Love the darkness -5-
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「…ゆ……ゆ………っ、許せない!!!!」
バキィ、と音を立てて手元の双眼鏡が割れる。
ジョルノは怒っていた。今しがた見た光景に。
そもそもこの双眼鏡は神出鬼没のリカを見つけやすいように毎日持参しているものだ。
大事なそれを自分で壊してしまい、少しだけ狼狽えた。
「うぅ……ちくしょう、なんなんだあいつはぁぁ……!」
あいつ……それはたった今、リカと共に本屋から出てきて待っていた参考書でリカの頭をぽんぽんとして行ったフーゴのことである。
彼らの一部始終を見ていたジョルノ。
遠目に本屋にいるリカを見つけてストーカーよろしく双眼鏡で観察している隙にこんなことになってしまった。
急いで追いかけようにも身を隠すために自分(ゴールドエクスペリエンス)で増やした生垣に阻まれて飛び出していけない。
「あっ!……いない……!」
半分割れた双眼鏡で再び2人の姿を追うも、通りには誰もいなかった。
リカとフーゴがアジトへの近道である路地に入ったせいだ。
再びバキィ、と双眼鏡の無事だった部分も握りつぶして、ジョルノの額には汗が浮かんでいる。
一体全体、リカと親しそうなあの青年は誰なのだろう。
書店では楽しそうにおしゃべりをしてじゃれ合い、寄り添って出てきたかと思えば頭ポンポンである。そして2人そろってどこかに消えてしまった。
ジョルノは本当に打ちのめされたような気分になった。
リカのあんな近くに立てるのは自分だけだと思っていたのに。そりゃあ、普段生活している環境が違うから、ジョルノの知らない友人がいるのもわかるけど……でも、でも男と2人きりなんて!しかもなんか格好良い奴だった。(まぁ僕の方がイケてますけど)
「あぁ……何故なんだリカ……僕の方がこんなに!1秒ごとにあなたを想っているのに!!」
心が引き裂かれる前にあの男を引き裂いてやる。しゃがみ込んだまま頭を抱えるジョルノの後ろを、犬を連れた婦人がそそくさと通り過ぎて行った。
「リカ!!!!」
「きゃあぁっ!!?」
そんなこんなで後日リカを見つけたジョルノはそれは急いで駆け寄り背後からがしっと細い肩をつかんだわけで。
突然すぎて驚いたリカはもう少しでスタンド攻撃を繰り出すところだった。
「あ、…な、なんだぁ…ジョルノか…びっくりした……そんなに慌てて何なの?」
「誰なんですかあの黄緑穴あき男は!!危ないじゃあないか!僕以外の男と2人きりなんて!」
「えと…(フーゴかな)」
黄緑穴あき男という妖怪みたいな呼び方に思わず笑いそうになったリカであったが、ジョルノの鬼気迫る形相に咄嗟に口をつぐんだ。
そもそもフーゴは組織の人間だし、無関係のジョルノに大っぴらに話すことでもないだろう。
「それって本屋さんで一緒にいた子のこと?」
「ええそうですよ2日前に!いいわけは聞きませんからね!この目で見たんだから」
追求しながら本当に恋人だったらどうしようかとジョルノの心臓は早鐘のように鼓動していた。たぶんどんな手を使っても2人の仲を引き裂いてしまうだろう。
「(どうしようかな…)えーと…あの子は……バイトの先輩」
「バイトの?……本当に?」
「本当」
「あなた働いていたんですか?」
暇つぶしに語学の勉強をしている遊び人だと思っていた。
「そうなの」
「何の仕事してるんです?」
「………何でも屋さん」
「なんですかそれ!」
「ジョルノも困ったことあったら相談してね」
「はぁ………???」
訳がわからないまま思わず返事をしてしまったが、ジョルノはすぐに我に帰った。
リカはきっと自分の可愛さを知っている。そして何かをごまかそうとするとき、その魅力的な笑顔を行使してこちらの注意をそらすのだ。
「何でも屋なんて……そんなうさんくさい仕事、危ないと思うんですけど…ジェラート屋さんとかクレープ屋さんでいいじゃない」
そしたらたくさん客も来るだろうし、僕だって通えるのに……。あ、でもナンパも増えそうだから困るな。
「お金があるなら働かなくたっていいじゃあないか。そんなに暇ならもっと僕と遊びましょうよ。その方が平和で充実した人生になるんだから」
「はぁ………???」
リカは人の良さそうな笑顔でまくし立ててくるジョルノにちょっと引いた。
普段は掴みどころがなくてその場しのぎに生活してるように見えるけど、ジョルノはとてつもなくプライドというか…信念みたいなものが強いように思える。今、きっと私がバイトしてるのを良く思ってなくて、ジョルノのレールに軌道修正しようとしているんだ。働くよりジョルノといて遊んでいた方が良い毎日を送れるって、本気でそう思ってる。
「(何でも屋がよくなかったか……。)でも、フーゴもいい子なのよ。頭がすごく良くて、勉強教えてくれるの」
「(そのフーゴって奴は絶対に許せない…!!)だからって……!あの、あなたが持ってた参考書ぐらいなら僕にもできます。僕が教えてあげますよ」
「なんで買った本まで知ってるの…?」
「そ、それは」
ぎくりとするジョルノ。先日壊した双眼鏡はすでに新しくしてポケットにしまってある。まさかそれであなたを観察してるんだとは言えずに口をつぐんだら、リカは特に気にする様子もなくにこりと笑った。これこれ、この些細なことを気にしないザルな性格がいいんですよ。
釣られてジョルノも笑顔になった。
「あのね、本当は私がジョルノに教えてあげたくて買ったんだぁ。でも思ったより勉強覚えてなくて、ほんと逆に教えてもらわなきゃいけないかも」
「え……僕に?」
「うん。この間テストの準備が大変って言っていたでしょ?だから一緒に勉強したら、遊べなくても一緒にいれるじゃない」
「なっ、な、ななななな」
「?」
なんだそれ!!めちゃくちゃ嬉しいんだが!!
ジョルノの心はそれで満たされた。
はぁぁもう可愛い可愛すぎる。
フーゴとかいうあの黄緑のやつに教えてやりたい。本屋に立ち寄ったリカの行動は全部僕のためなんだぞ。お前がいかに頭ポンポンしようとも、リカの頭の中にいたのはこのジョルノ・ジョバーナだ。ざまぁみろ。
にやにやしてたらリカが顔をしかめている。
「ジョルノ大丈夫?」
「も、もちろん。あの……お言葉に甘えて、次は一緒に、図書館とか…」
「うん!行こう行こう」
二つ返事のリカに警戒心はなく、ジョルノにはそれがますます嬉しい。こんなにもずっと一緒にいたいと思える人には今まで会ったことがない。
「せっかくですし、今から本屋に行きませんか?僕も問題集でも探そうかな」
「いいねぇ。私も見てみる。この前のはもうすぐ終わりそうだから」
そうしてどちらともなく連れ立って歩き始めた。優しい風が吹いて、リカの髪から甘い香りがジョルノの鼻をくすぐった。
「(…。)ねぇ、リカ。…葉っぱ、ついてますよ」
「ん」
本当はなんにもないけど、ふりをしながらその頭に触れた。さらさらしていて、少し温かい。撫で下ろしたら綺麗に丸みを帯びていた。
頭ひとつ下から見上げてくるこの人は、なんて愛らしい生き物なんだろうか。
「ありがと、ジョルノ」
「…いえ……僕の方こそ」
「?」
彼女に触れるのは、やっぱり僕だけにしなくちゃあな。
出会い頭とは打って変わって、ご機嫌のジョルノである。