Love the darkness -5-
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「なぉ、おいリカ。さっきから鏡の前を行ったり来たりしてるが……何をそんなに悩んでんだよ?」
セレクトショップで新しい服を選んでいたら、急に見知った顔が横から鏡に割り込んできた。
いつの間にお店の中まで入ってきたんだろう。
「ミスタ!ねぇ、これとこれ、どっちがいいと思う?」
待ってましたと言わんばかりに両手に持ってた別々のワンピースを見せたら、ミスタはちょっと驚いて「お」って一歩後ろに下がった。でも次の瞬間にはにやりとしてすぐに乗ってきてくれた。
私もまさかミスタに会うとは思わなくてびっくりしたけど、それ以上に切羽詰まってるのよ。
「そーだなぁ〜〜、やっぱ、お前には黒だろーなぁ。似合うと思うぜぇ〜」
「オッケー。じゃ白にしよ」
「なんだよそりゃ」
「みんなダークネスに引っ張られすぎ!私、黒より白が好きなの。」
「それじゃなんで黒持ってんだよ!」
「似合うから」
「……あっそ。」
呆れ顔のミスタにぷいって顔をそらしてみせたら、ミスタは私を置いて当然の如くお店の奥に進んでいった。どちらかというとフォーマルな雰囲気のお店だから、柄の多いミスタはちょっと浮いている。
「白ならこっちが良くね?」
取り出されたワンピースはスカートのところがレースで折り重なってて、裾の部分が淡いピンクのグラデーションになってた。可愛い。
「…なんかこういう薔薇あるよな」
あるね。私すごく好きだよ。
「着てみる」
無意識にじぃぃっとワンピースに見惚れていた私を見ながら、ミスタは得意げに笑ってた。
『ねぇリカ!今回のパーティには絶対来てよ!!いつもあんたがいないから、期待して来る奴らが盛り上がんないんだって!』
ボーイフレンド絶賛募集中の友達に捕まって、うんと言うまで離してもらえなかったのだ。
あんまり乗り気じゃないんだけどな。
「…落ち込んでいるのか?溜め息なんてついて」
ミスタに服を選んでもらって数日後。いつものお店でおやつタイムしてたらブチャラティに見つかった。
頬杖ついたままちらっと視線を向けたら、肩をすくませながら当然のごとく正面に座るブチャラティ。
「パーティの予定は楽しみじゃあないのかな」
「………。」
喋ったな……ミスタめ……!
「お酒飲むなって言われてるし、そういうとこにも行くなって言われてるの」
「親にか?……まぁ、…お前については…懸命な教育かもな」
「なんでよ」
視線だけちょっと睨むようにしたら、今度はブチャラティが難しい顔をして黙りこくった。
お酒飲んだら楽しくなって気分悪くなって眠たくなるじゃない。
記憶が曖昧で次の日どんなだったか聞いたら、みーんな今のブチャラティと同じ顔になるのよ。仗助も露伴も承太郎も罰が悪そうにするのよ。
たぶんよっぽど悪いことしてるんだわ。
「…迎えに来てくれたらいいのに。」
もう一度溜め息と一緒に呟く。
ブチャラティがびくってして固まったけど、そんなのどうでもよかった。
はぁーーーー。
パーティは良いんだけど帰るのめんどくさい。前みたいに承太郎とかのりくんが迎えに来てくれたらなぁ。
そうそう、仗助なんて私がバイト終わるのいつも待っててくれたもんね。隣同士で歩きながら、くだらない話して、笑いながら一緒に帰ってた。
夜に1人で帰るのって……なんか寂しいなぁ…。
…いや、待って私。みんなから離れて自立したくてここにいるのに。何このアンニュイ。すごい日本のこと思い出してるんだけど。
しっかりしなきゃって首を振って顔を上げたら、目の前のブチャラティは目を丸くして私を見てた。そこで私はとんでもないことを口走ったのに気付いた。
「…今の、俺に言ったのか?」
「い、言ってない」
「その…、けっこう、はっきり聞こえたんだが……。迎えに」
「言ってないって!次の授業始まるから、私行くね!」
「おいリカ!」
椅子を蹴り倒す勢いでダッシュでカフェから逃げた。
しまったお金払ってない。ブチャラティごめん。ほんとごめん。でも今は恥ずかしすぎるのよ!遊びに行くから迎えに来てとか、中学生じゃないんだから!そしてなんでそれを声に出しちゃったの!最悪!
授業には出たけどマジで全然集中できなかった。
「うっ…うっ……!絶対こうなると思ったぁぁあ〜〜〜!」
それから4日とおよそ12時間後。
若者たちの集うパーティで無事はっちゃけた私は、しっかり悪酔いしていた。
(楽しかった!すっごく楽しかったけど!)
ワインってめちゃくちゃ酔うじゃん!
ダーツとか音ゲーとかカラオケとかしながら会場を飲み歩いてたら、パーティのお開きが近くなるにつれ楽しい通り越して気持ち悪くなってしまった。
「うっ」
トイレの手洗い場で口から虹を誕生させてしまった私は、力の入らない体でなんとか身を整え、そして今度は胃が楽になったので急激な眠気に襲われていた。
あーーーー頭がぐるぐるするぅぅ……。
立ってらんない。寄りかかっていたシンクからずるずると壁に寄りかかってそのまんま床に座り込む。
「ーーーーー…リカ!大丈夫ですか?」
眠気に勝てなくて目を閉じたら、目の前にジョルノがいた。私の腕を掴んで、もう片方の手は肩を優しく撫でてくれる。
ああ良かった。慈しむように私を覗き込むその目を見たら、本当に……安心するのよ。
「ジョルノ……ここにいてね。私疲れたの…連れて行って」
「ええ。ずっと一緒にいますよ。」
溺れちゃいそうなぐらいに綺麗な笑みを浮かべてた。
いつの間にか、掴まれた私の腕がみしりと音を立てて軋んでいる。
「…お前が望んだのだ。お前の魂は……この俺のものだ。」
腕の痛みに顔をしかめたら、次の瞬間ジョルノがいたところにはディオがいて、ディオの爪が私の腕に食い込んでいた。
金縛りに遭ったみたいに、怖くて魅力的で動くこともできないし、叫ぶこともできない。
『てめぇら女1人待ち伏せて何考えてやがるッ!そこをどけッ!!』
外からの一際大きな声に弾かれたように意識が戻った。ディオもジョルノもいなくなってる。それに…今の声は、聞き覚えがあった。
壁伝いにあるドアの方にのろのろ顔を上げたら、同時に外からドアが開いた。
「リカ!」
ブチャラティだ。
ドアの隙間から私を見つけて、すぐに近くに来てくれた。
「ああ……来て良かった、本当に。…平気か?」
手を握りしめて、顔を覗き込んでくる。強制的に目と目が合ったら、ブチャラティが心配そうにしてるのがわかって泣きそうになった。これが現実だって実感できたから。
なんでいるのとか、ここ女子トイレだけどとか、次々心に浮かんできたけど先にほんとに泣いてしまった。
「……こわ、かった……」
「!外の奴らか」
一瞬プチンって聞こえたかと思ったくらい。
ブチャラティは表情をこわばらせると、またドアの方に向かおうと立ちあがろうとした。
外がどうなってるのか私には分からなかったけど、とにかく力の入らない手で一生懸命ブチャラティの服を掴む。
「ちがうの……なんか、変な夢見て……っ、こわかった、の」
「……ここで寝ていたのか?」
「きもちわるくて」
涙をぬぐって頭を押さえてたら、少し上から盛大なため息が聞こえてきた。
ああもうほんとに最悪。ジョルノとディオを重ねてしまった。また、抵抗出来なかった。
「俺にはこの状況が悪い夢みたいだ…。お前分かっているのか?俺がどれだけ心配したと…っ」
ブチャラティを怒らせてるし、呆れられてるのは分かってるのよ。だって声が引きつってるし、握った拳が震えているもん。
私は優しい人にいっつも迷惑かけてる。罰が悪くて俯いたら、ブチャラティががしって私の両肩を掴んで揺らしたからびっくりして顔を上げた。
「この辺りにもなぁ、麻薬が流れてるって噂があるんだ!お前が何かに巻き込まれてるんじゃあないかと思って、俺は……っ」
(待ってぇぇ揺らさないでぇ!!)
「………。」
吐き気と頭ぐるぐるに耐えてたら、ブチャラティはあっという間に大人しくなった。何か悔しいことでもあるのか唇を噛み締めている。上から下まで私を見てから、すっくと立ち上がった。
「…帰ろう、リカ。送るから…」
差し出された手を握りしめる。思いの外強い力で引っ張られて腰が浮いた。そのまま立ち上がったら勢いでブチャラティに抱き止められている。ぎゅうって体が締め付けられてちょっと苦しい。ブチャラティってスタイルいいのに、なんかおっきいな。こんなすっぽり抱き込められるとは。
あったかくて安心する。なんて呑気に考えてたら、唇にも柔らかくてあったかいのが移った。
さらってしたブチャラティの髪が頬をくすぐる。
「んっ」
中にも感触が入ってきたので思わず反応したら、ブチャラティはすぐに私から離れて手だけ繋ぎ直してくれた。
「…行こうか。早く休んだ方がいい」
その言葉に抵抗する理由なんてない私は、素直に頷いて彼に引かれるままついて行った。
通路に出たら遠巻きにしてる子達がざわついてる。
てめぇら明日も学校なら早く帰れよってブチャラティに凄まれて、狼狽えてた。
なんか…ここにいるみんな同年代のはずなのに、ブチャラティと比べたら…すごく、子供に見える…。なんだかちょっと、得意な気分になった。
パーティ会場の外はすっかり真っ暗で、ブチャラティは待たせてあったタクシーに私を押し込んですぐにその場を後にした。
「………。」
「…………。」
私たちは後部座席で何も話さなかったけど、タクシーの中はやけに心地良い空間だった。
ブチャラティは足を組んで手を口に当てたまま、ついでに私から体の向きをそらしてじっと物思いにふけってるみたいだった。
それでも繋がった指同士が絡んで握り込まれているし、私はブチャラティに寄りかかったままほとんど目を閉じていた。
「…まだ寝るんじゃあないぞ。すぐに着くから…」
無理やり細目を開けたら、ちらっと私を見たブチャラティが小さく微笑んだ。
それが見たことない表情で、色っぽいんだけどすっごく優しかったから、当てられちゃって急に意識しちゃったのよ。
別にこの後、何か起きちゃってもいっかぁって。ブチャラティはどうなんだろう?
「リカ。部屋のキーを受け取ってくれ」
住んでるホテルのロビーに着いたところで促されて、思わずブチャラティの顔をじーーっと見つめた。やっぱり朝まで一緒にいるってこと?
私の視線に気付いたブチャラティは、困ってしまったのか目を泳がせてから、何か諦めて、息をつきながら私に向き直った。
「……やっぱり変かな。俺が君にキスをするのは」
「変じゃないよ」
思わず即答してしまった。ブチャラティがきょとんとしたあと照れたみたいに笑うから、また初めて見る顔にどきっとしてしまう。
私たぶん、自分で思ってるよりブチャラティのこと好きなんだなぁ…。
でも、それでいいのかも。一族とか前世とかのしがらみから抜け出して、今ここで、自由になるのも。この人とならそれが出来る気がする。
「…変じゃ、ない……」
離れかけていた手をもう一度、今度は私から握る力を強くした。
「ウィンチェスター様!ああ良かった…お戻りになられて!」
いつもお世話になってるフロントのスタッフさんに声をかけられた。なんだか焦ってるみたいで、夜中で静かなロビーに声が響いた。
「空条様よりお電話です!かれこれ4回も……」
彼の態度でほとんど何が起きてるか察した私は早かった。
今までふわふわしてて全部どうなってもいいやって思ってた楽しい気分が一気に冷める。聞こえたのはそれぐらい衝撃的な名前だった。
「み、水!お水ください!!」
「あるぞ。先に買っていたから……」
言い終わる前にブチャラティの手からペットボトルを奪って、ちょっとぬるいミネラルウォーターを半分近く一気飲みした。
すっごく良くない。この時間までホテルにいないのもまずいし、承太郎の電話に出ないのもまずいし、電話に出て酔ってるのがばれるのが1番まずい。
「もしもし承太郎っ!?」
電話を吹っ飛ばすぐらいの勢いで受話器も奪った。
結果めちゃくちゃ怒られた。遊びすぎだって散々嫌味を言われて、それでも電話が通じたので安心してもらったらしく…。
早く寝ろ、明日もかけるが出なかったらただじゃおかねぇみたいな捨て台詞を吐かれて話は終わった。
(でも良かったぁ〜〜…!明日まで音信不通だったら乗り込んできてたかも…あっぶなぁぁ!)
電話に受話器を戻してほっと息を吐く。顔を上げたら、ホテルマンとブチャラティが2人して唖然としていた。
「ブチャラティ、あの…ほんとにごめんなさい。迷惑かけて…」
「酔いはすっかり冷めたみたいだな」
ブチャラティは腰に手を当ててやれやれって感じ。さっきまでの大人の不穏な空気がすっかり身を潜めてしまった。
「あのね、嬉しかったのよ、すごく…。迎えに来てくれて…1人で怖かったから、すっごく安心した」
「(……。)…まぁ、催促されていたからな…。それにあの時、お前が食い逃げしたことも叱らなきゃあな」
今それ言う?
思わず笑ったらブチャラティも返してくれた。
私のこと本気で心配してくれる…この異国の地で出来た友達でもあり、上司でもある彼のこと…私も大事にしなくちゃね。
「ほんとに、いつもありがとう。また明日ね」
「ああ。おやすみ、リカ」
愛しくって、最後にぬいぐるみにするみたいにぎゅってくっついたけど…もうブチャラティがさっきみたいに私を抱きしめることはなかった。
ただ、とっても優しい瞳でエレベーターに乗り込む私を見送ってくれた。
「…またあの時の奴らと遊びに?駄目だ女友達とだけなら許す。そうじゃなけりゃあ今度は9時に迎えに行こう」
「………。」
飲むなっていう人と迎えに来る人が1人増えた。
