Crush on the darkness
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自業自得といえば自業自得だが、寝る時間になるまでアレックスには思いきり避けられてしまった。
部屋で本を読みながら聞き耳を立てていて、隣からバタンと聞こえたので行ってみたらドアの鍵を閉められていた。なんということだ。
このディオを避けるとは……まぁいい。
次からは何が起きても絶対に助けてやらん。
ふてくされたディオのやることといえばジョナサンを使った憂さ晴らしだった。
深夜にキッチンに忍び込み、ジョナサンがつまみ食いしたという高級菓子を探す。
(……これか)
おしゃれな銀の箱をぱかんと開けたら、突然背後からがさりと音がしたので飛び上がった。
「ぅおあ!」
「きゃあああ!?!」
持っていたランプで咄嗟に背後を照らしたら、もはやほとんど泣いているアレックスがいた。とたんにほっとして、それからなんでこいつの叫び声はいつも女みたいなんだ…と腹が立った。
「ああぁ、ディオかぁぁぁ……なにしてんだよもー…やめろよなぁぁ」
弱々しく文句を言いながら早めに近づいてくる。ディオの手元で良い香りを発している箱を見つけて目を開いた。
「あっ!これあのラングドシャ!なんでお前が持ってるんだ!」
「食べようと思って」
「それのせいでジョナサンは軟禁されてるんだぞ!」
「だから、今なら食べてもジョナサンのせいにできるだろう?誰も奴が何枚食べたかまで数えてはいまい」
「お前な!これ以上ジョナサンの罪を重くするなよ!一生出てこれなくなっ、むぐっ!?」
声を大きくするアレックスが面倒で、ディオは咄嗟にラングドシャを一枚掴んで目の前の小さな口に突っ込んだ。
意外にもすんなり咀嚼を始めるアレックス。
「……うまこれ」
「だろ?俺たちの小遣いじゃ買えないぐらいの高級品だからな」
それから自分も小さなそれを口に放り込んで、サクサクとした食感とバターの風味を味わった。
「…うまいな」
「うま」
それからどちらからともなくもう一枚ずつ食べて落ち着いた。
なんなら無限に食べられそうなぐらいに美味しいが、減らしすぎるのはリスクが大きいと思いディオはさっと缶のふたを閉めた。アレックスがいなければ1人で4枚食べたのに。くそう。
「今度これ、割り勘で自分たちで買おう」
「?」
「半分こにしよ」
「……。」
何言ってるかわからん。割り勘で買うとしても全部俺が食ってやるさ。
ディオは顔をそらして缶を元通りの場所に片付けた。顔が熱いし胸の辺りがむずむずする。
振り返ったらアレックスがふわんとした笑顔でこっちを見ていてさらに動揺した。
何か誤魔化さないといけない気がして、アレックスをよくよく観察したら、ずっと何かを大事に抱きしめているのに気付いた。
「…そういえば、さっきからお前何を抱えているんだ………塩……?」
「あ、これは」
ランプを近付けて見てみたら、大きな紙袋には【Salt 5Kg】と確かに書かれてある。
「なぜ塩を持っている?」
「俺ハロウィン怖いんだよね」
「…お………そうか。」
いや知ってるけど。
やけにすんなり認めるなぁと拍子抜けしつつ、それと塩となんの関係があるのだろうかとディオは一瞬困惑した。塩は塩でも赤ん坊ぐらいに重い大量の。
「なのでこれをベッドのまわりに撒いておきます」
「………そうか。」
アレックスのきりっとした真剣な顔はずいぶん綺麗なものだが、ディオは頭を抱えそうになっていた。
何言っとるんだこいつは……。
塩…塩を……撒く、だと?ベッドの周りに?何故?
「意味がわからん」
正直関わらない方が良いかもしれない。
そもそもこいつ変わってるしな……。
そう思ったものの口をついて出た言葉は元には戻らない。こいつのことを理解しようなんて時間の無駄だ。そう思っているのに、どうしても…好奇心が勝ってしまう。
「何のために?」
「塩で囲った中には幽霊は入ってこれないんだ」
「………。」
あったまいてぇーーーー。
今度こそディオは自分の眉間を自分で押さえた。
ついていけない。こいつ本気で、幽霊のために塩を部屋にぶちまけるつもりなのか。
「そんな、子供が作った、遊びのルールみたいな、」
「………あのさ。…怖いから一緒に来てくれない?」
「こ、断る」
「毎年ジョナサンがいてくれてたんだけど」
「く」
塩の袋を抱きしめたまましょぼんと眉尻を下げるアレックスに、やけに悔しい思いをした。
「あとそのバールはなんだ」
アレックスの部屋に来たらベッドの頭のところに鉄製の棒が立てかけられていて、やっぱりついてくるんじゃなかったと後悔したディオである。
「幽霊はな、なんでもすり抜けるけど、鉄の武器で攻撃するとダメージがあるんだ!」
ベッドに座って得意げにしているアレックスにため息しか出ない。
「想像力豊かで羨ましいよ」
「……現実かもしれないじゃん」
そう言うと手を伸ばして届くところにある本棚から、分厚い本を取り出した。
「見る?人外百科」
膝に乗せた表紙はかなり古そうで、重厚な雰囲気を醸し出している。ディオはアレックスの私物をまじまじ見たことがなかったので、やはり興味本位でアレックスの隣に腰掛けた。ベッドがもう1人分沈んで軋んだ。バランスが悪く思いのほか近づいてしまって、ディオは咄嗟に斜め下の黒い頭を避けるように少しだけのけぞった。
「見たからって塩は撒かないからな」
アレックスがページをめくるその本は、ディオにとってはとても面白いものだった。
見たことのない恐ろしい幽霊やモンスターや悪魔たちのゴシックな絵や、強力な力についての筆記体の説明文を一生懸命眺めていた。
「この、ページがバラバラになっている部分はなんだ?」
「それは…あとから付け足したやつ」
「付け足した?」
この部屋に来てからどれくらい時間が経ったのだろう。
気付いたら2人はベッドでうつ伏せになって並んで本を眺めており、体の片側はくっついているし、時間のせいかより妖艶なアレックスの微笑む瞳がすぐそばにある。目が離せなくなるそれこそ人外の存在のようだった。
「…好きなんだ?」
「は」
「こういう空想の存在が。想像力豊かだねー」
「……別に。ただの暇つぶしさ。おい、何ニヤついてる?…自分が怖いからってこの俺を付き合わせている奴の態度には見えないな」
「(そうだった…)すいません。」
「分かっているならさっさと寝ろ。部屋に戻れん」
「戻る気なの?!」
「何なら今すぐ出て行ってもいいんだが」
「分かったよー。じゃあ、そろそろ塩撒くから下照らして……」
「撒くなと言っとるだろーが!お前それどうやって片付けるつもりだ?!」
「何とか掃除してたけど、結局バレて毎年おこられてる。ジョナサンと。」
「そりゃあ塩5キロが行方不明になってるものなぁ?当たり前だ!ふざけるのも大概にしろ!寝るまで俺がここにいるのと、1人で塩撒いて1人で寝るのとどっちか選べ!!」
「ディオと寝たいし塩も撒きたい……」
「まったく……」
うぅぅ、と半べそになりながらアレックスがベッドに沈んだ。
触れている温かい塊に布団をポイとかけてから、ディオはランプを自分の方に引き寄せて1人で本を読み込んだ。
「ふん。こんな奴らが本当にいたら、とっくに人間なんぞ終わっているな」
ぽつりと漏らして後ろを振り向く。
アレックスは眠っていた。
ディオに背を向けて丸くなっている。
何がそんなに怖いのか知らないが、すぅすぅ寝息を立てている閉じたまぶたから伸びるまつ毛がうっすら濡れていた。
吸い込まれるように触ろうとして手を伸ばした。
「!」
突然ガタガタと窓が鳴り、動きを止める。
ランプ以外は月明かりだけで、外の様子はほとんど分からない。
何故か唐突に1人であることを意識してしまい、ハロウィンの夜中に読んでしまった化物たちが頭に浮かんできた。
開いてあったヴァンパイアのページを本ごと音を立てて閉じる。
「……。」
本をサイドテーブルに置いてディオはちらりと目配せした。
念の為もう一度バールの位置を確認したのだ。アレックスに影響されたわけじゃあないが、本を読む前と後では世界が違って感じられた。
それにしても、アレックスは怖がりなくせに何故こういった本を持っているのだろうか。
ジョナサンとは父親同士が友人だと言っていたな。だからジョースター家に預けられたと。
今こいつの親は何をしている?冒険家だとか聞いたことがあるが、俺の知るこいつの一族は墓荒らしだ。自分の父と同じくこのジョースター家に取り入って近付いたのか。
アレックスは自分の家族の話を一切しない。きっとろくな親じゃあないんだろう。
じゃなけりゃ他人であるジョナサンにここまで依存しないはずだ。
(…こいつ本当に、何者なんだ……?)
ジョナサンにはどこまで話しているんだろう。
自分のいなかった間の2人の幼い頃を思うと苦々しい気分になる。
それを振り払うように得体の知れない美しい少年の背中側に寝転んだ。後ろから腕を回してくっついたら温かくてどんどん眠たくなってくる。真っ白なうなじに額をつけて匂いを吸い込んだ。
くらくらして全部どうでも良くなってくる。これ以上は考えても無駄だろう。ジョースター家のものは全て手に入れる。こいつを含めて、全て。
とても温かくて、ずぶずぶと沈み込んでいく感覚がした。
「お前やっぱり邪悪の化身だな。初めて塩なしで寝れたよ」
「………それは褒められているのかな」
寝起きの真顔で返事したら、アレックスはおかしそうに笑っている。ムカついたので傍らの塩の袋を破いてやろうかと思ったが、自分も怒られそうだったのでやめておいた。
あとで塩を返すため2人でキッチンに行くと、大袈裟なくらいシェフとメイドたちに褒められたので大変気分が良かった。
こいつ毎年どれだけ撒き散らしていたんだ。
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