✴︎本編✴︎
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リカは書類の束と睨めっこをしながらご機嫌だった。昨日の承太郎との電話のおかげだ。全身がぽかぽかしてて何かに包まれてるような優しい気分。見守られてる感じがする。
組織には案外事務作業も多くて、ブチャラティから頼まれたそれをこうしてアジトの1つで捌いている。
(終わったら康一くんと遊びに行こーっと)
イタリア観光に連れていってあげたら喜ぶだろう。お気に入りのカフェやジェラート屋さんにも。
鼻歌を歌いながら書類を整えていると、遅れてブチャラティがやってきた。
リカと顔を合わせてそっと微笑む。
「チャオ、ブチャラティ」
「…?何か良いことでもあったのか?」
「えっ、…なんで?」
「いつもより……ご機嫌そうに見えるから。」
彼女と会うといつも、後光が差しているかのように眩しく映ってしまう。世界がより一層明るくなるように感じて、ブチャラティはリカといると元気を取り戻すことができる。
今日のリカはいつもより大人っぽく感じて、何かあったんじゃないかと思ったのだ。
リカはすぐに承太郎のことを思い浮かべてまた幸せな心地になった。悪戯に笑って人差し指を自分の唇に当てる。
「…教えてあげない」
「ふぅん……(何かあったんだな…)」
上機嫌のリカを見るのは嬉しいけれど、それが自分のせいでないのは面白くなかった。
だがこれ以上突っ込んで聞ける立場にはないし、必死になるなんてスマートさに欠ける。
ブチャラティはリカの正面に座って書類を覗いた。
「おっ…かなり進んでるな」
「できるでしょー。こう見えてしっかり大人ですから、私」
「へぇ」
胸を張る様は子供が特技を自慢してるみたいでブチャラティは思わず笑ってしまう。
「でもびっくりしたー。ブチャラティ、呼び出されて忙しそうだったから。今日は会えないのかと思ってた」
「……。」
「何の話だったの?」
リカは入力していたパソコンから顔を上げて違和感を覚えた。ブチャラティの表情が強張って見えたから。実際にそうだった。
幹部に呼び出されて命令されたのは、『涙目のルカ』をやった奴を話を聞いた上で始末すること。
空港でリカの姿が目撃されていた。組織の者ではない青年と共に。
「ああ……空港でな……組織の『涙目のルカ』って呼ばれてる奴が倒れてるのが見つかったんだ…。スコップで頭ぶん殴られてて意識不明の重体だ」
「……。」
来た。話を聞いているふりをしながらリカは焦っていた。
やっぱりジョルノが倒したあいつは組織の構成員で、犯人探しが始まっている。
とたんに緊張が辺りを包んだ。
「それで……妙なことに空港の外れから、お前が男連れで逃げて行くのを見たって奴がいるんだよ。リカ…一応聞いておくが、お前が空港なんかにいるわけないよな?お前は…涙目のルカが死んだのとは無関係だ…そうだろう」
「………。」
願いを込めてブチャラティはリカを見つめた。たった一言、彼女が「知らない」と言ってくれればそれでいいのだ。それだけで、ブチャラティは全力で彼女を守ることができる。目撃されたのはリカではなかったということにして、もう1人の男の方…ジョルノ・ジョバーナとかいう子供だけを抹殺すればいい。
そもそも何故リカがそいつと空港にいて、手を絡め合っていたのかなんてことは考えたくもなかった。
「………私が」
ブチャラティの願いに反してリカは視線を斜め下に避けているし、こめかみの辺りにはうっすら光る汗をかいていた。彼女が嘘をつくのが下手なのは重々承知している。
リカはちらりとブチャラティの表情を盗み見た。彼の方がよほど切羽詰まった顔をしていて心が痛む。
「私がもし、空港にいて…彼と一緒に涙目のルカを倒したって言ったら……。…ブチャラティは、私のことを始末するの?」
「!!」
「そんなの悲しい…。私はずっと、ブチャラティと仲良くしたいのに」
伏せる瞳に影を作る長いまつ毛がふるふると揺れた。それはリカの本心だったし、ブチャラティにとっては『ボスの命令は絶対』というルールを破らせるのに充分な衝撃を与える庇護欲を掻き立てる様子だった。
そもそもブチャラティはリカが上手く答えてくれたなら何としてでも彼女を守るつもりだった。疑わしきは罰せずというやつだ。
そして今のブチャラティはこう思っていた。『たとえリカが空港にいてルカの死に関与していても構わない。俺のやるべきことはジョルノを見つけて奴に責任を取らせることだ。彼女を危険に晒した分まで痛めつけて始末する』と。
「ねぇ、…嘘だよブチャラティ」
「え」
「私、空港になんか行ってない。用事ないもん」
よほど深く考え込んでいたのか、リカに肩を揺らされるまでブチャラティは意識をどこかに飛ばしていたらしい。
リカは悲しかった。やっぱりブチャラティはギャングだ。こんなに深刻そうに考え込むなんて。命令だったら私のことも手にかけるということだろう。だから嘘をついた。ジョルノを守ると決めた以上、もう彼の元にはいられない。
(そうだ…いなかった。リカは空港になど行っていない。それでいい…)
リカの心境など知る由もないブチャラティは、リカが期待通りに答えてくれて心底ほっとした。全身から力が抜けるようで椅子に深く座り直した。
「ははっ、そうだよなぁ!今日本に帰られても困るしな。やっと仕事を覚え始めたところなのに」
「うん……。…ねぇ、ブチャラティはこれからどうするの?」
「あと怪しいのはジョルノ・ジョバーナってガキだ…奴を見つけて尋問する。もしそいつがルカをやったなら……始末するさ。ボスの面子のためにな」
「そう……」
ブチャラティは幹部にも信頼されてる筋金入りのギャングだ。やるって言ったら絶対やる。ジョルノが危ない。
(……気が合いそうなのにな…。)
ジョルノの夢の話を聞いたら、きっとブチャラティだって彼を殺そうなんて気はなくなるはずだ。リカはどうにかして2人の仲を取り持とうと思っていた。
「(……。)あのね、ブチャラティ。せっかく来てくれたのに悪いんだけど、私これから友達と待ち合わせしてて…今日はもう行くね?キリのいいとこまでは終わってるから」
「友達と?珍しいな……。学校のか?」
「そうなの」
リカは言いながら焦っていた。
もしかしたらすでに組織の別の人間がジョルノに手をかけているかもしれない。彼を探さないと。
手早く書類の束をまとめてパソコンをシャットダウンする。
「バイバイ、ブチャラティ!忙しいだろうけどちょっとは休んでね。それ飲んでいいよ!」
「あ、ああ……。」
バタバタと部屋を出て行ったリカを止める隙はなかった。
急に静かになった空間に虚無感を覚えつつ、ブチャラティはテーブルの飲みかけのペットボトルに目をやった。彼女の好きなミルクティーだ。
(飲んでって言われてもな……)
間接的にキスになるのにいいのだろうか。
たぶん、リカは何も気にしていない。彼女は自分のことを気のおけない友人で、それ以外にはまったく意識していない。置き去りにされたペットボトルはその証明だ。
「…仲良くするさ。言われなくても」
慌てる彼女はきっと、ジョルノとかいうガキのところに行ったに違いない。
だが、奴のことは逃さない。そして組織の一員であるリカのことも。
悔しいような、どこか憎しみのようなどろりとした感情を持て余して、ブチャラティは甘いミルクティーでそれらを誤魔化した。
組織には案外事務作業も多くて、ブチャラティから頼まれたそれをこうしてアジトの1つで捌いている。
(終わったら康一くんと遊びに行こーっと)
イタリア観光に連れていってあげたら喜ぶだろう。お気に入りのカフェやジェラート屋さんにも。
鼻歌を歌いながら書類を整えていると、遅れてブチャラティがやってきた。
リカと顔を合わせてそっと微笑む。
「チャオ、ブチャラティ」
「…?何か良いことでもあったのか?」
「えっ、…なんで?」
「いつもより……ご機嫌そうに見えるから。」
彼女と会うといつも、後光が差しているかのように眩しく映ってしまう。世界がより一層明るくなるように感じて、ブチャラティはリカといると元気を取り戻すことができる。
今日のリカはいつもより大人っぽく感じて、何かあったんじゃないかと思ったのだ。
リカはすぐに承太郎のことを思い浮かべてまた幸せな心地になった。悪戯に笑って人差し指を自分の唇に当てる。
「…教えてあげない」
「ふぅん……(何かあったんだな…)」
上機嫌のリカを見るのは嬉しいけれど、それが自分のせいでないのは面白くなかった。
だがこれ以上突っ込んで聞ける立場にはないし、必死になるなんてスマートさに欠ける。
ブチャラティはリカの正面に座って書類を覗いた。
「おっ…かなり進んでるな」
「できるでしょー。こう見えてしっかり大人ですから、私」
「へぇ」
胸を張る様は子供が特技を自慢してるみたいでブチャラティは思わず笑ってしまう。
「でもびっくりしたー。ブチャラティ、呼び出されて忙しそうだったから。今日は会えないのかと思ってた」
「……。」
「何の話だったの?」
リカは入力していたパソコンから顔を上げて違和感を覚えた。ブチャラティの表情が強張って見えたから。実際にそうだった。
幹部に呼び出されて命令されたのは、『涙目のルカ』をやった奴を話を聞いた上で始末すること。
空港でリカの姿が目撃されていた。組織の者ではない青年と共に。
「ああ……空港でな……組織の『涙目のルカ』って呼ばれてる奴が倒れてるのが見つかったんだ…。スコップで頭ぶん殴られてて意識不明の重体だ」
「……。」
来た。話を聞いているふりをしながらリカは焦っていた。
やっぱりジョルノが倒したあいつは組織の構成員で、犯人探しが始まっている。
とたんに緊張が辺りを包んだ。
「それで……妙なことに空港の外れから、お前が男連れで逃げて行くのを見たって奴がいるんだよ。リカ…一応聞いておくが、お前が空港なんかにいるわけないよな?お前は…涙目のルカが死んだのとは無関係だ…そうだろう」
「………。」
願いを込めてブチャラティはリカを見つめた。たった一言、彼女が「知らない」と言ってくれればそれでいいのだ。それだけで、ブチャラティは全力で彼女を守ることができる。目撃されたのはリカではなかったということにして、もう1人の男の方…ジョルノ・ジョバーナとかいう子供だけを抹殺すればいい。
そもそも何故リカがそいつと空港にいて、手を絡め合っていたのかなんてことは考えたくもなかった。
「………私が」
ブチャラティの願いに反してリカは視線を斜め下に避けているし、こめかみの辺りにはうっすら光る汗をかいていた。彼女が嘘をつくのが下手なのは重々承知している。
リカはちらりとブチャラティの表情を盗み見た。彼の方がよほど切羽詰まった顔をしていて心が痛む。
「私がもし、空港にいて…彼と一緒に涙目のルカを倒したって言ったら……。…ブチャラティは、私のことを始末するの?」
「!!」
「そんなの悲しい…。私はずっと、ブチャラティと仲良くしたいのに」
伏せる瞳に影を作る長いまつ毛がふるふると揺れた。それはリカの本心だったし、ブチャラティにとっては『ボスの命令は絶対』というルールを破らせるのに充分な衝撃を与える庇護欲を掻き立てる様子だった。
そもそもブチャラティはリカが上手く答えてくれたなら何としてでも彼女を守るつもりだった。疑わしきは罰せずというやつだ。
そして今のブチャラティはこう思っていた。『たとえリカが空港にいてルカの死に関与していても構わない。俺のやるべきことはジョルノを見つけて奴に責任を取らせることだ。彼女を危険に晒した分まで痛めつけて始末する』と。
「ねぇ、…嘘だよブチャラティ」
「え」
「私、空港になんか行ってない。用事ないもん」
よほど深く考え込んでいたのか、リカに肩を揺らされるまでブチャラティは意識をどこかに飛ばしていたらしい。
リカは悲しかった。やっぱりブチャラティはギャングだ。こんなに深刻そうに考え込むなんて。命令だったら私のことも手にかけるということだろう。だから嘘をついた。ジョルノを守ると決めた以上、もう彼の元にはいられない。
(そうだ…いなかった。リカは空港になど行っていない。それでいい…)
リカの心境など知る由もないブチャラティは、リカが期待通りに答えてくれて心底ほっとした。全身から力が抜けるようで椅子に深く座り直した。
「ははっ、そうだよなぁ!今日本に帰られても困るしな。やっと仕事を覚え始めたところなのに」
「うん……。…ねぇ、ブチャラティはこれからどうするの?」
「あと怪しいのはジョルノ・ジョバーナってガキだ…奴を見つけて尋問する。もしそいつがルカをやったなら……始末するさ。ボスの面子のためにな」
「そう……」
ブチャラティは幹部にも信頼されてる筋金入りのギャングだ。やるって言ったら絶対やる。ジョルノが危ない。
(……気が合いそうなのにな…。)
ジョルノの夢の話を聞いたら、きっとブチャラティだって彼を殺そうなんて気はなくなるはずだ。リカはどうにかして2人の仲を取り持とうと思っていた。
「(……。)あのね、ブチャラティ。せっかく来てくれたのに悪いんだけど、私これから友達と待ち合わせしてて…今日はもう行くね?キリのいいとこまでは終わってるから」
「友達と?珍しいな……。学校のか?」
「そうなの」
リカは言いながら焦っていた。
もしかしたらすでに組織の別の人間がジョルノに手をかけているかもしれない。彼を探さないと。
手早く書類の束をまとめてパソコンをシャットダウンする。
「バイバイ、ブチャラティ!忙しいだろうけどちょっとは休んでね。それ飲んでいいよ!」
「あ、ああ……。」
バタバタと部屋を出て行ったリカを止める隙はなかった。
急に静かになった空間に虚無感を覚えつつ、ブチャラティはテーブルの飲みかけのペットボトルに目をやった。彼女の好きなミルクティーだ。
(飲んでって言われてもな……)
間接的にキスになるのにいいのだろうか。
たぶん、リカは何も気にしていない。彼女は自分のことを気のおけない友人で、それ以外にはまったく意識していない。置き去りにされたペットボトルはその証明だ。
「…仲良くするさ。言われなくても」
慌てる彼女はきっと、ジョルノとかいうガキのところに行ったに違いない。
だが、奴のことは逃さない。そして組織の一員であるリカのことも。
悔しいような、どこか憎しみのようなどろりとした感情を持て余して、ブチャラティは甘いミルクティーでそれらを誤魔化した。
