✴︎本編✴︎
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ジョルノとブチャラティがケンカしたと伝えたら、康一が怒った。
『だからなんで僕のパスポートを貰ってこないんだぁーーッ!!テキトーにもほどがあるぞ!!』
『あ、そうだったね……ごめん…』
『自分の言葉に責任持ってよほんと!!』
必死すぎる康一の形相(当たり前)にリカは焦った。ここ2年程、何かあると承太郎にチクるからな!と脅されて困っているのだ。
今も「承太郎さんたちが甘やかすから…ブツブツ」と愚痴っている。
「明日も会うと思うから…次こそちゃんと貰ってくる。なんなら学生寮まで取りに行けばいいし」
「学生寮……」
康一はそれを聞いて納得した。
リカはどうにも興味の方向が偏っている。別に彼女に頼りっきりにならなくても、その寮まで行ってエコーズを使えば簡単にパスポートを取り返すことが出来るぞ。そもそも、ジョルノが本当に返してくれる気があるのかも謎だ。
「もう、ほんとに頼むよ。日本に帰れなくなっちゃうからさぁ」
「わかってるってぇ」
「なんであなたがムッとしてるんだ!」
康一は最後まで怒っていたが、リカがむすくれていたのには理由がある。
『ジョルノとブチャラティがケンカした』、にはそれはそれは色んなことが含まれていたからだ。承太郎に報告されては困るので組織やスタンドについては話さなかったけど、リカには心配事が多く康一のパスポートのことまで手が回らなかった。
(ジョルノは返すって言ってたんだから、そんなにカリカリしなくたっていいのに……。…大変だったんだから…ジョルノもブチャラティも怪我してて……血が出てたんだよ)
夜になり、ベッドに入ったリカは枕に顔を押し付けながらぎゅっとシーツを握りしめた。
たくさん戦いを経験したけど、血は嫌い。
いっぱい流れたら死んじゃうから。
ママとパパも、12年前の友達も、ジョセフも承太郎も杜王町のみんなだって。みんな傷付いたら死んじゃう。死んだと思った。そのぐらい酷い傷をたくさん見てきた。
今笑って話してても次の瞬間には体に穴が開いて血を吐いてるかもしれない。
関係ない人だってたくさんいたのに助けられなかった。
(……怖い。)
真っ赤な中で酷い光景がたくさん蘇ってきた。
12年前の戦いで疲弊したリカの心を守ってきたのは承太郎だ。だけどいつまでも彼に頼り切っているわけにはいかない。大切な人がいつ離れていってしまうかなんて誰にもわからないのだから。あの時もそうだった。
(大丈夫かな、ジョルノ……。傷、ちゃんと塞がってたらいいんだけど…)
考え始めたら止まらなくなった。
目を開けたリカはもう一度シーツを握りしめてから起き上がった。
(…ちょっと見に行くだけ、だから…)
怪我の様子だけ確かめに行こう。
こそこそと部屋を出たあとは夜道を走り出していた。ジョルノのためと思いながら、本当は自分の不安な気持ちを慰めたいからだってことは分かっている。走っているとそれを少し誤魔化すことができたのだ。
ジョルノの部屋の場所は把握していた。
何度か遊びに来たことがあるから。一緒にゲームしたり勉強したり。
でもスタンドを使って忍び込んだのは初めてだ。夜はリカの味方だった。月明かりで更に深い影となっているベッド下から伸びる闇に混ざって、するりと姿を現した。
ジョルノはすっかり眠っていた。ここ何日か非日常なことが起こりすぎていて疲労が溜まっている。
寝入っている姿は普段より幼く見え、その寝顔は綺麗だった。
(服着てるしあんまりわかんないな…)
部屋に侵入してからリカはそのことに気付いた。
悪いとは思いつつもベッドに手をつき、ジョルノの怪我をした左腕に触れようと反対の手を伸ばした。
その瞬間、何の偶然かぱちっとジョルノが目を開けたのだ。
飛び込んできた光景にジョルノは驚愕し反射的に上半身だけ飛び起きた。
「っ?!う、うわぁああ!!?」
「ジョルノ、しーっ!」
目の前の申し訳なさそうなリカに手で口を塞がれる。
なんだ。何が起こっているんだ。
僕はついにこんな夢まで見るようになってしまったのか。こんな…薄着の彼女が夜這いに来るなんて、ありえないのに…。浅はかな愚か者め。
でもこの夢って……最高すぎやしないか!
しかし唇に触れる手の温かさを感じて、すぐにここにいるのは本物のリカだと理解し冷静になった。
「…もういい?」
気まずそうなリカをまじまじと見つめながら数度頷く。細い手が離れ2人は見つめ合った。
「……。」
「………。」
「……。」
「あ、あのね…。私のスタンドって影を自由に操れるの。影に入って別の影から出てくることも出来る。泳ぐみたいにするの…。それで外からここまで…ドアや壁をすり抜けて…」
視線を下にうろうろさせてリカが語る。また長ったらしい沈黙が落ちた。ジョルノはこれが現実だと理解していたもののいまだに混乱状態にあり、リカの目的を測りかねていた。
「そう、なんですね…。えぇと…その話をするために、こんな時間にここへ?」
「ジョルノの怪我の具合はどうなのかなって」
話が飛んだ。
聞こえてはいるのだが頭がなかなか付いていかない。どうするのが正解なのかわからずに働かない頭を押さえる。
「怪我……ああ、平気ですよ。リカがスタンドを貼り付けて止血してくれましたから……ですよね?」
「うん」
「???」
困惑しっぱなしのジョルノにリカはどんどん肩身が狭くなってきた。ジョルノはいたって元気そうで、これから何を言っても夜中に不法侵入する正当な理由にはならない気がする。
「…明日の朝、またブチャラティに会うから…入団テストのこと聞いてみるね」
「??はい」
入団テストについて動きがあればリカに言付ける。それはすでにブチャラティから聞いている。いたたまれなくなったリカは早くこの場を去らなければと焦り始めた。
妙な空気を変えたくてへらりと笑ってみる。
「ごめんね。怪我、痛そうだったから……怖くなっちゃって。元気ならいいの。帰るね」
その笑顔が何故か痛々しく見えてジョルノは顔をしかめた。
彼女がこうしてここに来て、夜通し看病するような怪我では決してない。なにせ彼女自身の能力で出血はもう治ってしまっているのだ。
「…何かあったんですか?」
今すぐにでもリカがいなくなってしまう気がして、ジョルノは彼女の手にそっと触れた。僅かに震えているのに気付き、はっとした。
違うんだ。
今まで彼女が話したことなんて何ひとつ重要ではない。リカは怖いとちゃんと教えてくれたじゃないか。
リカがジョルノの手を避けて「何もないよ」と呟いた。それを見て、絶対に今彼女を帰してはいけないと決意する。今踏み込まなければ、2度とその心の内にジョルノの居場所はなくなる気がしたのだ。何が最適解なのか分からず、焦る。
「何が、怖いんですか?」
絞り出したように聞かれてリカの中途半端な笑顔はたちまち泣き出しそうに歪んだ。両手で両目を押さえて耐えるけれど、こんなこと言うと嫌われると思いながらも気持ちが溢れた。
「ジョルノが死んじゃうかと思った」
その返事はジョルノにとって衝撃的なものだった。「そんなわけない」と反射的に口からついて出そうだったが踏みとどまる。
ただの言い訳ではない。こんなに打ちのめされたように弱っているリカはきっと、本気で自分のこの程度の怪我に怯えている。ジョルノが死んでいなくなることに恐怖しているのだ。
カチカチと時計の秒針の音が響いている。
「…リカ。来てください、こっちに」
呼ばれてリカは素直にジョルノの座るベッドに腰掛けた。あまりに慈しみのこもった声色に遠慮しようという気がまったく起きなかったから。
ジョルノは生きていてこんなにも嬉しい夜なんてなかった。これほど誰かに大切に想われていると実感したのは初めてだったから。
幼いころに受けた仕打ちはきっと、最大限に彼女の愛情を感じるために必要なことだったんだ。そう思えるほどに乾いた心が満たされていくのを感じた。
自分でも信じられないぐらいに、そばにいるリカの体を優しく両腕で包み込んだ。
「大丈夫だよ、リカ。死ぬほど酷い怪我なら、こうして君を抱きしめたりは出来ないから」
「………うん」
「怖いときはどうしたらいいのか教えてあげようか?…こうして布団にくるまるんです。全身隙間がないように。温かくなってきたら、少し体の震えがおさまる」
言いながらジョルノは布団をめくって自分とリカの頭からそれをかぶった。
月明かりだけの中でお互いしか見えない。誰かがいるとこんなにも温かかったのかとジョルノは驚いていた。幼い頃の自分が慰められているのを感じた。
また、リカもどんどん温かくなるのと同時に気持ちが落ち着いていくのを感じていた。安心してジョルノの胸に体を寄せた。このまま眠りにつくのが1番幸せ。リカにはそれが分かっていた。良く知っている感覚なのだ。良くないと思っていても彼を重ねずにはいられない。
「眠いんですか?リカ。……添い寝しても?」
(駄目…)
ふるふる首を横に振るも眠たくて人の温かさから離れられない。そんなリカを見てジョルノは思わず笑った。
優しく体を倒して一緒にベッドに寝転ぶ。許可は取ってないけど、たぶんリカは抵抗しないだろう。緊張している様子もなく身を預けてくれている。
「っいてて……反対向きがいいな。まだ押さえると痛くて…」
怪我した腕にリカの頭が乗っていた。猫を抱えているかのようにリカごと反転して逆を向く。背中から抱え込んで自分よりひとまわり小さな後頭部にキスを落とした。
「僕には誰もいなかったけど、リカには僕がいる。怖いときは一緒にいてあげるよ」
「…ごめんね。ジョルノは無駄なこと嫌いなのに」
ごめんねじゃなく、嬉しいとかありがとうが良かった。ジョルノは少し不服に思ってリカのお腹に回す腕の力を強くした。
「あのさぁ、もっかい言うけど僕は君と過ごす時間を無駄だなんて一切思わないから。同じ話何べんもさせないでよ」
「無駄だから?」
腕の中でくすくす笑うリカにジョルノはぐっと口をつぐんだ。でも、少しすましてこっちをからかってくるぐらいのリカがちょうど良い。リカが笑うとジョルノも自然と笑顔になれる。おさまりの良い体勢を探って、目を閉じた。
リカも安心して眠りについた。もうジョルノの怪我のことは心配していなかった。
翌朝、お互い寝不足のため寝ぼけ眼で別れを告げた。
ドアから部屋を出て行ったリカは次の瞬間大慌てで戻ってきた。
「ごめん、ジョルノ…。今普通にドアから出ちゃったから、……人に見られた」
「あ……そうか…」
ぼーっとしていたジョルノもリカのことを責められる立場ではない。というかまだ意識がはっきりしていない。
「適当に言い訳しときますから、気にしなくていいですよ」
「ありがとう、ジョルノ」
にっこり微笑んでから、リカはベッドの下に足を突っ込んでそのまま水面に沈むようにいなくなった。
「…可愛すぎるんだよ、ほんと」
現実離れしたその光景より、これから友人たちが部屋に押し寄せてくるであろう現実より、何よりも強烈にリカの笑顔で胸がいっぱいになったジョルノである。
『だからなんで僕のパスポートを貰ってこないんだぁーーッ!!テキトーにもほどがあるぞ!!』
『あ、そうだったね……ごめん…』
『自分の言葉に責任持ってよほんと!!』
必死すぎる康一の形相(当たり前)にリカは焦った。ここ2年程、何かあると承太郎にチクるからな!と脅されて困っているのだ。
今も「承太郎さんたちが甘やかすから…ブツブツ」と愚痴っている。
「明日も会うと思うから…次こそちゃんと貰ってくる。なんなら学生寮まで取りに行けばいいし」
「学生寮……」
康一はそれを聞いて納得した。
リカはどうにも興味の方向が偏っている。別に彼女に頼りっきりにならなくても、その寮まで行ってエコーズを使えば簡単にパスポートを取り返すことが出来るぞ。そもそも、ジョルノが本当に返してくれる気があるのかも謎だ。
「もう、ほんとに頼むよ。日本に帰れなくなっちゃうからさぁ」
「わかってるってぇ」
「なんであなたがムッとしてるんだ!」
康一は最後まで怒っていたが、リカがむすくれていたのには理由がある。
『ジョルノとブチャラティがケンカした』、にはそれはそれは色んなことが含まれていたからだ。承太郎に報告されては困るので組織やスタンドについては話さなかったけど、リカには心配事が多く康一のパスポートのことまで手が回らなかった。
(ジョルノは返すって言ってたんだから、そんなにカリカリしなくたっていいのに……。…大変だったんだから…ジョルノもブチャラティも怪我してて……血が出てたんだよ)
夜になり、ベッドに入ったリカは枕に顔を押し付けながらぎゅっとシーツを握りしめた。
たくさん戦いを経験したけど、血は嫌い。
いっぱい流れたら死んじゃうから。
ママとパパも、12年前の友達も、ジョセフも承太郎も杜王町のみんなだって。みんな傷付いたら死んじゃう。死んだと思った。そのぐらい酷い傷をたくさん見てきた。
今笑って話してても次の瞬間には体に穴が開いて血を吐いてるかもしれない。
関係ない人だってたくさんいたのに助けられなかった。
(……怖い。)
真っ赤な中で酷い光景がたくさん蘇ってきた。
12年前の戦いで疲弊したリカの心を守ってきたのは承太郎だ。だけどいつまでも彼に頼り切っているわけにはいかない。大切な人がいつ離れていってしまうかなんて誰にもわからないのだから。あの時もそうだった。
(大丈夫かな、ジョルノ……。傷、ちゃんと塞がってたらいいんだけど…)
考え始めたら止まらなくなった。
目を開けたリカはもう一度シーツを握りしめてから起き上がった。
(…ちょっと見に行くだけ、だから…)
怪我の様子だけ確かめに行こう。
こそこそと部屋を出たあとは夜道を走り出していた。ジョルノのためと思いながら、本当は自分の不安な気持ちを慰めたいからだってことは分かっている。走っているとそれを少し誤魔化すことができたのだ。
ジョルノの部屋の場所は把握していた。
何度か遊びに来たことがあるから。一緒にゲームしたり勉強したり。
でもスタンドを使って忍び込んだのは初めてだ。夜はリカの味方だった。月明かりで更に深い影となっているベッド下から伸びる闇に混ざって、するりと姿を現した。
ジョルノはすっかり眠っていた。ここ何日か非日常なことが起こりすぎていて疲労が溜まっている。
寝入っている姿は普段より幼く見え、その寝顔は綺麗だった。
(服着てるしあんまりわかんないな…)
部屋に侵入してからリカはそのことに気付いた。
悪いとは思いつつもベッドに手をつき、ジョルノの怪我をした左腕に触れようと反対の手を伸ばした。
その瞬間、何の偶然かぱちっとジョルノが目を開けたのだ。
飛び込んできた光景にジョルノは驚愕し反射的に上半身だけ飛び起きた。
「っ?!う、うわぁああ!!?」
「ジョルノ、しーっ!」
目の前の申し訳なさそうなリカに手で口を塞がれる。
なんだ。何が起こっているんだ。
僕はついにこんな夢まで見るようになってしまったのか。こんな…薄着の彼女が夜這いに来るなんて、ありえないのに…。浅はかな愚か者め。
でもこの夢って……最高すぎやしないか!
しかし唇に触れる手の温かさを感じて、すぐにここにいるのは本物のリカだと理解し冷静になった。
「…もういい?」
気まずそうなリカをまじまじと見つめながら数度頷く。細い手が離れ2人は見つめ合った。
「……。」
「………。」
「……。」
「あ、あのね…。私のスタンドって影を自由に操れるの。影に入って別の影から出てくることも出来る。泳ぐみたいにするの…。それで外からここまで…ドアや壁をすり抜けて…」
視線を下にうろうろさせてリカが語る。また長ったらしい沈黙が落ちた。ジョルノはこれが現実だと理解していたもののいまだに混乱状態にあり、リカの目的を測りかねていた。
「そう、なんですね…。えぇと…その話をするために、こんな時間にここへ?」
「ジョルノの怪我の具合はどうなのかなって」
話が飛んだ。
聞こえてはいるのだが頭がなかなか付いていかない。どうするのが正解なのかわからずに働かない頭を押さえる。
「怪我……ああ、平気ですよ。リカがスタンドを貼り付けて止血してくれましたから……ですよね?」
「うん」
「???」
困惑しっぱなしのジョルノにリカはどんどん肩身が狭くなってきた。ジョルノはいたって元気そうで、これから何を言っても夜中に不法侵入する正当な理由にはならない気がする。
「…明日の朝、またブチャラティに会うから…入団テストのこと聞いてみるね」
「??はい」
入団テストについて動きがあればリカに言付ける。それはすでにブチャラティから聞いている。いたたまれなくなったリカは早くこの場を去らなければと焦り始めた。
妙な空気を変えたくてへらりと笑ってみる。
「ごめんね。怪我、痛そうだったから……怖くなっちゃって。元気ならいいの。帰るね」
その笑顔が何故か痛々しく見えてジョルノは顔をしかめた。
彼女がこうしてここに来て、夜通し看病するような怪我では決してない。なにせ彼女自身の能力で出血はもう治ってしまっているのだ。
「…何かあったんですか?」
今すぐにでもリカがいなくなってしまう気がして、ジョルノは彼女の手にそっと触れた。僅かに震えているのに気付き、はっとした。
違うんだ。
今まで彼女が話したことなんて何ひとつ重要ではない。リカは怖いとちゃんと教えてくれたじゃないか。
リカがジョルノの手を避けて「何もないよ」と呟いた。それを見て、絶対に今彼女を帰してはいけないと決意する。今踏み込まなければ、2度とその心の内にジョルノの居場所はなくなる気がしたのだ。何が最適解なのか分からず、焦る。
「何が、怖いんですか?」
絞り出したように聞かれてリカの中途半端な笑顔はたちまち泣き出しそうに歪んだ。両手で両目を押さえて耐えるけれど、こんなこと言うと嫌われると思いながらも気持ちが溢れた。
「ジョルノが死んじゃうかと思った」
その返事はジョルノにとって衝撃的なものだった。「そんなわけない」と反射的に口からついて出そうだったが踏みとどまる。
ただの言い訳ではない。こんなに打ちのめされたように弱っているリカはきっと、本気で自分のこの程度の怪我に怯えている。ジョルノが死んでいなくなることに恐怖しているのだ。
カチカチと時計の秒針の音が響いている。
「…リカ。来てください、こっちに」
呼ばれてリカは素直にジョルノの座るベッドに腰掛けた。あまりに慈しみのこもった声色に遠慮しようという気がまったく起きなかったから。
ジョルノは生きていてこんなにも嬉しい夜なんてなかった。これほど誰かに大切に想われていると実感したのは初めてだったから。
幼いころに受けた仕打ちはきっと、最大限に彼女の愛情を感じるために必要なことだったんだ。そう思えるほどに乾いた心が満たされていくのを感じた。
自分でも信じられないぐらいに、そばにいるリカの体を優しく両腕で包み込んだ。
「大丈夫だよ、リカ。死ぬほど酷い怪我なら、こうして君を抱きしめたりは出来ないから」
「………うん」
「怖いときはどうしたらいいのか教えてあげようか?…こうして布団にくるまるんです。全身隙間がないように。温かくなってきたら、少し体の震えがおさまる」
言いながらジョルノは布団をめくって自分とリカの頭からそれをかぶった。
月明かりだけの中でお互いしか見えない。誰かがいるとこんなにも温かかったのかとジョルノは驚いていた。幼い頃の自分が慰められているのを感じた。
また、リカもどんどん温かくなるのと同時に気持ちが落ち着いていくのを感じていた。安心してジョルノの胸に体を寄せた。このまま眠りにつくのが1番幸せ。リカにはそれが分かっていた。良く知っている感覚なのだ。良くないと思っていても彼を重ねずにはいられない。
「眠いんですか?リカ。……添い寝しても?」
(駄目…)
ふるふる首を横に振るも眠たくて人の温かさから離れられない。そんなリカを見てジョルノは思わず笑った。
優しく体を倒して一緒にベッドに寝転ぶ。許可は取ってないけど、たぶんリカは抵抗しないだろう。緊張している様子もなく身を預けてくれている。
「っいてて……反対向きがいいな。まだ押さえると痛くて…」
怪我した腕にリカの頭が乗っていた。猫を抱えているかのようにリカごと反転して逆を向く。背中から抱え込んで自分よりひとまわり小さな後頭部にキスを落とした。
「僕には誰もいなかったけど、リカには僕がいる。怖いときは一緒にいてあげるよ」
「…ごめんね。ジョルノは無駄なこと嫌いなのに」
ごめんねじゃなく、嬉しいとかありがとうが良かった。ジョルノは少し不服に思ってリカのお腹に回す腕の力を強くした。
「あのさぁ、もっかい言うけど僕は君と過ごす時間を無駄だなんて一切思わないから。同じ話何べんもさせないでよ」
「無駄だから?」
腕の中でくすくす笑うリカにジョルノはぐっと口をつぐんだ。でも、少しすましてこっちをからかってくるぐらいのリカがちょうど良い。リカが笑うとジョルノも自然と笑顔になれる。おさまりの良い体勢を探って、目を閉じた。
リカも安心して眠りについた。もうジョルノの怪我のことは心配していなかった。
翌朝、お互い寝不足のため寝ぼけ眼で別れを告げた。
ドアから部屋を出て行ったリカは次の瞬間大慌てで戻ってきた。
「ごめん、ジョルノ…。今普通にドアから出ちゃったから、……人に見られた」
「あ……そうか…」
ぼーっとしていたジョルノもリカのことを責められる立場ではない。というかまだ意識がはっきりしていない。
「適当に言い訳しときますから、気にしなくていいですよ」
「ありがとう、ジョルノ」
にっこり微笑んでから、リカはベッドの下に足を突っ込んでそのまま水面に沈むようにいなくなった。
「…可愛すぎるんだよ、ほんと」
現実離れしたその光景より、これから友人たちが部屋に押し寄せてくるであろう現実より、何よりも強烈にリカの笑顔で胸がいっぱいになったジョルノである。
