Love the darkness -5-
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ねぇ、私が何をしてるか教えてあげようか?
どうしてこうやってアジトのドアの真横でしゃがんで待ち構えているのか。
あのねぇ、今日はブチャラティがお昼の『3時』に集合だって言ったの。だから私は『2時』にここに来た。みんなには『2時半』に集合って伝えてある。
どうしてそんなことしたのか教えてあげようか。
ささいなことなのよ。
起きたら目がずっとごろごろしてるとか。
風でずっと髪の毛が何本か顔に貼り付いてるとか。
近くをすれ違ったとたんおじさんがくしゃみをしたり。
服の素材も今日はなんだか合わない気がして。
女の子なら誰でもわかってくれると思うんだけど、今日の私は繊細で…些細なことが重なって……なんだかとってもイライラしてる。
だから決めたの。
今日1番最初にアジトに来たやつを全力でくすぐりの刑に処すって。
たぶん、絶対すっきりすると思うから。
こうしてドアが開いたとき死角になるところに隠れていれば、油断してる奴らに襲いかかるなど簡単なことよ。
みんなのリアクションを想像するだけで笑えてくる。
ピストルズにおやつをあげるから、ミスタが早めに来るかしら。
ブチャラティ大好きなナランチャが張り切って1番にくるかしら。
表向きしっかり者のフーゴがきっかり15分前に来る気もするし。
アバッキオは偉そうに「普通時間より早めに来るだろうが。これだから常識ってもんを知らねぇやつらは…」とか普通ぶって説教したがって早く来そうだし。
…誰が来ても絶対おもしろいやつじゃん。
勝手ににやける顔をそのままに私はときどき窓から空を見たりしながらドアの横を占拠し続けた。
待ってる身だから時間は長く感じたけど、ついにその瞬間がやってきたらしい。
アジトのドアの前はレンガのステップになっている。外から近付いてくる靴底がそこを叩いたのが聞こえて私は急いで身構えた。(両手を上げてわきわきさせた。)
ガチャリとドアノブが回っていよいよ誰かが中に入ってくる。
さぁリカ、最初が肝心よ。驚かせて優位を取るの。私のストレスが発散できるなら誰でも構わないんだから。
「覚悟しろぉ!!もう離さないからねッ!!!」
「!?!?」
そうして相手に飛びかかった私は、それが誰か分かった瞬間一気に血の気が引いたのを感じた。
「……何……してるんだ…?…リカ、お前一体……」
いや、これ…ブチャラティなんだけどっっ!!
細いのに頼もしい体と、困ってても端正なお顔を同時にくらってしまって頭の中が真っ白になった。
ブチャラティは私が倒れないようにすぐに腕を回して背中を支えてくれているし、近すぎる感触に今までのあれこれを思い出して一気に恥ずかしさが襲ってきた。
「あああ間違えた!!違うのブチャラティこれは違うの!まさか最初に来るとは思ってなかったから…!」
どんどん体がほてってくるのが自分で分かったから、ちょっと無理やり両手を突っ張って彼から距離を取った。
ブチャラティは不思議そうに私の顔を見つめたまま、乱れた上着を整えている。
「ほんとにごめん…。他のみんなかと思って…」
「いや…別に、そこまで不愉快というほどではなかったけど……一体何を考えていたのか教えてほしいな」
「……ちょっと、誰かにイタズラしようと思って…待ってたの。でも!ブチャラティにはそんなつもりなかったのよ!ほんとに!」
「………。」
「ブチャラティじゃなかったら誰でも良かったのに…!」
「だ、誰でも……。」
言い訳を散らかす私にブチャラティは固まっていた。たぶん相当呆れられてる。だって、何か悩んでるみたいに頭まで押さえ始めたから!
そして私に向き直ったときには眉間に皺を寄せて、少し怒ってるようでもあった。
「だいたい、イタズラって何するつもりだったんだ。あいつらをガキだと思って舐めてかかると、痛い目を見るぞ」
「……くすぐり地獄の刑に処そうと思って」
「(……。)…何って?」
「むしゃくしゃしてたから」
ブチャラティどころか世界まで止まったようになった。
分かってるのよ。子供みたいって私にドン引きしているのは!
私は焦ってしまって、思わず声を大きくした。
「ていうか、ブチャラティ来るの早すぎじゃない?!3時集合って言ってたわよね?!」
「…そりゃあ、皆を呼びつけた張本人だからな。早く来るのは当然のことだ」
「それにしたって早すぎでしょ!」
「色々まとめておくことがあるんだよ…あいつらに分かりやすく説明してやらないといけないし」
「真面目すぎない…?!ここ、イタリアだよ!」
そういうところも好きだけど。
思わずそう頭の中によぎったら、なんだかまた体が熱くなってしまった。
「…俺は別に、くすぐられるぐらいどうってことないが」
「………え?」
「部下がむしゃくしゃしてるのを受け止めるのも上司の仕事だ」
何言ってるのブチャラティ…?
「何言ってるのブチャラティ。」
心の声が口から漏れていた。
呆気に取られて反射的にしっかり彼の顔を見つめたら、なんだか顔が赤い。それに不満そうに口元を引き締めていた。
「俺だけ仲間はずれにされているみたいだから」
「そ、そんなの、だって…、出来ないでしょ、ブチャラティには……こちょこちょ攻撃とか…」
「出来ないってことはないだろう。それ以上のことをしてるのに」
直接聞いたわけじゃないのに何のことを言ってるのかはすぐに分かった。
ここにきて一歩近付いてきたブチャラティがぐっと顔を覗き込んできたものだから、もしかして抱きしめられる、どころかまたちゅーされるんじゃないかと思って身構えてしまった。
あの、もう、色んな感触を思い出して……頭のてっぺんから湯気が出そうなんですけど……。
「で、きない…って……は、恥ずかしい、から………」
「!」
恐る恐る目を合わせたとたん、ブチャラティがぼんって音がしそうなぐらい顔を赤くした。私が目の前にいるのかなって思ったぐらい。
そのまますぐに片手で口を押さえて後ろに下がり、ガン、と音を立ててドアの横にある服掛けに背中をぶつけている。
「……っ!…!……!」
それでも彼は口元を押さえたまま俯いて何かに耐えるようにふるふるとしていた。
挙動不審な光景に私の心は平常を取り戻し、今度は心配になってきて彼の方に手を伸ばす。
ちょっとブチャラティ大丈夫?
「あのよぉ〜〜〜大丈夫かよブチャラティ?俺、そろそろ入ってもいい?」
私の心の声はまたもや代弁された。後ろ頭を掻きながら気まずそうにやってきたミスタによって。
「何してんだよお前らァ〜〜。玄関のドアがよぉー、ずっとちょっと開いてんだよ〜。聞こえてきたら入りづらいのなんのって。これ、俺は悪くないよなぁ〜??」
「……気にするな、ミスタ。…気にしなくていい…俺のことは」
片手を上げて隠れるように体の向きを変えるブチャラティだけど、ふらふらしててかなりダメージを負ってそう。
かく言う私はというと。
「ミスタ………許さないッッ!!!」
「ぎゃあああああ!!なんでだよぉぉぉお!!?」
恥ずかしメーターが振り切れ、半狂乱でミスタをくすぐり地獄に落としたのだった。
あんたがもう少し早く来ていれば!!!
ブチャラティはそのままふらふらといつものテーブルにつき、私を止めることはなかった。
