Crush on the darkness
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(マジでお人好しすぎるだろ……)
ジョナサンの父であるジョースター卿が、アレックスのみならずもう1人他人の子供を家に迎え入れるという。
その話を聞いた瞬間アレックスはそう思わずにはいられなかったのだ。
ジョースター卿は亡くなったその子の父に恩があると言っているが、どうにもうさんくさく感じてしまう。
「同い年の子なんて楽しみだなぁ、アレックス!……アレックス?」
「ああ…うん……。でもさぁ、ここに来る前に親戚の家とか頼れなかったのかなぁ?ロンドンからくるにしちゃあだいぶ田舎だけど…」
「…頼れないからこんなとこまで来るんじゃあないか?きっとお父さんが亡くなって悲しいだろうし、不安だろう。仲良くしてあげなくちゃあ」
「それはそいつによるだろ」
ジョースターさんと同じでジョナサンも人が良すぎる。
アレックスは会話を諦めて1人で考え込んだ。
(まぁ…両親いなくなったんなら親戚がいてもお金の心配しなくていいこっちに来るのは自然な流れか……)
「ねぇ、アレックス!何を考えてるんだい?僕にも教えてよ!」
「……。」
「アレックス!」
歩いて行ってしまうアレックスを見送りながらジョナサンは「ちぇっ」っと舌を鳴らした。クールなアレックスはこうしてジョナサンを相手にしてくれない時があるのだ。
(もう決まったことだし仕方がないな。類は友を呼ぶって言うし、ディオってやつもお人好しのお馬鹿だといいんだけど…)
「…新しい子が来ても、僕の1番の親友は君だからな!アレックスっ!」
少し離れた後ろから大声でそう言われて、アレックスは呆れ半分気恥ずかしさ半分で振り返った。ジョナサンはしてやったりのにやけ顔だ。
「お前さぁ……俺がそういうのを心配して黙ってると思ったわけ?」
「だってずいぶんと考え込んでいるから」
「全然違う」
ふーん、とまだにやにやしているジョナサンにアレックスは少し苛立った。
「それを言ったら、俺の方がディオと気が合うこともありえるんだけど」
「んなっ!?ええ…?!そ、それは…」
「考え込んでるのはお前の方かもな」
ふふん、と悪そうに笑って部屋に戻るアレックスのなんと優美なことか。ジョナサンは何か負けた気がしてその場に崩れ落ちるのであった。
「あれ?ジョナサンは?」
それから数日が経ち、アレックスは広い屋敷でジョナサンを探していた。
「さて……ダニーと散歩でも行ったかな…ああ見えて緊張しているのかな、ふふ…」
パイプをふかしながらジョースター卿は嬉しそうに目を細めている。これからやってくる新しい子供が楽しみなんだろう。
「…ちょっと探してきます」
予定では今日やってくるみたいだし、出迎えにいないのは失礼な感じがするから嫌だな。
アレックスは軽く上着を羽織ってから外に出た。
「?……なんだあれ」
ジョナサンはすぐに見つかった。
屋敷の周りに広がる野原で悪ガキたちに絡まれていた。すぐ近くには可愛らしい女の子もいて、メソメソしている。なんとなく状況を察して足早に近付いた。
殴られたジョナサンがジョースターの刺繍入りのハンカチを出したところでアレックスは止めに入ることにした。
「おい!そこの生まれと顔が残念なお前ら…楽しそうなとこ悪いがそろそろやめておけよ」
「あん?うるっせーんだよナヨナヨアレックス!」
「やーい男女ぁ!お前もぶん殴ってやろーかぁ?!」
怯む様子はなく、1人が再び倒れているジョナサンを蹴り付けようとした。しかしその足が空中でぴたりと停止したまま震えている。
「な、なんだぁ?!!」
自分の体が妙なことになって怯える少年たち。
ジョナサンは見た。芝生に映る彼らの影が不自然に……体より先に動いたように。
「うぎゃあ!」
まただ。1人の足が不自然に方向を変えてもう1人を蹴った。ジョナサンが思わずアレックスの方を見たら、その瞳は深く深く漆黒の怪しい光をたたえている。
(…な、何が起こったんだろう。今、アレックスが来たとたんあいつらの様子がおかしくなったぞ…)
いじめっ子たちは捨てゼリフを残して逃げて行った。そりゃそうだろう。自分の体が急に思い通りにならず、操られているようになったのだ。よほど怖かったに違いなかった。
状況を呆然と見守る少女は動けずにいた。彼女もまた、先ほどの異様な光景に気付いていたのだ。
「ほら。…これ、返すよ。またいじめられたら俺かジョナサンに言いな。きっと助けるから」
地面に落ちていた人形を拾って少女に差し出すアレックス。指は細く顔立ちは中性的で美しい。少女は見惚れたまま人形を受け取った。
「ジョナサンも、平気か?」
「いいんだアレックス。僕のことは…紳士が取るべき行動を取っただけさ。…あいつらにだって、いつか勝てるようになってやる」
「…そうだな。……ん?」
耳の端にガラガラと車輪の音が聞こえてアレックスは顔を上げた。ジョースター家に続く一本道を馬車が駆け抜けている。ここでようやく何のためにジョナサンを迎えに来たのか思い出した。
「ヤバっ。ジョナサン帰るぞ!早く!ロンドンの子を待たせるつもりかっ」
「えっ?う、うん…」
アレックスはそれっきり、ジョナサンも少女も置いて来た道を走って行く。
昔は自分が怪我なんかしたら、かいがいしく介抱してくれたのに…。
新しく来る子が楽しみではあるけれど、ジョナサンは少しだけつまらなく感じるのであった。