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「オネーチャンまっっじで可愛いね!友達と来た感じ?俺らと一緒にビーチバレーやんない?」
両手に食べ物と飲み物の袋をぶら下げて、光が照り返す砂浜をビーチサンダルで歩いてた。
下向いてたら通せんぼするみたいに男の人が急に現れたから、びっくりして少しバランスを崩しちゃった。
そしたら今度は斜め後ろから大きな手が私の肩を支えてくれた。
「てめーリカ。また勝手にうろつきやがって。余計なもんがついて来てんじゃあねーか」
振り返るまでもなく不機嫌な低い声でわかる。承太郎だ。
見たらやっぱり眉間に皺寄せて私の前にいる男の人をじぃっと睨んでた。
光の速さですいませんでしたって去っていく男の人に見向きもしないで、私が持ってる買い物袋の方を気にしてる。
「着いてから1時間も経ってねぇんだぞ。まず入れよ。海に」
「でも冷やしきゅうりの看板見たら食べたくなっちゃったから」
冷たいうちにと思って買ってきたきゅうりを一本手渡したら、承太郎はほんと嫌そうにため息つきながらぼりぼりかじり始めた。
「リカ見つかったのかい?…ああ…きゅうり買ってたんだ…やっぱり…」
きゅうりをかじる大男を見つけたのりくんがなんか戸惑ってる。
そう、私たちは相変わらず3人でつるんで海なんかに遊びに来ていたのだ。
スピードワゴン財団のでっかいキャンピングカーで来たので着替え等もらっくらくなのだ。
着替えて私はいきなり海の家にダッシュしたのである。
「そうは言うけど、私が本気で海に入ったら、二人なんか絶対ついてこれないんだからね」
「いやいや、そうは言っても僕ら高校男子ですからね」
「学校のプールも泳ぎきれねぇくせに良く言うぜ」
「はい〜〜サボり魔のくせに〜〜絶対なまってるぅぅ〜体も重いくせに〜絶対私の方が泳ぐの速いぃ〜〜」
「やめなさいリカ。この子は根に持つタイプだよ」
どうどうと私の肩を押さえるポーズののりくんの後ろで承太郎はポキポキと拳を鳴らしていた。
ちょっと考えてから私はもちろん逃げた。
承太郎は当たり前のように追いかけてきた。なので波打ち際に飛び込んで、それからたくさん遊んだ。
スタープラチナに遠くに投げてもらったり、浮き輪に乗ってハイエロファントに遠くまで引っ張ってもらったりした。すごく楽しかった(危)。
「…リカ。そりゃかき氷か?いつの間に買ってきた?」
「なんか、あそこのお姉さんたちがかき氷あげるからお兄さん紹介してって」
「そうかよ。てめぇよくもこの俺をダシにしやがったな。絶対許さねぇ」
心底嫌そうな承太郎が「もう帰るか」とか言い出したので涙目になってると、お姉さんたちはなんかごめんねと若干引き気味に去って行った。
のりくんが後から「この子の保護者として来てるので離れるわけにはいかなくて〜」とかなんとかフォローしてあげていて、お姉さんたちをメロメロにしていた。
「だいぶ陽が落ちてきたから、そろそろ戻っておいで」
ハイエロファントを通してのりくんがそう耳打ちしてくれたのは、帰りたくない私が1人で波打ち際をウロウロし始めて30分ぐらい経ってからだった。
遊びまくってやることももう思いつかないぐらいなのに、ここから離れるのが名残惜しくてずっと綺麗な貝殻を探して歩いていた。
承太郎ものりくんも海の家で休んでいて、外のパラソルの下で私を待ってくれている。
さすがにこれ以上付き合ってもらうのも悪いので、私は少し時間を置いてから立ち上がった。
「…わかった。今から戻るね」
『リカ、戻ってくるって』
『やれやれ。ようやくか』
みたいなことを言ってるんだろうなって、2人のジェスチャーでなんとなく分かった。
帰ろうと思ったら、急に辺りが薄暗くなってることや、人がすごく減ってることに気付いて、なんだか寂しくなった。
持ってた貝殻をギュッと握りしめて、大きく一歩動いたら、足の裏に何か刺さったので思わず小さく飛び上がる。
「痛っ」
いつの間にか、小石の集まってるところに入り込んでいたみたい。
足元がつぶつぶジャリジャリしていて、私はこの中を歩くのに咄嗟に顔を顰めた。よく見たら、足には傷が入っていて小指の付け根のところも切れている。血が滲んでるのを見つけたらとたんにそこが痛い気がした。
まぁ、別にダークネスで傷は塞げるからいいんだけど…せっかく1日楽しかったのに、なんかちょっと…ショック。
「……。」
しゃがみ込んで足をよしよししていたら、急に上から影が差した。
「良い加減にしねぇと先に帰るぜ」
顔を上げる前に承太郎に声をかけられる。
承太郎は最近私がいて欲しいと思ったときに本当にすぐに現れたりするから、今も期待が報われて泣きそうになった。
「サンダル履いとけばよかった」
「……。」
じっと見られているのが分かったのですぐに立ち上がる。どんどん帰る予定の時間を過ぎていたので、怒られるかもしれないと思っていた。
「はしゃぎすぎなんだよ」
予想が外れ、承太郎はおかしそうにちょっとだけ笑うと、私に背中を向けて砂の上に片膝を立ててしゃがみ込んだ。
「とっとと戻らねぇと、迎えに来たスピードワゴン財団の運転手が泊まる気かと不安がっていたぜ」
肩越しに視線を向けられて私は戸惑った。
承太郎がこうして背中を見せてくれたら、私はいつでもすぐにそこに飛び乗って運んでもらう。楽だし安心できるし楽しいから。
けど今は…、何故かその広くて逞しい背中が。夕陽に照らされて光る汗ばんだ肌が。何故かいけないもののように思えて、体の芯からどきどき音が響いた。
「………いい。外だし、恥ずかしいから」
気付いたら、早口にそう呟いていた。でも、小さな私の声は承太郎に届いていたみたいで、少しだけ大きな背中が揺れたのが分かった。前を見てるからどんな顔してるのかは分からないけど、私はその時、承太郎をとても傷付けてしまったんじゃないかと思ってはっとした。
なんで私、急に変なことを気にしちゃったんだろう。
「…仕方ねぇな。サンダルを取ってきてやるから、待ってな」
「やっぱりおんぶっ!」
小さく息をついた承太郎が言い終わるうちに、私は立ちあがろうとするその背中に飛び付いていた。手のひらに集めていた小さな貝殻が、ぱらぱらと承太郎の足元に落ちていく。
承太郎は驚いたみたいだったけど、私がいくら背が伸びても私を抱っこして倒れることはなかった。今もバランスを崩しただけで、器用に私を背中に抱え直してもう歩き始めている。
お互いに何も言わなかったけど、私はごめんねっていう代わりに温かい背中に擦り寄った。承太郎の肌が小さく波打って、私はまたどきどきしていた。でもやっぱり、ひどく安心して目を閉じた。…なんで私こんなに、泣きそうになっているのかな。
「楽しかった。…来年も連れてきてね」
承太郎は何も言わなかった。しばらくそのまま歩き続けた。来たときは一瞬だったのに、戻るときはずいぶんゆっくりしている。
「…大学に行ったら」
「うん」
「船舶の免許を取るかな。最初に。」
「船?」
「別に、どの海でもかまいやしないだろ」
顔を覗き込んだら、承太郎はちょっといたずらっぽくにやってしてた。それで私は、承太郎が船に乗って一緒に知らない海に行こうって言ってくれてるんだと分かって、嬉しくてその場で飛び跳ねた。
すぐに「てめぇ大人しくしてろ」って怒られたけど。
「…のりくん。私のサンダル持って何してるの…?」
「ああ……持っていってあげようと思ったけど……やめたんです」
のりくんは相変わらずパラソルの下で休んでた。よっぽど楽しいみたいでにこにこしてる。その周りの空中を、サンダルを持ったハイエロファントがぐるぐる回っていた。
承太郎は何も言わなかったけど、呆れたみたいにじとっとのりくんを睨んでいた。
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