Crush on the darkness
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「それ触るのやめた方がいいんじゃない?」
横からそう声をかけられて、ディオは壁面に伸ばした手を引っ込めた。
いつの間にやってきたのだろう、アレックスが咎めるように顔をしかめている。
「ジョースターさんの奥さんの形見なんだからさ」
「…女のものにしては不気味じゃあないか?」
「旅行先で見つけたらしいけど……変な仮面だよな」
「よっぽど貴重なものかと思ってね」
「だから!触るなって。壊したらどーするんだよっ」
再び仮面に触れようとするディオの手をアレックスが掴んで止めた。相変わらず、真っ白で見た目通り冷たい。
ディオはその細い指を逆にぎゅっと掴んで降ろさせた。
「…俺がそんなヘマするか」
「そんなことしたら人のせいにするもんな、お前は」
嫌そうなアレックスににやりと笑っていると、玄関のドアが勢い良く開いた。
外から帰ってきたジョナサンはすぐにアレックスの姿を見つけて笑顔になる。ちょうど話したいことがあったんだ。
しかし同時にディオもいるのに気付き、何かモヤモヤしたものが全身を支配した。だって、2人ときたら廊下の真ん中で姫と王子みたいに手を握り合っているんだもの!そしてアレックスときたらそれが当然と言わんばかりににっこり僕に微笑みかけた。
「おかえり。」
「ああ……あの、2人で何してるんだい?」
「別に何も?」
狼狽えるジョナサンがおもしろくてたまらないらしい。ディオはにやにやしながら見せつけるようにアレックスの手を握り込んでいる。ちょっと痛いなと思って、ようやくアレックスはディオと手が繋がったままなのに気が付いた。
「……何これ」
「何だろうな」
我に帰ると本当に何をしてるのかわからなくて、同時に吹き出してしまった。
最近やたらと打ち解けているよな……。ジョナサンは焦って急ぎ足で階段を上った。
「ねぇ、アレックス。ちょっと話があるんだけど…。後で僕の部屋に来てくれないかい?」
肩を掴んで少し引っ張られたものだから、アレックスの手がディオから離れる。
「ああ、うん。いいよ」
「話ってなんだよ?この俺に後ろめたいことがないならここで話せばいいだろう」
また体が引っ張られたと思ったら、改めてディオに手首を掴まれ引き寄せられていた。こいつ、マジで…ジョナサンに嫌がらせするのには全力だな…。
そして反射的にジョナサンもアレックスの肩を掴む力を強くしたので、よく分からんけど両側から引っ張られて服が伸びそうだ。
「いや…それはちょっと…。大事な話なんだ」
「今こいつは俺と話しているんだが?」
「え、何の話?」
「なんでお前に教えなきゃならん」
「僕の話が聞きたいならそっちも教えてよ」
「嫌だ」
「い、嫌だ……」
気付いたらお互い結構な力でアレックスを引っ張っていたようだ。
「なんてこと…!」と息巻く声に階下を見たら、メイドが3人キラキラした赤い顔でこっちを見ていた。
「あっ!し、失礼いたしました!」
「決して坊ちゃんたちのお邪魔をするつもりは…!」
「ああ…いけません…!いけませんわアレックス様…!」
パタパタと退場したメイド達を見送りながら我に帰る。
「おいなんか良くないことが起きてるぞあれ!」
アレックスの一喝にようやく手を離す2人だった。
(アレックスめ……このディオに触れられるのの何が『良くないこと』だ……!)
あの後、「ほんとに相談したいことがあるんだよ!」とジョナサンに犬のように纏わりつかれ、アレックスは奴と部屋に去ってしまった。メイド達に騒がれたくないならまずジョナサンを甘やかすのを辞めたらいいのにと苦々しく思う。
あれから二日。
一体ジョナサンの相談とは何だったのか。弱みになることかもしれないし、是非とも聞き出しておきたいものだ。
そのための作戦を練るために、キッチンからティーセットをもらってきた。
上流階級の優雅な時間を前にご機嫌になっていると、ふとアレックスの部屋から信じられない美少女が出てきたので、ディオは驚いて持っていたティーカップを落としてしまった。
長く揺蕩う黒髪が揺れるのと、ふわりとした少々ゴシックなドレスが揺れるのと、真っ黒に輝く瞳と目が合うまで、全てがスローモーションのようにゆっくりと流れていった。
床のカーペットに紅茶がシミを作り、ディオのズボンの裾も少し濡らしたが、そんなこと全くどうでも良い。今はとにかく全力で目の前の美少女をものにしなければ。このディオの名誉にかけて。
驚いているのか大きな瞳をさらに大きくして固まっている美少女に飛び切りの角度で微笑みかける。
「ああ、失礼、マドモアゼル。あまりに美しいので驚いてしまった。どちらの御令嬢かな?客人が来るのを聞いていなくて…」
美少女は少し困っているらしく深い夜の海のようなキラキラした瞳を泳がせた。吸い込まれそうなその光には見覚えがある。
「くそっ!!お前アレックスか!!」
「…いいえ、美しい御令嬢です」
「なんだその格好は!女だったのか実は!」
「違うけど」
「なんだその格好は!」
「なんかさー、ジョナサンがキスの練習したいらしくて」
「ふざけてんじゃあないぞ!お前が女装する意味がわからん!…ああわかった!お前が練習相手になるってことか!このアホども!!」
(無駄な頭の回転の良さ…)
ディオのパニクりっぷりに思わずうふふと笑うアレックス。ディオは打ち震えた。お淑やかな異国の美少女にしか見えない。顔は全然アレックスなのに髪が伸びてドレスを着ているだけで美少女すぎる。何事か。
「濡れちゃったな」
アレックスはディオの動揺をよそに落ちたティーカップをしゃがみ込んで拾った。髪が長いとすぐに落ちてきて邪魔だ。女の子って大変だな。カップを持ってない方の手でウィッグを耳にかけながら、ディオを下から見上げる。その瞬間、もう本当にディオはアレックスの視線の動きのまま足先から顔面まで燃やされたかと思った。
「火傷してない?」
「お前の見た目は本当に無駄だ!!」
「何をずっと怒ってるんだよ」
「お前のせいだろうが!」
「ティーカップ落としたの自分じゃん…。でもディオがここまでびっくりしたなら、ジョナサンも相当驚きそうだな」
にししとおかしそうに笑うアレックスを見たら、ディオの中に苛立ちが募った。
ここで出会ったのはただの偶然で、本当は、ジョナサンのためにこの出で立ちなのだ…アレックスは。
何故こんなにも、止めたくて仕方ないのだろうか。ジョナサンの部屋に向かう稀有な少年を。
「おい、待てよ。何故そこまでしてやる必要がある?キスの練習なんて枕かその辺の木にでもしてればいいだろう」
「どうしても緊張するから……頼めるの俺しかいないんだって」
拾ったティーカップを押し付けられ、それを受け取ったらアレックスはもうジョナサンの部屋に入っていくところだった。
バタンとドアが閉まり、閉め出されてしまった。
絶対におかしいのはあいつらだ。俺じゃない。
変な奴らには関わらない方が賢明だ。本当は女でもないのに何がキスの練習だ。何故ジョナサンはどうしても…アレックスにそれを頼むのだ。
…もし、俺が同じことを頼んだら、アレックスは。
きっと嫌がるだろう。
気付いたら、また足が勝手に動いていた。
勝手ついでにジョナサンの部屋を開けて、ディオは再び持っていたティーカップを床に落とした。
ジョナサンのくそったれがアレックスに本当に口付けていたからだ。まるで久方ぶりに会った恋人同士のように抱き締めるその光景にはロマンスが詰まっていた。
ティーカップが床に落ちて、今度こそ割れてしまった音の後でアレックスがジョナサンの体を押して一歩距離を取る。
「何してくれんだこのヤロウ!!!」
「うげぇ!」
良く考えたら男同士だし全然お似合いとかじゃあない。
アレックスが普通にグーでジョナサンを殴ったので、ディオはうんそうだよなと普通に納得した。
異様に心臓がうるさいのは無視することにして、持っていたハンカチでアレックスの口を拭いてやることにする。
「だから止めろと言ったのに…大丈夫かい?アレックス」
「ディ、ディオ!なんで君がいるんだ!」
とりあえずジョナサンのことは無視しておいて、体を小さくして下を向いているアレックスの肩を抱き留めて顔を覗き込んだ。
なんといつもは白い陶器のような頬が赤く染まっている。まるで薔薇が咲いたかのようだった。複雑そうに瞳を揺らして恥じる様が、ディオの琴線に棘を刺した。
「…そんなしたら痛い。」
「…ああ、つい」
「もー……ほんっと、最悪」
ごしごしとアレックスの唇を強く拭いたら荒れて余計に赤くなった。あまりに艶めかしくて、ディオの気は全然晴れなかった。
うらめしそうにこっちを見ているジョナサンを責めようにも、すぐには言葉が出てこなかった。
