Crush on the darkness
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「こっちに来なさいジョナサン。紹介しよう…彼がアレックスだよ。お父上の仕事が少し長くかかるので、しばらくうちで過ごしてもらうことになったんだ」
「わかってます、父さん…先日話してくれたご友人の件でしょう?なんでも、世界の不思議な現象を調査する危険な仕事をしているとか…」
「覚えていたかね。そう、ウィンチェスター氏のご子息さ」
にこりと微笑む父に従ってジョナサンも顔を綻ばせた。
広いロビーで父の背後でおずおずと小さくしている少年がよく見えるように、少し横に移動する。
「やあ。僕はジョナサン・ジョースター!これからよろしく」
うん、と言うように頷いた少年が顔を上げて、ジョナサンは驚いた。とても美しく思えたからだ。体は華奢だし肌の色は透き通るように白い。それから烏の濡れ羽みたいな髪はしっとりと頭の形に沿って綺麗に整列しているし(僕のうねり髪とは大違い!)、瞳なんてもっと真っ黒で、光を反射したらきらきら銀に輝いてまるで深夜の海のようだった。その中でぷくりと小さな唇だけが桃色に膨らんでいる。
「うわぁ、君ってすっごく可愛いんだね!」
「!」
思わず声を上げたら、一瞬むくれて少年はもっと父の背中に隠れてしまった。ほとんど女の子のように錯覚していたジョナサンは、遅れて彼を怒らせてしまったことに気付きはっとした。
「…見目麗しいのを気にしているようなんだ」
時すでに遅し。苦笑いの父に、ジョナサンもまた苦笑いを返すしかなかった。
「………えーーっと……あっ!荷物!僕が運ぶよ!部屋も案内するから、行こうっ」
ぱっとアレックスの近くに置いてある大きなボストンバッグの持ち手を掴む。持ち上げると思ったより重かった。気合を入れて両手で持ち直す。再び力を入れようとしたら、ぱっと白く細い指がジョナサンの手に重なった。少し冷たくてさらりとした感触にどきりとした。
「それ、重いから……半分持つよ」
「あ、ああ…嫌だな、格好つかなくて」
思いの外アレックスが近くにいたので動揺した。笑ってごまかすジョナサンにアレックスも微笑み返す。その微笑みにまたどぎまぎしている間にアレックスは父に挨拶を済ましていた。
部屋はジョナサンの隣だ。
2つの持ち手をひとつずつ持って階段を上がった。緊張してしまって全然話せなかった。言葉のイントネーションが少し違うようなので聞いてみたら、アメリカから来たんだって。聞けたのはそれだけ。
「世話役の人をよこすから、少し休んで待ってて」
夜も遅いし疲れているだろう。
部屋の前で挨拶をして手を振った。アレックスはまた頷くだけでドアを開けてしまったので、ジョナサンは名残惜しく思った。しかし引き留めたところで緊張して何を話せばいいのか分からないので、これでいいかと自分を納得させた。
「…ジョナサン」
気付いたら、部屋に入ったと思っていたアレックスがドアを開けたまままだこっちを見ていた。同い年なのに余裕のある大人のような微笑である。
「明日の朝、俺を迎えに来てくれないか。…ここのこと、何も分からないから…どこに何があるのかも、この家のルールも、何も」
「えっ、あっ…も、もちろん!!」
彼の方からコミュニケーションを取ってくれるとは思っていなかったので、ジョナサンは大いに喜んだ。
自分の家の中ですべてのことが片付いてしまうので、ジョナサンには友人が少ない。世話をしてくれたり勉強を見てくれる使用人ならたくさんいるのに。それは全部大人で、アレックスはジョナサンにとって初めての同い年の子供だった。
「荷物ありがとな。…おやすみ、ジョナサン」
最後ににこりと笑って手を振ってから、アレックスは鞄を引きずって部屋の中に入っていった。慌てふためいているジョナサンを見て笑ったのかもしれない。それでも良かった。
バタンとドアの閉まる音を聞いてから、ジョナサンは小躍りしながら部屋に戻った。アレックスの笑顔はまるで花が咲く瞬間に立ち会ったかのように華やかなものだった。
「……ね、眠れん……!」
その夜はなかなか寝付けず困った。
ずっとアレックスの表情や言葉を思い出していてもたってもいられないような感覚が全身を駆け巡って。
そして明日の彼との時間をシミュレーションし始めたら止まらなくなって、延々と妄想が拡大していくのだった。
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