✴︎本編✴︎
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「いいや!今すぐ電話する!」
「ダメったらダメ!!」
公衆電話の前でリカと康一は揉めていた。
行き交う人々が何事かと目をやってはそそくさと避けていく。
「あなたまで僕のお金を使ってケーキ食べてたなんて!まったく悪いくせだ!流されやすいんだから本当に!」
「だからそれは謝ったでしょ?!康一くんこそ話も聞かずにジョルノを攻撃するなんて!承太郎を尊敬してる割には全然クールじゃないわね!」
「あっそう!もしあなたのことを報告した後の承太郎さんが冷静でいられたら謝るよ!無理だろうけどさぁー!」
「電話はダメって言ってるでしょ!!」
「あっ!?」
リカが受話器を取ってダイヤルを回そうとする康一に先回りして、がっちゃんと通話を切る。
これで4回目の攻防だった。
呑気にジョルノとお茶をしてたら、住所を頼りにやってきた康一に見つかり今に至る。
さすがにお金を勝手に使われて怒った康一がリカに構わずジョルノを攻撃したのだ。
ジョルノはあっという間に木を伝って建物の上を逃げて行った。
リカにも何が起きたのかはわからなかった。
ただ、涙目のルカをやったときと同じように『攻撃が康一に跳ね返ってきた』。
『じゃあねリカ。落ち着いたらまた会いに行くから』
最後に見たジョルノはちょっと楽しそうにしていたので、彼なりに康一を認めたような印象を受けてリカは少し安心した。
反対に全く安心できていないのが康一だ。
(盗みをやるような奴とつるんでるなんて最悪だッ!この人は『ぽい』顔の奴なら誰でもいいのかぁ?!)
杜王町で承太郎から話を聞いたところによると、出会う前の幼少期…リカの生活はかなり荒れていたらしい。そこでディオにより両親と双子の妹を失う事件が起こり、ジョセフに引き取られたと…。
(素質は充分にあるんだよ…!あんな奴といたら悪い方に流されちゃうぞ…!)
ジョルノについて報告すると共に、リカに釘を刺してもらわないと。承太郎や仗助、そしてジョセフがリカを大切にしているのを見てきた康一は使命感に燃えていた。
「何度やっても同じよ。承太郎とは話さないから!」
ジョルノに対して『守る』という使命感を燃やしているリカも必死だった。涙目のルカのことがあった以上、ここで日本に強制送還されるのは困る。ジョルノの安全が保証されるまでは…。
通話ボタンを押そうと手を伸ばしたリカに康一はますます受話器を握りしめた。
「…エコーズ・act3!」
「あっ!!?」
瞬間、リカの手が重くなり地面に落ちた。自分の手に引っ張られて座り込む。
「ひどい!」
リカは康一を信頼している。〈darkness〉を全く出していなかったので重さで反撃もできない。ぐぐぐと反対の手で重たい手を持ち上げるがびくともしない。重すぎて〈darkness〉がかけらも出てこないのだ。
「ひどい康一くん!……しゃべるわよ!!由香子に康一くんのあれやこれや!しゃべるからね!?」
「……別に言いたいなら言えば…由香子さんはきっと僕を信じてくれる」
すーんとしたドヤ顔でダイヤルを回し始めた康一にリカは絶望した。
「っこのリア充!!爆発しろーーーっ!」
「あっもしもし承太郎さん!」
(終わった…)
さっとリカの体温が下がっていく間に康一はあっという間にジョルノのことを電話越しに承太郎に報告した。
名前や髪色が違っていることや、荷物を盗まれたこと、スタンド使いであること…。最後に爽やかな奴だったなんて、余計なことだったかな。
リカは願った。後生ですから康一様。私がジョルノと一緒にいることは言わないで!
『強力なスタンド使いとの接触……か』
「じょ、承太郎さん……それと」
『リカがそこにいるだろう…康一くん。代わってくれないか』
「?!」
確かにそれを報告しようとしていたのだが、心を読まれたように言い当てられて康一は驚いた。ばっと振り返るとリカは顔色を悪くしてぷるぷる首を横に振っている。あまりにも怯えているので少し可哀想になってきた。
あわあわしてしまったので無言の間が空いてしまう。
『……代わってくれないか』
(ヒィィィィ!!)
受話器越しに何という圧をかけてくるのだろうかこの人は。もう100%リカがここにいるのを確信している。
康一は罪悪感を持ちながらも諦めるしかなかった。それはまたリカも同じで、2人して恐る恐る受話器を手渡し受け取った。
『……リカ』
「承太郎…」
『汐華初流乃と付き合いがあるようだな』
「…それが何」
『今すぐ康一くんと日本に戻れ』
「……!」
言われると思っていたけど、承太郎はあまりに淡々としていてそれが逆にショックだった。
リカは逆らえなくなりそうな承太郎の雰囲気に狼狽えた。
「ど、どうして?ジョルノは悪い子じゃないのよ」
『お前は奴がスタンド使いであることを知っていたのか?』
「ううん…何か変な子だなとは思ってたけど……確信したのは今日」
『…スタンド使いは引かれ合う…。お前たちがそれ以上一緒にいれば…新たな戦いに巻き込まれるかもしれない』
「それならなおさら、一緒にいて助けてあげなきゃ…」
『その必要はない』
リカには冷たく取られてしまう言い草だったが、承太郎にとっては本当に必要のないことだったのた。承太郎にとって最も重要なのはリカが自分のそばにいることだった。
そもそも何故、リカがこんなにも奴に肩入れするのかがわからない。
『……ディオの息子だぞ』
「で、でも……ジョースター家の親戚でもあるよね?ジョルノといたら、承太郎といるときと同じように感じることがあるの。せめて安全だって思えるまでは、見守ってあげなきゃ」
『同じ……だと?』
同じだったら、自分ではなくそいつのそばにいるというのか。
ミシ、と受話器から何か軋む音がして、リカはしまったと反射的にそれを耳から離した。
『ふざけたこと言ってんじゃねーぞッ!!いいから帰れと言っている!』
承太郎はいつもそうだ。急にスイッチが入ってリカを怖がらせる。
『そいつを助けたいってんなら尚更帰るべきだぜ。敵はお前のスタンドパワーに引かれてやってくるのかもしれない。そもそも、汐華初流乃のスタンド能力が開花したのもお前の存在のせいかもしれない…。守りたいなら最善の策は離れることだ!ディオの息子なんざのためにお前が命を賭けることになるのは許さねぇッ!!いいか!今まで生き残ってこれたのは俺たちが共にいたからだ!重要なのは俺たちが共にいることだッ!!』
リカはぎゅっと口を噤んだ。承太郎の怒鳴り声は康一にまで聞こえていて、康一はいたたまれない心地になりながらも2人のやりとりを見守った。
「…一緒にいたら…戦わなくちゃいけなくなるなら……私はもう、承太郎のところには戻らないよ…!」
「ちょっ、リカさん…っ!?」
康一から思わず声が出た。泣いちゃ駄目だと自分に言い聞かせてきたけど、リカは唇を噛み締めながら堪えていた涙をこぼした。電話越しで良かったかもしれない。
「ずっと!怪我して痛くて怖い想いするなら…!もう一緒にいなくていいよ…っ」
『何度も聞いた。…その話は』
「だってそうでしょ!離れてたときは平和だったじゃない!承太郎は大学で好きなことして博士になって私も杜王町で普通の学生だったッ!仗助と青春してたの!なんで離婚なんか!!家族が出来て普通に幸せになれたのに!!」
『……リカ』
「やっと会えたと思ったらまた傷付いて死にそうになって…思い出したのエジプトのこと!私のせいだと思った私が一緒にいるから承太郎が痛い想いばっかりするんだって!今までは無事だったけど次は死んじゃうかもしれない!それならもうそばにいなくていいよ…!承太郎が1番だから幸せになってほしいもん……それに私は…一緒にいても、…承太郎の娘ちゃんに会う勇気…ない……」
『…親権は母親にある』
「そういうことじゃない〜〜っ!」
情緒が壊れたらしいリカはついに子供のようにへたり込んだまま「うわぁ〜〜ん」と泣き始めてしまった。周りに人だかりができ始めているので康一は気が気じゃない。
こっちは息が苦しいのに承太郎はおかしそうに笑ってるから、リカは腹が立つやら安心するやらでやっぱり情緒が壊れている。
承太郎としては普段聞けないリカの本音を吐露されてハッピーな気持ちでいっぱいだった。全て自分を想うが故の反抗なのだ。いつまでも可愛いが押し寄せてくるし今後もそれに夢中で飽きるなんてないだろう。
『……聞くんだ、リカ。…お前がジョースター家の戦いに責任を感じることはない。それを招いているのはジョースターの血統でむしろこっちがお前を巻き込んでいるんだ。だが俺は…やはりここまで生き残れたのはお前がいてくれたからだと思っているし、もしも今後死ぬとしてもお前にそばにいてほしい。』
「ねぇ、やめてよ。なんでそんなこと言うの?」
『…俺が死ぬのは嫌か』
「……うん。ずっとそう言ってるのに…」
何度も同じことを聞いてしまう。承太郎にとっては何年経とうと、何年離れていようとどれだけお互いの環境が変わっても…リカはあの頃のままだ。承太郎を信じて依存しているあの頃のまま…。
『…大学で離れて家庭を持ったのはお前への罪悪感のせいだ。忘れなければならないと、そう…思っていたからだ。海洋学を志したのもダークネスが見せてくれたあの光景がいつまでも頭に残っていて…これは初めてする話かな。もっとも、海は元から好きだったんだが……。旅の初めにお前もそうだと聞いて嬉しく感じたのを、今も良く覚えている』
リカも承太郎が自分の話を嬉しそうにしてくれるので幸せな心地になった。涙を拭いて笑みを浮かべる。目を閉じたらいつでもあの時の承太郎を思い出せて、初めて知った男らしさや無骨な優しさへのときめきを思い起こせる。
「私も覚えてるよ…私の目を海の色だって言ってくれて、嬉しかった」
ふふっと笑い声が漏れた。承太郎も息を漏らして笑っていた。
(結局なんだよなーこの2人ってば)
頭を掻きつつほっと一安心の康一は、この後市民からの通報で駆けつけた警官に必死で事情を説明する羽目になる。
「承太郎…。私、ちゃんと帰るからね。でも今はやっぱり、ジョルノが心配で…。承太郎の親戚だって思ったらほっとけないよ。せめてスタンドを使いこなせるようになるまで支えてあげたいの…頼れる人、あんまりいないみたいだし…」
『………。』
承太郎は戦った。己の欲望とリカの意思を天秤にかけて。そしてリカがいるならジョースターの血を持つものが悪に走ることはないかと考えを懐柔させた。
『……わかった。』
その一言を口にするのにどれだけの労力がかかったことか。
『ただ、危ない橋は渡るなよ。お前を愛している、リカ』
「うん…私も愛してる」
最後に猫が目を細めるようににこっと微笑んだリカの可愛さといったらなかった。康一はこの場に承太郎がいなくて良かったかもしれないと感じる。今のリカを見たら力づくで日本に連れて帰っていただろうから。
とっくにエコーズを解除してあるリカから受話器を受け取る。
「汐華初流乃の写真を見せたときね…やっぱり承太郎さんに似てるって言ってましたよ。でも、承太郎さんの方がかっこいいんですって。ははは…」
だからせめて代わりに。
最後に置き土産を言い残して康一は電話を切った。
リカは珍しい承太郎の照れた顔を見れなかったが、たくさん愛情を補給されてふわふわ幸せな気分だった。
