きな瞳をうるうるとさせて懇願してくる。こりゃあ僕だからこうして冷静でいられるけど、普通の男ならぐっとくるを通り越して完全に落ちてるね。あいにく僕は普通の男なんかじゃあないから、まぁ…ぐっとくるぐらいでなんともないけど……。
「えと…念のため確認しとくけど…とまるって泊まるってことかい?止まるでも、停まるでもなく……君がこの家で一晩明かすっていう意味の泊まる?キャンプファイヤーとかして枕投げとかする、お泊まりってことか?」
「そう!いいよね家広いから!キャンプファイヤー、する?!」
「するわけないだろ!」
もう家の中に入ってこようとするリカを体を壁にして防ぐ露伴。
「待て待て待て待て!そもそもなんで急に君を泊めなきゃあならないんだっ!それこそ燃えでもしたのか君の家は!忙しいんだよ僕はっ!?」
「いいじゃんぴっぴっぴって描いたら終わるんだから露伴の仕事なんて」
「失礼だな君!」
「ねぇお願い!家にはいられないの!家にいたら、絶対大変なことに……っ」
「な、何があったんだよ」
自分で自分を抱きしめるリカは顔色がいつもよりさらに白く震えていて、もしかしてストーカー被害にでもあっているんじゃないかと露伴は勘付いた。何人かの身の程知らずどもに書き込んだからな。『私は2度とリカ・ウィンチェスターに近寄りません。見惚れてしまった場合は犬のクソを踏みます』って。こいつは何も知らないけどさ。
(でも最近は変なのに付き纏われてる感じはなかったけどな…。)
「あのね承太郎に家がバレたの」
そう、変わったことといえば空条承太郎という人物がこの町にやってきてから…奇妙な出来事がときどき起こるぐらい…って。
「…空条博士?」
「うん」
「家がバレたって……何が悪いんだ。君たち親族なんだろ?」
露伴は開いたドアに手をついたまま、ぐいっとリカに身を乗り出した。ここで念を押しておきたかったのだ。仗助のアホが言うには、空条承太郎とリカはアメリカにルーツのある遠い親戚らしい。が……どうにも奇妙な雰囲気のある2人は何か訳ありの関係ではないかと噂されているのだ。露伴の周りでは。
「逆に今まで家を教えてなかったってことか。ずいぶん警戒してるじゃあないか。親戚なのに」
「だって承太郎、しつこいんだもん。冷たいし怒ると怖いし嘘つきだし根に持つし……サイテーの男なのよ」
「はぁ……」
よくもまぁ博士と呼ばれる人間をそこまでけちょんけちょんに言えるものだ。
露伴の見た限りでの空条承太郎には経験からの落ち着きと紳士的な雰囲気がある。それでいて隙のない凄みのようなものを感じるのだ。仗助といるときに挨拶ぐらいしかしていないけれど、そう感じて圧倒されたのだ。
それをよくもまぁ。
うくくとついつい笑ってしまう。
「家に来たら嫌なの。2度と自分のホテルに帰らなさそうな気がする……そして良くないことが起こる気がする」
「ふぅん……でもさ、今日ここに泊まったとして、明日から家に戻るんじゃ意味ないじゃないか。君が言うように空条博士がしつこかったらだけど」
「それは明日から考えようと思って……。仗助は『しばらくうちに泊まりなよ』って言ってくれたけど…仗助ママもいるのにさすがに悪いかなって……断ってきた」
「何だって?」
さらに前のめりになった露伴にリカが不思議そうに首をかしげている。
「君…仗助のことを断ってここに来たのかい?仗助の誘いは駄目で、僕なら良いと?」
「だって、ママがいるのよ」
「よし、許可しよう」
「ほんと?」
ぱっと花が咲いたようにリカの顔が明るくなった。それを見て露伴の胸の内もスカッとしてきた。優越感というやつだった。
(仗助が悔しがるのが目に浮かんでくるなぁ……自分の誘いを断ったリカが僕の家に泊まったなんて知ったら…プククク……!)
(露伴にやにやしてて気持ち悪)
仗助をいじめることしか頭になかった露伴を見てリカは引いていたが、気が変わられても困るので黙っておいた。賢明な判断である。
「ご飯買ってきたよ!ドゥ・マゴのパスタとサンドウィッチ!」
「和食の気分なんだが」
「食べたらゲームしよっ!」
「大人しくしてろって!まだ仕事が残ってるんだよっ!」
すぐに家の中に上がり込んできたリカは何かから逃げてきたかのようだった。
2人で食べ慣れた味を楽しんでゲームをして、バラエティを見ながら時々ツッコミを入れつつ笑っていたら、すぐに夜もふけてしまった。
見たくもないのに時計を見てしまった露伴は苦々しく顔を歪めて立ち上がった。
彼の表情を読み、リカは寝転がっていたソファから少しだけ体を起こす。
「そういえば、仕事が残ってるんだったね」
「まぁ、イラストが3枚ばかしだからすぐ終わるさ…君、風呂にでも入れば?」
別に変な意味じゃないけど。
見下ろしたら乱れたリカの髪の隙間から細い首がちらりと見えた。白く発光しているかのようだった。
「や、別に変な意味とかじゃないけどさ」
おい、馬鹿!言う気なかったのに口が勝手に!
「…何も持ってきてないもん。急いでたからご飯以外なんにも」
「……あっそ」
それだけ急いでいても僕に貢ぐケータリングだけは用意してきたのか。
こんな気を遣えない雑なやつなのに、嬉しいって思うなんてどうかしているな。
「服貸してくれない?」
「やだよ。きったないよだれとか付けられるんだろ?」
「わかったわよ……片付けとくからお絵描きしてきていいよ」
(マジで……センスも全然合わないんだけどなぁ……)
ガサガサと紙皿を集め始めたリカを置いて露伴はその場から背を向けた。
仕事部屋に戻ってペンを手に持ったところで全然集中できないことに気付いてしばらく椅子の上で足をぶらぶら遊ばせた。頭に浮かんでくるのは今日の彼女の様々な表情とスタイルの良さを見せつけてくるカーブを描くポーズばかりで。机に置いてある画集を開いてみてもそれは変わらなかった。
しばらく頬杖ついたり椅子をくるくる回したり頭を押さえたりしてから、露伴はそこから立ち上がった。
「おい、リカ!たまたまもう着ない服があったから、これ使えよ……って」
タンスからどうにか彼女が嫌がらなさそうな当たり障りない服を引っ張り出して、リビングに戻ってきた。
返事のない部屋で付きっぱなしのテレビからニュース番組が淡々と流れている。
(寝てるのかよ……)
リカはソファで眠っていた。器用に膝起きに頭を乗せてソファに少し足りない両足を投げ出して。めくれたスカートからマシュマロみたいな太ももがあらわになっている。
露伴はすぐに持っていた服をその足にかけると、リカの頭側にある別の1人がけソファに座り込んだ。
性格もセンスも相性が良いとは到底思えないけれど……僕は彼女に惹かれている。まるでミケランジェロの描く天使のように美しくて愛くるしくて…吸い込まれるようにずっと見ていたくなるのだ。
吸い寄せられて……気付いたら、ペンを走らせていた。完璧な2人だけの空間で大いに集中していた露伴には、テレビの音や、リカと空条承太郎との関係は全く気にならなかった。こんなに充実した時間を過ごすのはいつぶりだろうと、出来上がった絵をほれぼれ眺めていた。
「……………えっ!?」
夜更けにインターフォンが鳴り響くまでは。
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