Crush on the darkness
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(ダニーを蹴ったって……さ、さすがにありえないよなぁ……)
屋敷の階段を上がりながらアレックスは動悸を感じていた。
ディオが来たことをジョースター卿に知らせに行ったら、急に甲高いダニーの鳴き声が響いたのだ。
慌てて戻るとジョナサンは怒りに震えていた。こちらが聞く前に「ディオが!ダニーを蹴りつけたんだ!」と教えてくれた。
「ええ?そんなこと……」
ダニーは宥めるジョナサンの横でキャンキャンと頭を振っている。
ちらりとディオを見た。一瞬、心臓まで凍りつきそうな鋭いものを感じてドキッとした。
「…すまない。急に大きな犬が飛びかかってきて驚いたんだ………昔から犬が苦手で……」
ディオはしおらしくそう言っていたけど、アレックスはこの時、ディオはわざとダニーを痛めつけたんじゃないか?と直感的にそう思った。
「…アレックス!」
なんとなくディオの部屋を避けて自室に戻ろうとしてたら、隣の部屋の少し開いたドアの隙間から声をかけられた。ディオだった。
手招かれたので仕方なく近づいていく。これから同じ家に住むんだから、部屋はディオ→アレックス→ジョナサンで並んでいるんだから、避けるのは無理そうだ。
ディオはアレックスが近づいてきてからドアを開けて身を乗り出した。
「ちょうど荷物を片付けたところなんだ。この屋敷を案内してくれると嬉しいな」
「…お前、ダニーのこと痛め付ける気で蹴った?」
「………。」
ディオには今のところお上品な印象しかないので、あえて聞いてみた。たぶん、何度聞いても「犬に驚いて」って言うんだろうけど。
「ああそうだよ。犬が嫌いなんだ、昔から。人間に媚びへつらう態度に虫唾が走る」
人が変わったように笑顔の種類を変えたディオに、アレックスは心臓を掴まれたような心地になった。
「どうしてわかったんだ?」
「…なんか、見るからに性格悪そうだから」
「へぇ」
腕を組んでにやりとするディオ。妙な感じだ。余裕がありすぎる。
「なんでわざわざ、正直に……。隠しといた方がいいんじゃない?そういうの」
「君には必要ないと思ってさ」
「なんで」
「アレックス・ウィンチェスター……思い出したよ。『墓荒らしのウィンチェスター』だろ?君のご家族…」
「うわ」
色々と察してアレックスは思いきり顔をしかめた。ディオはこの時点で勝ったと確信を持つ。ロンドンにいた頃、父親が彼らの仕事を何度か手伝っていたのを思い出したのだ。墓を掘り返して、それだけ。父親が「ウィンチェスターは人使いが荒い。金はくれるが墓の中を漁らせてはくれねぇ」と愚痴って酒を飲んでいた。
そして、「見てくれだけはいいんだが」とニヤついていた。
「ジョースター卿やジョナサンの奴は知っているのかな?君の一族が人の墓を掘り返して遺物を奪ってきたことを」
「奪ってないって。あれは浄化してたの。燃やしただけだよ」
「浄化だと?……何を言ってる」
「なんでもない」
「金目当てでジョースター家に取り入ったな」
「それはお前だろ」
「じゃないとこんな田舎まで来ない」
アレックスはどっと疲れを感じた。嫌な予感がしていたものの、こうも的中するとは。しかも、自分の家族のことまで知られていた。
深々ため息をついてから、ぐっとディオの胸を押して部屋の中に入る。後ろ手でドアを閉めてディオに一歩詰め寄った。自分の方が背が低いのが悔しい。
「良かったな。ここなら良い暮らしができるし、金も充分すぎるほどもらえるよ。それで満足してもらえない?俺も犬は嫌いだけど、ダニーは良い奴なんだ。ジョナサンも」
じっとお互いの瞳を見つめ合った。ディオは絶対にこいつにとっての『良い奴』にはならないと決めた。ジョナサンと同列にされるのは絶対に嫌だった。何故そう思ったのかは考えなかった。
「俺はお前みたいにギラギラした奴嫌いじゃないけど……大人しくしてろよ、頼むから」
アレックスがディオを睨みつけたのは、ディオに片方の手首を掴まれたからだった。
そのまま少し力を込めて押さえたら、アレックスの体は簡単にドアまで下がってぶつかった。
「…それなら、何なんだ?」
「え?」
「嫌いじゃないなら、好かれてると思っていいのかな」
「………え?」
アレックスの手を掴んだ瞬間から、ディオはよく分からなくなっていた。育った家の金目当てで上がり込んできた自分を怒るわけでもなく、怯えるわけでもなく、蔑むわけでもない。
目を逸らすこともなく、そう……そのまま受け入れている。なんなんだこいつは。
じっと斜め下から見上げてくる黒曜石の瞳を覗いていると、そのまま吸い込まれそうだった。『見てくれだけはいいんだが』。汚い声の父の言葉を思い出した。
「……君は男に興味があるのか?」
「何言ってるんだお前」
「顔が赤くなってるようだから」
「………もういい。放して」
「!」
大きなため息をついたアレックスがそう言うと同時に、少し後ろに引っ張られた感じがした。ディオが二歩ほど下がって体勢を整えると、アレックスはすでにドアノブを押してこちらに背を向けている。
「??……。」
「……ご飯、6時から」
「場所がわからないんだが」
「俺案内しないから」
「…墓荒らしの」
「っ!迎えに来るよ!!」
盛大に音を立ててドアが閉まり、アレックスは出て行った。どうやら機嫌を損ねたらしい。
なかなか面白いことになってきた、とニヤニヤしながら部屋の鏡を見たら、アレックスではなく自分の顔が少し赤い。
(……何を言っているんだ、俺は)
自分でもよく分からなかった。
アレックスが次にこの部屋に来た時、少しはわかるかもしれない。そう思うと少し時間の過ぎるのが遅かった。