Crush on the darkness
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ディオがアレックスとその友人たちの輪に入って、1ヶ月ほどが経とうとしていた。自分にも取り巻きがいるくせに、どうして俺の憩いの場を汚すんだと文句を垂れたら、ディオは楽しそうににやりとしていた。
『何故って、友人は多い方がいいじゃあないか。頭すっからかんの連中はいざってとき使いやすいからな…』
『人の友達になんて言い草だよ!そういうの普通心の中にとどめとくもんなの!』
『……。』
ついさっき人のことを『汚れてる』扱いした奴が何を言ってるんだ…とディオは思った。俺から言わせればお前の方がよっぽど『普通』じゃないんだが。
『…お前たちのグループはこの街の流行りに敏感だからな…そういうのを押さえてる奴は尊敬されるものだ』
マジでこいつ自分に得かどうかでしか物事考えてないな…。
そうは思いながらもディオと街をぶらぶらして買い物したり人々を観察するのは楽しかった。
ジョナサンよりもディオの方が服や装飾品に興味を持ってアレックスと会話をしてくれたからだ。あれがイケてる、あれはダサい、素材が最悪、とか…色々。特にみんなで街行く人々の見た目に点数を付ける遊びは楽しかった(趣味が悪い?だから楽しいんじゃないか!)
「…こういうの、人の手で作られてるってほんと信じられないよな」
先ほど入ったガラス細工の店で買ったグラスの包みを大事そうに抱えて、アレックスが笑っている。細かい装飾が施されていて、店に並んであるそれを2人で一生懸命覗き込んだ。
グラスに反射した光がアレックスの黒曜石の瞳に映り込み、まるで夜空の星のように輝いていた。たぶん見つめすぎていたのだろう。アレックスが視線を上げたときにはディオは一生懸命明後日の方を向いていた。少し距離が近すぎたようだ。
「ちょっとこれ、持っててくれない?」
グラスをディオに手渡すと、アレックスは街の公衆トイレに向かった。外のはあんまり好きじゃないけど、まぁ仕方ないか。
離れていくアレックスをディオはその辺の塀に座って眺めていた。さっきの顔同士が触れ合うほどの距離を思い出すと、胸の内がもやのかかったようにむずむずする。
「なぁ、ディオ…お前もしかして黒髪が趣味なのか」
「何故?」
「黒髪の女にばかり高得点を付けていただろ」
同じようにアレックスを待つ友人に話しかけられた。さっきの格付けの遊びの話か。鬱陶しくて視線を一切向けないまま、「そうかもしれない」と答えておいた。友人たちは後ろで何やら盛り上がっている。アレックスが建物に入ってしまったので、その美しい漆黒の頭は見えなくなった。
代わりに彼を追うように男が小さな建物に入っていく。風景としてなんとなくそれを見ていたら、ものの10秒もしない内だった。
「っ、きゃああああああ!!!?」
「「「?!?!」」」
聞こえてきた叫び声に思わずその場から立ち上がる。アレックスだ。後から入った男が足早に出ていき、ディオはそれをいぶかしんで睨んでいた。
動揺する友人たちを他所にトイレの壁の影が。
ぐにゃりと曲がり研ぎ澄まされ、その男を追いかけるように動いた。
「………っ」
自分は何を見ているんだ。
幻覚に違いない。そう思うも恐怖を感じで動けなかった。
「おいアレックス!!どうした?!」
1人が声をかけると影は一瞬で元の姿に戻った。誰も見ていないのか。
金縛りが解けたかのようにやっと動けるようになったら、同時にアレックスが出てきた。
静かに歩いて戻ってくるものの、どう見ても覇気がない。ディオは咄嗟にそこに駆け寄った。
「何かあったのか」
「…なんでもない。」
「…女みたいに叫んでいたようだが」
「なんでもない。気分悪いから帰る。」
感情のない人形のようで、その迫力にみんな押し黙ってアレックスを見送るしかなかった。美人が怒ると怖い、というやつだ。
アレックスは見えなくなるまで、一度もディオを振り返ることはなかった。
「アレックス!」
屋敷に戻ったディオはすぐさま彼の姿を探した。話す気はなさそうだったが、単純に好奇心で何があったのか知りたかったのだ。あの悲鳴と冷め切った表情が頭にこびりついて離れない。
自室にいないようだったのですぐにさらに隣の部屋に近付いた。アレックスがどこにいるのか、ディオにはすぐにわかった。ジョナサンの部屋からは話し声が漏れていたのだ。ドアが閉め切られていないせいだった。
「えっ!?さ、さわっ……触られた、だってぇえぇ……!??」
「そーだよ。もう…ほんと最悪……」
アレックスと部屋の主人であるジョナサンがベッドに並んで座って話している。
ジョナサンは慌てふためいて動揺しており、アレックスは膝を抱えて落ち込んでいた。
「そ、それってつまり、触られたって……君の……!」
顔色を青くしたり赤くしたりのジョナサンは、最終的に怒りに拳を握りしめた。
「なんてことだ!!許せない!僕は必ず犯人を捕まえて、後悔させてやるぞ!!」
「ジョナサン。…いいんだ、もう。こんなことジョナサンにしか話せないし…」
「ああ、アレックス…!可哀想に……君がそんな目に遭うなんて…どこの誰だか知らない変態が君に触れたかと思うと気がおかしくなりそうだ」
吸い寄せられるかのようにジョナサンは隣の白い頬に触れ、その細い体を抱き締めた。少しでも美しい大好きな親友を慰めたかったのだ。彼が誰をも魅了する自分の素晴らしい所を、自分で嫌いにならないように。
「……人間なんて嫌いだ」
「僕は君が好きだよ。落ち着くまでこうしているから…そんなクズのために僕のことを嫌わないでおくれ」
信頼する親友からの抱擁にアレックスの緊張が解けた。力いっぱい逞しいジョナサンにしがみついて少し泣いた。
そう。動揺していたのだ。
だから2人はドアが僅かに開いていたのも気付かなかったし、2人の時間を誰かに見られていたことにも気付かなかった。
「………クソ…っ!」
極めて静かにその場を離れたディオは階段を半ばまで降りてからすぐ横の壁を拳の底で叩いた。何かジョナサンに出し抜かれた気になっていたからだ。
アレックスのやつ、この俺には『なんでもない』と言っておきながら…。
なんでもないわけがないことなど分かっていたが、ジョナサンにはこうも易々と頼るのか。
(何が違う……)
最近ジョナサンは1人でこそこそ出かけていることが多い。だからここしばらく、アレックスと行動を共にしているのはディオの方が圧倒的に多いはずだ。正直言って、気が合うと感じている。産まれと育ちが違う、という奴だ。ジョナサンのようなボンボンとは違う『歪み』のようなものをアレックスに感じていた。そう。自分と同じ……。
だが実際にはジョナサンとアレックスの間には誰にも割り込めない2人だけの絆があるようだ。どうやってそれを壊してやろうかと試行錯誤してきたが、現状はお手上げだ。
「くっ…ジョナサンのやつめ……!」
吐き気すら覚える。
一緒にガラス細工を眺めながら人の意匠に感激していたアレックスの笑顔と、人間が嫌いだと吐き捨てる軽蔑の眼差しと。
一切の隙間もなく抱き合う2人の体付きが、妙に生々しく脳裏を巡っていた。
「号外!号外だよぉーーーっ!!」
それから数日してアレックスが街を歩いていると、広場の人だかりの真ん中で記者が新聞を配っているのが見えた。
風で舞った新聞が辺りに散乱していて地面に少し散らかっている。
人混みの少し後ろでそれを拾って驚いた。
繰り返し男児を襲っていた変質者が捕まったらしい。まさかと思いながら記事を読み進めて、さらに驚いた。
「……『ディオ・ブランドーが犯人逮捕に貢献』…『警察から感謝状が送られる予定』……って、えぇえ!?」
「あっ!おいアレックス!!」
興奮した様子で友人が駆けてきた。手にはアレックスと同じ新聞が握りしめられている。
「見たかこれ!ディオはすごいなぁ!まるで探偵さ!」
「見たけど…何これ。なんでディオがこんなことすんの」
夢うつつで新聞をめくると犯人の人相描きがあった。ぞわ、と背筋に鳥肌が浮く。アレックスを辱めたあいつに間違いないと思った。
「貴族の息子も被害に遭ってたらしくてさ…犯人、鞭打ちだってよ!」
「鞭打ち……」
未だ信じられなくて、興奮している友人の言葉を馬鹿みたいに繰り返すしかできなかった。
何がどうなっているのかわからないけれど、ディオがあいつを捕まえたのか。胸の内がすかっとして、晴れ晴れした気分になった。
「でもさ、ディオってどちらかというとそういう変態話聞いて『へぇ…』ってにやにやしてそうなイメージなんだけど…」
「失礼だな。普段俺をなんだと思っているんだ」
友人と歩きながら話していると、待ち構えていたかのようにディオが登場した。
偉そうに腕を組んで斜に構えているけど、今日だけはそれが照れ隠しのようにも見えた。
「『逮捕に貢献』って…何したの」
「別に…やりそうなところを待ち伏せただけさ。ついでにその場に警察と他の被害者たちも呼んでおいたけどね」
「それって…すごい大変なんじゃ…」
素直に感心するアレックスに気分を良くしたのか、ディオはふふんと口角を持ち上げた。ニヒルなそれがすごく似合って見えて、アレックスには眩しく感じた。
「偶然見ていたんでな。お前の様子がおかしくなったのも奴のせいだろう。そんなことはすぐに分かった」
「………ディオ。」
頬を紅潮させるアレックスを見て、ディオは自分でも喋りすぎていることをわかっていた。
だが……そう。冬の澄んだ夜空のように輝く瞳にディオだけが映っている。それがいい。あの変態もジョナサンも、この瞳の中には必要のない無駄なものだ。
「安心したよ…本当に。やっと安心して街を歩ける。ありがとう、ディオ」
そっと首に巻き付いてきた両腕の温かさに少し遅れて、抱きつかれていることに気付く。囁かれた言葉に応えるようにディオもアレックスの細い腰に腕を回した。
「ふ」
力を込めすぎたのか苦しさに漏れた声は妙に甘く感じた。
「ふん…あんなクズ、鞭打ちでも足りんぐらいさ」
優越感に笑みが浮かぶ。
ジョナサンの抱いた跡が全部消えるといい。自分のものだと思っていたそれが全てこのディオのものになっていたら、どれだけ絶望するだろうな。
(そうか……アレックス。これからはジョナサンではなくこの俺が…お前を『安心』させてやろう…。)
首から香りを吸い込んで、そっと口付けた。
『何故って、友人は多い方がいいじゃあないか。頭すっからかんの連中はいざってとき使いやすいからな…』
『人の友達になんて言い草だよ!そういうの普通心の中にとどめとくもんなの!』
『……。』
ついさっき人のことを『汚れてる』扱いした奴が何を言ってるんだ…とディオは思った。俺から言わせればお前の方がよっぽど『普通』じゃないんだが。
『…お前たちのグループはこの街の流行りに敏感だからな…そういうのを押さえてる奴は尊敬されるものだ』
マジでこいつ自分に得かどうかでしか物事考えてないな…。
そうは思いながらもディオと街をぶらぶらして買い物したり人々を観察するのは楽しかった。
ジョナサンよりもディオの方が服や装飾品に興味を持ってアレックスと会話をしてくれたからだ。あれがイケてる、あれはダサい、素材が最悪、とか…色々。特にみんなで街行く人々の見た目に点数を付ける遊びは楽しかった(趣味が悪い?だから楽しいんじゃないか!)
「…こういうの、人の手で作られてるってほんと信じられないよな」
先ほど入ったガラス細工の店で買ったグラスの包みを大事そうに抱えて、アレックスが笑っている。細かい装飾が施されていて、店に並んであるそれを2人で一生懸命覗き込んだ。
グラスに反射した光がアレックスの黒曜石の瞳に映り込み、まるで夜空の星のように輝いていた。たぶん見つめすぎていたのだろう。アレックスが視線を上げたときにはディオは一生懸命明後日の方を向いていた。少し距離が近すぎたようだ。
「ちょっとこれ、持っててくれない?」
グラスをディオに手渡すと、アレックスは街の公衆トイレに向かった。外のはあんまり好きじゃないけど、まぁ仕方ないか。
離れていくアレックスをディオはその辺の塀に座って眺めていた。さっきの顔同士が触れ合うほどの距離を思い出すと、胸の内がもやのかかったようにむずむずする。
「なぁ、ディオ…お前もしかして黒髪が趣味なのか」
「何故?」
「黒髪の女にばかり高得点を付けていただろ」
同じようにアレックスを待つ友人に話しかけられた。さっきの格付けの遊びの話か。鬱陶しくて視線を一切向けないまま、「そうかもしれない」と答えておいた。友人たちは後ろで何やら盛り上がっている。アレックスが建物に入ってしまったので、その美しい漆黒の頭は見えなくなった。
代わりに彼を追うように男が小さな建物に入っていく。風景としてなんとなくそれを見ていたら、ものの10秒もしない内だった。
「っ、きゃああああああ!!!?」
「「「?!?!」」」
聞こえてきた叫び声に思わずその場から立ち上がる。アレックスだ。後から入った男が足早に出ていき、ディオはそれをいぶかしんで睨んでいた。
動揺する友人たちを他所にトイレの壁の影が。
ぐにゃりと曲がり研ぎ澄まされ、その男を追いかけるように動いた。
「………っ」
自分は何を見ているんだ。
幻覚に違いない。そう思うも恐怖を感じで動けなかった。
「おいアレックス!!どうした?!」
1人が声をかけると影は一瞬で元の姿に戻った。誰も見ていないのか。
金縛りが解けたかのようにやっと動けるようになったら、同時にアレックスが出てきた。
静かに歩いて戻ってくるものの、どう見ても覇気がない。ディオは咄嗟にそこに駆け寄った。
「何かあったのか」
「…なんでもない。」
「…女みたいに叫んでいたようだが」
「なんでもない。気分悪いから帰る。」
感情のない人形のようで、その迫力にみんな押し黙ってアレックスを見送るしかなかった。美人が怒ると怖い、というやつだ。
アレックスは見えなくなるまで、一度もディオを振り返ることはなかった。
「アレックス!」
屋敷に戻ったディオはすぐさま彼の姿を探した。話す気はなさそうだったが、単純に好奇心で何があったのか知りたかったのだ。あの悲鳴と冷め切った表情が頭にこびりついて離れない。
自室にいないようだったのですぐにさらに隣の部屋に近付いた。アレックスがどこにいるのか、ディオにはすぐにわかった。ジョナサンの部屋からは話し声が漏れていたのだ。ドアが閉め切られていないせいだった。
「えっ!?さ、さわっ……触られた、だってぇえぇ……!??」
「そーだよ。もう…ほんと最悪……」
アレックスと部屋の主人であるジョナサンがベッドに並んで座って話している。
ジョナサンは慌てふためいて動揺しており、アレックスは膝を抱えて落ち込んでいた。
「そ、それってつまり、触られたって……君の……!」
顔色を青くしたり赤くしたりのジョナサンは、最終的に怒りに拳を握りしめた。
「なんてことだ!!許せない!僕は必ず犯人を捕まえて、後悔させてやるぞ!!」
「ジョナサン。…いいんだ、もう。こんなことジョナサンにしか話せないし…」
「ああ、アレックス…!可哀想に……君がそんな目に遭うなんて…どこの誰だか知らない変態が君に触れたかと思うと気がおかしくなりそうだ」
吸い寄せられるかのようにジョナサンは隣の白い頬に触れ、その細い体を抱き締めた。少しでも美しい大好きな親友を慰めたかったのだ。彼が誰をも魅了する自分の素晴らしい所を、自分で嫌いにならないように。
「……人間なんて嫌いだ」
「僕は君が好きだよ。落ち着くまでこうしているから…そんなクズのために僕のことを嫌わないでおくれ」
信頼する親友からの抱擁にアレックスの緊張が解けた。力いっぱい逞しいジョナサンにしがみついて少し泣いた。
そう。動揺していたのだ。
だから2人はドアが僅かに開いていたのも気付かなかったし、2人の時間を誰かに見られていたことにも気付かなかった。
「………クソ…っ!」
極めて静かにその場を離れたディオは階段を半ばまで降りてからすぐ横の壁を拳の底で叩いた。何かジョナサンに出し抜かれた気になっていたからだ。
アレックスのやつ、この俺には『なんでもない』と言っておきながら…。
なんでもないわけがないことなど分かっていたが、ジョナサンにはこうも易々と頼るのか。
(何が違う……)
最近ジョナサンは1人でこそこそ出かけていることが多い。だからここしばらく、アレックスと行動を共にしているのはディオの方が圧倒的に多いはずだ。正直言って、気が合うと感じている。産まれと育ちが違う、という奴だ。ジョナサンのようなボンボンとは違う『歪み』のようなものをアレックスに感じていた。そう。自分と同じ……。
だが実際にはジョナサンとアレックスの間には誰にも割り込めない2人だけの絆があるようだ。どうやってそれを壊してやろうかと試行錯誤してきたが、現状はお手上げだ。
「くっ…ジョナサンのやつめ……!」
吐き気すら覚える。
一緒にガラス細工を眺めながら人の意匠に感激していたアレックスの笑顔と、人間が嫌いだと吐き捨てる軽蔑の眼差しと。
一切の隙間もなく抱き合う2人の体付きが、妙に生々しく脳裏を巡っていた。
「号外!号外だよぉーーーっ!!」
それから数日してアレックスが街を歩いていると、広場の人だかりの真ん中で記者が新聞を配っているのが見えた。
風で舞った新聞が辺りに散乱していて地面に少し散らかっている。
人混みの少し後ろでそれを拾って驚いた。
繰り返し男児を襲っていた変質者が捕まったらしい。まさかと思いながら記事を読み進めて、さらに驚いた。
「……『ディオ・ブランドーが犯人逮捕に貢献』…『警察から感謝状が送られる予定』……って、えぇえ!?」
「あっ!おいアレックス!!」
興奮した様子で友人が駆けてきた。手にはアレックスと同じ新聞が握りしめられている。
「見たかこれ!ディオはすごいなぁ!まるで探偵さ!」
「見たけど…何これ。なんでディオがこんなことすんの」
夢うつつで新聞をめくると犯人の人相描きがあった。ぞわ、と背筋に鳥肌が浮く。アレックスを辱めたあいつに間違いないと思った。
「貴族の息子も被害に遭ってたらしくてさ…犯人、鞭打ちだってよ!」
「鞭打ち……」
未だ信じられなくて、興奮している友人の言葉を馬鹿みたいに繰り返すしかできなかった。
何がどうなっているのかわからないけれど、ディオがあいつを捕まえたのか。胸の内がすかっとして、晴れ晴れした気分になった。
「でもさ、ディオってどちらかというとそういう変態話聞いて『へぇ…』ってにやにやしてそうなイメージなんだけど…」
「失礼だな。普段俺をなんだと思っているんだ」
友人と歩きながら話していると、待ち構えていたかのようにディオが登場した。
偉そうに腕を組んで斜に構えているけど、今日だけはそれが照れ隠しのようにも見えた。
「『逮捕に貢献』って…何したの」
「別に…やりそうなところを待ち伏せただけさ。ついでにその場に警察と他の被害者たちも呼んでおいたけどね」
「それって…すごい大変なんじゃ…」
素直に感心するアレックスに気分を良くしたのか、ディオはふふんと口角を持ち上げた。ニヒルなそれがすごく似合って見えて、アレックスには眩しく感じた。
「偶然見ていたんでな。お前の様子がおかしくなったのも奴のせいだろう。そんなことはすぐに分かった」
「………ディオ。」
頬を紅潮させるアレックスを見て、ディオは自分でも喋りすぎていることをわかっていた。
だが……そう。冬の澄んだ夜空のように輝く瞳にディオだけが映っている。それがいい。あの変態もジョナサンも、この瞳の中には必要のない無駄なものだ。
「安心したよ…本当に。やっと安心して街を歩ける。ありがとう、ディオ」
そっと首に巻き付いてきた両腕の温かさに少し遅れて、抱きつかれていることに気付く。囁かれた言葉に応えるようにディオもアレックスの細い腰に腕を回した。
「ふ」
力を込めすぎたのか苦しさに漏れた声は妙に甘く感じた。
「ふん…あんなクズ、鞭打ちでも足りんぐらいさ」
優越感に笑みが浮かぶ。
ジョナサンの抱いた跡が全部消えるといい。自分のものだと思っていたそれが全てこのディオのものになっていたら、どれだけ絶望するだろうな。
(そうか……アレックス。これからはジョナサンではなくこの俺が…お前を『安心』させてやろう…。)
首から香りを吸い込んで、そっと口付けた。